生活リズムを整え、睡眠の質を高めるには何をすればいいか。医療職インテリアコーディネーターで上級睡眠健康指導士の田口里奈さんは「1日中同じ照明の下で過ごすのではなく、時間帯に合わせて光の色を変化させることで、生活リズムを整えやすくなる。
リズムが整うことで、日中の集中力やパフォーマンスが高まり、夜の睡眠の質向上も期待できる」という――。
※本稿は、田口里奈『科学的根拠に基づく 最高の睡眠空間』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■時間帯に応じて照明の色を切り替える
先の記事でお伝えしたとおり、部屋の照明は、夜の良質な睡眠に影響を及ぼす作用があります。
1日のライフスタイルに応じて、過ごす場所ごとに最適な照明の色に設定することが望ましいでしょう。
ですが、ワンルーム暮らしで1日中同じ部屋で過ごす方や、1つの部屋を寝室兼ワークスペースとして使用している方、また朝も夜もリビングで過ごすという方にとっては、照明の色を1つに決めることが難しいかもしれません。
たとえば、青白い色の照明を朝から晩まで浴びていては、朝は頭がすっきりと覚醒しますが、夜の就寝時刻になってもリラックスしづらく寝つきにくくなるといえます。
また、オレンジ色の照明を1日中使っていると、朝の眠気が日中まで続きやすく活動モードへの切り替えが難しくなるため、生活リズムが乱れ、夜の睡眠の質にも悪影響を及ぼす可能性があります。
では、中間の色である昼の太陽光に近い昼白色や温白色はどうかというと、悪くはないものの、特別よいともいえないので改善の余地があるでしょう。
そこでおすすめなのが、照明の色を自由に切り替えられる「調色機能つき」の照明です。
朝から晩まで同じ色の照明を浴び続けるのではなく、時間帯に応じて照明の色を変えることで、生活リズムを作り出すことができます。
・1日中同じ色・同じ明るさの照明で過ごした場合

・時間帯に応じて照明の色を変えた場合(朝は青白い色の明るい照明、夜はオレンジ色の暗めの照明)
における睡眠を比較した研究では、後者のほうが睡眠の質の向上がみられることがわかりました。また睡眠だけでなく、生活リズムや、抑うつスコアの改善もみられることが報告されています(※1)。

時間帯に応じて光を変えることで、生活リズムが整いやすくなり、睡眠にいい影響が得られると考えられます。

※1 Figueiro MG, Plitnick B, Roohan C, Sahin L, Kalsher M, Rea MS. Effects of a tailored lighting intervention on sleep quality, rest-activity, mood, and behavior in older adults with Alzheimer disease and related dementias: a randomized clinical trial. J Clin Sleep Med. 2019;15(12):1757–1767.
■潜水艦でも時間帯に応じて照明を調整
実際に、何日も太陽の光が届かない潜水艦の中では、生活リズムを保つために時間帯に応じて照明の色を調整している事例もあります。
・潜水艦内のような、自然光が入らず常に一定の照明で過ごす場合

・勤務中は青白く明るい照明、勤務後はオレンジ色に切り替える場合
比較した研究では、後者のほうが体内時計が整いやすくなることが報告されています(※2)。長時間室内で過ごすことが多い私たちにとっても、太陽光を感じにくいという点で、潜水艦内の環境と似ている部分があるといえます。
1日中同じ照明の下で過ごすのではなく、時間帯に合わせて光の色を変化させることで、生活リズムを整えやすくなるでしょう。リズムが整うことで、日中の集中力やパフォーマンスが高まり、夜の睡眠の質向上も期待できます。
現在では、調色機能がついた電球やシーリングライトが多くのメーカーから販売されています。リモコン操作など手動で色の切り替えを行うタイプのほか、アプリと連動させて設定した時間に自動で光の色を切り替えるものもあります。
日中は青白い色のシャキッとした光で覚醒・集中して過ごし、夜は夕日のような落ち着いたオレンジ色の光に切り替えてリラックスして過ごしましょう。照明の光を切り替えるだけで、自然とメリハリのある生活スタイルに向かいやすくなります。
自然とともに暮らす民族の中には、現在でも自然光を時計代わりにして1日を過ごしている民族も存在します。私たちのように室内中心の生活を送っている人は、自然光を感じづらいという弱点を、「照明の工夫」で補っていくことが必要です。


夕方以降、白色からオレンジ色へ光が変化することによって、「もうすぐ仕事を終わらせる時間だな」「そろそろリラックスモードへ切り替える時間だな」と、時計を見ずとも脳が切り替わりやすくなるというメリットもあります。光が無意識のうちに脳に働きかけ、身体を休息モードへと導き、いい眠りが得られやすくなるでしょう。
■質のいい睡眠が得られやすい入浴の方法は
湯船に浸かる入浴の文化は、日本ならではの習慣の1つです。
「体を清潔に保つ」「体を温める」「1日の疲れを癒す」といった目的で、入浴は心身の健康を支える大切な習慣といえます。ただ最近では、時間の都合やライフスタイルの変化から、シャワーで済ませるという方も増えてきています。
しかし、いい睡眠を得るためには、シャワーだけでなく湯船に浸かる入浴をおすすめします。もちろん、睡眠に適した入浴の方法を意識することが大切です。
私たちの1日の生活リズムと、1日を通しての深部体温の変動には、相互に関連性がみられます。
深部体温は夕方頃に最も高くなり、その後就寝に向かって低下していきます。この深部体温の下降が眠気を引き起こしやすくするため、夜は体温を下げる方向に働きかけることが、スムーズな入眠につながります。この深部体温の下降を促す要素の1つが入浴です。
「温かいお風呂で体温が上がってしまうのでは?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
確かに温かいお風呂に浸かることで、入浴直後は深部体温が上昇しますが、これは一時的なものです。いったん上がった深部体温は、その後反動で自然と急降下しやすくなり、この体温低下が眠気を誘いやすくなります。
入浴するタイミングは、就寝の約90分前が最適とされています。体温と睡眠の質を調査した研究では、就寝の1~2時間前に入浴することで、自然な寝つきと質のいい睡眠が得られやすいことがわかっています(※3)。
ただし、湯温が高すぎると交感神経が活性化し、かえって目が冴えてしまう可能性があります。リラックスするなら、「少しぬるい」と感じる程度の温度がおすすめです。
十分に体を温めつつ、心身を落ち着かせることができるでしょう。

※2 Guyett A, Lovato N, Manners J, Stuart N, Toson B, Lechat B, Lack L, Micic G, Banks S, Dorrian J, Kemps E, Vakulin A, Adams R, Eckert DJ, Scott H, Catcheside P. A circadian-informed lighting intervention accelerates circadian adjustment to a night work schedule in a submarine lighting environment. Sleep. 2024;47(11):zsae146.

※3 Haghayegh S, Khoshnevis S, Smolensky MH, Diller KR, Castriotta RJ. Before-bedtime passive body heating by warm shower or bath to improve sleep: A systematic review and meta-analysis. Sleep Med Rev. 2019;46:124-135.
■青白い色の照明は睡眠ホルモンの分泌を抑制
そして、よりよい眠りのためには、この入浴時間、湯船の温度に加え、照明の色や明るさも意識することが大切です。
就寝時刻の約90分前に入浴するなら、浴室の照明はオレンジ色の温かみのある光が最適です。
照明の色の違いによる影響を調査した研究では、6500K(青白い色)の照明は、夜に分泌される睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌を抑制してしまうことがありますが、6500Kに比べ2700K(オレンジ色)の光はこの影響が少ないことが報告されています(※4)。
また、名古屋市立大学で行われた研究では、オレンジ色の光は副交感神経を優位にしやすいことも確認されました(※5)。
副交感神経が優位な状態とは、呼吸が深くゆっくりになり、筋肉の緊張がほぐれ、心身ともにリラックスした状態です。

湯船の温かさに加え、オレンジ色のやわらかな光の空間で、より深いリラックス感を得られやすくなるでしょう。
朝にもシャワーを浴びたり、入浴したりする習慣がある方にとっては、朝は青白い色の照明が適していますが、質のいい睡眠のためには、夜の入浴と入浴環境が大切です。
そのため、浴室の照明は「単色でオレンジ色」にするか、調色機能つきの照明を使って朝は青白い色、夜はオレンジ色に切り替えられるようにするのが理想的です。

※4 Nagare R, Rea MS, Plitnick B, Figueiro MG. Nocturnal melatonin suppression by adolescents and adults for different levels, spectra, and durations of light exposure. J Biol Rhythms. 2019;34(2):178–194.

※5 Yuda E, Ogasawara H, Yoshida Y, Hayano J. Exposure to blue light during lunch break: effects on autonomic arousal and behavioral alertness. J Physiol Anthropol. 2017;36:17.

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田口 里奈(たぐち・りな)

医療職インテリアコーディネーター、上級睡眠健康指導士

2012年薬学部卒業後、薬剤師として薬局に勤務。10店舗以上での経験を通じ、幅広い年代の患者と向き合う中で、多くの人が睡眠に悩みを抱えている現状を知る。2016年、町田ひろ子アカデミー インテリアコーディネーターコースに入学。インテリアコーディネーター資格を取得し、卒業後は医療職と並行してインテリアコーディネーターとしてのキャリアをスタートさせる。医療とインテリアの両分野で仕事を続ける中で、睡眠が「空間」にも大きく影響されることに着目。2021年、上級睡眠健康指導士資格を取得。現在は、エビデンスに基づく睡眠・健康知識をインテリアに落とし込んだコーディネートを中心500件以上提案。ウェブメディアを中心に、記事の執筆も多数行っている。

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(医療職インテリアコーディネーター、上級睡眠健康指導士 田口 里奈)

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