物流を支えるトラックドライバーの人手不足が深刻化している。元ドライバーで物流ジャーナリストの坂田良平さんは「一部の大手企業では労働環境の改善に向けて先駆的な取り組みが進んでいるが、ドライバーにムリとムダ、そして体力や精神的な負担を強いる現場はまだまだたくさん残っている」という――。

■人手不足+働き方改革=物流危機
私たちの生活は、トラック輸送によって支えられている。
2023年における国内貨物輸送量は約41億トン。その9割を担っているのがトラックである。トラックに続くのは、船、鉄道、航空だが、これらは輸送行程のうち、長距離輸送だけを行うケースが多い。たとえば船による貨物輸送では、「船に積むまで」と「船から下した後」の輸送プロセスはトラックが担うのだ。
つまり、世の中のありとあらゆるモノは、ほぼ間違いなくトラック輸送を経て、私たちの元へと届けられている。
しかし今、トラック輸送は危機的状態にある。
トラックドライバーが不足しており、今後さらにこの人手不足が深刻化する懸念があるからだ。
EC・通販などの拡大によって、輸送貨物数が増えていること。
トラックドライバー86万人の半数が50代以上であり、今後毎年、数万人単位で退職していくこと。
加えて、話題になった「物流の2024年問題」である。これまで長時間労働が常態化していたドライバーの働き方を健全化するために、残業時間に上限が課された結果、トラックで運ぶことができるモノの量が減っている。

■「依頼する荷主」から変える政策
この物流クライシスを避け、10年後20年後も持続可能な物流を維持するため、政府は2023年から物流革新政策を推し進めてきた。
かいつまんで物流革新政策を説明すると、物流のムリやムダを改め、減少していくドライバー数でも輸送網が維持できるよう、輸送効率を高めることを目指している。
そのため、政府は2024年から改正法令を毎年施行している。特に今年の春には、運送会社に対し輸送を依頼する、メーカー、卸、小売などの荷主に対して、義務や罰則を課す法令を施行した。
これまでは倉庫会社、運送会社など、物流の実務を担う事業者を対象とした法令が大半だったことを考えると、これは物流政策における重要な転換点である。
では物流の現場にいるドライバーたちは、この変化を感じ取っているのだろうか?
本記事では、物流スタートアップHacobuの協力を得て、トラック輸送の主役であるドライバーたちに直接インタビューを実施し、生の声を紹介する。
■「平均1時間半」の荷待ち時間を減らせ
トラック輸送におけるムダの最たる例は、荷待ち時間である。
2020年に実施された調査によれば、一日あたりの平均拘束時間は12時間26分。そのうち1時間34分が荷待ち時間であった。
この荷待ち時間を削減するために、政府が倉庫、物流センター、工場などへの導入を後押ししたのが、「バース予約受付システム」である。
バースとは、貨物の積み卸しを行う場所のこと。積み卸しの時間を予約できるようにすることで、荷待ち時間を減らそうという目論見(もくろみ)である。

「ここ1~2年、バース予約受付システムを導入する現場が増え、また待ち時間が減っていることを体感しています」と、インタビューに参加してくれたドライバーたちは、口を揃えた。
実際、Hacobu社がドライバー約1500人に対して実施したアンケート調査でも、半数以上のドライバーが直近1年で荷待ち時間が減ったと答えている。

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■現場のドライバーに届いていない義務
これがトラック輸送のムダをなくすことにつながるのは明確なのだが、一方で「荷待ち時間が休憩になっていたので、減ってしまってちょっとしんどく感じることもある」という本音を語ってくれたドライバーもいた。
荷待ち時間を削減する必要性は、物流系メディアでも以前からたびたび取り上げられ、また業界団体でも推奨していたため、バース予約受付システムの普及が進んだのだろう。
一方で、「『デジタルタコグラフ(デジタコ)のステータス記録を、これまで以上にきちんと実施しなさい』という指示は受けていますか?」という質問に対し、「受けている」と答えたドライバーは1人もいなかった。
このステータス記録には、荷待ち・荷役などに要した時間が含まれる。この春から、一定量以上の貨物輸送を行っている荷主(特定荷主)では、荷待ち・荷役などの時間を記録し、報告する義務が課された。この時間を記録できるのは、現実的にはドライバーになるため、荷主側は運送会社からこの記録を取り寄せることになる。
こういった法令の改正と、現実的な運用を踏まえたうえでの質問だったのだが、こちらについてはドライバー、すなわち現場への指示は下りてきていないことが分かった。
■「手積み手卸し」という悪習も残る
帝国データバンクが2026年4月に約2万3000社に対して行った調査では、こういった取り組みが盛り込まれた法律(物流効率化法)に対して「内容を知っている」と答えた企業は、わずか16.8%しかおらず、「法律の名前も聞いたことがない」と答えた企業が35.9%もいた。
荷待ち・荷役時間等の記録と報告は、物流革新政策における重要施策なのだが、肝心の認知が進んでいないことがうかがえる。
荷待ち時間削減(バース予約受付システムの普及)のように、数年前から啓発を繰り返さないと、現場へは普及していかないのだろう。


同じことは、貨物を手作業によって積み卸す「手積み手卸し」についても言える。
同じメーカーでも、長距離輸送(幹線輸送)についてはパレット輸送(※パレットという用具を用い、フォークリフトで積み卸しすること)に切り替えられているが、近距離輸送については相変わらず手積み手卸しが行われている。
菓子やカップ麺のような、かさばるが単価の安い商品では、「少しでも多くの商品を積みたい」という荷主の意向により、相変わらず手積み手卸しが行われている。
■ドライバーにとっては「休憩も仕事」
ビジネス感度の高い読者であればご存じのとおり、例えば日経新聞では物流改善への取り組みが毎週のように報じられている。
だがこういった事例は、大手企業による先駆的な取り組みである。まだまだドライバーにムリとムダ、そして体力や精神的な負担を強いる現場は、たくさん残っているのだ。
Hacobu社のドライバーアンケート調査では、6割が「待機場所を見つけるのが困難」という不満を訴えており、給与や仕事内容、拘束時間などを上回り、ドライバーが感じる不満No.1になった。
一般の方々に知ってほしいのは、ドライバーにとっては休憩も仕事の1つだということだ。
筆頭は「4時間運転したら30分休憩しなければならない」と定められている430(ヨンサンマル)ルール。法令では、他にもさまざまな休憩・休息の義務が設けられている。
また、積込場所や卸場所への到着時刻が指定されている場合には、時間調整のために路上などで待機する必要がある。トイレのためにトラックを駐車しなければならないこともある。

■駐車違反取り締まりにおびえる日々
休憩しようと思っても、トラック用駐車場の数が圧倒的に不足している。結果、幹線道路脇に路駐するしかなく、ドライバーたちは日々、駐車禁止切符を切られるんじゃないかとドキドキしているのだ。
たとえば冷凍冷蔵倉庫が立ち並ぶような一角では路駐すらできず、分岐帯の緩衝スペースにハザードを点けて停車しているトラックやトレーラーが見受けられる。危険だとは思うが、駐車可能な場所がないので仕方ない。
会社からは休憩の指示を受けるが、休憩場所を教えてくれるわけではない。ドライバー同士で情報共有をしたり、あるいはGoogleストリートビューなどを用いて、なんとか休憩できる場所を探している。
トラック用駐車スペースを設けるためにはコストがかかる。だがこれは社会全体で負担すべきコストであり、今後は都市設計の中にしっかりと組み込んでいく必要がある。
■ドライバーの次の仕事は「考えられない」
キャリアパスに関する質問については、総じて戸惑いの声が挙がった。
(例えばトレーラーや平ボディのような)今と違う車種や車格のトラックに乗るということ? 正直、考えていない。
運行管理者にはなりたくない。
できればずっとトラックに乗っていたいので、キャリアパスと言われても考えられない。


補足すると、運行管理者とはトラック輸送の計画を立案する配車業務を行い、安全で法令を遵守した運行の責任者であり、国家資格でもある。運送会社では必須の職種であり、ドライバーのキャリアパスとしては、もっとも分かりやすい。
しかし運行管理者になることを嫌がるドライバーが多いことも事実である。実は筆者も現役ドライバーだった頃、「運行管理者には絶対になりたくない」と思っていた。
理由は単純で、しんどそうだから。
ドライバーたちの不平・不満の調整役となるのが運行管理者であり、「ストレスが溜まりそうだな」と感じていたのだ。
昔も今も、「ドライバーの次の仕事」の選択肢は多くない。
大きな会社であれば、倉庫作業員に異動することもできるが、運送業界は従業員30人以下の会社が85.4%を占める中小企業の集合体である。トラック輸送しか手掛けていない運送会社も多く、社内でジョブチェンジしようとも、選択肢がない会社のほうが圧倒的に多い。
筆者がドライバーを辞したのは、もう30年近く前のことだ。「他業界へと転職したい」という筆者に、ハローワークの職員は「気持ちはわかりますが、ドライバーから他産業への転職は限りなく難しい」と説得しようとした。
この状況は、30年間変わらない。

そろそろ運送業界は、これを変えるべく動くべきだ。
■ドライバー視点で工場を作れれば…
一方で、物流革新政策では「物流の現場における経験値を基に、改善や変革を推進できる人材」の不足が、看過しがたい課題になりつつある。
象徴的なのは、法律で特定荷主に課される「CLO」(Chief Logistics Officer、物流統括管理者)という役員の選任義務である。当然、荷主内においてはCLO1人で改善・変革活動を行えるわけがなく、物流現場に明るいメンバーを揃えたチーム作りが必須となる。しかしふさわしい人材がおらず、多くの特定荷主では苦労しているのだ。
インタビュー中、ある参加者から「工場を作るとき、ドライバーもプロジェクトに参加させればいいのに」という意見が出た。
荷役作業がしやすいバースや待機場所の設計といった観点において、ドライバーがアドバイスできる点は少なくないだろう。この参加者は、これを指摘したのだ。
■未来が見えない仕事に若手は就かない
持続可能な物流を維持するためには、若手ドライバーが増えなければならない。自動運転トラックがどれだけ増えようが、すべてのトラックが自動運転化できるわけではないからだ。
しかし、今の若者は慎重だ。
キャリアパスの見えない職業に就くことを嫌がる人も少なくない。
筆者は20代のドライバーから、「自動運転トラックが実現したら、僕たちの仕事はどうなるんですか?」と聞かれたことがある。先輩ドライバーや会社の上司からは、「そのときには俺たち引退しているからな」とごまかされてしまったそうだ。
この答えをきちんと用意しない限り、ドライバーを志すのは「クルマの運転が好き」といった若者に限定されてしまう。
だからこそ、「ドライバーの次」を実現する、新たなキャリアパスの構築が必要なのだ。
そしてその有力な候補が、「ドライバーとして働いたことによって得た知見を活かす道」である。こういったキャリアは、物流改善や変革を推し進める荷主においても重宝されるはずだ。
ただし、ドライバーがすぐにこういったコンサルティングや事業企画系の職務に就くのは難しい。だからこそ、一般的なビジネス知識や論理的思考、分析能力などを身につけるカリキュラムを用意することは必須だし、これは業界を挙げて取り組むべきだ。
ドライバーが日々の業務をこなしながら得た知見は貴重である。
「若手ドライバーを確保する」という意義とは別に、物流のムリとムダを解消し、ひいては持続可能な物流を実現するため、こういった知見を活用する道を探ることも大切なはずだ。

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坂田 良平(さかた・りょうへい)

物流ジャーナリスト、Pavism代表

「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。物流ジャーナリストとしては、連載「日本の物流現場から」(ビジネス+IT)他、物流メディア、企業オウンドメディアなど多方面で執筆を続けている。

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(物流ジャーナリスト、Pavism代表 坂田 良平)
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