自衛艦をはじめ、港に停泊している貨物船やフェリーなど巨大な船を近くで見ると、船首や船尾の横側に、縦にずらりと数字が並んでいるのがわかります。これは「喫水標(きっすいひょう)」と呼ばれる目盛りです。
喫水とは、船体の最も下の部分から水面までの垂直距離のこと。この目盛りを読み取ることで、船がどれだけ深く水に沈んでいるかを一目で確認できます。しかし、これは単に「水深」を測っているわけではありません。
この目盛りには、物理学の基本である「アルキメデスの原理」が応用されています。船が水に浮かぶとき、船の重さと、船が押しのけた水の重さ(浮力)は釣り合います。
厳密な計算や船の諸元表を併用する必要はありますが、水面がどの数字にあるかを読むことで、その時の船の沈み具合から、おおよその積み荷の重さや燃料・水の量を含めた船全体の重さを見積もることができるのです。
荷物を積めば船は沈み、数字は大きくなります。例えば、大型の貨物船では、満載時と空荷の状態で喫水が数メートル以上変わることも珍しくなく、その差がそのまま積み荷の重さの違いとして現れます。
逆に荷物を降ろせば船は浮き上がり、数字は小さくなります。ベテランの航海士は、この数字と船の諸元表などを照らし合わせることで、クレーンによる荷役作業が計画通りに進んでいるかを監視しているのです。
しかし、船の横側に書かれている「謎の印」はこれだけではありません。さらに重要な、船の「限界」を示す別のマークが隠されているのをご存じでしょうか。
喫水標の近く、あるいは船体の中央付近には、円に横線が引かれたような不思議なマークが描かれていることがあります。これは「満載喫水線(まんさいきっすいせん)」、別名「プリムソル・マーク」と呼ばれるものです。
船には、安全に航行できる「沈んでいい限界」が決まっています。これを超えて荷物を積みすぎると、波をかぶりやすくなったり、復原力(傾いたときに戻る力)が失われたりして、転覆や沈没の危険性が一気に高まります。
この限界線を超えて荷物を積むことは、法律で厳格に禁止されています。実際には、出港前に船長や航海士、港湾の検査官などが喫水の位置を確認し、この線を超えていないことを確認できなければ、船は出港できません。
興味深いのは、この限界線が「海域」や「季節」、そして「海水か淡水か」によって細かく分かれている点です。淡水の線が設けられているのは、海水より浮力を得にくく、同じ重さでも船がやや深く沈むためです。
一方、夏季線(S)や冬季線(W)などの違いは、水の密度差そのものというより、海域や季節ごとの波浪や風、着氷などの危険度を踏まえて、安全に沈んでよい喫水の余裕を変えているためです。
そのため、マークには「夏季(S)」「冬季(W)」「淡水(F)」など、条件ごとの限界が刻まれているのです。
19世紀のイギリスで、過積載による海難事故を防ぐために考案されたこの仕組みは、現代のハイテク巨船においても変わらず「物理的な安全の指標」として機能し続けています。
次に船を見る機会があれば、ぜひ水面ギリギリの数字に注目してみてください。

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