人気の刑事ドラマ「相棒」と「踊る大捜査線」はなぜ日本人に刺さるのか。社会学者の太田省一さんは「警察であると言っても、ほかの一般企業と実態は変わらない。
そこを描いた画期的な作品が『踊る大捜査線』であり、『相棒』も同じ系譜と言える」という――。
※本稿は、太田省一『「相棒」大全 25周年を迎えた傑作刑事ドラマ大研究』(星海社新書)の一部を再編集したものです。
■「事件発生→捜査→逮捕」から進化
杉下右京というキャラクターを核にして、そこから「相棒」という作品はどのように肉付けされているのか? そこに「相棒」が刑事ドラマの金字塔と言える理由も自ずと見えてくるはずだ。
刑事ドラマの構造はいたってシンプルである。まず事件が発生する。警察が動き出し、事件の種類(多くは殺人事件だが、それ以外の場合もある)によって担当部署の刑事が捜査を進める。そして証拠や自白に基づいて犯人が逮捕される。
簡略化すれば、「事件発生→捜査→逮捕」。基本的には、このラインが崩れることはない。
ただし、近年はこれにひねりが加えられることも少なくない。「殺人事件のように見えて実は違った」「容疑者を逮捕してみたが、実は真犯人ではなかった」というのは比較的よくあるパターン。
「結局、本当の犯人は捕まらなかった」といった後味の悪い展開もある。
刑事ドラマの歴史は長く、自分も推理しながら見る視聴者の目もいまや肥えている。
ちょっとしたひねり程度では、簡単に見透かされる。制作側も、よりマニアックで意外な展開、結末を考えるようになる。そのようにして刑事ドラマというジャンルは進化してきた。
ではそのうえで、「相棒」はどのような刑事ドラマと言えるのか?
■2人組で事件を解決「バディもの」の系譜
まずタイトルが示す通り、2人組の刑事が活躍するバディものである。2時間ドラマ時代の「相棒」には、「警視庁ふたりだけの特命係」というサブタイトルが付いていた。
実際は定員2人なわけではないが、「ふたりだけ」と2人であることが強調されている。バディものであるという宣言である。
刑事ドラマはチームものとバディものに大別される。「非情のライセンス」(テレビ朝日系、1973年放送開始)のように一匹狼的な刑事が主人公という場合もあるが、かなり例外的だろう。
主人公が上司の命令を無視して単独捜査に走って周囲を慌てさせるという場面もよくあるが、これも例外的な事態として描かれることが多い。
典型的なチームものとしては、警視庁捜査一課の刑事たちを主役にしたものがある。

古くは1960年代の「七人の刑事」(TBSテレビ系、1961年放送開始)、近年ではギャグ要素満載でカルト的な人気を得た「警視庁・捜査一課長」(テレビ朝日系、2012年放送開始)など、多くの捜査一課ものがつくられてきた。
■「チームもの」の刑事ドラマといえば
そのなかでもチームものの代表としては、やはり「太陽にほえろ!」(日本テレビ系、1972年放送開始)の名があがるだろう。14年余りにわたって放送された人気長寿シリーズである。こちらも刑事ドラマの金字塔と呼ぶに相応しい。
七曲署という東京・新宿にある所轄署が舞台。石原裕次郎演じるボスこと藤堂係長とその部下である刑事たちの活躍が描かれる。
個性豊かな刑事たちの群像劇、破天荒な新人刑事の成長物語、さらにはレギュラー刑事の殉職など、現在のチームものの基本フォーマットを定めたという意味でも歴史に残る作品である。
一方、バディものも多くの作品がつくられてきた。近年劇場版も久々に制作されたタカ(舘ひろし)とユージ(柴田恭兵)のコンビが活躍する「あぶない刑事」(日本テレビ系、1986年放送開始)を思い浮かべるひとも多いだろうが、それ以前からバディものの作品は存在した。
1970年代には、松田優作と中村雅俊がバディを組んだ「俺たちの勲章」(日本テレビ系、1975年放送)があった。
松田演じる中野祐二がクールで寡黙、中村演じる五十嵐貴久が熱血漢で涙もろいなど、性格は対照的。このあたりは「相棒」の右京と薫のキャラクター設定にも受け継がれているバディものの常道である。

■新人刑事の成長と苦悩を描く青春ドラマ
この作品の前に、松田優作は「太陽にほえろ!」の新人刑事・ジーパン役で鮮烈なデビューを果たしていた。
独特の危険な雰囲気と長身でアクション映えのする体躯で人気沸騰。殉職シーンのセリフ「なんじゃ、こりゃ!」は流行語にもなった。「俺たちの勲章」は、その直後の出演作である。
中村雅俊はと言えば、当時の青春スターのトップ。デビュー作となる学園ドラマ「われら青春!」(日本テレビ系、1974年放送)で新任の熱血教師を演じ、劇中歌として自ら歌った「ふれあい」(1974年発売)も大ヒット。アイドル的な人気を博した。
そんな中村が刑事ドラマに出演するのを意外に感じるかもしれない。だが「太陽にほえろ!」を見ても、新人刑事の成長と苦悩を描くといった青春ドラマの色合いは濃かった。萩原健一のマカロニ、松田優作のジーパン然りである。
■水谷豊が本領を発揮する「相棒」の設定
「俺たちの勲章」も、刑事ドラマという枠組みを借りた青春ドラマという側面が強い。特に中村雅俊演じる五十嵐は事情を抱えた犯人にどっぷり感情移入し、よりにもよって捜査の邪魔をして犯人を逃がしてしまう。

松田優作演じる中野も、組織の決定が理不尽なものであれば不満を隠さない。そしていざとなれば、五十嵐に協力もする。結局最後は中野が左遷され、五十嵐に至っては刑事を自ら辞めてしまう。
刑事は最も規律を重んじられる職業のひとつだろうが、そのなかに自由を求める若者をあえて放り込み、その結果必然的に生まれる苦悩や葛藤を描く。バディものの物語は、そのように進むことが多い。
それは、「孤独な若者」の物語のバリエーションのひとつである。「俺たちの勲章」とほぼ同時期に放送された「傷だらけの天使」でバディものを演じた経験を持つ水谷豊にとって、「相棒」がバディものであることは本領を発揮しやすい設定だったと言える。
■描かれるのは、警察組織内の一部のみ
一方チームものの場合は、捜査チームの一体感が重視される。チームに属する刑事たちの個性は多種多様。武闘派で血の気の多い熱血刑事もいれば、最新技術に強い冷静な分析派もいる。
またベテランの人情派刑事もいる。そんな多士済々のメンバーをまとめ、いざというときは自ら乗り出すボス。
そういったパターンが多い。「太陽にほえろ!」は、まさにそうしたチームもののフォーマットを確立した。
だが、そうした捜査チームは、ドラマを見る限りはそれが〝警察のすべて〟のように映るが、実際は捜査一課とか捜査一係といった警察組織内の一部署にすぎない。警察は、捜査一課や捜査一係を中心に回っているわけではない。
ヒーローものとしての痛快さ、わかりやすさを志向したこともあって、刑事ドラマは長らく「組織としての警察」という側面を描いてこなかった。「太陽にほえろ!」でも、七曲署の署長はたまに出てくるが、それ以外の警察関係者はほとんど出てこない。
横浜の港署を舞台にした1980年代の「あぶない刑事」では少年課が絡んでくるが、結局はあまり変わらない。
■刑事ドラマの常識を覆した「踊る大捜査線」
その常識を覆したのが、「踊る大捜査線」(フジテレビ系、1997年放送開始)である。
織田裕二主演によるこの作品では、事件の捜査が中心ではあるものの、そこに警視庁と所轄の序列や扱いの差、また警視庁内の出世争いにおける学閥の存在などが絡んでくる。
そのなかで、所轄の新人刑事である青島俊作(織田)と警視庁管理官の室井慎次(柳葉敏郎)の対立、そして立場を超えた和解と友情がじっくり描かれる。
また青島が勤務する湾岸署だけに限っても、庶務係のような直接捜査にあたるわけではない部署も頻繁に登場する。
警察であると言っても、ほかの一般企業と実態は変わらない。
上司と部下の関係は難しいし、中間管理職ならではの悲哀もある。高学歴のエリートと現場の叩き上げでは大きく待遇も違う。
「踊る大捜査線」は、そうした要素を刑事ドラマのなかに巧みに取り入れた点が画期的だった。
■刑事ドラマという娯楽に「哲学的奥行き」
むろんディテールの描写の問題だけではない。根本的なこととして、正義のとらえかたも違ってくる。組織の上層部にとっての正義と現場で捜査に当たる刑事にとっての正義は必ずしも一致しない。
市民の安全を確保し社会秩序を維持するという最終目的は同じでも、その実現のための方法論は異なる。「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」という青島の有名なセリフもそのことが前提にある。
こうして「踊る大捜査線」の登場は、刑事ドラマに警察ドラマという側面を加え、さらに組織と個人の関係を背景にした正義をめぐる問いを投げかけることになった。それは、刑事ドラマという娯楽ジャンルに一種の哲学的奥行きを与えることになった。
「相棒」は、この警察ドラマの系譜に連なる。そして刑事ドラマの警察ドラマ化をさらにぐっと推し進めた。劇中には捜査に直接携わる刑事やさまざまな階級・部署の警察関係者だけでなく、政財界の人物まで登場し、それぞれの正義がぶつかり、複雑に絡み合う。

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太田 省一(おおた・しょういち)

社会学者

1960年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本、お笑い、アイドルなど、メディアと社会・文化の関係をテーマに執筆活動を展開。著書に『社会は笑う』『ニッポン男性アイドル史』(以上、青弓社ライブラリー)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩選書)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『芸人最強社会ニッポン』(朝日新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(ちくま新書)、『21世紀 テレ東番組 ベスト100』(星海社新書)などがある。

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(社会学者 太田 省一)
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