※本稿は、中島恵『中国人は日本で何をしているのか』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■「爆買いブーム」は去ったが…
2015年の爆買いブーム以降、多くの中国人が始めたのが「代理購入」(略して代購(ダイゴウ))だ。コロナ禍で日中間の往来が長期間ストップしたことや、逆にコロナ収束後は来日しやすくなったことで、代購は鳴りを潜めたという声もある。
だが、中国人によると、現在も一部で行われているらしい。どのようなものなのか。
郭思青さん(仮名)は知人も含め代購にかかわっていた。郭さんは1992年、内陸部の生まれ。中国の大学を卒業後、来日して日本語学校、旅行専門学校を経て、都内の旅行会社に就職したが一年で退職。2017年に「ひとり旅行会社」のような仕事を始めた。当時、中国人客が日本に押し寄せており、「仕事は必ずある」と確信したからだ。
中国人が日本で訪問する企業へのアポ取りや観光案内、通訳など、何でもこなした。
■代購だけで月収100万円のカラクリ
郭さんも「多少やったことがある」代購とは、観光目的で来日した中国人が、お土産以外に、親戚や友人たちから頼まれた商品を日本で購入、帰国後に手数料(マージン)を乗せて代金をもらう、いわゆる転売ビジネスのようなものだ。対象として目立ったのは化粧品、粉ミルク、医薬品、雑貨などだった。
ちょうどその頃、在日中国人も代購を始めた。SNSにグループを作り、中国現地から注文が入ると、その商品を購入して発送する。あるいは、「○○百貨店に○○の限定品が入荷しました」などと発信。注文が入れば、また購入して中国に発送する。
近年は小紅書で、知り合いではない人からも注文が入るようになった。SNSでの先払いで、履歴も残るのでリスクはほとんどない。代購だけで都内にマンションを買ったという人も多いという。専業にする人、副業として行う人もいる。
送料は購入者の負担で、中国系国際宅配便会社やハンドキャリーを利用することも多い。手数料(マージン)は商品によるが、10~20%程度取る人が多く、代購で月に100万円以上の収入を得る中国人も多いそうだ。
■「一見さんお断り」を突破する裏ワザ
郭さんによると、代購ビジネスにおける在日中国人の優位性は、日本の在留資格を持っていること、また場合によっては、日本国籍を取得していることだという。
頻繁に銀座のブランドショップに顔を出し、まず店員と顔見知りになる。その店員も中国人が多いので話しやすい。足を使って何度も通いつめ、購入を繰り返して得意客になり、ショップや店員との信頼関係を構築する。
「高級ブランドショップでは、『一見(いちげん)さん』には販売していない商品があります。店内に展示されていても、目の前の商品が買えないことがある。なので、私たちはまず一定以上の金額をお店に落とさなければなりません。それは数日しか滞在していない観光客にはできないことなので、在日中国人の出番なのです」(郭さん)
エルメスの「バーキン」や「ケリー」など有名ブランドほど、代購の手数料は大きいという。この代購ビジネスは、在日中国人同士で展開(得意客が買い、転売する)されることも増えてきた、と郭さんは話していた。
■日本の処方薬が秘密裏に売買されている
代購ビジネスでは、「ちょっとヤバいもの」も扱われている。
中国人のSNSを見ていると、中国に帰省した人が処方薬の写真を投稿しているのをときどき見かける。どのようにして中国に持ち込むのだろうか。郭さんをはじめ、何人かに話を聞いてみた。
彼女たちの話を総合すると、東京や大阪にある中国人経営の薬局が処方箋なしで処方薬を密かに販売しているという。それがハンドキャリーなどで中国に持ち込まれているというのが実態らしい。
中国人経営の薬局と日本人経営の病院が結託している場合もあり、処方箋を横流しするケースもある。在日中国人が日本の病院で「正式に」処方してもらった薬を中国現地の人に販売することも少なくない。爆買いブームのときは日本のドラッグストアで販売されている「命の母A」や「サロンパス」といった「市販薬」が人気だったが、いまは処方薬を求める人が多く、その入手と販売に在日中国人が関与しているのだ。
■法律違反を指摘されても反省の色なし
日本の薬機法(医薬品や医療機器、化粧品などの製造・販売などの規則を定めた法律)によると、処方薬は、医師から処方箋の交付を受けていない者に販売・授与することはできないことになっている。
そのため、転売目的であるこのケースは明らかに違法なのだが、私の知り合いでも、中国に帰省する際にハンドキャリーしたり、中国系国際物流会社を使って送ったりしている人が何人かいる。
「欲しがる人が多いから、帰省するときはいつもたくさんの処方薬を持って帰るんです」と悪びれずに語る人もいる。それは違法行為だと指摘しても「そうなんですか、全然知らなかった」というだけで、反省する様子はない。
処方薬の代購について、別の中国人に聞いてみた。
「中国では処方薬のネット販売も、海外からの持ち込みも認めていません。ただし、個人(本人)が使う場合は持ち込み可能です。そのため、『自分で飲む薬』だと言い張ってハンドキャリーする人がいるのです。
郵便局のEMSは数年前から内容物を英文で明記するというルールに変わったので、使わない人が増えたんです。ハンドキャリーできない場合は中国系の国際宅配便を使います。中国系の宅配便は東京や大阪などに数社あり、本当の内容物を書かなくても大丈夫なことがありますからね」
この人はこうこっそり教えてくれた。こうして日本の処方薬が中国に持ち込まれ、転売されている。
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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。
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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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