本稿は、大貫佑介『アニメビジネス 漫画・小説・アニメが100倍おもしろくなるアニメの教養』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
■海外で「値段がつく」アニメのジャンル
【study point】
●海外市場で強いアニメ
●「ジャパニーズバトル」が支持される理由
では実際に、海外配信プラットフォームが「高いMG(Minimum Guarantee の略称、最低保証金のこと)を出したい」と考えるのは、どのようなアニメなのでしょうか。
この質問に対しては、業界関係者のほとんどが、ほぼ同じ答えを返します。
「異世界転生バトル」
「悪役令嬢」
「成り上がりバトル」
「日本要素の強いバトル」
最近のアニメのラインナップを思い浮かべてみてください。
同じようなジャンルが多くあると思います。「異世界」「生まれ変わり」「転移」「最強」「追放」「悪役令嬢」「無双」「レベル999」などといった単語が入ったタイトルを、大量に見かけませんか?
SNSでは、「また似たような設定だ」「テンプレばかり」といった声も上がります。しかし、製作側が新しいジャンル発掘を放棄しているわけではありません。海外で値段がつき、確実にビジネスが回るから成立しているのです。現在のアニメ業界では、「海外で再生されやすいジャンル」が、企画として圧倒的に通りやすいといえます。
逆にいえば、どれだけ脚本が素晴らしくても、会話劇中心だったりローカル文化に依存していたりする作品は、「海外でどれくらい再生されるか」が読みづらいため、企画段階で慎重に見られるケースがあります。
■ジャンルとして特に強いのが「なろう系」
ジャンルとして特に強いのが、いわゆる「なろう系」と呼ばれるものです。
現在では深夜アニメ市場の巨大ジャンルになっており、ランキング上位100作品(原作)の多くが次々とアニメ化されています。
もう1つ海外で圧倒的に強いのが「日本要素の強いバトルもの」です。たとえば、忍者や日本刀、妖怪、呪術、巫女、武士といったいかにも「日本的」なモチーフをもつ作品です。
海外ファンが、日本アニメに求めている「日本らしさ」は、海外視聴者にとって非常にクールに映ります。和風の建築、漢字、忍者の印を結ぶ動作などは、日本でしか作れない世界観なのです。
代表例をいえば、『NARUTO‐ナルト‐』『BLEACH』『呪術廻戦』『ダンダダン』など、世界的人気を獲得しているタイトルが挙がります。
実際、テレビ東京の海外アニメ収益を長年支え続けている代表的IPの1つが『NARUTO‐ナルト‐』です。連載・本放送が終わっているにもかかわらず、『NARUTO‐ナルト‐』はどのアニメよりも稼ぎ続けています。
新作アニメが次々と生まれるなかでも、海外売上ランキングでは上位に名を連ねています。
これは業界内では常識ですが、「最新ヒットを作る」だけではなく、10年、20年、世界で稼ぎ続けるIPを育てる」ことが非常に重視されているのです。
そして現在、問題になり始めているのが、値段がつきやすい原作の枯渇です。
●「海外で売れるジャンル」が優先的にアニメ化されている
■海外では「異世界転生」が大人気
【study point】
●日本アニメの立ち位置
●ラブコメは海外では値段がつきにくい
ここからは、なぜ異世界転生ものがそこまで海外でウケるのか、私の推測も交えてお話しします。あくまで現場のアニメプロデューサーとしての肌感ですので、確定情報ではなく、1つの見方として受け取ってください。
まず海外市場、特に北米市場を理解するうえで大きなヒントになるのが、ハリウッド映画です。『アベンジャーズ』シリーズを中心としたマーベル・スタジオの作品を思い浮かべるとわかりやすいと思います。
巨大な敵や圧倒的な力、派手な戦闘、わかりやすい善悪、爽快な勝利など大味で理解しやすく、「ドーン、バーン、ゴーン、ラブ」というシンプルな構成をしています。爆発して、戦って、勝って、最後に感動する簡潔さが、世界共通で伝わりやすいのでしょう。
もちろん細かいドラマはありますが、根本にあるのは「強い敵を倒すカタルシス」です。海外では、このわかりやすい快感が非常に強いといえます。
異世界転生バトルものは、まさにこの「わかりやすさ」「大味な爽快感」を満たすジャンルです。異世界へ行き、弱かった主人公が最強になり、理不尽を力でひっくり返すストーリーや圧倒的能力で無双するといった内容は、設定説明もシンプルで、文化を越えて理解しやすいのです。
■20億~30億円のコンテンツを数億円で確保
それだけではありません。
しかも、その作品がヒットする保証はどこにもありません。もし失敗すれば、莫大な赤字になります。自社オリジナル超大作というのは、超ハイリスク・ハイリターンの賭けなのです。
一方、日本アニメは「1話あたり10~15万ドル程度」、つまり12~13話分(1クール)まとめて買っても全体で180万ドル(約2億9000万円)程度に収まります。総製作費にして20~30億円規模のコンテンツを、数億円程度の投資で確保できる計算です。
■「海外でどれくらい値段がつくか」が判断基準
ハリウッド超大作と比較すると、異常に安いことになります。しかも、その日本アニメがプラットフォーム上でちゃんと回って(再生されて)くれることが、過去のデータからわかっています。だとすれば、「自社オリジナル大作映画」よりも「日本アニメをたくさん仕入れて並べる」ほうが、はるかにローリスクでハイリターンになります。
ローリスクで、一定以上の再生が期待でき、継続視聴も強く、世界展開もしやすいため、海外プラットフォームは日本アニメを仕入れ続けるのです。ですので、現在の日本アニメブームは、単純な日本文化人気だけが原因ではないといえます。
しかし、日本のラブコメ、特に新規の作品は少し事情が違います。もちろん海外にも熱狂的なファンはいますし、SNSでバズることもありますが、配信権としての「値段」はつきにくい傾向にあります。
ラブコメは、好きな人には深く刺さりますが、世界規模で大量再生されるかは別問題だと認識されています。だからアニメプロデューサーたちは、企画段階から「この作品は海外でどれくらい値段がつくか」を判断基準にして、どのジャンルなら企画が通りやすいのか、どの設定なら海外配信で強いのかを常に意識しながらアニメ化を考えているのです。
それが良い悪いではなく、現在のアニメ業界が、世界配信ビジネスのうえで動いているという事実があります。アニメは、日本国内だけの人気ではなく、「世界でどれだけ再生されるか」を前提に企画される時代なのです。
●わかりやすい快感を与えられるアニメが求められている
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大貫 佑介(おおぬき・ゆうすけ)
ブシロードムーブ代表取締役社長/ブシロードワークス取締役/ゲームビズ代表取締役社長
テレビ局で新規コンテンツの制作やクライアント営業に携わり、ブシロードグループへ参画。委員会組成、マーケティング、広告宣伝、音響、プロデュースなどを主業務とし『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる』『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』『エリスの聖杯』などのプロデューサー。また、アニメ関連データを統計的に解析する研究組織「アニメデータインサイトラボ」を立ち上げ、アニメ作品の市場動向を数値化している。
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(ブシロードムーブ代表取締役社長/ブシロードワークス取締役/ゲームビズ代表取締役社長 大貫 佑介)

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