■みんな困惑している青切符制度
2026年4月1日の道交法改正により、自転車にも「交通反則通告制度(青切符)」が導入された。
この制度改正は各所に大きなハレーションを起こしている。特に注目されているのは、自転車の車道走行である。
これまで自転車で歩道を走行していた人たちからは「怖い」という声が、幼児を乗せた電動アシスト付き自転車を利用している人たちからは「子どもがいるのに、車道を走らされるの⁉」という戸惑いの声が上がる。
ただし、困惑しているのは自転車乗り側だけではない。
たとえば、トラックドライバー。
ある調査では、ドライバーの6割が車道を走行する自転車が増加することを懸念しているという。
■20km/hで走る自転車を抜かせない
トラックが車道を走行する自転車を追い抜くのは、とても困難だ。特に片側1車線で、それなりに交通量があり、路肩・路側帯も狭い一般道――つまり、トラックが自転車を追い越す際に、中央線を超えて反対車線にはみ出さなければならないような状況だと、特に大型トラックが自転車を追い越すのはほぼ不可能だと考えて良い。
20km/hで車道走行をする自転車の後ろに一度ついた後、大型トラックが再び加速しながら追い越そうとすると、9~11秒程度を要する。その間にトラックが走行する距離は、約70mから80m強となる。
ここから勘案すると、対向車線に40km/hで走行する車両がいる場合、安全に追い越しをかけることを考えると、対向距離は200mは欲しい。
都市部の一般道において、対向車両が200m以上先まで存在しないケースは、なかなかレアであろう。つまり、一度自転車の後ろについてしまった大型トラックが、自転車を追い越す機会を掴むことは、とても難しいわけだ。
車両長がもう少し短い2トントラック、4トントラックの場合、あるいは自転車の後ろについて減速させられることなく、追いついてきた速度そのままで追い越しする場合であれば、多少難易度は下がるが、それでも簡単ではない。
「車道を走行する自転車ですか? ホントにイライラします」と、先日話を聞いたドライバーはため息をついていたが、トラックは時間に常に追われながら運行している。
車道を走行する自転車の後ろにつき、自転車のペースで走行せざるを得ないとなれば、運行スケジュールに支障が生じかねず、イライラしてしまうのも仕方ないのだ。
■「自転車は原則車道」で喜ぶのはだれ?
青切符制度の開始は、大きなハレーションを生んだ。
「信号無視」(反則金6000円)、「一時停止違反」(指定場所一時不停止等、反則金5000円)、「ながらスマホ」(携帯電話使用等(保持)、反則金1万2000円)などは、多くの人から「良くないこと」と認識されている行為でもあり、不満の声はあれど世間からも容認されているように感じる。
問題は、「自転車は原則車道を走行しなければならない」という「通行区分違反」(反則金6000円)である。
「車道を走るのが怖い」
「幼児が同乗しているのに、危険な車道を走れというのか⁉」
「自転車走行レーンの整備をするのが先だろう?」
確かに、今まで歩道を走行していた自転車利用者からすれば、車道を走行するのは怖いだろう。
■幅寄せされ、「歩道を走れ!」と怒声
実は筆者は元トラックドライバーでかつスポーツサイクリストでもある。学生の頃はMTBを乗り回し、ここ20年くらいはロードバイクを趣味としている。
その経験から言うと、車道走行をする自転車利用者には相応のスキルが求められる。
筆者自身、トラック・乗用車などの車両に何度も幅寄せされ身の危険を感じたことがある。車道を走行していたら、トラックに幅寄せされて無理やり停止させられて「自転車は歩道を走れ!」とドライバーに詰め寄られたこともあるし、車道上で信号待ちをしていたら、原付バイクに追突されて負った右足首の捻挫は、未だに痛む。
今は筆者も電動アシスト自転車に子どもを乗せて利用している。原則車道を走行するし、また車道は走り慣れているはずなのだが、交通量の多い国道などではやはり怖い。
最近では自転車レーンを備えた道路も見かけるようになりつつあるが、数としては圧倒的に少ないことも心もとない理由の1つだ。
つまりトラックを含む車両側からも、自転車利用者からも嫌われる「自転車は原則車道を走行すべし」という法改正には、メリットがあるのだろうか?
結論から言えば、自転車利用者も、すべてのドライバーも、長年にわたる政府の場当たり的な交通政策の被害者である。
■「歩道通行の解禁」という愚策
かつて交通戦争と呼ばれるほど、交通事故による死者が増えた時代があった。
昭和30年代(1955年以降)、第二次世界大戦後の高度経済成長とともに、自動車交通が急成長した。ただしその社会変化に、歩道や信号機などの交通安全インフラの整備や警察官の増員等が追いつかず、交通事故も激増してしまった。
1970年には、年間の交通事故死者数は1万6765人に達した。これは統計開始以来、最悪の数字である。
当時の政府はこの対策として、極めて愚かな選択を行った。
1978年の道交法改正において、「指定された歩道では自転車の通行を認める(歩道通行の解禁)」という内容を盛り込んだのだ。
実は政府は1970年に「自転車道の整備等に関する法律」を成立させ、交通事故死亡者数を減らす決定打として、車道と自転車・歩行者空間の構造的分離を実現させるべく、同法律によって自転車道の規定を新設した。
ところが自転車道を整備する予算が足りず、自転車道の新設による交通安全対策が頓挫してしまった。そこで場当たり的な応急措置として、自転車の歩道通行を解禁してしまったわけだ。この応急措置政策がなし崩し的に定着してしまい、車両であるはずの自転車なのに、歩道走行がデフォルトとなってしまったわけである。
■自転車vs歩行者の事故がじわじわ増えている
この歪みは、近年徐々に問題になってきた。
長年にわたる交通安全対策が功を奏し、交通事故全体の件数は減っているものの、自転車が関与する交通事故の減少率が少ないため、相対的に全交通事故の中で自転車関連事故の割合が増え、2014年に19.0%だったものが、10年後の2024年には23.2%まで増加してしまったのだ。
自転車が関与する交通事故は、死亡事故、重傷事故とも約8割が自動車相手なのだが、その件数そのものは減っている。しかし、自転車対歩行者の事故に関しては、毎年徐々に件数が増えており、2014年に2551件だったものが、10年後の2024年には3043件まで増加してしまった。
さらに、自転車乗用中の死亡・重傷事故のうち、約4分の3には自転車側にも法令違反があることが報告されている。
「自転車利用者の法令違反を減らさないと、交通事故が減らない」、これが自転車への青切符制度を導入した大きな理由である。
■トラックドライバーが見た「危険自転車」
第3回トラックドライバー実態調査「トラックドライバーが見る『自転車の車道走行』とは?」(Azoop、2026年5月28日発表)から、トラックドライバーが「危険だと感じる」自転車の行動を紹介しよう(図表3)。
この調査結果はあくまでトラックドライバーに対してのものだが、同様のことは乗用車、あるいはバスやタクシーなども含む、すべてのドライバーが感じていることだろう。
そして、ここに挙げられたすべてが法令違反行為であることに注目してほしい。
端的に言えば、こういった違反行為をすべて解消できれば、ドライバーのストレスを軽減し、より安全な交通安全社会が実現することになる。
モビリティとしての自転車、その最大のメリットは、免許不要でかつ低コストで移動できることだろう。
自動車やオートバイのように免許はいらず、またバス・鉄道のように料金もかからない。さらにいえば、都心などでは自転車のほうが移動時間を短縮できることも多い。
■「弱者」と「強者」を行き来する存在
一方で、自転車に対する交通違反の検挙を長年にわたって怠っていたため、自転車交通は事実上の無法地帯と化した。
信号無視。
ながらスマホ。
子どもや老人がいても我が物顔で歩道を爆走。
飲酒運転。
その結果、自転車が交通安全対策の足を引っ張るようになってしまったのは、前述のとおりである。
自転車は車道を走っている分には弱者だが、歩道を走っているときには強者であり、加害者になる可能性が高い。しかし、ここまで無法地帯化してしまうと、今さら「歩道における自転車の健全な“走行”」マナーを啓蒙活動によって実現するのは不可能だろう。
だから自転車は車道走行を原則とし、歩道は例外的に“通行すること”――つまり徐行し、常に歩行者を優先すること――をルールとし、違反者には罰則を科さざるを得なくなったのだ。
■自転車と車が共存するための気配り
先日、自動車マニアの人から、「物流クライシスとか言っているんだったら、まず自転車を歩道に戻すべきだよ。そうしないとトラック配送の時間がどんどん長くなっちゃうでしょう」と言われ、筆者は言葉に窮した。
確かに、その可能性は否定できない。
だが安全が絶対正義であるトラックドライバーや運送会社は、自分たちの都合だけを主張するのではなく、むしろ率先して社会全体の交通安全に協力すべきではないか。
葛藤はあれど、車道を走る自転車を受け入れるのが、運送業界としてはあるべき姿であろう。
そして、トラック配送の時間が長くなって困るのは、結局のところ消費者である。ドライな言い方になるが、このツケを運送業界が払う必要はない。
だからこそ、車道を走る自転車利用者は、ちょっとした気配りを考えてほしい。
・信号待ちする車両の脇をすり抜けて前に出ないこと
大原則として、信号待ちをする車両の脇をすり抜けて信号待ちの列の先頭に出るべきではない。抜かされた車両は、再度自転車を追い越さなければならず、ドライバーに余計な心理的負担をかけるばかりでなく、(前述のとおり)これがトラックやバスといった大型車両の場合には、追い越すことが限りなく難しいからである。
・「車両が追い越せる」機会を設けること
たとえば信号待ちの際に後ろにトラックなどがいる場合、信号が変わってすぐに出発するのではなく、トラックなどを先に行かせてから出発するような余裕を持ってほしい。
・車道に出る際には必ず後方を確認すること
自転車で後方を確認するのは、実は熟練したスポーツサイクリストでもなかなか難しい。身体構造上、後ろを振り返ると、どうしても自転車は振り返った方向に曲がりがちだし、後方確認の瞬間は前方確認が疎かになるから恐怖心を感じる人もいるだろう。
後方確認に自信がない人はミラーを装着するか、もしくは車道だけを走行し続ける方が、よほど安全である。
■無法地帯から「安全な場所」へ
そして、交通法令を守った走行をするのは大前提である。
繰り返しになるが、もし政府が1970年の時点で自転車道の整備に着手していれば、現在のような自転車無法地帯状態は発生していなかった可能性が高い。つまり自転車事故の被害者を減らせていたはずなのだ。
言ってみれば、私たちは今、政府の失態の尻拭いをさせられている状態なのだが、その政府(当時の政策与党)を選挙で選んだのも、また国民である私たちであることを忘れてはならない。
自転車交通の無法状態をこれ以上放置してはならない。
自転車利用者はきちんとルールを守り、歩道は子どもや高齢者にとっても安全な場所でなければならない。
10年後、20年後のより健全な交通安全社会実現のため、今はすべての道路利用者が新たなルールを学び、実践し、そして我慢しなければならない時期なのだろう。
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坂田 良平(さかた・りょうへい)
物流ジャーナリスト、Pavism代表
「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。物流ジャーナリストとしては、連載「日本の物流現場から」(ビジネス+IT)他、物流メディア、企業オウンドメディアなど多方面で執筆を続けている。
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(物流ジャーナリスト、Pavism代表 坂田 良平)

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