■イントロダクション
定年後には退職、雇用延長、再就職(転職)など複数の選択肢があり、いずれの場合も「人生の一大イベント」と捉えられやすい。だが働く女性の場合、結婚・出産、家族の病気などでライフステージの変化が起こりやすく、すでに様々なキャリアの分岐点を経てきた。
そんな女性たちは定年後をどのように迎えているのか。
本書では、ニッセイ基礎研究所で中高年女性のライフデザインを研究してきた著者が、豊富なデータを分析し「働くミドルシニア女性」の定年前後の特徴を描出。さらに様々なライフステージを歩み働き続けるミドルシニア女性11人にインタビューし、一様ではない「女性たちの定年後」の実像を伝えている。
現在、60代前半では7割、60代後半では4割の女性が就労しているという。男女の違いで言えば、女性の方が、定年後にこれまで勤めていたのとは違う職場に転職する割合が高いようだ。
著者はニッセイ基礎研究所生活研究部准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任。日本のジェンダーギャップ解消と女性の自立を目的として、中高年女性の雇用関連の調査研究に力を入れている。
第1章 女性の暮らしと定年
第2章 雇用と定年の現在地
第3章 定年後の選択肢
第4章 「定年」を巡る11人の女性の選択
終章 定年後を自分でデザインする
■「男女雇用機会均等法」施行から40年
2026年は、募集・採用、配置・昇進などで男女の均等な取り扱いを定めた「男女雇用機会均等法」施行から丸40年です(当初は努力義務)。施行当時に採用された「均等法第一世代」は、その多くが結婚・出産などを機に退職しましたが、紆余曲折を経て働き続けてきた女性たちが、近年続々と定年を迎えています。
定年後の仕事はよく「セカンドキャリア」と言われますが、女性の場合は、結婚・出産、夫の転勤の帯同、介護などで、離職経験のある人が男性よりも多く、そもそも定年後の仕事が2番目ではなく、3番目や4番目という人もいます。多くの女性は、定年前にもライフステージの変化を経験しています。
女性の定年は、男性と何が違うのでしょうか。定年前後の仕事や働き方の変化等について、公益財団法人21世紀職業財団の「女性正社員50代・60代におけるキャリアと働き方に関する調査――男女比較の観点から――」(2019年)をベースに分析していきます。
■50代以降は女性の方が成長重視
まず、定年後の勤務先をみると、男女とも全体の約6割が「50歳当時と同じ会社」と回答しており、大部分が定年後も継続雇用などで働いていることが分かります。それ以外の回答割合を見ると、男性のほうが「50歳当時と同じ会社のグループ会社、関連会社」がやや多く、女性のほうが「50歳当時と別の会社」がやや多くなっています。つまり、女性のほうが、定年前後に思い切って新しい職場に飛び込んでいる人が多いようです。
同調査によると、仕事をする上で「自分を成長させること」を重視する人の割合は、40代までは男性が女性を上回っていましたが、50代以降は女性が逆転しています。ミドルシニア(*45歳以上の中高年)では、女性のほうが男性よりも「自分の成長につなげたい」「自分のためになることをしたい」といった内発的動機(仕事そのものを楽しむ動機付け)が強いことから、上述のようにリスクを伴う転職に踏み切る人が多いとも考えられます。
■「ずっと平社員」の女性は多い
定年後の雇用形態は、男性では過半数が「契約社員」となっているのに対し、女性はパートやアルバイトが主流です。同じ調査より、定年後男女に「定年直前の年収を100%とした場合、今の年収は」と尋ね、50歳時の役職・コース等によって集計しました。定年後の年収が、定年前の7割未満になった人の割合を見ると、「男性・管理職/総合職」では約8割に上りましたが、「女性・管理職/総合職」では約7割、「女性・一般職」では約6割と、女性のほうが小さいことが分かりました。
続いて定年前後の役職のギャップを見ていきます。厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、無期雇用で働く45歳から59歳までの人のうち、「係長級」以上の役職に就いている人が占める割合は、男性が44.7%に対し、女性は19.9%です。「20年、30年と同じ会社で働き続けてもずっと平社員」という女性は多いのです。
役職定年や定年後の再雇用では、大抵は役職から外れます。したがって、定年前に高い役職に就いていた男性は心理的ギャップを抱える人が多いですが、女性だと、(*定年前の地位や収入が低いため)よくも悪くもそのギャップを抱える人が少ない、という訳です。
■ミドルシニア女性は職務経験が乏しい
21世紀職業財団の調査で、50代正社員の職務経験を男女別にみると、「他部門への異動」「出向・転籍」「転居有の国内転勤」「全社的な仕事」などで、軒並み女性のほうが低いことが分かりました。
(*定年を控えた)ミドルシニア女性の職務経験の乏しさは、現在までの年収水準や役職を抑えているだけではなく、今後の能力発揮や定年後の雇用確保のために大切な、リスキリングや学び直しへの姿勢にも影を落としています。
パーソル総合研究所の調査によると、リスキリングの具体的な順序として、新しいスキルを取り入れる心理的土壌を作るために、手慣れている過去のやり方を意識的に棄却する「アンラーニング」が重要ですが、このアンラーニングの経験が、特に中高年女性は低いことが分かりました。
■「限界認知」に至る経験が少ない
調査を行なった同研究所の小林祐児氏によると、アンラーニングの多い・少ないを左右するものは、本人が「これまでの仕事のやり方を続けても、成果や影響力発揮につながらない」と感じる「限界認知」です。小林氏は、その限界認知を得る機会となるのが、いわゆる業務上の「修羅場経験」と、未経験の領域や職場で仕事するなど、アウェーの環境を経験する「越境的業務」「新規企画・新規提案の業務」の3つだと整理した上で、中高年女性はこれらの経験が少ないと指摘しています。
つまり、過去の経験不足により、現在目の前で起きている社会や経営環境の変化を感知する力が磨かれず、「古い仕事の仕方を続けていても、役に立たなくなる」という危機感、切迫感を覚えないため、今後の活躍や定年後の雇用確保に向けた備えができない、ということです。
■大手アパレルから社会福祉法人へ転職
【事例】35年間、事務を務めた大手アパレルを早期退職し、新たな居場所を求めて社会福祉法人の事務職に転職したMさん(当時56歳)
――50代後半で、大手アパレルの事務から社会福祉法人の事務に転職しました。
新卒から働いていたアパレル会社では、一般職として採用され、営業事務を担当していました。関東の支店に配属されて、得意先の発注を聞いたり、商品が入荷したら分配して発送したりするバックオフィスの業務です。入社から35年、転勤は一度もなく、ずっと同じ事業部にいました。
ずっとヒラ社員で働いていましたが、50歳過ぎからやはり違和感を覚えるようになってきました。会社は、若い社員のステップアップにはすごく力を入れていますが、ミドルシニア層への期待度は薄れていました。自分自身のやりがいと、10年後の会社での居場所を見いだせないまま、このまま定年まで働くのか、めちゃくちゃ考えるようになりました。
■以前よりもやりがいを感じている
――もともと福祉関係に興味があったという訳ではないのですか?
はい。「事務職」で求人を探した結果、社会福祉法人から内定をいただいた、という経緯です。前の職場で早期希望退職に申し込むかどうかで悩んでいたとき、「アパレルとは業種が違うけど、良いところがあるから、見学してみないか」と紹介されたのが今の職場です。入社してみると、職務で給与を担当するようになったことで、税の知識も増えました。異業種に転職したからこそ、新しく吸収することもあり、良い経験をさせてもらっていると思います。
――現在の法人では、どのような気持ちで働いていますか?
以前よりもやりがいを感じていますし、福祉という知らない世界を知ることができました。
■「役割」と「期待する成果」を伝える
年齢や職業、経歴にかかわらず、女性たちは仕事に「やりがい」を求めています。ただ定年を待っているだけかのような業務になれば、ほかに居場所を探すようになるでしょう。したがって企業にとっては、組織の新陳代謝を図りつつも、いかにミドルシニア社員に適した役割を与え、期待する成果を伝えられるかが重要でしょう。
また、働く女性の意識は、仕事の経験によって変わります。企業によっては、採用時のコースや職制によって社員の職務やキャリア支援を限定しているところがありますが、入社時に一般職だった女性たちは、仕事への意欲がずっと低い訳ではありません。与える職務や職位によって働く人の意識は変わるのであって、ミドルシニア女性たちに対しても、アンコンシャス・バイアスを持たずに、育成に力を入れてほしいと願います。
様々な職務経験をする機会を得られれば、ミドル期以降に好奇心が旺盛になり、学びに熱心な女性たちがいるのです。その姿は、企業にとっても、ミドルシニア女性人材を活性化、戦力化していく余地が大きいことを改めて示しているのではないでしょうか。
※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの
■コメントby SERENDIP
本書のコラムに、山陰合同銀行(ごうぎん)が行った女性のリスキリング事例が紹介されている。
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