米国で競技人口を急速に伸ばし、2025年時点で2400万人規模に達したとされるピックルボール。プロツアーの発展に加え、著名アスリートや投資家の参入も進み、スポーツビジネスとしても存在感を高めている。
(インタビュー・構成・文中写真=松原渓[REAL SPORTS編集部]、トップ写真=Lauren Yoon)
アメリカで確信したピックルボールの広がり
――アメリカで「ピックルボールは日本にも必ず広がる」と確信した瞬間があったそうですが、改めて何を見てそう感じたのでしょうか。
船水:2020年にピックルボールという競技に出会い、2023年、コロナ禍が明けたタイミングでロサンゼルスに行きました。現地を見てから挑戦をするか決めようと思っていたんです。ロサンゼルスでは、潰れかけていたテニスコートをピックルボール専用にしたら、V字回復して売り上げが8倍になったという話を聞きました。平日に公園へ行っても人がたくさんいる。ビバリーヒルズのような富裕層の家でも、ピックルボールコートを持つことがトレンドになっていました。カフェやステーキハウスに行っても、バスケットボールなどと一緒にピックルボールの中継が流れていて、スポーツセンターにも同じ区画にピックルボールのゾーンがありました。そういう光景を見て、遅かれ早かれ日本にも波がくると思いました。
――挑戦を始めてから、この1、2年での変化も感じますか。
船水:感じます。
世界を熱狂させる新興スポーツの価値
――現在の競技人口は2400万人規模とも言われています。その熱量は現場でも感じますか。
船水:実際はもっと多いと思います。中国にも行きましたが、卓球の打ち方が浸透していて、かなり流行っていました。インドでの広がり方もすごいと聞いています。一度でもやったことがある人まで含めると、さらに多いと思います。
――NBAやNFLのスター選手、著名投資家もピックルボールに参入しています。現地で見ていて、その理由をどう感じますか。
船水:ビジネス的な魅力もあると思いますし、実際に趣味やアクティブレストとしてやっているアスリートも多いです。僕自身、ドジャースのムーキー・ベッツ選手に誘われて一緒にプレーしたことがあります。
公園に行くと、フットボールの有名選手も普通にプレーしていることがあり、周囲の人たちが「有名人だ!」と話していたりもします。競技として面白いから、自然にハマる人も多いのだと思います。
――アメリカの大会やリーグの盛り上げ方や演出面では、日本とどのような違いがありますか。
船水:お酒を飲みながら、DJが入って、みんなでワイワイ盛り上がるアメリカらしい雰囲気があります。コートが小さく、観客席も小箱なので、1000人規模でも満員に見えやすいですし、チケットは毎回ソールドアウトしています。酔っ払ったお客さんに煽られることもあります(笑)。
「異種格闘技」が生む競技の面白さ
――見るスポーツとしてのピックルボールの魅力はどこにあると思いますか。
船水:ラリー音も魅力の一つですし、トップ選手同士の接近戦のスピード、瞬発力の速さは見ていて興奮する部分だと思います。ラリーが続く中で、最後に決め切る局面は激しさがあります。今のピックルボールは、いろいろな競技の出身者が集まっていて、ある意味で異種格闘技のような状態です。現在の世界チャンピオンは卓球出身ですし、バスケットボール出身で1億、2億を稼いでいる選手もいます。まだ“正解”がない状態だからこそ、それぞれの競技で培ってきた長所が出るところも、見る側にとって面白い部分だと思います。
――船水選手自身は、ソフトテニス以外の競技からもヒントを得ることはありますか。
船水:意外とバレーボールのレシーブは、ディフェンスに生きる部分があります。腰を低くして、飛んできたボールに対して手だけで反応するのではなく、体ごと正面に入って受ける動きや、無理な体勢でもケガをしにくい倒れ方などは参考になります。
――ほかに、観戦するうえで注目してほしいポイントはありますか。
船水:ピックルボールはダブルスが主流なので、男子ダブルス、女子ダブルス、ミックスダブルスで距離感や運動量が違います。特にミックスダブルスは展開や役割も変わってくるので、その違いを見てもらえると面白いと思います。
――日本のラケットスポーツ文化の中で、ピックルボールはどのような位置づけになっていくと思いますか。
船水:アメリカを含めて世界中で流行り始めているところを見ると、いずれオリンピック種目になる可能性は高いと思います。実際に、アメリカのトップの競技団体に流れている資金を見ても、スポーツビジネスとしても非常に大きな市場になっています。発祥国のアメリカらしいお金の流れがあり、稼げるスポーツとしても夢があるなと思います。
30分あればできると言われますし、ラケット競技の中では手軽に始めやすい競技です。健康づくりや生涯スポーツとしても広がりやすく、プロとして世界を目指す夢を見られる。
日本で広がる可能性とソフトテニスへの還元
――日本では、どの層に最も広がる可能性があると思いますか。
船水:子どもたちに広がる可能性は高いと思います。授業に取り入れている小学校もあると聞きます。屋外競技は雨や風で授業が流れることもありますが、ピックルボールは体育館で、バドミントンコートを応用できます。室内でラリー型のスポーツとして導入しやすいと思います。
――ソフトテニス経験者にとって、ピックルボールは新たなキャリアや挑戦の場になり得ると思いますか。
船水:なり得ると思います。ピックルボールを始めると、ラケットに当てる感覚や、ラリー型競技の基本的な動きをつかみやすくなります。そこからソフトテニスに興味を持つ人も出てくると思いますし、ソフトテニス経験者にとっては、ピックルボールが新たな挑戦の場にもなる。プロとして、ソフトテニスで今後どうしていけばいいのかと悩んでいる人にとっても、僕と同じように新しい選択肢の一つになると思います。
――日本での中・上級者向けクリニックを終えて、参加者の皆さんの反応をご覧になって、どのようなことを感じましたか。
船水:今回は経験者の方々が集まってくださいましたが、皆さん、レベルが高かったです。
――個々の参加者にもかなり近い距離でアドバイスされていました。
船水:まだ正解がないスポーツなので、皆さんが積極的に話しかけてくださったこともあり、僕自身もうれしかったです。これまで自分が培ってきたものを、短い時間ではありますが、個々に伝えることができたと思います。
日本開催ツアーと船水雄太が描く未来
――選手として結果を残すことに加え、普及面でも期待が集まっています。現時点で、船水選手は普及活動にどのように関わっていきたいと考えていますか。
船水:まずは世界ランキング1位を目指すことが重要です。その一方で、現役でMLPに挑戦しているからこそ伝えられるものがあります。自分のスケジュールに無理のない範囲で、伝えていけたらと思っています。
――世界で流行しているスポーツで日本人がトップを取ることに、どのような意味があると感じますか?
船水:アメリカでは、ピックルボールの価値やMLP選手であることの価値が高まっていて、野球やバスケットボールのようなメジャースポーツに近づいていく可能性も感じます。
――7月には、日本開催のPPAアジア500東京オープンに出場されます。この大会を、日本のピックルボール界にとってどのような機会にしたいですか。
船水:アメリカからも選手が来ますし、普段日本で行われているトーナメントよりもレベルの高い大会になると思います。ピックルボールの激しさや魅力が分かりやすく伝わる試合になるはずです。これを機に、日本の人たちにもピックルボールの面白さを知ってもらい、広がるきっかけになればと思っています。
――5年後、10年後、日本のピックルボール界はどのような景色になっていてほしいですか。その中で、船水選手自身はどのような役割を果たしていきたいですか。
船水:日本がオリンピックでメダルを取れるような位置まで持っていきたいです。僕はアメリカで挑戦してきて、「予選を抜けるのは無理だ」「本戦で勝つのは無理だ」とずっと言われながら、ここまで日本人としてやれることを証明してきました。次は、大きな舞台で日本人が世界で戦い、オリンピックでメダルを取れるような環境づくりに力を注げたらと思っています。
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<了>
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[PROFILE]
船水雄太(ふねみず・ゆうた)
1993年10月7日生まれ、青森県出身。ジュニア時代からソフトテニスで頭角を現し、東北高校、早稲田大学、NTT西日本で各世代の主要タイトルを獲得。日本代表として世界選手権優勝にも貢献した。2020年4月にプロ転向。2024年1月に単身渡米し、ピックルボールに本格挑戦。2025年に日本人初のMLP選手となり、2026年5月にはPPAツアーのアトランタ大会4位に続き、サンクレメンテ大会男子ダブルスで日本人初優勝。日本人男子初のアジアランキング1位に立った。さらに同年7月、世界最高峰のアメリカPPAツアー公式大会「PPAアジア500東京オープン」男子ダブルスで優勝し、5月大会に続くタイトルを獲得した。



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