高校野球で「9回制」から「7回制」への移行が議論されている。スポーツライターの広尾晃さんは「すでに中学軟式野球、硬式野球各団体、学童野球などはすべて7回制かそれ以下になっている。
7回制になったことで中学生が高校に上がって違和感を抱くことはない」という――。(第3回)
※本稿は、広尾晃『高野連』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
■球数は減っていても投手の負担は増えている
現在、高校野球を「9回制」から「7回制」にしようとの議論が進んでいるが、これには3つの側面がある。
1つは「暑さ対策」。夏の甲子園では2部制が導入されているが、「9回制」のままで1日4試合を消化するのは厳しくなっている。かつて「高校野球は2時間でゲームセット」と言われたが、クーリングタイムや給水時間をこまめにとる夏季の試合はむしろ試合時間が伸びる傾向にある。
次に「選手の負担軽減」。「7日間500球」という球数制限によって高校野球は分業が進み、1人の投手が投げる球数は減少している。しかし近年、投手の球速が大幅に上がり、投手の肩ひじへの負担は大きくなっている。
2024年12月に東北福祉大で行われた「日本野球学会第2回大会」のシンポジウム「投球障害予防―現場発の最新知見」では、中部大学教授の宮下浩二(スポーツ外傷・障害・バイオメカニクス)らが、球速(投球強度)の上昇と、変化球の多用によって、投手の肩ひじへの負荷は大きくなり、故障のリスクが高まっていると発表した。
■投手の肩ひじを守る義務
高校生世代でも「球数制限」に加え「イニング削減」によって投手の肩ひじを守る必要性が高まっているのだ。
そして最後に「世界の趨勢(すうせい)」。
高校生以下の「9回制」を堅持しているのは日本、メキシコ、パナマなど。アメリカ、韓国、台湾、ベネズエラなどは「7回制」になっている。WBSC U-18ワールドカップも2022年の大会から「7回制」になった。「7回制」への移行は世界的な趨勢と言っても良い。
日本高野連は2025年6月30日、「7イニング制に関するアンケート調査実施について」という文書を発表した。この発表によると、7回制の実施を検討する背景として、以下の「問題意識」が整理されている(一部省略)。
■高野連が見せた危機感
(1)加盟校間で部員数の差が顕著になり部員不足による連合チームも増加している中、高校野球の今後、10年、20年後の更なる発展を見据えて今何に取り組まなければならないかを考える必要がある。
(2)全国大会ならびに都道府県大会を今後どのようにして運営していくのかを考えていかなければならない。
(3)日本学生野球憲章ならびにスポーツ基本法を念頭にして、成長期である部員が、安全に安心して野球に取り組むための対策を講じていく必要がある。
(4)社会全体で夏季の熱中症リスクが叫ばれる中、夏季に大会を開催することが高校野球関係者以外からどのように映るのかを認識、自覚する必要がある。
(5)普段の練習や公式戦開催に伴い、選手・部員・応援生徒・指導者・審判員・観客などの方々に重大事故が発生してから、あるいは国や自治体からの指示を受けてから議論をスタートするのではなく、高校野球関係者が自主自律の姿勢で議論していかなければならない。
(6)今後も国内の人口減少が見込まれ、更なる気候変動が予想され、暑さもより厳しくなると見込まれる中で「何も対策を講じない」ままでよいのかという危機感を持つべきである。

(7)7イニング制を考察するうえでは熱中症対策は重要なテーマだが、数ある課題の一つである。一方で、熱中症対策は差し迫った喫緊の課題である。
■社会に高校野球の使命を問う
筆者はこの文章に、昨今の高野連の「明らかな変化」を感じ取った。野球だけでなく、日本のスポーツ界は、事件や事故が起きてから対応策を考えるのが常態化している。
その中にあって異例の「先手を打つ」意欲が感じられるのだ。また、身内意識に凝り固まるのではなく「社会から高校野球はどのように見られているのか」「高校野球の社会的使命をどう考えるか」にも言及している。
2018年のタイブレーク制の導入の際には、前年に都道府県連盟にアンケートを取るにとどめたが、今回は学校単位、さらには一般社会にまで問いかけた。これは大きな変化だと言える。
日本高野連事務局長の井本亘は語る。
「『7イニング制等高校野球の諸課題検討会議』のメンバーの間でも、7回制への移行は、かつてない大きな改革になるから、会議の中だけで決めていいのか、という意見が出た。これに対して、アンケートを取った結果、反対が多かったら導入は見送るのか、という慎重論もあったが、最終的には今、皆さんがどう考えておられるか、意見を聞いてみようとなった。高校野球に興味がある方から、全然興味がない方も含めて、いろいろな人がどう見ておられるのか、どういう考えをお持ちなのかをこのタイミングで一回きちんとお聞きした上で、次にどう進むのかを考えよう、ということになった」
■「勝負の醍醐味」か「選手の健康」か
アンケートの実施に際しても慎重を期したという。

「いくつかの調査会社に声をかけて私たちの要望に合致したところに調査設計をお願いした。一般への意見の公募だけでなく、この調査会社に登録されているモニターの方にも意見をお聞きする。さらに加盟校にも意見を聞く。つまり、調査は三本立てになっている。自由記述制にしているから、9回制を支持する一般の方の声もたくさん出てくると思う。そうした意見もしっかり受け止めたい」
このアンケートには7回制のメリットとデメリットも列記している。
・試合時間の短縮によって、部員の障害予防を推進でき、安全を重視するメッセージを発信できる。またフレキシブルな試合運営も可能になるが、試合を楽しむ時間は減少する。
・投球数の減少は障害予防の推進につながる。
・「6アウト」が減少することで、部員不足のチームが安全に試合に参加できるが、一方で部員の出場機会の減少につながる可能性がある。
・試合展開は、7回制がスタンダードになっている国際基準へ向けた習熟につながる。しかし、大学、社会人、プロなど9回制の上のカテゴリーとの連続性が喪失する。
上のカテゴリーに進んだ際に違和感を持つ恐れもある。
・9回制だった過去の大会との「記録の不連続性」の問題もある。
■中学では7回以下
すでに中学軟式野球(日本中学校体育連盟)、硬式野球各団体(ボーイズ、リトルシニア、ポニー、ヤングなど)、学童野球(スポーツ少年団)などはすべて7回制かそれ以下になっている。7回制になったことで中学生が高校に上がって違和感を抱くことはない。
前述のように、世界のこの世代の野球は7回制に移行しつつある。
2025年12月、アンケート結果が発表された。
◆調査会社による登録モニター向けの調査(6月16、17日、回答者数2472)
賛成……35.9%

反対……25.0%
・女性は各年代で賛成が多く、男性は10~30代の4割が賛成。理由は「試合時間が短くなり、選手の熱中症予防の効果が見込めるから」が最多。
・男性は40~60代の反対が多く、高校野球に関心がある層、野球経験がある層は反対がやや多かった。理由は「終盤の勝負の醍醐味がなくなるから」が最多。
◆加盟校対象のアンケート(6月27日~8月8日、回答校数2643)
賛成……20.8%

反対……70.1%
■高野連加盟校は7割が反対
部員数が0~20人の学校は賛成が28.2%。軟式野球部は賛成が32.4%。
理由は「試合時間が短くなり、選手の熱中症予防の効果が見込めるから」が最多。部員数が増えるほど反対が増え、61~80人の学校では91.1%が反対だった。
理由は「打席数や投手の投球数が減り、プレー機会が減ってしまうから」が最も多かった。
◆日本高野連のウェブサイト(期間6月30日~7月11日、回答者数8953)
賛成……768

反対……7923
7回制導入に対しては、登録モニターは辛うじて賛成票が上回ったものの、加盟校で7割、ウェブサイトでは9割が反対に回った。
登録モニターの多くは「7回制」の背景説明をしっかり読み込んで回答したと考えられる。それでも「高校野球」のコアなファン層である40~60代は反対する人が多かった。
ウェブサイトの回答者は、登録モニターに比べれば、説明を十分に理解せずに回答した人がいた可能性がある。「Yahoo!」のコメント欄でも、記事をほとんど読まずに見出しだけ見てコメントしていると思われる人が結構いるが、こうした懸念も勘案すれば、2つのアンケートを実施したのは意味があるだろう。
■「有利か不利か」で語る指導者たち
「加盟校」に対するアンケートではほとんどの回答者が「7回制が導入されたら、自分の学校はどうなるだろう」と想像して回答しているような印象だ。回答者の多くは「教育者」「指導者」だ。
「球数制限」問題のときも著名な高校野球指導者から「導入すれば、複数の投手を用意できない学校が不利になる」みたいな意見が多数出たが、教育者として高校野球の将来について考えるのではなく「自分たちの学校が有利か不利か」で意見を述べていることがわかる。
実のところ、日本高野連の考えは少なくとも検討委員会のレベルではアンケート実施以前の段階で、すでに「7回制移行」へとはっきり舵を切っていた。
2月には、9~10月に行われる国民スポーツ大会の「高校野球競技」を7回制で行うことを発表していた。
筆者は2024年から高校野球指導者に会うたびに「7回制」について意見を求めてきた。数十人に聞いたが、公立高校の監督は「うちは選手が少ないから助かる」という意見が多かった。
これに対して私学は「選手の出場機会が減る」「完投する投手が増えるので、エースの負担が重くなる恐れも」などの意見が出た。アンケート結果と概ね一致している。
■菊池雄星すら持ち合わせない「ロジック」
アンケート結果に対して、エンゼルスの菊池雄星は「7イニング制に反対派の意見は、感情論がほとんどです。『つまらなくなる』『高校野球ではなくなる』など。一方で、賛成派は『怪我を防げる』『熱中症対策』など、ロジカルです。ちなみに僕も7イニング制は『どちらかと言えば反対派』です。しかし僕も例に漏れず、明確なロジックを持っているわけではありません」とSNSで表明した。偽らざる意見ではある。
ざっくり言えば「9回制維持」の主張は「今までやってきた高校野球をそのままやりたい」という願望に根差している。「野球は本来9回でやるスポーツ」「7回にすれば終盤の勝負の醍醐味がなくなる」などという意見は、プロ野球など「興行」であれば重要な根拠となりうるだろうが、「教育の一環」であり「選手の健康を最重要視」すべき高校野球では、正当な「反対理由」になるとは思えない。
この問題について日本高野連は、アンケート結果は厳粛に受け止めるとしても、なおも問題点を提起し、公開ミーティングを行うなどして「7回制」について対話を続け、粘り強く説得していくべきだと思う。
とかく「閉鎖的」で、身内で物事を決めがちな、日本高野連、日本野球界はこの問題を「開かれた議論の場」に上程し、野球好きな日本人が共有する課題にしたうえで、納得ずくで結論を導き出すべきだと思う。

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広尾 晃(ひろお・こう)

スポーツライター

1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。

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(スポーツライター 広尾 晃)
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