老後に必要な本当の金額はいくらか。ファイナンシャルプランナーの長尾義弘さんは「一律で『2000万円必要』という極端な話に振り回されてはいけない。
冷静に収支のバランスを整理できれば、必要以上に怖がらなくて大丈夫だ」という――。(第1回)
※本稿は、長尾義弘『老後不安は「思い込み」が9割』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。
■老後に必要な金額は決まっていない
老後資金の問題で出てくるのは、「で、結局いくら用意すればいいの?」という疑問。2019年に話題になった、いわゆる「老後資金2000万円問題」。金融庁の報告書で、老後30年間で約2000万円不足すると発表され、大騒ぎになりました。
でもこれ、どうやって出した数字かというと、総務省の「家計調査」で毎月約5.5万円の赤字→5.5万円×12カ月×30年=約2000万円という、シンプルな計算です。
先ほど見た2025年のデータでは、月の赤字は約4.3万円。これで計算すると、約4.3万円×12カ月×30年=約1548万円。約1500万円。あれ? 2000万円よりだいぶ少ない。つまり、「老後資金はいくら必要か?」は固定ではないということです。老後資金の基本式はこれ。
毎月の赤字×12カ月×老後年数ここで、老後年数をどう見るか。
私はあえて「100歳まで」として計算します。65歳からなら35年。なぜ平均寿命じゃないのか? それは、長生きして困る方が多いからです。短く見積もって足りなくなるより、長めに見て余裕を持つほうが安心です。
老後資金は、人によって必要額は全然違います。
■収支が赤字でないなら500万円あれば安心
たとえば、年金が多くて赤字が少ない人→老後資金は少なめでOK。年金が少なくて赤字が大きい人→多めに準備が必要。つまり、「みんな2000万円必要」なんて話ではない。あなたの収支のバランス次第なんです。
じゃあ収支のバランスが取れているのなら貯金ゼロでいい? 理論上はこうなります。赤字0円×12カ月×35年=老後資金0円「じゃあ貯金いらない?」……いや、それはちょっと危ない。
老後は長いです。
「骨折で入院するかもしれない」「大きな病気になるかもしれない」「介護が必要になるかもしれない」「家の修繕があるかもしれない」何も起こらない35年なんて、正直ありえません。だからこそ、“赤字対策”とは別に“余裕資金”が必要なんです。
では、余裕資金の目安はいくら? ということになると、絶対の正解はありませんが、最低でも500万円くらいあると精神的にかなり楽になります。介護に必要な費用の目安が500万円なので、この資金は確保しておきたいですね。
この余裕資金は、「医療」「介護」「急な出費」「生活のゆとり」のためのクッションです。「足りるかどうか」よりも、「安心して暮らせるかどうか」が目的のお金。ここが大事です。
■不安で無駄な保険に加入するのは本末転倒
・2000万円ないと破綻する

・いまの若者は地獄の老後

・年金はもうダメ
こういう“極端な話”が不安を大きくします。でも実際は、「赤字はいくら?」→「何年生きる想定?」→「増やす方法はある?」と、順番に整理すれば、ちゃんと数字で見えてきます。老後は「運任せ」ではうまくいきません。計算できる未来なので、自分で考えて手を打っていきましょう。

「老後、そんなに怖がらなくて大丈夫」ここでいちばん伝えたいのは、これです。老後って、あなたがイメージするほど地獄じゃない。「大変だ」「2000万円必要だ」「年金制度は崩壊する」。そんな言葉ばかりが先行しているから、必要以上に怖がりすぎている人が多いんです。老後が不安なあまり、無理な備えをしてしまう人もいます。
たとえば、保険の営業員にすすめられて月3万円の変額年金保険に加入。でも、「給与に対して負担が重い」「生活がきつい」ということで、結局途中解約して損してしまう。これでは本末転倒です。不安に振り回されると、冷静な判断ができなくなります。
こんな相談もありました。
■先に優先するのは「いまの生活」
「子どもが生まれたので、どんな個人年金保険に入ったらいいですか?」話を聞くと、共働きで老後はそこまで心配ない状況。そのときに優先すべきなのは何か? 老後よりも、「親にもしものことがあったときの死亡リスク」「子どもの教育費」。
まずは収入保障保険などで「家族を守る準備」。老後はその“あと”です。準備には順番がある。ここを間違えると、いまの生活が苦しくなってしまいます。
老後が心配だからといって、「旅行をやめる」「自己投資をやめる」「生活レベルを必要以上に下げる」これはやりすぎです。将来のためにいまの生活の質(QOL)を落としすぎると、常に不安を抱えながら生きることになります。それって、幸せでしょうか? 現役世代がまず考えるべきは、「自分の価値を上げること」。
「スキルアップ」「資格取得」「経験を積む」「転職で年収アップ」です。キャリアアップ、スキルアップへの投資をすることによって、将来、転職するのに有利になったり、給与のアップにつながったりするのです。給与がアップすることで、将来の貯蓄額が大きくなる可能性があります。
■冷静になれば「老後はなんとかなる」
また給与が上がると、厚生年金の保険料も上がることになるのですが、将来に受け取れる年金受給額も上がります。ちなみに給与が増えると厚生年金保険料が増えるので、エッと思う人もいますが、支払った保険料よりも多くの年金を受け取れます(長生きをすれば)。

厚生年金の保険料は、半分は会社が負担しているので得なのです。そしてなによりも、給与が増えれば生活にもゆとりが出ます。精神的な安心も増えます。これ、じつは最強の老後対策です。
50代になると、「老後が近い」「教育費がピーク」「定年後の働き方を考えなきゃ」など、お金の悩みは老後資金だけじゃなくなります。だからこそ、優先順位が大事。老後資金が思うように貯まらないこともあるでしょう。でも大丈夫。
老後は「怖い未来」じゃありません。不安をあおる情報はたくさんあります。でも実際は、「計算できる」「調整できる」「増やす方法もある」。冷静に整理すれば、「なんとかなる未来」です。
必要以上に怖がらなくて大丈夫。いまを大切にしながら、順番を守って備えていけばいいんです。

----------

長尾 義弘(ながお・よしひろ)

NEO企画代表、ファイナンシャルプランナー、AFP

徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)、『とっくに50代 老後のお金どう作ればいいですか?』(青春出版社)、監修書には年度版シリーズ『NEW よい保険・悪い保険』(徳間書店)など多数。

----------

(NEO企画代表、ファイナンシャルプランナー、AFP 長尾 義弘)
編集部おすすめ