一流の経営者は人と何が違うのか。実業家の金川裕一氏は「厚い人望のある経営者は、人の期待をやすやすと超えていく。
かつてソニーの経営を立て直した現会長の吉田憲一郎氏の行動には常に驚かされている」という――。
※本稿は、金川裕一『一流の人望力 人の心をつかむ人がいつもやっていること』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■一流の人望力のある人が持っている力
人望力を磨くポイントのひとつは、「事前期待を超える力」を身につけることです。ビジネスシーンでも、日常の何気ない会話でも、人と人が出会うときには、何らかの「期待」が生まれています。
相手は、「今日はきっとこうなるだろう」「こんな話になるだろう」といったことを言葉にしないまでもあらかじめ想定します。目には見えない期待です。私は、この想定を「事前期待」と呼んでいます。
たとえば、自分が「仕入れ先の営業担当」で、これから取引先と打ち合わせだったとします。相手は、物価高の今だから、「また値上げの話かな。でもいい話になるといいな」と構えています。そのタイミングで、
「御社向けには、コストを抑えるための別パッケージをご用意しました」

「輸送経路の見直しによって、従来より安くできる提案があります」

「資材の価格は上がっていますが、社内での効率化の結果、価格据え置きが可能になりました」
といった、“期待以上”の提案をしたら、どうでしょうか。相手は思わず、「そこまで考えてくれていたのか」と感じて、信頼感や好感度が一気に高まります。

相手の“目に見えない期待”に気づき、相手の想定を超える行動や配慮をもって応えること、それが「事前期待を超える」ということです。事前期待を超えることで、ビジネスはもちろん、日常の人間関係が円滑になるのです。
■情報が氾濫する今こそ「得たい情報」
「事前期待を超える」ためには、上質な情報が必要です。上質な情報を持っていれば、相手が気づいていない「潜在的なニーズ」や「次に求めるであろう価値」を先回りして提案することができるからです。
情報は人が運んでくれるものです。この観点からも、人とのつながりを大切にすべきです。
人に会わなくても、インターネット上に情報があふれているから、そこから情報を得ればいいのでは、と考える人もいます。
しかし、人は自分の希望や課題、経験をすべて自分の中で言語化できているとは限りません。会うことで引き出せる話もあり、そこから視野が広がり、会話の質が高まります。
人と会って得た経験や体験から得た情報こそ、今の時代において最も価値があると感じています。ネットで得られる情報に有用なものもありますが、自分の足で訪れ、実際に人と会い、会話し、感じたことに勝るものはありません。だからこそ、「情報を持っている人」=「価値のある人」だと思います。

そして、情報とはネットワークそのもの。人と人とのつながりの中で、自分の視野が広がり、新しい視点が生まれていくのです。
■一流の人望力をもつソニーG会長・吉田氏
また、こうした豊かな体験は、人との会話の質をも高めてくれます。ありがちな悪口や陰口ではなく、「こんな素晴らしい料理があってね」「あの場所、行ってみた?」といった前向きな話題が会話に広がりをもたらし、ポジティブな空気を生み出します。
人と会って楽しい話をすることで、さらに新たな楽しい情報が戻ってくる――そんな好循環をつくることが、自分自身を豊かにしていくのだと実感しています。
これまでの人生で出会ってきた人の中で、特に「事前期待を超える」存在として印象に残っているのが、ソニーグループ会長の吉田憲一郎さんです。
吉田さんは子会社の社長をしていた2013年に、経営的に厳しい状況だったソニーに呼び戻され、CFO(最高財務責任者)、そして社長CEO(最高経営責任者)として経営の立て直しを推進した方です。まさに関係者の期待を超える大改革を実現してきました。
■吉田氏が覚えてくれていた「些細なこと」
吉田さんとは同じ年齢ということもあり、20年以上の付き合いです。彼は人を大事にします。象徴するのが、会った人との出来事や一緒に回ったゴルフの回数まで記録していること。そして、毎回その記録をもとに話をしてくれるのです。

先日、一緒にゴルフのプレーをしたときも、
「金川さん、今日、一緒にゴルフを回るの何回目かわかりますか?」
と聞いてきました。私が考えていると、メモを見せてくれながら、
「15回目ですよ。1回目のときのこと覚えていますか?」
というふうに話してくれます。会話が途切れません。話していて楽しい。形式張らず、いつも自然体でいます。
家族との時間も大切にされており、週末のどちらか1日は、自閉症で知的障がいがある息子さんと過ごすと決めていらっしゃる。そうした姿勢に、私は心から敬意を抱いています。
吉田さんは常に私の予想を超える行動をしてくれます。私が経営に関わっているエル・ティー・エスの幹部向けに講演をお願いした際も、吉田さんは多忙を極める中、快く引き受けてくださっただけでなく、会食にまで参加してくださいました。このような対応も、まさに「事前期待を超える」ものであり、心から感動しました。
講演で、何よりも私が共感したのは、「対話を誠実に行うこと」の重要性を強調していた点です。
都合の良いことばかりを伝えるのではなく、正直に現状を伝えることで信頼を築く。その真摯な姿勢が、企業価値の向上にもつながっているのです。
■ジャック・ウェルチにも通じる「聞く力」
吉田さんは非常に勉強熱心で、どんな場面でも情報を得ようとする姿勢が際立っています。世界的な情報を網羅している立場でありながらも、私との会話では「最近のコンサル業界の動向はどうですか?」といったような質問を積極的に投げかけてきます。
その姿勢は、かつてのGE社長、ジャック・ウェルチにも通じるもので、彼もまた常に相手から学ぼうとする姿勢を持っていたと聞いています。つまり、真に優れた経営者は、常に「聞く力」を持っているのです。
この「聞く力」は、私が長年の経験から感じている、事前期待を超える人の重要な資質のひとつです。自分の話ばかりをするのではなく、相手の言葉に耳を傾け、その背景にある思いや課題にまで目を向ける。そうすることでこそ、相手の期待を超える提案や対応が可能になります。情報を受け取り、それを整理して発信し、また新たな反応を得る。この
循環の中で成長していける人こそが、本物のリーダーだと感じます。

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金川 裕一(かながわ・ゆういち)

日本バレーボール協会副会長/エル・ティー・エス会長

1959年京都府生まれ。
早稲田大学教育学部卒業後、横河電機製作所(現・横河電機)入社。1996年、社内ベンチャー制度で横河マルチメディア(現・キューアンドエー)を設立し、代表取締役社長に就任。同社を売上200億円規模に成長させる。2016年、横河レンタ・リース代表取締役社長に就任。約10年にわたり低迷していた同社を、社員数を増やすことなく4年間で業績2倍へと導いた。大企業、中小企業、ベンチャー企業など多様な規模の経営に参画してきた経験を持つ。現在は株式会社エル・ティー・エスで会長を務めるほか、複数社の役員・顧問を兼務する。学生時代は早稲田大学体育会バレーボール部主将として活躍し、卒業後は横河電機バレーボール部監督、早稲田大学バレーボール部監督として選手育成にも携わった。現在は日本バレーボール協会副会長、早稲田大学バレーボール部OB会会長。

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(日本バレーボール協会副会長/エル・ティー・エス会長 金川 裕一)
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