家族や自分自身が「認知症かもしれない」と感じたら、どうすればいいのか。医師の和田秀樹さんは「まずは地域包括支援センターや医療機関で相談してみてほしい。
ただし、『医者選び』には注意が必要だ」という――。
※本稿は、和田秀樹『認知症でもひとり暮らし』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■世間に広まる認知症への誤解
認知症になると、すぐに危ない人になる。
何も分からなくなる。そんなふうに思っている人は少なくありません。
でも、実際はそんな単純な病気ではないのです。
実際に認知症が始まったら、いろいろなことができなくなっていきます。
でも、だからといって、わざと危ないことをする患者さんはいません。
たとえば、認知症の患者さんがぷらぷら歩いているところを、車にはねられたとします。そのドライバーが悪いヤツで被害者が認知症だと知るや否や「いや、あっちからね、飛び出してきたんですよッ。やっぱり、認知症の人は怖いねー」などと、自分は安全運転をしていたように主張したとします。
これは、医者の常識から考えるとあり得ないことです。
認知症の患者さんは、わざと車にぶつかったりはしません。さらにいうと、私の患者さんでいうと徘徊中に車に轢かれた認知症のかたなど見たこともありません。
認知症になって、仮にどんどん知能が衰えたとしても、生き物には安全の感覚というものが残ります。分からないうちに、事故に遭って死んでしまうようなことは起こりません。その点はご安心下さい。
■5分前のことを忘れるだけ
認知症の患者さんで、唯一、安全の感覚が麻痺するのは、物忘れにまつわることです。これは、けっこう問題であることがあります。料理をしよう、そう思って火をつける、そのうちにおしっこがしたくなってトイレに行ってしまう、トイレから出たら、あ、ちょっと買い物に行こうといって、火をつけたことを忘れて出掛けてしまう。これは、よくあることです。
だけど、認知症のかたに、刃物を持たせたら人を刺すかといったら、そんなことは絶対にしません。そんな事件はきいたこともありません。認知症のかたが、車を運転したら、わざと人をはねるかといったら、そんなこともしないわけです。
認知症のかたでも、車を運転していて、子供が飛び出してきたらブレーキを踏みます。避けようとします。
認知症とは、5分前のことを忘れてしまうだけで、以前からやってきたことはかなり長い間忘れない病気なのです。認知症になったら、わざと危ないことをするとか、何もできなくなるとか、そんなことは決してありません。
■初期なら「高度な知的作業」も可能
都会に住んでいる患者さんだと、これまでできていたことを、認知症だからとやめさせられるケースがよくあります。これがよくない。田舎のほうだと、多少ボケていたとしても、稲刈りができている間はやらせるし、熊撃ちの名手には、猟銃の仕事をしてもらうでしょう。老人をこき使うと思いますか? それでも、そのほうが、脳にとっても身体にとっても、圧倒的にいいのです。
認知症とは不思議な病気で「5分前のこと」は忘れてしまうのに、いま、相手がしている話の内容を理解することはできます。そのため、認知症が進んでいるかたでも、正常な会話ができることも、往々にしてあるのです。
初期の認知症なら、ほぼ全員が元のレベルの会話が可能です。これは、記憶障害があっても、知能自体は、保たれているケースが多いからです。
もっというと、もともと知能が高いかたの場合は、認知症になっても、初期であれば、かなり高度な知的作業もできることが分かっています。それこそ、大統領でもできるくらいです。
■超高齢社会を華麗に生き抜くために
認知症は、進行性の病気なので、段階というものがあります。一口に「認知症です。もう、何も分からないです」などと断じてしまうのは、とても乱暴な話だと、私は思っています。
5分前のことを覚えていなくても、コミュニケーションはしっかりととれる。
あるいは、道に迷いまくっているのに『月刊文藝春秋』を読んで、理路整然と意見を言ったりする。世界経済をきちんと把握している、そんな賢い認知症のかたはたくさんいます。
まだまだ残存機能はたくさん残されているのに、「認知症です」の一言で、それらをすべて奪われる、そんなことはあってはいけないことです。本来、認知症はスペクトラム(境界線、範囲が明確ではない状態)障害と考えられるもので、軽度から重度まで、幅があるものです。「認知症になったらもう終わりだ」などと、絶対に決めつけて欲しくありません。
誰に何をいわれようが「まだまだできることはあるわい」と、残存能力をしぶとくキープして行くのです。
そして、すでに突入した超高齢社会を華麗に生き抜いてまいりましょう。もちろん、私も後に続きます。
■「これって認知症?」と感じたら…
認知症かどうか調べて欲しいんだけど、何科を受診したらいいのか分からない。そうおっしゃる患者さんは、かなりの数いらっしゃいます。実際、私のところにも「どこに行ったらいいか分からなかったんですが、先生のところでいいですか」といって、自ら認知症テストを受けにくる患者さんもおられます。
認知症が疑われる場合、まず、頼って欲しいのは「地域包括支援センター」です。地域包括支援センターは、認知症に限らず、要介護認定のことや、高齢者の健康、生活に関するあらゆる相談を受けつけてくれる公的機関です。市町村単位で設置されているところなので、お困りの際は、お近くのセンターに連絡をとってみるといいと思います。そこで、認知症を診察してくれる医療機関なども、紹介してくれるはずです。
そのほかにも、精神科に直接相談に行ってみるのもおすすめします。認知症は、脳と心が密接に関係している病気です。それこそ、私たち精神科医が専門としていることなので、診察や治療がスムーズに運び、便利なのです。

■精神科を敬遠するのはバカげている
精神科はこわいですか? 日本ではまだまだ精神科に対する偏見が根強く残っていますよね。分かっています。
「私は月に1回、循環器内科で診察を受けてます」

「僕は定期的に精神科を受診しています」
これを、同じ人物の口からきかされたとき、同じリアクションで受け入れることができる人はまずいません。「精神科を受診している」という言葉に特異な感情を持つ人がほとんどでしょう。それどころか、物事を正しく理解しようとしない、偏狭な考えの持ち主なら、顔をしかめてしまうかも知れません。
これは、非常に残念なことです。私は、著書の中で、精神科に行くことの大切さをたびたび訴えています。あらゆることには、対処法や治療法があるものです。行けば楽になり、病気が治ったり、進行を遅らせることができるのに、精神科だからと敬遠してしまうなんて、バカげています。治せるものは治したほうがいいに決まっています。
昨今、精神科へのハードルは下がってきています。いまこそ、精神科医に相談するときなのです。
専門家の知識は伊達ではないところをお見せできると思います。
■認知症より怖いのは「ヘボな医者」
ただし、医者選びには注意が必要です。精神科ならどこでもいいということではありません。
精神科医を標榜していても、臨床経験がほとんどない医者もいます。たとえば、定年後、開業した大学教授がやっているクリニックなどが、それです。現役の頃から、ほとんど患者さんを診察したことがない可能性さえあります。あるいは、診察していても、ずっと研究の片手間というスタンスだったので、臨床医として、ものすごくヘボなのです。
こうした医者の中には、患者さんの顔を全然見ずに、簡単な問診しかしない医者もいます。それも、パソコンに向かいながらやるのですから、患者さんの症状の正しい把握は望めませんし、的確な治療法の提供も当然できません。
処方箋を書いて「では、2週間後にきて下さい」とものの5分もしない診察で終わるような医者では、認知症の症状を遅らせることなど到底できません。
治療意欲がないと判断して、付き合いをやめてしまっていいでしょう。
■本当の名医は「目の前の相手と向き合う」
こういう医者は、むしろ、医者のほうの前頭葉の機能不全を疑っていいのです。共感能力がありませんし、可能性を考えてみる想像力もない。あるのは、狭い専門知識からくる「決めつけ」だけです。おおかた、前頭葉の機能が低下して、挑戦する意欲を奪われているのでしょう。
患者さんが、薬や治療法を質問したり、不満を訴えると、たちまち機嫌が悪くなる医者もいますが、これは、共感能力のなさに加え、感情のコントロールもできなくなっているのです。まさしく、前頭葉の機能の低さそのものを示しています。
安心していい医者は、すべてこの反対です。
目の前の患者さんときちんと向き合い、話をきき、頷いたり、アドバイスをくれたりします。「とにかく、様子を見ましょう」とか「薬を続けて下さい」という言葉とともに診察を打ち切ったりはしないものです。
信頼できる精神科医を見つけることができれば、認知症の治療に役立つことはもちろん、これからの人生の頼りにもなります。気負わず、さらっと相談に行ってみて下さい。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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