そんな2000年生まれの新星が、今年のサマーソニックで初来日。同郷メキシコのカリン・レオンやラテン・マフィアとともに、東京2日目のBEACH STAGEに登場した。鮮やかなファッションでも目を引く彼女が姿を現すと、VJにはうどんや鯉、渋谷センター街、京都など、日本滞在中に撮影した映像が次々と映し出される。柔らかくスムースな歌声と、心地よく身体を揺らすバンドサウンドは、夕暮れ時のビーチとも相性抜群だ。この日は『Au』収録曲に加え、最後には来たるニューアルバムからの新曲「si la ves」をライブ初披露。次なるモードへと向かう彼女のポテンシャルを強く印象づけるステージとなった。
Rolling Stone Japanはサマーソニックの出番直前、幕張メッセ内でインタビューを実施。法律から音楽へと転身した異色のキャリア、『Au』で見つけた独自のサウンド、祖国メキシコへの愛憎入り混じる思いについて話を聞いた。
サマーソニック2026のライブ写真(Photo by Kazumichi Kokei)
「想定外の人生」刑事弁護士からラテン・グラミー獲得まで
—今回、同じメキシコ出身のアーティストたちとともにサマーソニックに出演できることを、どんなふうに感じていますか?
パロマ:日本で、同じメキシコ出身のアーティストたちと同じステージに立てることに、すごくワクワクしています。みんな、私が自分で曲を書き始める前から聴いていた、大好きで尊敬しているアーティストたちです。世界を横断してここまで来て、みんなで同じステージに立って自分たちの音楽を届けられるなんて、そんなことが起きるとは夢にも思っていませんでした。
—今回が初来日ですよね。日本の音楽やカルチャーについて、これまで何か触れてきたものはありますか?
パロマ:日本に来るのは初めてなんですけど、もうずっと……人生を通して、日本に関係するものが全部大好きでした。食べ物も、カルチャーも、ファッションも。小さい頃から『ドラゴンボール』をよく観ていました。兄が大ファンだったので。それに、お寿司はずっと一番好きな食べ物だし、日本は本当にずっと「行きたい場所リスト」の1位だったんです。
「今すぐどこかひとつの国に行けるとしたら、どこに行きたい?」って聞かれたら、私はずっと「日本」って答えてました。
—あなたのキャリアは、もともと自宅から歌や音楽をTikTokで発信するところから始まったそうですね。ラテン・グラミー賞のトロフィーを自宅の冷蔵庫の上に飾っているのを見て、とても素敵だなと思いました。
パロマ:(笑)
@palomamorphy グレイシー・エイブラムス「Hit the Wall」のカバー動画、冷蔵庫の上にラテン・グラミー賞のトロフィーが飾ってある
—そもそも自分で歌い、自分の音楽を作っていこうと思うようになったのは、どんなきっかけがあったのでしょうか?
パロマ:本当にクレイジーな流れでした。だって、何ひとつ計画していなかったんです。小さい頃から歌手になるのが夢ではあったんですけど、そういう夢って本当に実現するとか、現実的な選択肢になるなんて、なかなか想像しないじゃないですか。
それで結局、私は法学を学んで、刑事法の分野で働くようになりました。
それが、ある友達に「歌っているTikTokを上げてみなよ」って説得されて。何かを期待していたわけではまったくなくて、ただステージ恐怖症を克服するためにやってみよう、というくらいの気持ちでした。
そうしたら突然、そのTikTokがカフェでのライブにつながって、音楽業界の人たちと知り合うようになって、周りから「曲を書いてみたら?」って背中を押されるようになったんです。それまで曲なんて一度も書いたことがなかったのに。
そこから、気づいたらレコード会社と契約していて、グラミーを獲って、そして今、突然こうして日本にいる。この気持ちをどう説明したらいいかわからないくらい。今だって、もう泣いちゃいそうなくらい……(涙ぐむ)。それくらい、ものすごく大きなことなんです。
@palomamorphy TikTokへの投稿を始めた2022年8月に公開した、フリエタ・ベネガス「Limon Y Sal」のカバー動画
2022年11月にリリースした最初のシングル「La Idiota Soy Yo」
—今話してくださったように、ミュージシャンになる前は刑事事件を扱う弁護士として働き、十分な法的支援を受けられない人たちをプロボノ(自身の専門知識や技能を生かして無償で行う社会貢献活動)で助けていたそうですね。そして今は音楽を通して、メンタルヘルスや孤独について歌っている。法律を通して人を助けようとしていた頃の思いや経験は、音楽を通して誰かに寄り添おうとする姿勢とどのようにつながっていますか?
パロマ:つながっていると思います。私は昔から、何かおかしいことがあっても黙って見過ごすことができないタイプなんです。不公平なことを目にしたり、もっと目を向けるべき問題があったり、助けを必要としている人がいたら、放っておけなくて、声を上げる。それはずっと、私という人間の大きな部分を占めてきました。学校でも先生とよく言い合いになってました。「でも、それっておかしいじゃん。あの人にそんなことするのはよくないでしょ」って(笑)。
だから法学を学んでいたときも、そういうことをもっと大きなスケールでやりたいと思っていたんです。
弁護士としては、国連や国際人権裁判所のような場所で働いて、自分が大切だと思う問題に取り組みたいと思っていました。そうした問題の中には、ある意味、私自身の人生にも深く関わってきたものがあります。でも音楽を始めてみたら、「結局、やっていることは同じなんだ」って気づいたんです。ただ、別の道を通って、別の手段を使っているだけ。音楽のほうが、もう少し自分自身に近い、パーソナルな方法ではありますけど。そこが、法律と音楽のつながっているところだと思います。
もちろん法律の仕事でも人を助けることはできたし、自分がやっていることにはちゃんと意味がありました。ただ、実際の仕事そのものは、そこまで好きではなかったんです。今は、この世界で自分が一番好きなことをやりながら、それが同時に誰かの助けにもなっている。それって、本当に魔法みたいだなと思います。それに、音楽は私自身のことも助けてくれています。
直感で見つけた「自分だけのサウンド」
—これまでの人生で、どんな音楽に救われてきたのでしょう? 特に深く心を動かされてきたアーティストや、現在のソングライティングやサウンドに影響を与えたアーティストについて教えてください。
パロマ:これは、たぶん二つに分けて答えたほうがいいと思います。まず、私の心を動かしてくれた、ずっと寄り添ってくれたアーティストについて。ただ、私は昔から、アーティストそのものというより「曲単位」で好きになるタイプなんです。いろんなアーティストの中から、それぞれ好きな曲を見つけていくというか。
昔からよく歌っていたのはアデルですね。エイミー・ワインハウスもよく歌っていたし、Belanova(メキシコ発のエレクトロポップ・グループ)、ナタリア・ラフォルカデ、フリエタ・ベネガス(共にメキシコを代表するシンガーソングライター)も好きでした。
一方で、自分の音楽のリファレンスを探すときは、本当に変わったものを探すのが好きなんです(笑)。普段、自分のSpotifyには絶対に出てこないような音楽を探していて。
—というと?
パロマ:実はアルバム『Au』の制作も、Googleで「1970年代の日本のレコード」って検索したところから始まったんですよ(笑)。たしか70年代の曲だったと思います。そうやって、自分がまったく知らない言語の音楽でも、とにかく掘っていくのが好きなんです。再生回数が1000回くらいしかないような曲を見つけたりして。今ちょっと曲名が思い出せないんですけど(苦笑)。
ほかにも「90年代のチリのポップ」みたいに検索したり。いろんな国の、ほとんど誰も聴いたことがないような音楽を探すのが好きなんです……そうそう、私のアルバムづくりはこの曲から始まったんですよ(※スマホのSpotifyで曲を探して再生し、画面を見せる)。
—Luci Rain(中国出身・アムステルダム拠点のアーティスト)の「Fong La」ですか。こうして聴かせてもらうと、たしかにあなたの音楽にも通じるものがありますね。
パロマ:ですよね。この曲を聴いて、「こういう感じのポップを作りたい」と思ったんです。
—活動初期のカバー動画や初期のシングルから『Au』までを辿ると、短い期間の中で驚くほどサウンドの幅が広がっています。自分のサウンドをどのように見つけ、形にしていったのでしょう? このメタモルフォーゼを、自分自身ではどう捉えていますか?
パロマ:すごくラッキーだったと思います。かなり早い段階で自分のサウンドを見つけられたので。それができたのは、誰かを真似しようとしたことが一度もなかったからだと思います。
曲を作るとき、私にとっての基準は本当にひとつだけ。「今聴こえているものを自分が好きかどうか」なんです。音楽について専門的に学んだことがまったくないので、やっていることは全部、本当に直感なんですよ。
それに、この変化も最初から計画していたわけではありません。何かを続けていれば、やればやるほど自然と進化していくじゃないですか。曲を書くことや音楽を作ることも、ある意味では筋肉みたいなものだと思うんです。だから、これまでの変化もすごく自然に起きてきたものだと思います。私自身が、今までやったことのないジャンルや、新しいことを試してみたいと思い続けてきた。その気持ちから生まれているだけなんです。
ひとつだけ絶対にしたくないのは、ずっと同じことをやり続けること。私は何でも試してみたいんです。ポップもやりたいし、ジャズも、レゲトンも、ボレロも、ヒップホップもやりたい。全部やってみたいんですよ。「なんで同じようなポップを800回も作らなきゃいけないの?」って思うので(笑)。
なんというか、ものすごくたくさんの遊び方ができる新しいおもちゃを渡されたような感覚なんです。8000種類のモードが入ったゲームを手にしたら、「全部やってみたい!」って思うじゃないですか(笑)。私にとって音楽は、そんな感じなんです。だから、本当に何ひとつ計画してきませんでした。すべて自然に流れてきたというか。だからこそ、「私はこれをやるために生まれてきたんだ」と思えるんです。全然無理をしている感じがしないから。
『Au』収録曲「(sola)」、第26回ラテン・グラミー賞(2025年)で最優秀オルタナティブ・ソングにノミネート
—「lo que un día fue」は、あなたのキャリアにおいて明確にギアが切り替わった一曲だと思います。この曲はどのように生まれたのでしょうか?
パロマ:あの曲を書いたときのことは、今でもすごくよく覚えています。住んでいた建物の屋上に、タバコとウクレレを持って上がって、そこで書いたんです。街を一望できる、すごく景色のいい場所があって。
当時はかなり落ち込んでいました。好きだった人が元カノのところに戻ってしまったんです。それで、この曲を書きました。なんて言えばいいんだろう……すごく”delulu”(都合のいい妄想)に浸っていたところから生まれた曲なんですよ(笑)。「あなたはこれからもずっと私のことを愛してる」「絶対に私のところへ戻ってくる」「今は彼女と一緒にいても、本当は私のことを考えてる」みたいな。
もちろん、実際にはそんなことないって、自分でもちゃんとわかっていたんです。でも、そのときの自分がすがっていた、ある種の妄想から生まれた曲ですね。
—それで「かつての私たち」というタイトルなんですね。サウンド・プロダクションはどのように発展していったのでしょう?
パロマ:最初はウクレレで作った曲だったんです。それからパブロ・スティピチッチ(Pablo Stipicic)と一緒に作業を始めました。この曲は、アルバム全体を一緒に作ったパブロと取り組んだ2曲目でした。パブロとは、本当に特別なくらい相性がよかったんです。当時の私は音楽について何も知らなかったし、専門用語もまったくわからなくて、頭の中で鳴っている音をどう説明すればいいのかさえわかりませんでした。
だからパブロには、「ここでこういう音が欲しい」って、口で音を真似しながら伝えたりして(笑)。それでも彼は、私が頭の中で思い描いていた通りの音にしてくれるんです。本当に、どうして伝わっていたのか自分でもわからないくらい(笑)。
この曲のサウンドは、冒頭のすごく特徴的なベースラインから始まりました。ベースは昔から一番好きな楽器なんです。さっきも話したように、曲に何を入れるかを決めるとき、私にとっての基準は「聴いてみて、自分が好きかどうか」だけなんです。私は基本的に、耳に刺さるような音や、高くて刺激の強い音はあまり好きじゃなくて。もう少し落ち着いた、丸みのある、ミニマルな音が好きなんです。
もともとウクレレで弾いていたストロークがあったので、パブロに「この感じをベースでやってみたらどうかな?」って提案しました。そこからは、魔法みたいに自然な流れで出来上がっていきました。どの曲にも言えることなんですけど、そこが私が音楽を作るうえで一番好きなところです。それぞれの曲が、おのずと形を見つけていくような感覚がある。私たちがやるべきことは、ただその曲に耳を傾けることなんです。
祖国への愛と葛藤、そして次のステージへ
—その後のシングル「la mexicana」では、刑事司法の現場で目にした女性への暴力やジェンダーの不平等について、メキシコという国に宛てた手紙という形で歌っていますよね。そこには祖国への深い愛情がある一方で、強い問いかけも感じます。今、あなたの目にメキシコという国はどのように映っていますか?
パロマ:すごく重いテーマですよね。この曲はもともと、ジェンダーの不平等や女性に対する暴力について書いたものでした。でも時間が経って、今のメキシコの状況を見ているうちに、この曲で表現した感情はもっと広い意味を持つようになったと感じています。女性だけではなく、メキシコ人全体が抱えている感情にも当てはまるというか。
もちろん、女性に対する暴力は、私がこれからもずっと声を上げ続けていく問題です。この曲も間違いなくそのことについて歌っています。ただ、私の中では曲の意味が少しずつ広がっていきました。
悲しいことに、今のメキシコでは、年齢やジェンダーに関係なく人々が失踪しています。毎日のように人がいなくなり続けているのに、政府は何もしようとしない。その一方で、私たちメキシコ人は自分たちの国をものすごく愛しているんです。ワールドカップを見てもわかると思うんですけど、メキシコ人の愛国心って、本当にすごく強いんですよ。でも同時に、政権が変わっても、その次の政権になっても、ずっと期待を裏切られ続けて、私たちの声を聞いてもらえないことに、みんなもううんざりしているんです。
だから「la mexicana」は、ひとつには女性たちの声を届けるための曲です。残念ながら私自身も、ほかの多くの女性たちと同じように、幼い頃からそうしたジェンダーに基づく暴力を経験してきました。でも同時に、この闘いは女性だけのものではないとも思っています。そこには、もっと多くの人たちの声が含まれているんです。
—最後に、次のアルバム『Morphys』が出ることを予告していますよね。制作は今どの段階まで進んでいますか? また、どんなテーマやサウンドの作品になりそうですか?
パロマ:プロダクションはもう終わっています。あとはマスタリングを残すだけです。今回のアルバムは、もっと躍動感があって、より踊れる作品になっています。前よりも自分の人生がいい状態にあるときに書いたので、自然と少し明るく、幸せな感じになったんだと思います。
ただ、それはあくまでサウンドの話で。歌詞については、「人生は上向きなのに、頭のほうはそんなに簡単にそれに慣れてくれない」という感じなんです。だから新しいアルバムでは、自分の頭に「もう大丈夫だよ」「もうずっと警戒していなくていいし、不安になったり、悪いことばかりに目を向けたりしなくていいんだよ」って言い聞かせようとしているところがあります。
たぶん私は、ずっとつらい状態でいることや、悲しんだり心配したりすることに慣れてしまっていたんですよね。だから今は、「もうその時期は終わったんだ」「自分のために、いい場所を自分で作れたんだ」って受け入れて、人生を楽しむことを学ぼうとしている。そういう、自分の中にある葛藤を描いたアルバムです。
—すでにTikTokなどで一部公開されている「si la ves」という新曲、すごくキャッチーですよね。早くフルで聴いてみたいです。
パロマ:あ、このあとやりますよ。今日、初めてライブで歌うんです!
Paloma Morphyついに!VJからも伝わる日本初ライブの喜び。「泣きながら踊る」フィーリングをジャンルに縛られない軽やかさで表現していて素敵だった。ラテングラミー新人賞を受賞した前作に続くニューアルバムが控えていて、最後に披露したダンサブルな↓は今日がライブ初披露とのこと。#サマソニ https://t.co/SCo78Qc421 pic.twitter.com/Psz9XxTOD3— 小熊俊哉 (@kitikuma3) August 15, 2026サマーソニックでライブ初披露された新曲「si la ves」(筆者撮影)
新曲「si la ves」は8月28日にリリースされた
パロマ・モーフィー
『Au』
再生・購入:https://palomamorphyjp.lnk.to/AuALTWRS


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