※本稿は、堀川悦夫・楠田悦子『免許返納を10年延ばす70歳からの運転学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「もうトシなんだがら、運転をやめて!」とは言わない
高齢の親や祖父母の運転について考えるとき、頭ごなしに「危ないからやめてほしい」と言ってしまいがちです。
特に逆走やペダルの踏み間違いは、高齢者の代表的な事故として報道されたりSNSで話題になったりと、不安を強める要因になっています。しかし、こうした事故は必ずしも高齢者特有のものではありません。
「高齢者なんだから」「××歳になったんだから」と単純に捉えるべきではありません。
たとえば高速道路での逆走事故を年代別に見ると、30代から50代といった比較的事故が少ないとされる年代でも、高齢者の半分近い件数が発生しているデータがあります。
ペダル踏み間違い事故についても、統計上は70代・80代に多く見られますが、20代でも一定数発生しています。
ここでお伝えしたいのは、親の年齢が上がったことだけを理由に、直ちに危険と判断するのは子・孫としてやめましょうということです。
■親に返納を迫る以前に、一緒に確認してほしいこと
家族として大切なのは、感情的に運転を否定することではなく、「どのようにすれば安全に運転を続けられるか」という視点で関わることです。
たとえば「ペダルの踏み間違い」。米国の高速交通安全管理局が以下のような具体的なアドバイスをしています。
「シート、ミラー、ハンドルを適切に調整する」「ブレーキペダルの中心を踏む習慣をつける」「駐車時はエンジン停止まで気を抜かない」「運転に適した靴を履く」です。
こうした安全運転のためのポイントを子や孫が一緒に確認していくこと、その姿勢こそが大切だといえます。
自動車の運転では、とっさにブレーキを踏む、事故回避のためにハンドルを切るといった行為が、安全を左右します。
衝突事故では、わずか1センチ手前で止まれれば事故にならず、少しでも接触すれば事故になります。
こうした操作力を客観的に測ることは簡単ではありませんが、運転シミュレータなどを用いることで一定の評価が可能です。ぜひ機会を見つけて、シミュレータのある自動車教習所や免許センターなどの利用を促してください。
■親の「運転技能」を同乗して確認する方法
他方で、リスクを察知してからブレーキやハンドル操作に移るまでの反応時間を年代別に分析した研究では、平均値は加齢とともに遅くなる傾向が見られます。
しかし同時に、世代間の数値の重なりも大きく、70代でも40代に相当するレベルで反応が速い人もいれば、40~50代でも高齢世代並みに遅い人がいます。つまり、運転能力は年齢だけで決まるものではなく、個人差が大きいのです。
だからこそ重要なのが家族の目線です。高齢の親の運転に同乗し、図表2で紹介する評価表を使って実際の運転を客観的に見ていくことは、安全を守る第一歩になります。
なお、同表は私がフロリダ大学クラッセン教授らと作成したものをベースにしています。
■免許返納は、その後の「モビ活」とセットで
近年、免許証の自主返納にも関心が高まっています。
グラフを見ると、返納件数は2019年に大きく増加し、その後はいったん減少、そして2024年には再びやや増加しています。ただし、75歳以上に限ってみると大きな増加は見られず、全体としては横ばいに近い状況です。
このように返納の動きは、個人の状態だけでなく、社会的な出来事の影響も受けます。実際、2019年の増加は重大事故の影響が大きく、その後の減少にはコロナ禍の影響も指摘されています。
実際に返納された方のお話を聞くと、「運転技能が低下したから」というよりも、「運転時にまわりが見えにくくなってきた」「反応が遅くなった気がする」、そして具体的な自覚的機能低下がなくても「とにかく事故を起こしてはいけない」といった理由から、早めに判断される方が多いようです。
こうした判断はとても大切ですが、一方で考えておきたいのが、返納後の生活です。
車が使えなくなることで、日々の買い物、通院、そして人とのつながりにどのような影響が出るのかを、あらかじめ見ておく必要があります。
とくに重要なのは、「自宅」と「買い物の場所」、「医療機関」を結んだ“モビリティ・トライアングル”の中での移動です。
これらをどのように確保するかは、事前に具体的に考えておかなければなりません。
現実問題として、家族が近くにいないケースも多く、十分な支援が得られないこともあります。また、大都市以外では公共交通が十分でない地域も多く、車に代わる移動手段を確保することが簡単ではないのも実状です。
免許返納問題は、「安全性」だけでなく「生活を、そしてモビリティをどう維持するか」も大切なのです。
筆者は将来の移動行動全般(モビリティ)を考える取り組みを「モビ活」と呼んでいます。
これは、体の状態や住んでいる地域の交通環境、利用できる支援などを踏まえ、自分に合った移動の方法をあらかじめ準備しておくものです。
運転を続ける場合でも、いずれ運転を断念する場合でも、どちらにしても「モビリティをどう確保するか」という問題は避けて通れません。
だからこそ「いつやめるか」だけでなく「やめた後をどうするか」までを含めて家族や地域社会の皆さんとともに、元気なうちから計画することが大切です。
それが、安心して運転を続けることと、納得して次の一歩に進むことへの準備になります。
■クルマじゃなくたって移動手段は確保できる
先にも触れたように、運転に少しでも不安を感じたら、車に頼らない生活について、早めに考えておくことは大切です。
なかには「車のない生活は考えられない」と感じる方もいるでしょう。そうした場合、ご本人だけでなく、ご家族も一緒に考えていくことが重要です。
一般的に軽自動車で車両代や維持費に関わる費用は月々4万円前後になり、普通車でも5万~6万円程度で、これらの費用は年々高くなっていっています。こうした維持費を必要経費と割り切る向きもありますが、これらの経費相当分を別の移動手段に充てることで、生活の幅を広げることは十分に可能です。
特定小型原動機付自転車など新しい移動手段の選択肢も広がりつつあります。複数のメーカーのものから選ぶことができますし、自宅で試乗できるサービスがあったり、自治体から補助金が出たりと、自分に合ったものを選びやすくなっています。まずは体験してみましょう。
■免許返納後も健康的に生きるべし
さらに、買い物や通院をサポートする送迎サービスや宅配・出張サービスもあります。自治体などに問い合わせてみてください。
「運転免許は大人の証し」と感じている方にとって、返納は大きな決断です。免許を手放すことで自信を失い、外出が減ってしまうケースもあります。だからこそ、無理に急ぐのではなく、ご自身やご家族が納得できる形で判断することが大切ではないでしょうか。
免許返納はゴールではありません。本当に大切なのは、その後も買い物に行き、人に会い、趣味を楽しみながら健康を維持して暮らしていけることです。
だからこそ、家族に求められるのは「やめてほしい」と伝えることだけではありません。
その先の移動と生活を、一緒に考えることなのです。
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堀川 悦夫(ほりかわ・えつお)
佐賀大学理工学部特任教授、福岡国際医療福祉大学特任教授。医学博士、学術博士
東北大学医療技術短期大学部助教授として勤務するなか、東北大学医学部老年内科もの忘れ外来で神経心理学的検査等を担当。その後、文科省在外研究員およびミシガン大学客員研究員として認知症、易転倒性、自動車運転等の研究を行う。帰国後、東北大学医学部助教授を経て、2004年から佐賀大学医学部認知神経心理学分野教授として赴任した後、同附属病院動作解析・移動支援開発センター長として3次元歩行解析と運転可否判断などの臨床研究データベース構築を行う。2017年から公益財団法人交通事故総合分析センター客員研究員、2019年から同特別研究員として交通事故ビッグデータ解析を行う。2020年4月から福岡国際医療福祉大学医療学部教授、ならびに佐賀大学医学部脳神経内科客員研究員として臨床研究に従事。現在は複数の病院で、もの忘れ外来や運転可否判断、運転リハビリテーションを担当している。公認心理師、臨床心理士、DRS(ADED:米国運転リハビリテーション協会基礎資格)、10代後半から20代前半にかけて長距離トラック運転手経験を有する。
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(佐賀大学理工学部特任教授、福岡国際医療福祉大学特任教授。医学博士、学術博士 堀川 悦夫)

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