休むことの大切さは分かっていても、実際に休むのは難しい。東京大学特任研究員で臨床心理士の関屋裕希さんは「私たちは休むことの重要性は理解しているのに難しいという状況に陥っている。
こういう変えにくいものの場合には、『先に行動してしまう』のがおすすめだ」という――。
※本稿は、関屋裕希『仕事が終わらないのはだれのせい? 自分に優しい時間の使い方』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■休めるようになるために強制的に休む
誰しもが休むことの大切さは頭で理解していると思います。しかし、休んだり、手を止めたり、何もしないことに時間をとるのは勇気や決断力、行動力が必要です。
ここで試してみたいのは、行動実験です。
これまでの行動パターンを変えるためには、「まず認識を変える」アプローチが一般的に思い浮かぶかもしれません。認識→行動の順です。もし健康的な行動をしたいなら、健康についての知識を身につけてリテラシーを上げるのが有効、というものです。
ただ、今回の「休む」ことについては、私たちはそもそも「休む」ことの重要性は十分に理解しているはずです。それでも、難しいという状況に陥っているのです。
こういう変えにくいものの場合は、「先に行動してしまう」というのがおすすめです。
私は「食わず嫌いの法則」と名づけています。

たとえば、ピーマンが食べられない人がいたとします。
「自分にピーマンを食べられるわけがない」と考えているので、外食時にもピーマンが使われているメニューは絶対に頼みません。けれどある日、ふらっと入ったお店で、お通しとして提供されたものを食べてみると、とてもおいしい。「これは一体何ですか?」とお店の人に尋ねてみると、「ピーマンのかき揚げです!」という返事が返ってきました。
驚きながらも、そのあと、その人の行動は「ピーマンが使われているメニューも食べてみようかな……?」と変わっていくはずです。
■行動を変えることで認識を変える
このように、先に行動を変えることで、自分の認識が変わっていくことも起こりえます。
私も、昼夜問わず研究に取り組んだ大学院時代を経て、すっかりワーカホリックな人間でした。就職した当時は、夜中まで研究室にいないとそわそわしたり、休日に仕事をしないでいると悪いことをしているような感覚がありました。けれど、強制的に「休む」行動を取り入れ、続けているうちに、少しずつ、仕事から心理的に距離をとって楽しめる時間や、心身ともにリラックスする時間の心地よさを味わえるようになっていきました。
同様に「休む」という行動を半ば強制的に入れ、そこで得た体験を通じて、少しずつ「休むこと」を再評価することを提案します。そうすることで、本来の感覚を思い出したり少しずつつかんでいくことができます。具体的な方法を次で見ていきましょう。

■1カ月、または2週間のチャレンジ
ここでは、1日の中で複数回とる「休憩」、毎日のサイクルの中での「睡眠」、週のサイクルの中での「休日」という3つの種類の「休む」行動を設計します。
たとえば、「午前10時半に1回5分、午後は14時半と16時に1回5分ずつの休憩をとる」
「7.5時間寝る日を週に2日つくる(7.5時間寝るには8時間くらいベッドにいる時間を確保することになります)」
「休日に1時間は何も予定を入れないひとりの時間を持つ」
このようにつくって、手帳やスケジュールに記入してください。
もともと、それぞれの生活リズムや習慣があると思います。ぜひ、今までの自分のパターンと照らし合わせて、あえて「違うパターン」を試してみてください。
そして、行動すると決めたら、ただ休んでいることにソワソワしたり、罪悪感を感じても、行動しきってください。
そのまま、強い意志で新しいパターンを1カ月続けてみます(まずは2週間でも!)。
そして、新しいパターンによる自分の体験の変化に注目します。
「午後も集中力が続きやすい」

「休んでいる間に、ふとアイディアが湧いてくる」

「疲労感が減って、動きやすい」

「自然とエネルギーが湧いてくる」
などなど、感じたことを大事にしてみてください。
休まずずっと働き続けていると、「本来の状態」がわからなくなることがあります。自分がどれくらい疲れているのか、自分の「調子がいい」はどんなものなのか。
休むことで、「自分の中にはこんなエネルギーがあったんだ」、「自然と好奇心が出て、やってみたいと思える」など、驚くような変化が生まれることもあります。
■「休んでいる以外の時間」が変わる
私がしっかり休んだとき、感じた体験のひとつに「笑えるかどうか」がありました。

消耗して疲れ切っているときは「おもしろい」と思えないことが、しっかり休んでいると「ふふふ」と純粋におもしろいと感じられるのです。
しっかり休めば、休んでいる以外の時間の質が変化していきます。
強制的に「休む」行動を実践していくと、少しずつ、休むことへの罪悪感や休んでいるときの不安感も減っていきます。
「疲れたから寝る」、「何もしたくないから今は何もしない」という本来の自然な感覚を取り戻すことができます。
特に休日に「空白の時間」をあえてつくることは、落ち着かないかもしれません。
空白になった時間には、そこで立ち上がってくる感情や、浮かんでくる問いが必ずあります。
■「実は結構張りつめていたな」
「実は結構張りつめていたな」、「もしかしたら自分は傷ついていたのかも」、「何もしなくていいってこんなに楽なんだ」などあるかもしれません。
久しぶりに何かをやってみたくなったりすることもあるでしょう。
「自分が好きなことってなんだっけ」、「本当に会いたい人って誰だろう」、「“ちゃんとする”って誰のために?」など、これまでの当たり前を問い直すフレーズが浮かんで来たら、それは変化が起き始めているサインです。
それが、「自分はどんな人間か」、「本当にやりたいことは何か」を見つけるきっかけになることもあります。
休んだからこそ、浮かんでくる自分の声を聞き直して、耳を傾けてみましょう。
何もしないからこそ、エネルギーが満ち足りて、心の奥にしまっていた気持ちが顔を出すことがあります。

■まわりの人を積極的に「休ませる」
「休むこと」への心理的抵抗のひとつには、まわりの目が気になるというのもあります。
休憩をとるとしても、上司や同僚にはわからないように、と気を遣う会社もあるでしょう。休暇のことはなんとなく人に話しづらい、という人もいます。
私たちには、まわりの人を積極的に休ませるという視点も必要なのかもしれません。
リーダーが、マネージャーが、部下が、親が、教師が、誰かを「休ませること」を自然なこととしてとらえられるか。
つまりこれは、他者が休むことを必要なこと、自然なこととして受け容れられるか、ということです。
成果ではなく、余白や不完全さを受け容れる土壌を育てていけるかも大切です。自分に対しても、まわりの人に対しても、役に立つ・立たないといった評価的なまなざしだけを向けすぎないようにすることを忘れないでください。
「この人最近疲れていそうだな」と感じたら、何かを強いるのではなく、「ちょっと休んでも大丈夫ですよ」と声をかけられる人であること、そして社会や組織であること。
そういった優しさが、まわりまわって、私たち自身をも楽にしてくれます。

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関屋 裕希(せきや・ゆき)

東京大学大学院 特任研究員

東京大学大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座 特任研究員。博士(心理学)・臨床心理士・公認心理師。
早稲田大学文学部心理学専攻卒業、筑波大学大学院人間総合科学研究科発達臨床心理学分野博士課程修了後、2012年より現所属にて勤務。働く人のメンタルヘルスを専門に、研究・カウンセリング・企業支援を行う。学生時代は、マインドフルネスを専門とする研究室に在籍し、大学院時代は感情の研究を行う。現在は、ポジティブ心理学、組織心理学、認知行動的アプローチ、マインドフルネス等をベースに、ワーク・エンゲイジメントやウェルビーイング向上プログラムを開発。現場で多くの「ちゃんと休めない」、「時間に追われる」悩みに触れる中で、時間を“効率”だけでなく“体験”として整える重要性を探究している。著書に『感情の問題地図』(共著)、『モチベーションの問題地図』(いずれも技術評論社)などがある。

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(東京大学大学院 特任研究員 関屋 裕希)
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