なぜマクドナルドは世代問わず人気なのか。日本マクドナルド創業者の藤田田さんは「マクドナルドの強みは味付けだけでなく、意表をつく発想にある。
人間の本能に訴えかける『母乳を吸うスピード』に合わせて設計されている商品もある」という――。
※本稿は、藤田田『殺されない社長の心得』(KKベストセラーズ)の一部を再編集したものです。
■藤田田が名付けた「日本だけの商品名」
マクドナルドには、独特のシェイクという飲みものがある。私はこれに「マックシェイク」という名前をつけた。アメリカマクドナルドでは、「ミルクシェイク」と呼んでいるが、日本で「ミルクシェイク」というと、従来からある「ミルクセーキ」と混同されかねない。
シェイクは、まったく新しい飲みものである。そこで、日本では「マックシェイク」というネーミングでいこう、と私は新しい名前をつけた。
「マックシェイク」はフローティング・アイスクリームである。アイスクリームには、いわゆるアイスクリームとソフトクリームがあることはよくしられている。第三のアイスクリームがフローティング・アイスクリームである。液体アイスクリームのことだ。
マクドナルドでは、この「マックシェイク」を太いストローで飲ませている。
ところが、ストローだと非常に飲みにくい。
■母乳を吸うのと同じスピードで飲める
お客さんの中には、飲みにくいからフタをあけてカバーッと飲みたいという人もいるほどである。力一杯吸っても、遅いスピードで、ゆっくりとしか口の中に入ってこない。
なぜ「マックシェイク」がストローで吸っても遅いスピードでしか口に入ってこないようにしているかというと、ちゃんと科学的な理由がある。人間が口の中にものを吸い込むときに、もっともおいしいと感じるスピードは、母乳を吸うスピードなのである。
母乳というのは、36度の体温と同じ温度で、甘くはないものである。飲みものとして考えるならば、摂氏4度に冷やしたコカ・コーラとか、40度以上の熱いお茶のほうが、はるかにうまい。
36度の飲みものなんか、生ぬるい。そんな生ぬるくて甘くもない母乳を、なぜ赤ん坊が飲むかというと、吸ったときに口に入るあのスピードが、うまいと感じられるスピードになっているからだという。
神様が、母乳でも赤ちゃんがうまく飲めるようにスピードに仕掛けをしたらしい。マクドナルドでは、神様が考案したそのスピードを商売に拝借したのである。
■みんな赤ちゃん時代に一瞬戻る
マクドナルドの店で、今度、「マックシェイク」を召しあがっているお客さんの顔を眺めていただくとよくわかるが、皆さん、陶然となさっている。
母乳のスピードが、瞬間的に赤ん坊の頃の感触を思い出させるからである。
すべての人が味で勝負だ、と考えているときに、マクドナルドではスピードで勝負している。その発想が勝利を呼ぶのである。
母乳のスピードを出すために、マクドナルドのストローの直径のXミリメートルというのは企業秘密になっている。もっとも、おはかりになればわかってしまうが、シェイクを母乳のスピードで吸いこむために、あの大きさにつくられているのである。
人間というものは、母乳のスピードで飲みものが口の中に入ってくると、瞬間的に乳児時代の過去にかえることができるものらしい。赤ん坊の時代に戻って、無念無想の状態で「マックシェイク」を飲んでいる。
よく「マックシェイク」を飲んでいるところは絵になるといわれるが、母乳のスピードに陶然となっているから絵になるのである。
■誰も思いつかなかった画期的な発想
私の母親は80歳になるが、マクドナルドの店に案内したとき、「マクドナルドで何が食べたいですか」と聞いたことがある。「マックシェイクが飲みたい」と母は答えた。「どうして?」と重ねてたずねると、「あれが一番おいしいから」という。
私は、80歳になっても、赤ん坊の頃の母乳の感覚を思い出すのだな、と楽しくなった。
店にくるお客に尋ねても、「シェイクが飲みたい」という人は多い。「マックシェイクが飲みたい」ということは「オッパイを吸いたい」というのと同じことなのである。
私は講演でこの話をするときには、「皆さんも今晩、帰って実物を飲んでごらんになったらいかがですか。皆さんは飲まずにいじって楽しんでいらっしゃるようだが、神様がおつくりになった本当にうまい飲みものが手近にあるのだから。一度飲んでごらんになるべきですよ」ということにしている。
マクドナルドでは、包むときは、ラッピングペーパーで包むとか、クオリティ(品質)、サービス(奉仕)、クリーンネス(清潔)のQSCを教育したりしているが、外食産業の誰もが考えつかなかった、母乳のスピードで味覚に訴える作戦こそ、意表をついた発想であるといえる。
■爆発的に儲かる商品を作り出すには
熱いとか、辛いとか、すっぱいとか、そういうことだけ考えて、勝負をしようとする業種で、口に入れるスピードを重視している、というのは、やはり王者の発想である。
そのことから考えを一歩進めると、赤ん坊時代の感触を甦らせることで、金儲けに活用できるものが、まだまだあるはずだ。
大の男にオムツをさせて遊ばせてくれるところがある、と聞くが、これなども、オムツの感触をなつかしく思い出させて商売にしているのかもしれない。
私は、21世紀になると爆発的に売れるものが出てくるはずだ、と予想している。しかも、それは、現在存在するものをほんの少しかえただけのものである。
「マックシェイク」も、従来のソフトクリームを少しだけ柔らかくしただけにすぎない。
それを母乳のスピードで吸わせるだけで、たいへんなヒット商品になった。
「マックシェイク」は、21世紀に爆発的に売れる商品が現れる、その先ぶれ商品のような気がする。
現在存在するものを少しかえれば爆発的に売れる商品になる。そんなものは、身近にいくらでも転がっているのである。それを人よりも早くみつけることが、儲かる黄金のキップを入手するコツである。
■神様を恐れて金儲けはできない
母乳のスピードで「マックシェイク」を吸わせるというのは、私の考え出したことではない。マクドナルドのノウハウのひとつである。
日本人にはなかなかこうした発想は出てこない。仏教・儒教的な発想が障害になって、自然に挑戦するというようなことは考えられなくなってしまっている。仏教・儒教的なものを捨てないかぎり、こうした自由な発想は出てこない。
母乳のスピードを商売に活用するたくましい発想を、これからも日本人は身につけていかなければならない。母乳のスピードを商売に活用するなどということは、仏教・儒教的発想からすると”神仏を恐れぬ罰当たりな考え”で片づけられてしまう。

しかし、これからは自然への挑戦を恐れていたのでは取り残されてしまう。神様を恐れていてはお金は儲からない。しっかり儲けて神様に寄進をしてさしあげたほうが神様も仏様も喜ばれるはずである。

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藤田 田(ふじた・でん)

日本マクドナルド創業者

1926年大阪生まれ。旧制北野中学、松江高校を経て、1951年東大法学部を卒業。在学中GHQの通訳を務めたことがきっかけで「藤田商店」を設立、学生起業家として輸入業を手がける。1971年、米国マクドナルド社と50:50の出資比率で「日本マクドナルド(株)」を設立。同年7月、銀座三越1階に第1号店をオープン。そこからハンバーガー旋風を巻き起こし日本人の食生活を変えていく。「価格破壊」など革新的な手法を次々と展開した。のちに「日本トイザらス」も設立。2004年没。
孫正義氏、柳井正氏ら、日本を代表する企業を率いる経営者たちに影響を与えたとされる。『ユダヤの商法』『勝てば官軍』など著作多数。

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(日本マクドナルド創業者 藤田 田)
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