3年ぶりに新シリーズが始まったTBSの日曜劇場「VIVANT」。第3話まで視聴率が下落し、「考察疲れ」「見どころがない」などの“下げ記事”が量産されたが、第4話で上昇に転ずると、ネット記事の論調は一変した。
次世代メディア研究所代表の鈴木祐司さんは「視聴動向を第1シーズンと共に分析すると、第2シーズンではちょっと意外な属性の人が熱狂していることがわかった」という――。
■18.8%→16.4%→15.1%と下がったが…
「VIVANT」第1シリーズ(2023年7月16日~9月17日)の最終回、世帯視聴率は19.6%だった。3年ぶりに始まった第2シリーズの初回は18.8%、以降16.4%→15.1%と3話連続で下がり続けた。この数字をきっかけに、同ドラマの“下げ記事”が量産され始めた。
例えばこんな記事があった。
●「『VIVANT』視聴率下降続く背景を考える」

●「その原因はどこに? ドラマ『VIVANT』第2シーズン、まさかの視聴率が下降傾向に… ファンが漏らす素直な反応とは」

●「『VIVANT』は『見どころがない』とバッサリ…高視聴率も、業界人のホンネは」

●「SNSで考察が盛り上がる『VIVANT』が首位 数字は下降、持ちこたえられるか」
ところが第4話(8月16日)で16.6%に上昇すると、途端に“下げ記事”は姿を消し、「考察」や「舞台裏」記事が量産されるようになった(以上の数字はビデオリサーチ関東地区)。
なんとも節操のない状況だが、そもそも第2シーズンの数字は決して悪くない。個人視聴率で3年前の第1シーズンと比べると、今回の第4話までは前シーズンを大きく上回っている。
このドラマに限らず、そもそもテレビ放送をリアルタイムで見る人は減っている。ゴールデンタイム(夜7~10時)のPUT(総個人視聴率)だと、0.5~0.6%ほど毎年下落している。単純計算するとTBS日曜劇場の枠も、3年で0.3%ほどの下げ圧力を受けていたことになる。
ところが、初回から4話までの平均では3%ほど上げている(以上はスイッチメディア「TVAL」関東地区)。
今クールの全ドラマと比べても、ぶっちぎりでトップを行く。先の“下げ記事”たちが、いかに表面的な数字に飛びつき、業界関係者や視聴者の都合の良い発言を“いいとこどり”して、適当に書き飛ばしていたかが分かる。
■10代の若年層や65歳以上の高齢者も注目
第1、2シリーズの男女年層別の平均視聴率で比べてみよう。
実は第1シリーズは最終回が極端に高く平均を引き上げていた。それと比べても第2シリーズ4話までの平均は高い。個人全体では、1.3%上回っている(以後は「TVAL」のデータ)。
加えて全層で前を上回っているが、特筆すべきは若年層だろう。
MC(男4~12歳)=1.7%上がり、1.6倍

FC(女4~12歳)=1.3%上がり、1.3倍

FT(女13~19歳)=1.8%上昇し、1.2倍

M1(男20~34歳)=2.0%上昇し、1.3倍
「目まぐるしい展開」「情報を詰め込み過ぎ」などの声も出ているが、ものともしていない若者も少なくない。
しかもM4(男65歳以上)もF4(女65歳以上)も1~2%伸ばしている。もちろん途中脱落者はいるだろうが、高齢者でも付いてきている視聴者はたくさんいる。
■硬派な「ニュース・報道」層が没入
視聴者には「ドラマ好き」「バラエティ好き」「ニュース好き」などタイプがあり、よく見る番組ジャンルは異なっている。ところが「VIVANT」は、幅広いタイプを引き寄せている点が、他のドラマと少し違う。

「アニメ好き」「ゲーム好き」層だと、あまり数字は高くない。ところが「ニュース・報道」層や「スポーツ好き」層だと、全体平均より1~2%高くなっている。政治・経済・国際問題などが飛び交う内容で、かつテンポの早い展開がこうした層にも受け入れられているようだ。
「バラエティ好き」層や「タレント・芸能人好き」層も引き寄せている。主役級の俳優・声優・YouTuberなどのキャスティングが奏功していると思われる。
そして何より注目すべきは、「テレビドラマ好き」層を極端に集めている点だ。全体平均より7%ほど高く、1.6倍超となっている。ドラマとしての注目度も圧倒的と言えよう。
■役員管理職では女性の数字が男性より高い
ここまでは視聴率を高くするための工夫が成功している証左と言えるだろう。
警察・自衛隊・海外などを舞台にすることで硬派な視聴者も振り向かせた。演技上手な有名俳優、人気声優、元力士のYouTuberなどで幅広い視聴者にも注目された。さらに特筆すべきは、コンテンツビジネスにつながりそうな視聴者層を惹きつけている点だ。

まず目につくのが、「役員管理職」が「非管理職」や「無職」の人々より高くなっている点だ。しかも役員管理職では女性が男性より高い。別班とか公安警察など男臭い組織がどんな力学で動くのか、女性管理職に大いに興味を持たせた可能性が高い。しかも別班司令が女性(キムラ緑子)だ。彼女がどうやって、あのゴリゴリの組織内でのしあがったのか、最終的にどんな役割を果たすのか、興味津々なのだろう。
年収の多寡でも、視聴動向が大きく分かれた。「世帯年収1200万円以上」とアンケートで答えた層が、他を圧倒した。スケールの大きさ、各シーンの豪華さも目を引いたのだろう。
出世意欲の有無でも差が出た。「のんびり生きたい」<「出世を考えていない」<「出世したい」ときれいに並んだ。組織や国際情勢の裏側を描いている点が要因と思われる。
■月曜に職場で話題に上るから見る?
こうして視聴者層の傾向を振り返ると、TBSの経営方針に沿った壮大なドラマになっているような気がする。
同社は2021年にEDGE戦略を発表した。コンテンツIPを起点に企業の成長を加速させる戦略コンセプトだ。デジタル・海外・リアル事業を拡張し、2030年までに放送外の収益を大きく伸長させる方針だ。
同ドラマは、「高所得者」や「役員・管理職」を惹きつけている。普通に考えるとこれらの層は多忙で、タイムシフト視聴することが多いと思われる。ところが同ドラマは彼らを日曜夜9時のリアルタイム視聴に張り付けている。
ドラマの世界観が娯楽として心地よいという点があるだろう。さらに翌月曜に職場で話題に上っている可能性もある。腑に落ちない部分は、タイムシフト視聴で復習しているかもしれない。いずれにしても、娯楽を超えた情報性がこうした層を呼び寄せている可能性がある。
現に同ドラマの見逃し視聴回数はすごいことになっている。第2シリーズ初回については、配信開始から12日間で合計1000万回の大台を突破した。
連続ドラマ歴代トップの記録更新だ。これは大量のリピート視聴も示唆している。単なる娯楽目的だけでなく、別の関心で繰り返し見たり、ストーリー展開を“復習”している人がいるのだろう。
ドラマの作りを見ても、こうした状況を視野に入れている可能性がある。「複雑」「目まぐるしい」「テンポが早い」という展開だ。SNS上ではついて行けないという声も確かにある。ところが演出陣は敢えてそう作って、見逃し視聴の再生数を上げたり、有料のSVODで一気見してもらおうとしたりしているのだろう。
ファンを集めたイベントの開催や、その配信にも注力している。グッズ展開にも熱心だ。TBSがめざすリアルタイム視聴に伴うテレビ広告費と、コンテンツビジネスからの放送収入の最大化。その両方を一挙に達成する壮大な実験が展開している。
従来のドラマとはめざす未来が異なる「VIVANT」。
TBSドラマグループ別班が挑戦する別格のコンテンツになる可能性がある。

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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)

次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト

愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。

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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)
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