ザ・レジデンツ(The Residents)が2026年9月、”THE RESIDENTS: ESKIMO”と題されたジャパン・ツアーを行う[9月7日~9日、ブルーノート東京]。

約9年ぶりとなる来日公演は、1979年のアルバム『Eskimo』を再現するというスペシャル・ライブ。
正体不明のかぶり物バンド、社会風刺とダークなユーモアを込めた歌詞、ジャンルの垣根を余裕で飛び越える音楽性と視覚スペクタクルで絶大な支持を得てきた彼らが”架空のエスキモー(近年ではイヌイットと呼ばれることが多い)文化”を描いたアルバムを現代に蘇らせる、まさに異色のライブとなる。

インタビューに応じてくれたホーマー・フリンは、ザ・レジデンツの事務所”クリプティック・コーポレーション”の社長で、バンドのマネージメントとPRを担当する人物。ハイスクール時代からの旧知の仲でバンドを知り尽くす彼に来日ライブの展望、そして『Eskimo』の持つ”意味”について訊いた。

ザ・レジデンツ9年ぶり来日──『Eskimo』再現ライブの真意、伝説の覆面バンドが思い描く未来

2024年、サンフランシスコ”ナイト・オブ・アイディアズ”で撮影されたライブ写真

『Eskimo』再現ライブの真意

—今年(2026年)1月の北米ツアーがメンバーの体調不良で中止になったとのことで、お見舞い申し上げます。ザ・レジデンツの場合、セッション・ミュージシャンにかぶり物をかぶせてしまえばバレないのに、中止にするあたりからその誠実さが伝わってきます。

フリン:有り難う。おかげさまで回復して、9月の日本公演はベストな状態で出来るよ。ザ・レジデンツは正直なバンドなんだ。

—昨年あなたとインタビューをしたときに『Eskimo』を再現するツアーを考えていると言われて、本気なのか? それともザ・レジデンツ流のユーモアなのか? 判断が難しかった部分がありました。それが日本で実現することになって嬉しいです。

フリン:実はその時点で既に『Eskimo』のライブは実現していたんだ。2024年、サンフランシスコの”ナイト・オブ・アイディアズ”というアート・イベントでヘッドライナーとして出演するオファーを受けた。
持ち時間が20分だと言われて、何をやろう?と話していたとき、ちょうど『Eskimo』のマスター・テープをデジタル化して、マルチ・トラックが手元にあったんで、それを使ったライブにするのが自然だったんだ。すごく良いショーになったし、それを発展させたのが今回のショーだよ。

2024年、サンフランシスコ”ナイト・オブ・アイディアズ”でのパフォーマンス(※オーディエンス撮影)

—ザ・レジデンツの『Eskimo』はどんなアルバムでしょうか?

フリン:バンドにとって『Eskimo』は作るのに4年を要したプロジェクトだった。”革命的”といって過言ではなかったんだ。彼らは音楽よりも”音”から作品を構築することを試みた。エスキモー達の生活音や風の音などが楽曲と同等の役割を占めていたんだ。さらに彼らは架空のエスキモー・バンドによる音楽を生み出したんだ。曲がフェイド・インしてはフェイド・アウトしていくような、いわゆるロック・アルバムとはまったく異なるものだよ。最初の3年半は試行錯誤の連続だった。ただ、サウンドを基にしたストーリーが出来上がったことで、すべてがピッタリ嵌まって、流れるように完成へと至ったんだ。

—ストーリーからサウンドが生まれるのでしょうか? それともサウンドがストーリーを導き出すのでしょうか?

フリン:基本的にストーリーがサウンドを生み出すんだ。ただ、最初からすべてのコンセプトがかっちり決まっていたわけではない。
ラフなアイディアを組み合わせて、暗闇の中を試行錯誤しながらもがいて、それぞれの曲が完成した時点で、その世界観が確立するんだ。『Eskimo』の内ジャケットにはストーリーが載っているけど、いずれも曲が完成してからまとめたものだよ。

—『Eskimo』は1979年にアルバムが発表された後も1980年にディスコ・ヴァージョンの「Diskomo」、それをリメイクした「Diskomo 2000」、5.1chミックスと映像を付けた『Eskimo DVD』(2002年)など、その世界観を広げていきました。このアルバムにはそうさせるどんな魅力があったのでしょうか?

フリン:バンドにとって『Eskimo』は常に1枚のアルバムよりも大きなものだった。ライブで再現することも、ずっと前から何度も話に上ってきたんだ。ただ、そうするには曲をプレイするだけでなく、ヴィジュアル面でアピールする、よりシアトリカルなものにする必要があった。じゃあどうする?と考えるうちに他のスケジュールが入ったり、時間がかかってしまったんだ。2024年の”ナイト・オブ・アイディアズ”のショーはバンドが踏み出すベスト・タイミングだったね。

—『Eskimo』を発表した1979年にもアルバムを再現するツアーが検討されたというのは事実でしょうか?

フリン:いや、それは正しくはないな。その時点でザ・レジデンツはツアーというものをしたことがなかった。なのにいきなり『Eskimo』完全再現というのは現実的ではないよ。彼らがツアーをやるようになったのは1982年、『The Mole Show』からだ。
『Eskimo』の話がクローズアップされたのは2000年代に入ってから、英国ロンドンの”サウス・バンク・センター”のプログラマーの提案だった。彼はザ・レジデンツの大ファンで、何度かショーをブッキングしてくれたんだけど、改装だか閉鎖だかで会場が使えなくなって、ロンドン周辺の別の場所でショーを行うことになった。それでスケートリンクで”『Eskimo』オン・アイス”をやったらどうだろう?という話が持ち上がったんだ。バンド全員がスリルを感じていたけど、残念ながら話はそのまま立ち消えになってしまった。

—今回の日本公演は当時の構想の延長線上にあるものでしょうか?それとも真っさらな状態から作り直したものでしょうか?

フリン:当時一緒に作業していたステージ・デザイナーによるデザイン画はどこかにあると思うけど、おそらくそれは使われていないんじゃないかな。エスキモーや氷山のヴィジュアルは共通していても、新しくデザインされたものと考えて良いと思う。

日本公演の展望

—イヌイット女性の出産、北極圏のイナゴ襲来、アンガコックの幻術など、サウンドが『Eskimo DVD』の映像とシンクロしているのが興味深いですが、アルバムを作った当初から映像化を前提としていたのですか?

フリン:『Eskimo』は進化していくコンセプトなんだ。まずストーリーがサウンドや音楽と呼応しながらアルバムとなって、その発展形として5.1チャンネル・ミックスや映像が加わっていった。そしてライブで演奏するにあたって、40分のアルバム本編だけでは物語の全貌を語り切っていないと感じた。それで、さらに曲を追加することにしたんだ。バンドは1900年代のエスキモーの生活についての書籍を数冊手に入れて、5曲を新たに書いた。それがEP『Eskimo Folk Tales』で、日本公演とほぼ同時期の2026年9月に発表するんだ。
さまざまなインスピレーションを受けながら姿を変えていくんだよ。

—昨年5月、ロサンゼルスのマヤン・シアターで行った『Eskimo』再現ライブでは新曲「The Tale of Two Tupilaqs」「The Skeleton at the Bottom of the Sea」が披露されましたが、それらはEPからの曲ですか?

フリン:その通りだ。新曲を加えることで、ショーにより拡がりが生まれる。スクリーンで映写されるビデオも新しく作られたものなんだ。ザ・レジデンツは常に新しいテクノロジーを取り入れてきたし、AIにも興味を持ってきた。だから新しいビデオではAIを使っているんだ。まだ彼らは音楽にはAIを取り入れていないけどね。AIボサノヴァというアプリを見つけたらしいけど、今のところ使い道がないそうだ。それにしてもテクノロジーの進歩は凄いね。

「The Tale of Two Tupilaqs」

—『Eskimo』の物語は、長い冬が終わって太陽が顔を覗かすというポジティブな終わり方をすると思わせながら、イヌイットが独自の歴史や文化を失い、連日アメリカのテレビ番組の再放送を見ているというシニカルなラストを迎えます。

フリン:うん、世界各地の伝統文化は、西洋の影響で失われていく。それは残念なことだけど、すべてが変化していくのは仕方ないことでもあるんだ。
アメリカ文化の流入やテレビはその象徴といえるものだよ。

—『Eskimo』で描かれるイヌイットの風習や音楽はどの程度掘り下げて、忠実に再現しましたか?

フリン:バンドはイヌイットの音楽や文化を研究したけど、既存のものをそのままコピーするのではなく、咀嚼した上でザ・レジデンツの音楽として生まれ変わらせている。彼らが自由に創造性を羽ばたかせる、インスピレーションの源となっているんだ。

—初期のザ・レジデンツのブレインだった”謎のN・セナダ”が行ったフィールド・レコーディングのテープが『Eskimo』の発端になったといわれていますが、その背景をご存じですか?

フリン:N・セナダはザ・レジデンツの結成から1年から2年ぐらい、バンドに関わっていたんだ。それから突然姿を消して、数年してカセットテープが数本送られてきた。彼は北極圏のイヌイット居住区に滞在して、現地のミュージシャンの演奏を録音してきたんだ。それが『Eskimo』に向けてのインスピレーションとなったのは事実だね。でも彼らはその域に留まることなく、自分たちのイマジネーションを加えることによって、オリジナルな作品を創り上げたんだ。イヌイット音楽を研究している人が聴いたら「本物じゃない!」と言うだろう。それで良いんだ。バンドは”本物”のイヌイット音楽をやろうとしてはいない。ザ・レジデンツの音楽をやっているんだ。


—『Eskimo DVD』には特典映像として1922年の映画『極北のナヌーク Nanook Of The North』が収録されています。この映画は”史上初のドキュメンタリー映画”のひとつとして知られていますが、『Eskimo』にどんなインスピレーションをもたらしたでしょうか?

フリン:『極北のナヌーク』はアメリカでそれなりに知られた映画で、私自身学生時代に見ているし、メンバー達も見ている筈だ。だから何らかのインスピレーションを得ているのは間違いないよ。ただ、映画のイメージに固執しないように気を付けている。

—2026年1月の北米ツアーが中止になったため、9月の日本公演は、昨年(2025年)5月、ロサンゼルスのマヤン・シアター以来のザ・レジデンツのライブとなるでしょうか?

フリン:うん、その通りだ。マヤン・シアター公演は音楽&アート・フェスティバル”エキゾティコン(Exoticon)”の一環として行われたもので、素晴らしい反応が返ってきた。お客さんは基本的には立ち上がって踊ったりするのではなく、着席してステージを観覧するスタイルだった。それでも彼らの音楽に対する熱意が伝わってきたよ。「Diskomo」のとき通路で踊っている人もいたかも知れないけど、決して大勢ではなかったし、私の記憶にはないな。

ザ・レジデンツ9年ぶり来日──『Eskimo』再現ライブの真意、伝説の覆面バンドが思い描く未来

2017年3月、ブルーノート東京にて(Photo by Great The Kabukicho)

—日本のザ・レジデンツのファンにどんな反応を期待しますか?

フリン:日本のお客さんはいつも音楽に耳を傾けてくれるし、今回もそうしてくれたら嬉しいね。前回(2017年)日本に来たときもブルーノート公演だったんだ。伝統のあるサパー・クラブだし、じっくりステージを楽しんでもらいたい。

—ブルーノートはアーティストと観客の距離が近いクラブ規模の会場なので、マヤン・シアター公演のように氷山をステージに持ち込むことは出来ないかも知れませんね。

フリン:まあ、それは仕方ないよ。それでもザ・レジデンツはライブそのものが強力だし、お客さんとの密接な距離で楽しめるショーになる。大きなスクリーンも設置して、ヴィジュアル面でも興味深い要素がたくさんあるよ。

—今回の来日ライブでは『Eskimo』と『Eskimo Folk Tales』以外の曲も演奏しますか?

フリン:ライブのメインとなるのは『Eskimo』だけど、数曲グレイテスト・ヒッツもプレイされると思う。「Constantinople」「Hello Skinny」などは世界のどの国でも大きな声援で迎えられる曲だよ。

新作アルバムの構想

—『Eskimo』再現ライブで世界を回った後、他のアルバムを再現する可能性はありますか?

フリン:現時点ではそういう話し合いは持たれていない。まずは『Eskimo』で世界をツアーしてからの話だ。さらにザ・レジデンツは2枚の新作スタジオ・アルバムの構想を練っている。1枚はタイトルは決まっていないけど、アメリカ南北戦争をテーマにしたコンセプト作品になるんだ。こちらはもう何十年も温めてきた構想だよ。ザ・レジデンツはかつて『God In Three Persons』(1988年)からの曲を演奏するツアーのアイディアを持っていた。コロナ禍のせいで頓挫したけど、数回やったショーは素晴らしいものだった。このときバンドがコラボレートしたのが映像アーティストのジョン・サンボーンだったんだ。彼との作業がとても有意義だったことで、バンドは再び彼と組むことにした。このプロジェクトはネイサン・ベッドフォード・フォレストを軸にしたものだ。彼は南軍の将軍で、騎兵隊を率いて天才とまで呼ばれた。第二次世界大戦時のドイツも電撃戦で彼の戦術を参考にしたといわれる。そんな一方で、彼は奴隷商人でクー・クラックス・クランの創設メンバーの1人でもあったんだ。彼は19世紀の人間だけど、現代のアメリカにおいてもレイシズム問題は根強くある。彼をテーマとすることは、今日のアメリカの世相を描くことでもあるんだ。壮大なテーマだし、アルバムの形になるのは数年後だろうけどね。

—もう1枚は?

フリン:そっちは『The Lonely Wound』という作品で、コンセプトはなく、楽曲のコレクションだ。バンドはバッキング・トラックをレコーディングしたけど、メンバーの健康問題のことがあって、いったん作業がストップしていたんだ。でも、そのあいだに歌詞をよりディープに練り込むことが出来た。それぞれの曲が”孤独な傷”を負った主人公を描いているともいえるけど、ザ・レジデンツはそこまで歌詞の意味をはっきりとはさせないんだ。彼らはいくつも点を描いて、それを繋げるのはリスナーの仕事なんだよ。どちらのアルバムもザ・レジデンツの新しい音楽性を切り開いているし、今はバンドにとって非常にクリエイティブな時期だといえるね。

—『Eskimo』にはパーカッションでクリス・カトラーがゲスト参加していますが、彼との関係はどのように築かれたのですか?

フリン:ザ・レジデンツはクリスがいたバンド、ヘンリー・カウと友達だったんだ。フレッド・フリスとも親しくて共演しているよ。両バンドにどんな繋がりがあったかは、正直覚えていない。向こうがある程度ザ・レジデンツのファンで、声をかけてきたんだと記憶している。そこから話が発展したと思うけど......どうだったかな、忘れてしまった。

—YouTubeで俳優のニコラス・ケイジが「ザ・レジデンツとは何者なのか」と語る動画を見たのですが、彼はバンドのファンなのですか? それともAIによるフェイクでしょうか?

フリン:その動画は私は見たことがない。彼がザ・レジデンツのファンだったら嬉しいけど、実際どうだろうね? 何とも言えないよ。

—あなたも2026年9月の日本公演に同行する予定ですか?

フリン:そのつもりだよ。これまでのザ・レジデンツの日本公演(1985年と2017年)はどちらもバンドと一緒に行って、素晴らしい時間を過ごすことが出来た。バンドもすごく楽しみにしているし、日本のファンのみんなと早く会いたいね。

ザ・レジデンツ9年ぶり来日──『Eskimo』再現ライブの真意、伝説の覆面バンドが思い描く未来

THE RESIDENTS:ESKIMO
ザ・レジデンツ来日公演
2026年9月7日(月)・月8日(火)・9日(火)ブルーノート東京
Open5:00pm Start6:00pm/Open7:45pm Start8:30pm
ミュージック・チャージ:¥11,000(税込)
詳細・チケット購入:https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/the-residents/

>>>記事の本文に戻る
編集部おすすめ