ファミリー層から厚い支持を集める米ディズニー・クルーズラインで、不穏な事件が報じられている。米メディアによると、サンディエゴ港に停泊中の客船で、制服姿の乗組員が連邦当局に連行される場面を乗客が目撃したという。
さらに米運輸省のデータを見ると、同社船内での性犯罪報告は近年、高い水準で推移している。SNSでは誤情報も拡散するなか、海外メディアは“夢の船旅”の問題点を指摘している――。
■制服姿のまま連れ去られたクルーたち
米ディズニー・クルーズラインの客船「ディズニー・マジック」号は、全長約300m、880室規模の客室を備えたクルーズ船だ。アメリカ西海岸のカリフォルニア州・サンディエゴを出港し、5日間でカタリナ島やメキシコ・エンセナーダを巡る。
旅を満喫した乗客のダーミ・メータ氏は、下船しようとしたそのとき、信じがたい光景を目の当たりにしたという。
ICE(米移民・関税執行局)の職員が、ディズニーの制服を着たままのクルー(乗組員)に拘束具をかけ、船外へ連行していたのだ。米地方TV局のNBC 7 サンディエゴが今年5月に報じた。
連行されたクルーの中には、5日間の航海中、メータ氏一家のテーブルで献身的に給仕してくれたヘッドウェイター(給仕長に相当)もいたという。
「本当に不安な気持ちになった」と、事件から約2週間後、乗客のメータ氏は埠頭での記者会見で振り返った。米報道によるとこのヘッドウェイターや他船の乗組員たちが、児童性的虐待コンテンツ(CSAM)をめぐる連邦捜査の一環として連行されたのだという。
ファミリー層が厚い信頼を寄せてきた、米ディズニー・クルーズライン。その船上で、性犯罪の報告数が増加している。
2028年度には日本初就航も控えるなか、アメリカでは安全性に疑問が向けられている。
■米運輸省が公開した“性犯罪件数”
米運輸省(DOT)が公開するクルーズ船の犯罪データから、不穏な傾向が浮かび上がっている。ディズニー・クルーズラインにおける性犯罪報告の急増だ。
同省の四半期報告によれば、ディズニー船内の性犯罪の通報件数は、コロナ前の2018年通年で3件、部分再開に至った2022年も3件と、いずれも一桁にとどまっていた。それが2023年に19件と、一気に跳ね上がった。2023年のデータは細分化された性犯罪2カテゴリの合計値だが、2018年と同条件の比較だ。
もっとも、ディズニー・クルーズライン全体で2018年の4隻体制から、2022年には新船ディズニー・ウィッシュが加わった5隻体制に移行している。それでも、運営元の英法人であるマジカル・クルーズ・カンパニーによると、船室数は4250室から5500室への増加に留まる。約3割の増加だけでは、急伸した通報件数の増加に説明が付かない。その後の2024年には21件、2025年も16件と、規模の拡大を加味しても高い水準で推移している。
この数は児童の性的虐待だけでなくすべての性犯罪を含んだものであり、乗組員のほか乗客による行為が含まれる。米ニューズウィーク誌は乗組員によるものとされる性的暴行について、2023~2024年のわずか2年間で計9件に達したと報じている。

■全米平均の2倍、49州を上回る発生率
海事弁護士が運営する専門サイトクルーズ・ロー・ニュースでは、米運輸省のデータを各社の乗客・乗組員数で補正し、10万人あたりの性犯罪発生率を算出している。2025年6月までの1年間で、ディズニークルーズにおける発生率は、10万人あたり75件。この期間に限れば、アメリカの主要クルーズ大手のなかで最も高い、と同サイトは指摘する。
同サイトではさらに、この数値をアメリカ全体の性犯罪統計と突き合わせた。ディズニークルーズでの発生率は全米平均(10万人あたり41.4件)のおよそ2倍にあたり、50州それぞれの発生率と比べてもアラスカ州に次いで2番目に高く、全米49州を上回る水準だと指摘している。
こうした中発生したのが、冒頭の逮捕劇だ。
NBCニュースによると、米税関・国境警備局(CBP)は4月23日から27日にかけ、ディズニー・クルーズラインを含むクルーズ船8隻に捜査官を送り込んだ。児童性的虐待コンテンツ(CSEM)をめぐる継続捜査の一環である。CSEMは前節で触れたCSAMとほぼ同義だが、捜査機関によって呼称が異なる。
事情聴取を受けた乗組員は28人。そのうち実に27人が、CSEMの受領・所持・運搬・配布・閲覧のいずれかに関与していたと認定された。27人全員がビザを取り消され、母国へ強制送還されている。
事情聴取を受けた28人の国籍の内訳はフィリピン26人、ポルトガルとインドネシアが各1人。氏名は公表されていない。
■業界のモラル低下が浮き彫りに
CSEMの捜査のうち少なくとも1件は、サンディエゴ港のBストリート埠頭に停泊中の「ディズニー・マジック」号で行われたと、NBC 7 サンディエゴは伝えている。
4月28日には別の連邦機関も動いた。ICE傘下の国土安全保障捜査局(HSI)が「オペレーション・タイダル・ウェーブ」と名付けた作戦で、同港に停泊していた複数のクルーズ船の乗組員23人を逮捕したのだ。ディズニー以外のクルーズ会社の乗組員も含まれており、業界のモラル低下が浮き彫りになった。
NBC 7 サンディエゴが報じたICE広報サンドラ・グリソリア氏の声明によれば、HSIは全米行方不明・被搾取児童センター(NCMEC)からの情報提供を受けてこの作戦に着手したという。逮捕者はロサンゼルスへ移送され、ビザも取り消されている。
ディズニー・クルーズラインは米NBCニュースへの声明で捜査への全面協力を表明し、「こうした行為に対してはゼロ・トレランスの(一切容認せず厳格に対処する)方針をとっている」と強調した。同社広報は、「対象者の大多数は弊社の乗組員ではないが、該当する者はすでに社を離れている」とも述べている。
■SNSでは誤情報も拡散
逮捕劇のニュースはSNSで瞬く間に拡散され、一部の投稿は数百万回閲覧された。ただし、拡散された情報には事実と異なる内容も少なからず紛れ込んでいた。
米ファクトチェックサイトのスノープスが、この騒動の事実関係を検証している。
スノープスによると、2026年5月、「ディズニー・クルーズラインの乗組員28人が児童性的人身売買の一環として逮捕された」との主張がネット上で広く拡散された。数百万回表示された投稿もある。これに対してスノープスは、「事実も虚構も含まれるようだ」としつつ、正式な評定は見送っている。丸ごとのデマではないが、そのまま鵜呑みにもできないという評価だ。
では、何が事実で、何が虚構なのか。CBPはスノープスの取材に対し、4月下旬に8隻のクルーズ船で計28人を逮捕した事実を認めている。スノープスが、移民支援団体ウニオン・デル・バリオがサンディエゴの地元ABC系列局に語った内容を取りあげている。それによると、28人のうちディズニーの乗組員は10人、他社クルーズ船のホーランド・アメリカラインが4人だったという。
つまり28人全員がディズニーの乗組員だったわけではなく、拡散された「ディズニーで28人逮捕」という数字は、複数社にまたがる逮捕者を一社に集約してしまったものだった。スノープスはディズニー乗組員の正確な逮捕人数を独自には確認できなかったとして、評価を「未評定」にとどめている。また、NBCサンディエゴは前述の通りCSEMの所持・閲覧などと報じており、児童の人身売買が行われたとの情報とは異なる。

SNS上では「逮捕の瞬間」とされる動画も拡散された。スノープスが、画像から元の出所をたどる「逆画像検索」で調べたところ、正体はまったくの別物だった。2022年にオクラホマ州タルサで、精神保健上の問題(メンタルヘルス・エピソード)を起こした女性に関する事案で、警察が現場に踏み込んだ際のボディカメラ映像である。ディズニーともクルーズ船とも一切無関係だ。
■繰り返し報じられてきた「クルーズライン性犯罪問題」
センセーショナルな誤報が広まる一方、ディズニー・クルーズラインの性犯罪問題は、何年も前から繰り返し報じられてきた。
なかでも2012年の事件については、米オーランドCBS系地方局のWKMGニュース6が調査報道を実施し、安全管理体制の不備に疑問を投げかけている。
2012年8月、客船「ディズニー・ドリーム」号の船内エレベーターで事件は起きた。同局は、ダイニング給仕係の男(当時33歳)が、11歳の少女の胸を触り、キスをしたと報じている。
報道によると、当時船内の保安責任者だった女性が事件直後、少女から事情を聞いた。少女はまだ泣いたまま動揺していたという。保安責任者は、船内の防犯カメラに残された当時の映像を見て衝撃を受けたと語る。
「涙が出た捜査はこれが初めてではありません。
でも、あの子は本当に彼から逃げようとしていた。脚をばたつかせ、必死に振りほどこうとしているのが映像で確認できます」と、同局の取材に述べた。
少女が被害を訴えた後もディズニー・ドリーム号は航行を取りやめることなく、午後5時2分、フロリダ州ポート・カナベラルを出港したという。被害者と容疑者の双方を、船という閉鎖空間に乗せたまま、である。
ディズニー・クルーズラインがポート・カナベラル警察、FBI、米沿岸警備隊に通報したのは、翌日になってからだった。そのとき船はすでにアメリカ領海を離れていた。ディズニー側の説明によれば、3機関はいずれも捜査に乗り出す意向を示さなかった。
■「電話するな、何もするな。とにかく黙っていろ」
国際法の旗国主義の原則上、公海上の船舶に対し管轄権を持つのは、旗を掲げる権利を与えた旗国(多くの場合は船籍国と同義)である。ディズニー・ドリーム号はバハマ船籍であることから、捜査はロイヤル・バハマ警察に引き継がれた。容疑者はその後、ディズニーが手配した飛行機でインドの自宅へ送還されている。
性的被害への対応が鈍いディズニーに対して声を上げたのが、元ディズニー・クルーズライン警備担当者のドーン・タプリン氏だ。
パーム・ベイ警察で性犯罪捜査に携わったキャリア17年のベテラン元警察官で、ディズニー・クルーズライン初の女性セキュリティー・オフィサーである。クルーズ業界全体でも2人目だ。前述のエレベーターの件で少女に事情を聞いた人物でもある。
タプリン氏が沈黙を破るきっかけとなったのは、エレベーターとは別の事件だった。タプリン氏はディズニー・ドリーム号の乗組員が13歳の少女へのわいせつ容疑で逮捕されたとの報道に接し、相次ぐ事件を前に、自らの体験を公にする決意を固めたという。
タプリン氏は在職中、事件に関して社内で、「電話するな、何もするな。とにかく黙っていろ」と命じられたと証言している。逆らえば解雇されると恐れ、指示に従ったという。
タプリン氏の告発に対し、ディズニー・クルーズラインのカール・ホルツ社長は、「当社のセキュリティー・オペレーションと担当オフィサーたちに絶大な信頼を置いている。全員が豊富な治安関連の経験を持ち、ほぼ全員が法執行機関か軍での広範な経験を有する」と強調。「タプリン氏による当社セキュリティー・オペレーションの評価には同意しない」と退けた。
人員の資質には自信を見せたものの、通報の遅れや出港判断の経緯については触れなかった。
■少女の裸を「船にいるとき用に」保存
2019年11月にはフロリダ州で、ディズニー・クルーズラインの従業員が少女に繰り返し性的暴行を加えた容疑で逮捕されている。タプリン氏を突き動かしたのとはまた別の事件だ。
CBSニュースの報道によると、逮捕されたのは米フロリダ州の男(当時53歳)。ディズニーの会員制リゾートプログラム「ディズニー・バケーション・クラブ」を通じてディズニー・クルーズラインに勤務していた人物で、同年11月25日、フロリダ州オレンジ郡保安官事務所に身柄を拘束された。
逮捕状の宣誓供述書によると、被害者の少女(当時13歳)は母親に対し、2016年から2019年にかけてサイツの自宅で複数回にわたりレイプされたと打ち明けた。最初に被害に遭ったのは、少女がわずか10歳のときだったという。
保安官事務所の担当者に対して少女は、男に裸姿を撮影され、写真は「クルーズ船にいるとき用に」とスマートフォンに保存された、と証言している。
男は計5件の罪状を突きつけられた。12歳未満の子どもへの性的暴行2件、身体的に抵抗できない者への性的暴行2件、12歳未満の被害者へのわいせつ行為1件である。彼は保釈を認められず、オレンジ郡拘置所に収監された。
ディズニーの旅行・体験事業部門、ディズニー・シグネチャー・エクスペリエンシズの広報責任者シンシア・マルティネス氏は、地元紙の取材に対し、裁判の結果が出るまでサイツを無給休職処分としたと述べるにとどまった。
■海事弁護士「ディズニークルーズは推薦できない」
被害件数が上昇傾向にある一因に、そもそもディズニー・クルーズラインが急速に事業を拡大している事情がある。
2024年12月、米ウォール・ストリート・ジャーナルは、同社が2031年までにクルーズ船を13隻へ増加させる計画を進めており、投資規模は数十億ドルにのぼると報じた。
ニューズウィークは2025年5月、すでにこの計画が実行段階に入っており、2020年以降に2隻が就航、乗客定員は約4割増えたと伝えている。その後、昨年11月には7隻目となる「ディズニー・ディスティニー」号が、今年3月にはアジア初拠点となる8隻目「ディズニー・アドベンチャー」号(シンガポール母港)が就航し、現在は8隻体制で運航している。被害件数の増加の理由の一部は、単純に利用者数が増えたためとも説明できる。
一方、クルーズ・ロー・ニュースを運営するキャリア24年の海事弁護士は昨年9月、長年の見解を翻した。「どのクルーズを薦めるかと聞かれれば、いつもディズニーと答えてきた」と振り返った上で、性的暴行・レイプの発生率が全米50州のうち49州を上回る水準にまで達した現状を踏まえ、「良心に従って、もはや誰にもディズニークルーズを推薦することはできない」と表明している。
ディズニー側は安全への配慮を強調する。ニューズウィークが2025年5月に伝えたところでは、同社の広報担当者は、「ゲストと乗組員の安全は何にも増して重要である」と述べ、船内の安全対策は絶えず見直しているほか、乗務員には最高水準を維持するための専門の研修を実施していると説明している。
■2028年度、日本に初就航へ
こうした問題がアメリカで相次いで報じられるなか、「ディズニー・クルーズライン」の名を冠した新たな客船を日本にも就航させる計画が、着々と進んでいる。
今年3月24日、東京ディズニーリゾート運営元のオリエンタルランドは取締役会で全額出資子会社「株式会社オリエンタルランド・クルーズ」の設立を決議した。日本版のディズニークルーズは「ディズニー・クルーズライン・ジャパン」の名称で展開される。
設計のベースとなるのは、米ディズニー・クルーズラインの5隻目「ディズニー・ウィッシュ」だ。ディズニー社と協力しながら日本籍船への設計変更や船内の演出・デザインの作り込みが進められており、2026年度後半には本格的な建造に入る予定となっている。
テーマパーク情報サイトの英観光施設業界専門サイトのブルーループによると、客室数は約1250室、最大約4000人を収容できる規模で、投資額は約3300億円に上る。東京ディズニーシーの新エリア「ファンタジースプリングス」の開発費3200億円を上回る規模だ。発着港には東京周辺の港が予定されている。
■日本版では周知と、徹底的な対策を
ディズニー・クルーズライン・ジャパンの運航を担うパートナーとして、日本郵船および子会社の郵船クルーズと基本業務提携契約を締結済みだ。ディズニーとのライセンス契約もすでに結ばれており、2028年度の就航を目指す。
日本版の運航主体はあくまでオリエンタルランドの子会社であり、米ディズニー・クルーズラインの直営ではない。ブランドや船体設計こそディズニーとの協力下にあるが、日々の運航と安全管理を担うのは別の組織であり、アメリカで起きた問題とは無関係だ。
一方で、アメリカ版のクルーズ船で起きている実態が丁寧に説明されていないのも事実だ。どういう事態が起き、日本ではどのような対策を行うことで利用者が安心できるのか、目立つ形で周知されていない。
子供連れから絶大な支持を受けるディズニーブランド。過去の事例を踏まえ、船という洋上の閉鎖空間をいかに安心して過ごせる取り組みが用意されるのか、詳細な説明が求められる。

----------

青葉 やまと(あおば・やまと)

フリーライター・翻訳者

1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

----------

(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
編集部おすすめ