トリドールホールディングスが好調だ。「丸亀製麺」を筆頭に、「コナズ珈琲」など複数の飲食チェーンを展開している。
経済評論家の鈴木貴博さんは「興味深いのは、トリドールの戦略が、大企業の成功のセオリーとは逆をいっているという点だ。“天ぷらのつくり方”ひとつにも、その思想があらわれている」という――。
■新業態「天ぷら定食まきの」が人気
トリドールが運営する「丸亀製麺」の人気のひとつがてんぷらです。多くのお客さんはうどんを注文した後に1個ないしは2個のてんぷらを追加して、てんぷらうどんを楽しんでいます。
さて、同じトリドールが運営する「天ぷら定食まきの」の話をします。天ぷら定食の業態なのですが、不思議なことに丸亀製麺とはてんぷらの揚げ方が違うのです。なぜ違うのかを取材してみました。
先にトリドール全体の話をします。運営するお店の中では丸亀製麺が一番有名ですが、実はパンケーキのコナズ珈琲、らーめんのずんどう屋も主力業態です。2026年3月期の国内売上は丸亀製麺が1372億円(※)とだんとつで、コナズ珈琲が133億円、ずんどう屋が122億円と続きます。大きく括れば小麦が得意な会社ともいえそうですが、主力商品が大きく異なるところが特徴です。
筆者註※金額はいずれも四捨五入したものです(以下同)。

天ぷら定食まきのはまだ関西中心に18店舗とトリドールの中では成長途上の業態です。しかし2025年の開示資料では国内店舗売上ランキングの上位20店舗のうち天ぷら定食まきのも2店舗がランキング入りしています。店舗単体でみると人気店なのです。
成功する大企業には必ず企業としての強みがあります。トリドールの場合は強みがふたつあって、ひとつは現場が強い。もうひとつは人財活用がうまい。丸亀製麺の魅力は店頭でつくるあの腰の強いうどんです。どの店でもおいしいうどんが打てるように人財を育てています。
コナズ珈琲も同じです。焼きたてのパンケーキがおいしいうえに、お店の従業員がなんというかとても居心地のいい雰囲気を作ってくれています。そしてそれと同じ強みが天ぷら定食まきのの運営でも生きています。
■天ぷらのつくり方はまったく違う
カウンターに座ると目の前でてんぷらの揚げ手の方が大鍋でてんぷらを揚げてくれる様子が見えます。
揚げたてのてんぷらを従業員さんが都度だしで配膳してくれる。その一連の過程で人財がお店をつくりあげていることが実感できるのです。
食べに行けばお店が人気な理由はわかるのですが、今回の話題は「なぜてんぷらの作り方が丸亀製麺と違うの?」という話です。
普通に考えると丸亀製麺があれだけ国民の支持を受けているわけですから、同じてんぷらを天ぷら定食として提供しても人気が出そうなものです。しかし天ぷら定食まきのではレシピを変えています。
具体的には丸亀製麺で使用する油は透明度の高いサラッとした油ですが、天ぷら定食まきのでは、素材の風味が残った黄金色の白絞油を使っています。
違いは「衣の厚さ」にもあるようです。天ぷら定食まきのでは揚げ手が揚げる前に粉をはらって薄めの衣でからりと揚げています。一方、これは筆者が実際に食べ比べて感じたところですが、丸亀製麺の衣は厚めです。
これはチェーン展開としてはやや不合理に見えます。
年間売上1372億円の丸亀製麺が社内に存在するのですから、同じ油を仕入れたほうが仕入れコストは格段に下がります。なのになぜ白絞油なのでしょうか?
■「なぜ白絞油?」返ってきた“シンプルな答え”
かえってきた答えは、
「白絞油のほうがてんぷらの素材の味がひきたつから」
でした。

ちなみに関東の読者の方は、
「なぜごま油じゃないの?」
と疑問をもつかもしれません。
江戸前のてんぷらは伝統的にごま油で揚げるのが伝統です。浅草にたくさんある老舗にてんぷらを食べに行くと、ごま油のあの香ばしい香りが店内に漂っています。
グルメの方は異論があるかもしれませんが、私は江戸前の天ぷらがごま油を使ってきた最大の理由は、江戸時代の魚介類は臭みがあったからだと考えます。ごま油で揚げて濃いめのつゆをかけて天丼にすると一番おいしく食べられる。昭和の時代まではそういう側面があったのは間違いないでしょう。
ただ近年、物流技術が発展したことでてんぷらの素材も以前と比べてはるかに新鮮なまま提供できるようになりました。その素材を活かすには油の主張は少ないほうがいい。関東の老舗のひとつである新宿のつな八ではごま油のブレンドのベースは香り移りの少ない太白ごま油を使っています。
トリドールの場合、いろいろと試したうえで白絞油が一番、素材の味がひきたつという結論に達したようです。
■「衣の厚さ」も「具材の大きさ」も違う
さてチェーンの間の違いの理由は、衣の厚さについても同じです。
丸亀製麺のてんぷらはうどんのつゆに浸して食べるので分厚いほうがおいしく食べられる。
しかし天ぷら定食のてんぷらは薄くてからりとした方がおいしいというのです。
どちらの業態もてんぷらを人が手で揚げるというライブ感は同じです。ただし、提供されるスタイルはそれぞれに違いがあります。丸亀製麺は棚に並べられたてんぷらを顧客が選ぶ形。天ぷら定食まきのでは揚げたてがそのまま提供される形です。このような前提の違いも衣の厚さに関係するようです。
実は調理法についてもうひとつ違いがあって、具材の大きさが違います。天ぷら定食まきのの具材は総じて丸亀製麺よりも大きいのです。念のため他店にも食べ比べに行きましたが、てんややえびのやといった競合のてんぷら定食よりも大きいと思いました。
基本の天ぷら定食は全部で6品。それでお腹がいっぱいになって満足する量に設定しているのだそうです。実際、一度では食べられない大きさのため、最初の半分は藻塩を振りかけて、残り半分は天つゆでと味変を楽しむことができました。

ここまでの話をすると、
「顧客体験が違うのだから、てんぷらのレシピを変えるのは当たり前だ」
と感じる読者の方が多いかもしれません。
しかしなぜシナジーのない形で別業態に打ってでるのでしょうか?
■大手飲食チェーンのセオリーは真逆
大企業の経営セオリーは一般に逆です。
たとえばすき家のゼンショーがロッテリアを買収したときの発想は「うちの牛肉の仕入れ力を活用することで優位が築ける」というものでした。中国料理の業態が2種類ある大手チェーンでも通常は炒飯や焼売は同じ仕入れ先から仕入れます。そういった動きと比べると天ぷら定食まきのだけでなくコナズ珈琲もずんどう屋も、トリドールはずいぶん飛び地を狙っているように思えます。
そもそも大手飲食チェーンは多業態展開、マルチパスウェイ戦略を好みます。丸亀製麺を例にとれば高い消費者の支持を得て、全国展開に成功してきました。しかしこの先、国内の出店余地はどんどん小さくなります。
だから丸亀製麺が稼ぐキャッシュを武器にコナズ珈琲やずんどう屋のような別業態をインキュベーションしていくのです。
ただその際、多くの外食チェーンでは、シナジーを意識して自社の得意領域からそれほど離れない傾向があります。「白木屋」のモンテローザの主力他業態が「魚民」「笑笑」「千年の宴」など居酒屋だったり、「くら寿司」の他業態が「無添蔵」や「くら おさかな市場」だったり、行列ができるらーめんチェーンの新店が違う味のらーめんで勝負したりするわけです。
丸亀製麺の店舗でうどんに添えるてんぷらがあれだけ売れているので、その味でてんぷら定食を提供したほうがよほどオペレーション設計はシナジーが出ます。
その誘惑を最小限におさえて、消費シーンに合わせまるっきり違うてんぷらを選んだという点で、トリドールの事例は興味深いのです。
天ぷら定食まきのは関西中心で、首都圏だと新宿三井ビル、武蔵小山、松戸のロードサイドの3店舗ですが、ご興味のある方はぜひ訪店して丸亀製麺と食べ比べてみてくださいね。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)

経済評論家

経済評論家。未来予測を得意とする。経済クイズ本『戦略思考トレーニング』の著者としても有名。元地下クイズ王としての幅広い経済知識から、広く深い洞察力で企業や経済を分析する独自のスタイルが特徴。テレビ出演などメディア経験も多数。

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(経済評論家 鈴木 貴博)
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