中国国境の街、ラオカイ省ラオカイにて。流れるソンホン川の対岸は中国の雲南省。
連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第188話
ベトナム北西部の山岳地帯ラオカイで始まったコウモリ調査。人間の暮らしと野生動物が接する最前線で、パンデミックの芽を探る旅が続く。
* * *
【旅の醍醐味】ある海外出張が決まる。その都市の名前をググり、その場所の地図を眺める。そして、スマホやパソコンの画面に表示された無機質な地図を見て、そこがどんな場所なのかを思い浮かべる。
今回の目的地は、東南アジアの僻地。であればそこはきっと、未開で、藁葺き屋根の家なんかが並ぶようなところなのだろう――というような原始的なイメージを覚える。
しかしこれまでの経験から、そのような勝手なイメージは大抵的外れであることを私は知っている。実際に訪問した場所は、訪れる前にイメージしていたよりも圧倒的に発展していることがほとんどだ。
いずれにせよ、「これから訪れる知らない場所」についてイメージするのは、旅の醍醐味のひとつでもある。そこではいったいなにが待っているのか。こんなことがあるかもしれない、こんな人がいて、こんなことを話しかけてくるかもしれない。
ハノイからラオカイまでは車でおよそ5時間。朝9時前にNIHE(国立衛生疫学研究所)に集合し、3台のバンに分かれて、大旅団は一路ラオカイへ向かう。
だいたい1時間おきくらいに、サービスエリアのようなところでトイレ休憩を挟みながら大旅団は北へ進む。
サービスエリアのトイレは大抵有料(3000ドン=15円くらい)。お金を回収するスタッフがヒマそうに座っている。この仕事(?)の給料はいったい......
――しかし、いったいどのようなスケジュールになっているのか、説明もないままなんとなく始まったこの旅。次にいつトイレに行けるのかわからないので、毎度お金を払ってトイレに行く。
それによくよく考えてみれば、「ラオカイ省に行く」ということ以外、これからの3日間がどういう旅程になっていて、どこに泊まるのかも詳しく知らされていない、ということにここで気がついた。
13時過ぎにラオカイに到着。やはりラオカイは、私の勝手な想像よりもはるかに栄えた街で、どことなく首都ハノイよりもすっきりと整頓された印象すら受けた。
それもそのはず、ラオカイの街は、ベトナム戦争(1955~1975年)の後に勃発した中国との戦争(中越戦争、1979年)で一度壊滅。
昼食はみんなで、ラオカイの郷土料理を食べた。豚肉、豚の皮、豚の内臓、豚のレバー。豚肉づくしがこの地域の郷土料理であるという。
この日のランチ。野菜以外全部豚。
ラオカイから、初日のサンプリング拠点となるサパ(Sa Pa)までは山道が続く。標高が上がるに連れて、棚田の田園風景が眼下に広がっていく。
サパ。丘陵な山々の中に、棚田の田園風景が広がる。
【初日のサンプリングサイトへ】
サパの街に着く頃にはもう16時を過ぎていた。サバ市街地のホテルにチェックインし、サンプリングのための身支度を整えて、いざ――。
しかし。
トイレ休憩やランチのたびに、バンのドライバーやNHKチームが雇ったベトナム人通訳、さらにはベトナム側のメンバーたちがずっとだらだらとだべっているのが気になっていた。みんな揃っているのに、なかなか出発しないのである。
不思議に思って「出発しないの?」と訊ねると、はいはいわかりましたよ、とばかりに、それからみんなでタバコを一服してようやく出発する、という感じ。その積み重ねで、予定よりも時間がだいぶ後ろにずれこんでしまったらしい。
コウモリを捕まえるためには、「ハープトラップ」や「ミストネット」という仕掛け(トラップ)を使う。どちらも、飛んでいるコウモリを引っかけるためのもので、前者は飛ぶコウモリを引っかけて下の袋に落として捕獲するもの、後者は網(ネット)にコウモリを絡めて捕獲するもの。どちらも、コウモリが活動を始める前に、つまり日が落ちる前に仕掛ける必要があった。
サンプリングサイトの選定はもちろん、今回のフィールドワークに精通しているのは、トンさんたちベトナムチーム。そして、初日に予定していたサンプリングサイトは「サパの森」。
しかし、サパのホテルから、予定されていたそのサンプリングサイトまでは遠く、今から向かっては日没に間に合わない、というではないか。それで急遽、目的地を「サパの森」から「サパの洞窟」に変更する、とトンさんから告げられる。
――え?
文・写真/佐藤 佳
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