※本稿は、佐々木敦朗『3日で変わる からだが目覚める「食べない力」』(講談社)の一部を再編集したものです。
■24時間食べられる状態は糖尿病を招く
ファスティングは、渡航による時差ボケの解消だけでなく、日常の体内時計の調整にも役立ちます。注目されている1つは、食事と絶食のサイクルを明確にするやり方です。
16時間ファスティングとしても知られる「時間制限ファスティング」(TRF:Time-Restricted-Fasting)です。動物実験では、マウスに高脂肪食を24時間いつでも食べられるようにしていると夜間の摂食リズムが乱れ、肥満や糖尿病が起こりやすくなります。
ところが食べられる時間を1日8~10時間以内に制限すると、同様の高脂肪食を与えて総摂取カロリーを同じにしても、体重増加や血糖異常が劇的に抑制されるのです。このとき、肝臓の時計遺伝子リズムや代謝リズムが維持されていることが報告されています(※1)。
※1:Hatori, M., Vollmers, C., Zarrinpar, A., DiTacchio, L., Bushong, E.A., Gill, S., Panda, S., et al. (2012). Time-restricted feeding without reducing caloric intake prevents metabolic diseases in mice fed a high-fat diet. Cell Metabolism, 15(6), 848-860.
ヒトを対象にした研究でも時間制限ファスティングの検証が進み、有望な結果が報告されつつあります。朝から昼に寄せて夕食を繰り上げる、あるいは夕食を控える「早朝型時間制限ファスティング」では、インスリン抵抗性の改善や血圧の改善といった代謝上のメリットが報告されています。
■「時間制限ダイエット」は科学的に正しい
重要なことに、不規則な生活になりがちな夜勤者を想定した研究では、食事を日中に制限することで、血糖値の悪化や気分の落ち込みといった体内時計の乱れによる弊害を防げることが報告されています(※2)。夜間の飲食を避け、睡眠中の回復プロセスが働きやすい環境をつくることで、体内リズムの再同調が進むのがポイントです。
※2:Sutton, E.F., et al. (2018). Early time-restricted feeding improves insulin sensitivity, blood pressure, and oxidative stress even without weight loss in men with prediabetes. Cell Metabolism, 27(6), 1212-1221.
Chellappa, S.L., et al. (2021). Daytime eating prevents internal circadian misalignment and glucose intolerance in night work. Science Advances, 7(49), eabg9910.
時間制限ファスティングは、肥満解消に効果があることから「時間制限ダイエット」とも呼ばれています。近年の複数の研究データを統合した解析(メタアナリシス)でも、適切な時間制限食は体重や体脂肪を減らし、代謝指標を改善する食事方法であることが支持されています(※3)。
※3:Moon, S., et al. (2020). Beneficial effects of time-restricted eating on metabolic diseases: A systemic review and meta-analysis. Nutrients, 12(5), 1267.
“食べない時間”を確保することは、グリコーゲン由来の糖(ブドウ糖)だけでなく、脂肪からつくられるケトン体も活動の燃料として使うのを促し、体重の減少や血糖値の改善に役立ちます。また、細胞内に溜まったゴミを掃除したり修復したりする作業(オートファジー)の働きを高めます。
夜間にお店を閉めてしっかり掃除しておけば、翌朝スムーズに開店することができるようなイメージです。元気に活動できるようになるのです。時間制限ファスティングは、食べる時間を整えることで、体内時計の「リズム合わせ」やすくすることができます。生活はそのままで始められるので、ファスティングの入り口としても始めやすいと思います。
■夜型・不規則生活の人に向いている断食法
夜勤や交代勤務による体内時計の乱れは、健康やメンタル面に弊害を及ぼすという研究結果を、これまでいくつも紹介してきました。しかし、世界では約2割の労働者が夜勤や交代勤務に従事しているといわれています。夜型の生活や不規則な生活を避けられない人が非常に多いという現実があります。
私はファスティングを応用することで、こうした不規則な生活が及ぼす悪影響を軽減できると考えています。
なかでも、夜勤や夜遅くまで活動する人にとくにおすすめなのは、時間制限ファスティングと夜間の摂取を控える「夜間ファスティング」です。
夜勤の人は深夜の時間帯に食事を摂る機会が多くなります。この時間帯には固形物の摂取を極力避け、しっかりした食事は日中の明るい時間に摂るようにするのです。
実際の夜勤者を対象にした研究やシミュレーション環境での実験も行われています。夜勤条件下でも夜間を避けて食事を日中に寄せることで、血糖値の悪化や体内リズムの乱れを抑えられることが報告されています(※4)。
※4:Centofanti, S., et al. (2025). Fasting as an intervention to alter the impact of simulated night-shift work on glucose metabolism in healthy adults: a cluster randomised controlled trial. Diabetologia, 68(1), 203-216
Chellappa, S.L., Morris, C.J., Scheer, F.A.J.L., et al. (2021). Daytime eating prevents internal circadian misalignment and glucose intolerance in night work. Science Advances, 7(49), eabg9910.
■夜勤中に食べていいもの、いけないもの
米国疾病対策予防センター(CDC)の労働安全衛生研究所(NIOSH)は、夜勤の看護師に「深夜0時から早朝6時までの時間帯は食事を避ける」ことを推奨しています。夜勤中にどうしても食べる場合は、野菜サラダ、野菜スープ、果物、全粒粉パン、ナッツなど軽めで質の高い食品を選び、逆に糖分や脂肪分の多い食品、カフェインやアルコールなどは避けるべきだとしています。
夜勤が終わって睡眠に入る前には体内時計のずれを広げないためにも、食事は軽めにし、明るい光をできる限り避けると、眠りに入りやすくなり、翌朝の目覚めも整いやすくなります。
交代勤務の場合は勤務のない日には通常通りの食事をし、長時間の夜勤の間は食べずに過ごす「断続的ファスティング」が取り入れやすいかもしれません。不規則な生活の中に「食べない時間」を意識的に組み込むことは、交代勤務以外の方にとっても、乱れた体内時計を整える強力なツールになると思います。
私自身もそうでしたが、食事を抜くとお腹が空いて仕事に集中できないのではないか、と不安を抱くかもしれません。
血糖値が安定し、脂肪から作られるケトン体の量が増えて、脳がそれを燃料として使いやすくなることが一因と考えられます(※5)。
※5:Cahill Jr, G.F. (2006). Fuel metabolism in starvation. Annual Review of Nutrition, 26, 1-22.
■我慢しすぎない新しい断食のスタイル
すでに知られているファスティングを利用したダイエット方法には、断食日と通常食の日を交互に行うもの(ADF:Alternate-Day Fasting)や、週に2日だけ摂取カロリーを大幅に減らす「5:2ダイエット」、ほか、ファスティングを摸倣した低カロリー食を月に数日間だけ行い、残りの日は日常食で過ごす「ファスティング・ミミック・ダイエット(FMD)」などもあります。
こうした「時間を区切るファスティング」は、健康意識の高い著名人の間でも実践されています。例えばハリウッド俳優では、ジェニファー・アニストンが16時間の「時間制限ファスティング」(16:8ダイエット)を続けることで、夜型生活を改善したとインタビュー等で語っています。
ニコール・キッドマンも食事時間を制限するスタイルを取り入れ、胃腸の不調を整えて規則正しく快適な生活を送っているといわれています。
■無理なカロリー制限は必要ない
ハル・ベリーは自身の体調管理と生活リズムの改善にファスティングを活用し、「午後2時開始の食事」といったルールで体調を維持しているそうです。(※これらは個人のエピソードですが、時間制限食の有用性は多くの臨床研究で裏付けられつつあります)
ファスティングと聞くと「つらそう」「我慢しなきゃいけないの?」と思うかもしれません。実際には、時間制限食では無理なカロリー制限の必要はありません。食べる時間帯を一定の範囲内に決めておくだけで、体内時計が整いやすくなり、体調管理やダイエットにも良い効果が期待できるからです。
夜勤や交代勤務、あるいはその他の事情でサーカディアンリズムを整えにくい場面は現代の暮らしではたくさんあると思います。大切なのは「仕方がない」と諦めたり、身体の不調や病気のリスクに必要以上に怯えたりせず、体内時計を意識して「じゃあ、どうすれば体内時計のズレを防げるのだろう?」と前向きに考えることではないでしょうか。
※糖尿病を含む基礎疾患がある方、治療中・服薬中の方、妊娠中・授乳中の方、成長期の方、摂食障害のある方またはその既往がある方、その他健康状態に不安のある方は、本書の方法を自己判断で行わず、必ず医師に相談してください。
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佐々木 敦朗(ささき・あつお)
米国シンシナティ大学医学部教授、慶應義塾大学特任教授、広島大学医学部連携教授、東京理科大学客員教授
1972年、広島県呉市生まれ。生命科学者。博士(医学)。現在、米国シンシナティ大学医学部教授、慶應義塾大学特任教授。広島大学医学部連携教授、東京理科大学客員教授としても研究と教育に携わる。2002年に渡米、カリフォルニア大学サンディエゴ校、ハーバード大学メディカルスクールで研鑽を重ね、細胞のエネルギー代謝を軸に、がん、老化、代謝疾患に関わる生命現象を分子から個体までつないで探究する。プライベートでは20代で体重が急増、30代で高血圧治療を受ける。自らの身体で食と生活を立て直す試行錯誤の末、ファスティングにたどり着き、今も継続して実践する。
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(米国シンシナティ大学医学部教授、慶應義塾大学特任教授、広島大学医学部連携教授、東京理科大学客員教授 佐々木 敦朗)

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