大学受験において、志望校を決める際の注意点は何か。『崖っぷちの私立大学 偏差値で測れない価値をどう見抜くか』(朝日新書)を出した朝日新聞「ひらく 日本の大学」取材班 によると「大半の大学は就職実績や取得可能な資格などのポジティブな情報ばかり提供し、高い中退率や厳しい経営状況といったネガティブな情報は極力伏せようとする」という――。

■大学入試の近年の様相を変えた要因
大学進学率が50%を大きく超えている近年、受験生や保護者も、大学入試に対する考え方が以前とは大きく変わってきた。
今や総合型選抜や学校推薦型選抜といった「年内入試」で入学する大学生が半数を超え、さらに増え続けている。この現象は大学側の変化だけでなく、受験生や保護者の変化も大きいと、河合塾教育研究開発本部の近藤治主席研究員はみている。
近藤氏がまず指摘するのが、最近の受験生の保護者には、18歳人口が多く競争が厳しかった1980年代から2000年代に大学入試を経験した世代が多い点だ。
このため、「自分の入試が厳しかった記憶が強く、子どもに同じような苦労をさせたくないと考えるケースが多い」と近藤氏は分析する。ただ数年後からは、少子化や入学定員の増加で受験競争が緩和した世代の保護者が増えていくため、今後もこうした傾向が続くかどうかは見通せないという。
また近藤氏は、受験生の入試に対する「耐性」が低下していると感じている。同級生が年内に次々と合格を決めていくなか、共通テストで8科目を受け、さらに二次試験もある国立大学を目指す「苦行」に耐えられず、年内入試や、受験科目が少ない私立大学などに流れる受験生が目立つという。
■有名校を早々にあきらめる親子も
一昔前は、高校の進路指導室や受験雑誌などに入手の手段が限られていた大学入試や各大学の情報を、スマートフォンなどで簡単に手に入れられるようになった影響も大きい。
自分の成績や学びたい分野などの情報を入力してはじき出された「フィットする大学」に、しっかり調べることなく入学を決めてしまうケースもあるという。
「初めて名前を聞くような大学の総合型選抜に、学生と保護者が勝手に出願して合格してしまうんです。特に保護者の意向で、少し頑張れば届く有名大学を早々にあきらめる生徒も増えています」。
これは、卒業生の多くが有名大学に進学する、関東地方の公立高校で進路指導を担当する教員たちから直接聞いた話だ。近藤氏の指摘を裏付けるエピソードだ。
■大学側の情報発信による長所と短所
受験生や保護者の価値観が多様化し、年内入試など入試方法も多様化してきた現代では、一般選抜を受けて自分の偏差値で入れるそこそこ有名な大学を選ぶというスタイルは、かつてに比べると薄れつつある。
伝統がある有名大学では提供していない、自分の関心に合った分野の教育を提供している大学を選ぶ。そのような受験生が増えているのであれば、本来あるべき大学選びのスタイルが広がっているといえる。大学界全体としては喜ばしい現象と言って良い面かもしれない。
たしかに各大学がウェブサイトやSNSを使った情報発信に力を入れるようになったことで、受験生や保護者が自力で欲しい情報を探して判断しやすくなった。
ただ、受験生や保護者が入試関連情報の見極めに精通しているとは限らない。
■自力で大学選びを進める際の注意点
また、大量の情報があふれかえるなか、自力で大学選びを進める際には注意が必要だ。
大半の大学は、受験生にアピールする際、就職実績や取得可能な資格などのポジティブな情報ばかり提供するからだ。高い中退率や厳しい経営状況といったネガティブな情報は極力伏せようとする。
河合塾の近藤氏も、受験生や保護者がアンテナを高くする意義を認めつつ、SNSなどには「うちの子はこうやって偏差値を大きく伸ばした」といった怪しげな情報も氾濫しており、注意が必要だと指摘する。

「最初から合格のしやすさを重視して受験する大学を探すのではなく、純粋に『興味がある分野を学ぶことができるか』という視点で探すことが大切だ。早く進学先を決めて受験料や入学金を節約したい気持ちは理解できるが、入学後の学びや卒業後の進路もにらんで、長い目で見て後悔しない大学選びをしてほしい」とアドバイスする。
■大学の情報公開をめぐる文科省の政策
多額の入学金や授業料を払って入学したのに、教育や学生生活の環境が予想と大きく違っていた。そんなふうに後悔しながら4年間を過ごすような事態を避けるには、大学についてなるべく正確な情報を把握しておく必要がある。しかし、大学が情報を粉飾したり隠したりしては、正確な判断などできるはずがない。
こうした問題意識から、文科省は大学に情報公開を進めさせようと、さまざまな政策を打ち出してきた。
だが、学生集めに苦労している大学などが「イメージを悪くするデータや数字が一人歩きする」などと協力せず、特にネガティブな情報の公表は進んではこなかった。こうした姿勢が、大学が社会の信頼を得られなくなってきた一因であることは否めない。
中教審は2025年2月にまとめた「知の総和答申」で、大学の情報公表に関する新たな仕組みを提言した。「大学は何をやっているかわからない」という社会の不満を和らげるためだ。
大学の情報公表の仕組みとしては、2014年から運営されている「大学ポートレート」がある。学生数や教員数、学費といった基本情報のほか、取得できる資格や外部機関による大学評価の結果といった各大学のデータを、ネット上で公開するデータベースだ。
「奨学金の有無」「寮の有無」といった特色ごとに検索できる機能もある。
だが、答申は、国公立大学と私立大学とで情報を提供するプラットフォームが異なることなどを問題点として挙げ、「重要な情報が必ずしもわかりやすく示されていない」と指摘。「(一つにまとめた)新たなプラットフォーム(仮称ユニマップ)を構築する必要がある」と提言した。
■「大学ポートレート」への大学の期待度
朝日新聞と河合塾が25年夏に共同で実施した「ひらく 日本の大学」調査では、このユニマップ(仮称)に対する期待度を学長に質問した。
結果は、「期待する」が8%、「ある程度期待する」が46%と、期待を示したのは半数程度だった。一方、「期待しない」は5%、「あまり期待しない」は28%と、一定数が否定的な見方を示した。
愛知県の私立大学は「ある程度期待する」としながらも、大学ポートレートの認知度が受験生や保護者の間で低いことをふまえ、文科省に対して「制度の仕組みや周知の在り方について、今後の議論を深めていただきたい」とした。
大学経営が厳しさを増すなか、入学者の確保につながると期待できるような仕組みでないのならば、なるべく人手や手間をかけたくないという姿勢が垣間見える。

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朝日新聞「ひらく 日本の大学」取材班(あさひしんぶん「ひらく にほんのだいがく」しゅざいはん)

増谷 文生(ますたに・ふみお)1971年栃木県出身。1994年入社。2005年から東京社会部で教育、主に大学関連の取材を担当。仙台、京都両総局でのデスク業務などを挟み、17年から再び社会部で教育を取材。
20年から論説委員と編集委員を兼務。26年4月から教育シニアエディター。/前田 伸也(まえだ・しんや)1972年鹿児島県出身。1997年入社。2025年から東京社会部で教育、主に大学や高専、通信制高校の取材を担当。朝日新聞出版に出向していた2018年、大学取材に参加して教育への関心を高める。その後の福岡勤務で九州の教育取材を担った。/島崎 周(しまざき・あまね)1991年東京都出身。2014年入社。大津総局、鹿児島総局、西部報道センターを経て、22年から東京社会部。児童虐待や性教育の現状を継続的に取材し、24年から26年3月まで文部科学省担当。大学行政を取材する中で、特に地方大学に目を向ける。




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(朝日新聞「ひらく 日本の大学」取材班)
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