■自治体全体で863億円もの「大赤字」
「生まれ育った故郷や応援したい自治体に寄付し、地域づくりを支援する」――素朴でささやかな趣旨でスタートした「ふるさと納税」が、当初の狙いとはまったく異なった形で爆発的に拡大。自治体の返礼品競争が「官製ネット通販」と揶揄されて久しく、多額の税金が民間事業者の懐に入る異常事態は続き、全国で産地偽装などの不祥事も頻発している。

巨大化したふるさと納税市場は、今や弊害やひずみばかりが指摘される深刻な社会問題となってしまった。
これまでも「ふるさと納税」の見直しはたびたび論じられてきたが、ここにきて自治体全体の収支が863億円もの「大赤字」となったうえ仲介サイト事業者に1379億円もの公金が流出していることが判明、林芳正総務相が「強い問題意識を持っている」と危機感を訴えるに至って、いよいよ制度の抜本的改革が待ったなしになった。
本サイトでは、たびたび、ふるさと納税の問題点を指摘してきたが(参考:2023年11月28日付「得をするのは富裕層と仲介業者だけ…ふるさとが潤わない『ふるさと納税』の歪んだ構図」、2024年8月20付「楽天だけが『ポイント禁止』に猛反発…楽天経済圏を直撃、ふるさと納税の『ルール変更』を総務省が強行した理由」)、今回はふるさと納税のあるべき姿を提起してみたい。
なお、筆者は、自治体も地場産業も寄付者も恩恵を受けるふるさと納税を基本的に支持し適切に運用すべきという立場であり、返礼品の全廃とか制度そのものを廃止すべきといった過度な議論に与するものではないことを最初に断っておきたい。
■看過できない事態に陥った数々の問題点
まず、ふるさと納税の問題点を、あらためて整理してみる。
① 「官製ネット通販」と誤認され、ふるさとへの貢献という本来の趣旨がかすんでしまっている

② 大都市圏の自治体の住民税の流出が大きくなりすぎ、寄付者の居住地の住民サービスに支障が出ている

③ 巨額の公金が中央の仲介サイト業者に還流し、寄付金の半分程度しか自治体の財源にならない

④ 高所得者ほど高額の返礼品を受け取れるため節税効果が大きく、得をする仕組みになっている

⑤ 地場産品の人気度によって寄付金受け入れの自治体間格差が大きい

⑥ 贈収賄や産地偽装などの不祥事が続発する温床になっている
などが挙げられよう。
いずれの問題も、寄付金や利用者数が激増するにしたがい、悪しき影響として急速に高まってきた。制度の欠陥や運用の不備に対する批判は高まる一方で、もはや看過できないほどの事態に陥っているといっても過言ではない。
■後手後手の規制策
監督する総務省も、手をこまねいていたわけではない。
まず2015年4月、自治体に、返礼品に商品券やプリペイドカードなど「資産性の高い品物」の提供を自粛するよう要請した。
次いで17年4月には、返礼品の調達額を寄付金の3割以下とする「3割ルール」を導入した。
しかし、要請レベルではルールを逸脱する自治体が後を絶たず、19年6月に地方税法の改正に踏み切り、「3割ルール」に加えて、送料やサイト手数料を含めた総経費を寄付金の5割以下とする「5割ルール」と、返礼品は地場産品に限るという「地場産品ルール」を法制化。
合わせて、ルールを守らない自治体をふるさと納税の対象から外す「懲罰」も組み込んだ。
その後、23年10月に、「5割ルール」の適用を厳格化し、ワンストップ特例の事務費や寄付金受領書の発行・発送費などの「隠れ経費(簿外)」も総経費に含めることになった。
さらに、25年10月からは、寄付者に独自ポイント(楽天ポイントなど)を付与する仲介サイトの利用を全面的に禁止した。
■「生ぬるい」の一言に尽きる
また、26年3月の地方税法改正で、29年度末までに段階的に総経費を4割以下に抑える目標を明示。同時に、定率だった住民税控除に「193万円」を上限とする定額制(対象は年収1億円以上の高所得者)を初めて導入した。
そして、5月には、仲介サイト事業者に対し、手数料の引き下げを要請したのである。
こうしてみると、総務省は、「資産性返礼品の禁止」→「3割ルール」→「5割ルール」→「隠れ経費の算入」→「ポイント禁止」→「経費4割化」と、適宜、対策を打ってきたようにみえる。
だが、実態は、泥縄式の付け焼き刃的な対応に終始するものでしかなかった。このため、自治体や仲介サイト業者に抜け穴を突かれてはあわてて規制をかけるといういたちごっこを繰り返すことになった。総務省の一連の対策を一言でいえば、「生ぬるい」に尽きる。
ふるさと納税の導入時点で「官製ネット通販」に大化けするとは想像すらしておらず、当初の制度設計が甘かったうえ、あまたの弊害が指摘されるようになった後も小出しの対症療法しか講じず、問題の核心にメスを入れようとしなかったため、事態を深刻化・複雑化させてしまった感は否めない。
■見え隠れする菅義偉・元首相の影
総務省の対策が後手後手に回った背景には、菅義偉・元首相の影が見え隠れしたと言われる。
総務相時代の肝いり政策としてスタート、安倍晋三政権下で内閣人事局を統括する官房長官を長く務めたこともあって、総務官僚が菅氏の意に反するような対策を積極的に唱えることを憚ったとも伝えられる。いわゆる忖度である。
実際、官房長官時代に推進したふるさと納税の拡充案(住民税控除額の10%から20%への倍増など)に対し、異論を唱えた当時の自治税務局長が更迭された記憶は生々しい。具申した意見は「大都市圏の税収が大量に流出し寄付者の居住地域の行政サービスに支障が出る」「過度な返礼品競争を招く」「金持ち優遇の節税対策に変質し税の公平性が失われる」というものだった。まさに、現在のふるさと納税の危機的状況を言い当てていた。
このとき、もう少し具申に耳を傾けていたら、今日のような社会問題にまでは発展していなかったかもしれない。
この一件を機に、ふるさと納税市場は急速に拡大していく。
菅氏は、自ら起こした良き制度を、自ら悪しき制度に劣化させてしまったともいえるのではないだろうか。
■抜本的改革の第一歩は寄付金の上限規制
ここまで問題が大きくなると、もはや小手先の弥縫策では制度そのものに起因する弊害を取り除くことは難しい。抜本的改革が求められる所以だ。
量的側面と質的側面からアプローチしてみたい。
まず、量的側面について。

ここでは、寄付金が巨額になりすぎたために起きているゆがんだ状況を、いかに打破するかがテーマになる。ポイントは寄付金の絶対額を抑える総量規制(総額規制)で、大都市圏の自治体からの巨額流出を抑え、多額の公金を懐に入れてしまう仲介サイト事業者のうまみをなくし、高所得者の節税意欲をなくすような方策を練ることになる。
そこで、もっとも現実的かつ即効性を期待できる第一歩の選択肢は、住民税控除額の上限を現行の定率制(20%)に加えて定額制(たとえば10万円)を本格的に導入するという寄付金ルールの根本的変更が検討される。
ふるさと納税の24年度実績をみると、寄付総額は1兆2728億円で寄付者数は1086万人。1人当たりの平均寄付額は約11万8000円となる。
一方、24年の世帯平均年収は536万円で、中央値は410万円(厚生労働省・国民生活基礎調査)。年収410万円世帯の寄付金の上限額は、独身・共働き世帯で約4万3000円(家族構成や諸条件によって異なる)だから、高所得者の高額寄付金が平均寄付額を大幅に引き上げていることになる。
いかに高所得者がふるさと納税で節税にいそしんでいるかがわかろうというものだ。そこをターゲットにしている自治体も少なくないだろう。
■定額制を本格導入すれば多くの懸案が解消する
そこで、20%の定率はそのままにして上限額を10万円に設定したケースを試算してみる。この場合、限度額いっぱいに寄付しようとすると、年収は少なくとも700万円程度が必要になる。厚労省の調査によれば、約5300万世帯のうち7割強が年収700万円以下なので、10万円以上は寄付できなくなっても大多数の世帯は困ることがなく、他方で3割にも満たない高所得者の高額寄付に歯止めをかけることができる。

かなり荒っぽい計算になるが、現行の寄付者約1000万人が10万円ずつ寄付すると、総額は実績値に近い約1兆円の水準となる。だが、実際には7割強の世帯が年収700万円以下だから、同数の寄付者の年収を中央値の410万円(寄付額約4万3000円)として計算すれば約4300億円となり、寄付総額は3分の1程度に収まってしまう。
もっとも、寄付者数1086万人は住民税の納税義務者約5715万人の約19%にしかすぎないので、今後の伸びしろはずいぶん大きい。一時的に寄付金総額は減っても、ふるさと納税への理解が深まり寄付者の絶対数が増えれば、市場全体は再び活性化していくに違いない。
総務省は、27年から「193万円」を上限とする定額制を導入すると発表したが、実際に対象となるのは年収1億円以上の超高所得者だけ。これでは何の是正策にもならず、庶民の怨嗟の声を高めるだけで、やらない方がまし。どうして、そんなに及び腰なのか、理解に苦しむ。
仮に定額制の上限を10万円程度にすれば、現在抱えている懸案の多くを解消できる可能性が広がってくる。
■仲介サイト事業者の手数料是正は必須
次に、質的側面。ポイントは、手数料の是正だ。
寄付金の使途を24年度実績でみると、5割程度が自治体に入り、約3割が返礼品の調達費、7%程度が送付費にあてられ、20%強が地域とは無縁の中央の仲介サイト事業者に支払われている。その額は2259億円の巨費におよび、このうち1379億円が手数料だった。

林総務相は5月12日、「手数料が高額。縮減を図る必要がある」と言明。総務省は、仲介サイト事業者に対し、自治体が負担している手数料を引き下げるよう要請、8月末までに対応方針を回答するよう求めた。
だが、ビジネスチャンスの確保に血道をあげる仲介サイト事業者が「はい、わかりました」と素直に応じるとは思えない。強制力のない「お願い」に過ぎないからだ。
ふるさと納税を「官製ネット通販」に変質させ巨大市場を作り出したのは、仲介サイト事業者であることは疑いない。ふるさと納税を身近な制度と気づかせ多くの利用者に利便をもたらした功績はあるが、反面、利用者に本来の趣旨とは無縁の返礼品目当ての寄付意識を植え付け、さまざまな弊害も生み出してしまった事実は罪深い。しかも、寄付をビジネスととらえて、多額の公金を事実上かすめとっている。
仲介サイト事業者にメスを入れるのは必然だが、民間事業者の手数料を法的に規定するのは現実的ではない。さりとて、現状のまま放置していては、ふるさと納税のゆがみを適正化することは難しい。
■自治体を経由して間接規制で実効
では、どうするか。
まず考えられる選択肢は、自治体を縛る方策だろう。

総務省は25年10月から、「ポイントを付与するポータルサイトを通じてふるさと納税を募集することを認めない」とするルールを導入した。ターゲットは、自社サイトでのポイント付与を呼び水に集客して一気にシェアトップの座に躍り出た楽天だった。新ルールの効果はてきめんで、ある自治体のふるさと納税担当者は「楽天経由の寄付金の受け入れは明らかに減った」と言う。
このルールと同様に、「手数料3%以上(仮)を支払わなければならないポータルサイトを通じてふるさと納税を募集することを認めない」という強制力のある「お触れ」を出すことを検討してはどうか。自治体を経由しての間接規制で実効をあげようというのである。
その結果、「うまみがなくなった」と撤退する事業者が出ても、大きな問題にはなりそうにない。すでに、大手事業者の中には「手数料3%プラン」の導入を表明しているところもあり、手数料2.5%を発表している中小事業者もいる。仲介サイト事業者がまったくなくなるとは考えにくい。
ふるさと納税は、税金が原資だけに、もうけ優先の民間事業者に食い物にされることだけはあってはならない。
■自治体に「縁もゆかりもある人」に優遇措置を
もう一つ検討されてよいのが、当該自治体を真に応援したい人と、返礼品だけが目当ての利用者を差別化する仕組みの導入だ。
当該自治体の出身、親兄弟や親族が居住、長期の滞在経験といった「縁もゆかりもある人」とそうでない人との間で、返礼品などの受容サービスに大きな格差をつけるのである。
総務省が本格導入を目指している「ふるさと住民登録制度」も、一つの目安になるだろう。実際に住んでいなくても当該地域と継続的に関わる人(いわゆる「関係人口」)を「ふるさと住民」として登録し、地域活動の担い手を増やすことを狙いにしている。
「縁もゆかりもある人」はリピーターになることが期待されるだけに、一過性の返礼品目当ての寄附者よりも優遇することはあってしかるべきだ。
実は、自治体の中には、中長期にわたる地域の活性化を目指して、すでに同様の制度を検討しているところが少なからずあるという。
■制度の持続的発展のために
2008年にスタートしたふるさと納税は、まもなく20年の節目を迎える。
制度の原点に立ち返れば、寄付金の大半が自治体や地域に落ちるのが理想だ。
総務省は、自治体の財源となる「真水」の割合を増やそうとしているが、返礼品の生産者や製造者の多くは地場の事業者だから、調達費は地場産業の収益に直結しており当該地域で吸収される「お金」と捉えることもできる。
したがって、2割を超える仲介ポータル事業者への支払いが限りなくゼロに近づけば、送付費などの絶対必要経費を除くと9割程度が地域に入る計算になり、ふるさと納税の本来の姿にかなうことになる。
健全な持続的発展のためには、制度の抜本的改革は避けて通れない。
ただ、返礼品が縮小・全廃されれば寄付者のインセンティブは激減するし、まして制度が廃止されれば自治体も地場産業も立ち往生してしまう。
そんな不幸な事態にならないために、総務省には抜本的改革に向けた英断が期待される。また、目先の寄付金獲得に奔走する自治体は地域活性化に向けた意識改革が不可欠で、寄付者にはふるさと納税の意味や意義をあらためて考えることが求められよう。

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水野 泰志(みずの・やすし)

メディア激動研究所 代表

1955年生まれ。名古屋市出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。中日新聞社に入社し、東京新聞(中日新聞社東京本社)で、政治部、経済部、編集委員を通じ、主に政治、メディア、情報通信を担当。2005年愛知万博で博覧会協会情報通信部門総編集長を務める。日本大学大学院新聞学研究科でウェブジャーナリズム論の講師。新聞、放送、ネットなどのメディアや、情報通信政策を幅広く研究している。著書に『「ニュース」は生き残るか』(早稲田大学メディア文化研究所編、共著)など。
■メディア激動研究所:https://www.mgins.jp/

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(メディア激動研究所 代表 水野 泰志)
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