■日本と中国の劇的な「逆転現象」
最近、テレビやネットのニュースを見ていると、日本経済に関する明るい話題が目につくようになりました。「日経平均株価が歴史的な最高値を更新した」「誰もが知る大企業が、過去にない規模の大幅な賃上げを行った」といったニュースです。
長年、日本は「失われた30年」と揶揄され、経済が停滞し、給料も上がらない国だと言われ続けてきました。かつての勢いを失い、まるで時代遅れの恐竜のように扱われていた日本の大企業たちが、今、確かな足取りでついに息を吹き返しつつあるのです。
しかし、海を隔てたお隣の巨大な国、中国に目を向けると、状況はまるで鏡に映したように完全に逆転しています。ほんの数年前まで、「中国経済はアメリカを抜き、世界を支配する」とまで言われるほどの凄まじい勢いがありました。ところが今、中国は不動産バブルの崩壊、若者の深刻な失業問題、そして経済成長の急激な鈍化という、底なしの停滞に陥っています。
なぜ、これほどまでに劇的な「逆転現象」が起きてしまったのでしょうか。
経済の専門家はさまざまな理由を挙げますが、最も重要で、かつ最大の理由は非常にシンプルです。それは、習近平政権が、これまで中国経済の奇跡的な成長を引っ張ってきた「IT優等生」たちを、自らの手で徹底的に潰してしまったからです。
政治や経済の難しい専門用語は必要ありません。
1.「金の卵を産むガチョウ」を自ら絞め殺した中国
ほんの数年前まで、中国のIT企業は世界中から羨望の眼差しで見られていました。アリババやテンセント、バイドゥといった巨大IT企業は、単に欧米の真似をするだけでなく、スマートフォン一つで何でも買えるキャッシュレス社会をあっという間に作り上げ、中国経済を力強く引っ張る巨大なエンジンでした。彼らはまさに、国に莫大な富をもたらす「金の卵を産むガチョウ」だったのです。
しかし、習近平政権は、こうしたIT企業が力を持ちすぎることを極度に恐れ始めました。企業が巨大化し、国民の膨大なデータを握ることは、共産党のコントロールが及ばなくなることを意味するからです。
そこで政府は、「資本の無秩序な拡大」を防ぐ、あるいは「内巻(競争が激しすぎて皆が疲弊してしまう状態)」を正すという大義名分を掲げ、IT業界全体に容赦ない弾圧を始めました。旅行予約サイトのトリップドットコムや、ネット通販最大手のアリババに、会社が傾くほどの巨額の罰金を科しました。さらに、新しいサービスを立ち上げるためのルールをガチガチに厳しくしたのです。
これは、童話に出てくる「金の卵を産むガチョウ」のお腹を、もっと金が欲しい、あるいはガチョウを完全に支配したいがために切り裂くような愚かな行為です。企業が自由に競争し、失敗を恐れずに新しいアイデアを試す「自由な市場のメカニズム」こそが彼らの大成功の秘訣だったのに、それを国家の絶対的な命令で縛り付けてしまったのです。すべてをコントロールしようとするあまり、自らの経済の活力を根元から破壊するという、致命的な矛盾に陥ってしまいました。
■成功した経営者もあっという間に表舞台から消える
2.イノベーションの息の根を止める「3つ首の檻」
政府の締め付けは、罰金だけでは終わりませんでした。中国政府は「改正サイバーセキュリティ法」「データ安全法」「個人情報保護法」という、IT業界をがんじがらめにする「3つ首の檻」とも言える厳しい法律を作りました。
「データを保護する」と聞くと良いことのように思えますが、中国の場合は「国民を守るため」ではなく「国家(共産党)を守るため」の法律です。これが最も大きなダメージを与えているのが、今世界中で激しい開発競争が起きている「生成AI(人工知能)」の分野です。
AIが賢くなるためには、人間の子どもがたくさんの本を読んで学ぶように、膨大で多様なデータと、何度も失敗を繰り返す実験の自由が絶対に必要です。しかし中国では、「AIが読み込むデータに、政府の批判が含まれていないか」「AIが政府の気に入らない答えを出さないか」が厳しく検閲されます。
そのため、現在の中国の優秀なAIエンジニアたちの主な仕事は、「どうすれば世界を驚かせる画期的なAIを作れるか」を考えることではありません。「どうすれば政府のルール違反にならず、検閲をすり抜けられるか」を気にすることになってしまったのです。世界最高の頭脳たちが、新しい技術(イノベーション)を生み出すのではなく、政府の顔色をうかがう「検閲官」のような仕事に時間を奪われているようでは、世界との競争に勝てるはずがありません。
3.逃げ出すお金と天才たち(大脱出)
こうした息苦しく、先が見えない状況から、中国では今、歴史的な「大脱出(グレート・エクソダス)」が起きています。つまり、国にとって最も価値のある財産である「お金」と「優秀な人材」が、中国を見限って海外へ逃げ出しているのです。人々は言葉ではなく「足による投票」を行っています。
まず「お金の逃避」です。これは単に「他の国のほうが儲かるから」という理由ではありません。アリババの創業者であるジャック・マー氏のような、国を代表する大成功した経営者でさえ、政府の機嫌を損ねればあっという間に表舞台から消され、罰せられてしまいます。「どんなに頑張って稼いでも、法律で自分の財産が守られない」という恐怖は、投資家にとって最大の絶望です。そのため、富裕層たちは中国からお金をどんどん引き揚げ、ルールが明確で財産が守られる日本やシンガポールなどの安全な国へ資産を移しています。
次に、さらに深刻なのが「頭脳の流出」です。トップクラスのAI研究者や天才エンジニアたちは、愛国心よりも「自由に研究できる環境」を選びます。ネットの検閲がなく、最新の半導体(AI開発に不可欠なNVIDIA製GPUなど)が自由に使えるアメリカやヨーロッパへ、次世代を担うイノベーターたちが次々と去っています。中国は、外国から攻撃されて技術力を失っているわけではありません。自らの厳しすぎるルールのせいで、自国の天才たちを追い出しているのです。
■日本は「セーフヘイブン」として再評価
4.「安全資産」として選ばれる日本
中国が自らの手で首を絞め、自滅していく一方で、世界中から「安全な避難所(セーフヘイブン)」として再評価されているのが、我らが日本です。
日本が急に、世界をひっくり返すような大発明をしたわけではありません。
世界中のお金やグローバル企業は、必ずしも「日本が大好きだから」日本に来るわけではありません。彼らは単に、ビジネスの邪魔になる「リスク(危険)」を極端に嫌うだけです。中国のように「明日、突然政府の機嫌次第でルールが変わるかもしれない」という予測不可能な国よりも、ルールが明確で、約束が守られる日本のほうが、安心して長期的なビジネスができるのです。
台湾の半導体製造の世界最大手「TSMC」が、巨額の資金を投じて熊本県に巨大な工場を建設したのも、まさにその象徴です。世界で最も重要な部品である半導体の工場を、政治的に安定した民主主義国家である日本に置くことを選んだのです。日本は、中国が勝手に自滅していく嵐の中で、安全で明るい港を提供することで、結果的に「地政学的な漁夫の利」を大きく得ている状態だと言えます。
5.本当の強さは「自由」と「ルール」にある
この一連の物語からハッキリと見えてくるのは、2つの全く異なる社会モデルの鮮烈な明暗です。
数年前まで、国がすべてをトップダウンで強力に押さえつける中国の「権威主義的な国家資本主義」は、意思決定が早く、効率が良い最強のシステムだともてはやされました。しかし、そのモデルは今、完全に分厚い壁に激突しています。国がコントロールを強め、人々を縛り付ければ縛り付けるほど、経済の活力は失われ、自らの首を絞める結果になっています。
一方で、かつては「変化が遅い」「停滞している」と散々バカにされた日本の「自由な市場と法の支配」に基づくシステムは、今になって、そのブレない安定感と永続的な強さが世界中で再評価されています。
読者の皆さんにぜひ知っていただきたい、最も痛快な事実はこれです。日本の中国に対する最大の武器(競争優位性)は、特定のすごい技術や製品ではありません。私たちが空気のように当たり前だと思っている「自由で民主的な制度」そのものが、最強の武器なのです。
中国が自らの過剰な統制によって最大の敵となり、自滅していくのとは対照的に、日本は何か特別な奇策を弄する必要はありません。ただ自らの「自由」と「ルールを守る」という原則に忠実であり続けるだけで、静かに、しかし確実に、世界という舞台で勝利を収めつつあるのです。
----------
スティーブン・R・ナギ
国際基督教大学(ICU)教授
マクドナルド・ローリエ研究所(MLI)シニアフェロー兼中国プロジェクト・リード、および日本国際問題研究所(JIIA)のCGOフェロー。著書に『Japan as an Adapter Middle Power: Navigating Ideological and Systemic Divides』(Routledge、2026年)があり、マイク・ローゼンバーグ氏との共著となる近刊『How to Thrive in the New World Order — A Business Blueprint for an Age of Instability』(2027年)も刊行予定。
----------
(国際基督教大学(ICU)教授 スティーブン・R・ナギ)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
