―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは「国技館の“幕の内弁当”」。
果たして、お味はいかに?

『孤独のグルメ』原作者が国技館で“本家・幕の内弁当”を食べて...の画像はこちら >>

孤独のファイナル弁当 vol.34「国技館で、幕の内弁当を食べたぞ!」

 大相撲五月場所を両国国技館に見に行くことができた!

 国技館に来るのは何年ぶりだろう。少なくとも10年は来ていない。

 親方経由でチケットを手に入れたので、なんと枡席でお土産付きだった。お土産の中にはみんな大好き「国技館やきとり」と「大相撲五月場所幕乃内弁当」も入っていた。

 おお、これぞ本当の本物、本家「幕の内」弁当だ!

 と興奮しながら幕の内弁当の由来を調べたら、相撲ではなく、歌舞伎や芝居の休憩時間である「幕間」に役者や客が食べる弁当として江戸時代に生まれたものでした。

 とはいえ、相撲にも幕内はある。この弁当を伝統ある国技館で、取組を見ながら食べることができるのは最高だ。

 午後3時半、十両の土俵入りの頃、お茶屋の人に案内されて、席につく。枡席の中では後方だが、土俵は十分見える。2階の椅子席よりぐっと近い。

 まだ客は半分くらいしか入っていないが、ちょうど席がどんどん埋まっていく時間だ。

 すぐに焼き鳥を開け、缶ビールをプシュッといく。
楽しい。大相撲というのはお花見のようだ、と前に思ったが、焼き鳥や弁当を広げてビールを開けるところは、やはり花見。髷を結って褌ひとつの力士には、満開の桜のめでたさがある。

 国技館やきとりには独特の柔らかさと甘みと香ばしさがあり、子供から老人まで大好きに決まっている。つまみとおやつの中間のような串だ。これは焼き鳥屋では食べられない。肉屋にも売っていない。ビールに最高に合う。

 テレビと決定的に違って面白いのは、席から見た対戦力士2人が、視覚の中で右と左にいないことだ。テレビはいつも正面からのカメラだからね。ボクは東側の席だったから、2力士が手前と向こうで向き合っている形。

 それと当たり前だけど実況アナウンサーがいないから、呼出と決まり手のアナウンス以外、静か。


 そして観客は飲みながら食べながら家族や友人たちと見てるから、館内が終始ざわついていること。そのざわつきに中から「アタミフジー!」とか「ワカタカカゲー!」とか叫ぶ声が上がる。その大声がすぐ近くの地味なおじいさんによるものだったりして意外で面白い。子供の声もよく通る。それらも取組前、制限時間いっぱいになるとスーッと静かになる。

 アナウンサーも解説もいないから、取組は何か淡々と進む。それを弁当を食べながらビールを飲みながら見る。時間の流れが止まらない感じも、お花見に似ている。でも終盤に向かってちゃんと盛り上がっていく。

 結局、幕の内弁当はいろんなものが入っていて楽しかったが、国技館やきとりほど印象はない。でもビールを飲みながら少しずつ食べ進むのは相撲見物にぴったりだった。

『孤独のグルメ』原作者が国技館で“本家・幕の内弁当”を食べてみた結果…一番印象に残ったのは別のものだった/久住昌之
孤独のファイナル弁当

『孤独のグルメ』原作者が国技館で“本家・幕の内弁当”を食べてみた結果…一番印象に残ったのは別のものだった/久住昌之
取組を見ながら、ビールとともに食べるのは、地下の専用工場で職人が一本ずつ手焼きする両国国技館の名物「国技館やきとり」と「大相撲五月場所幕乃内弁当」


―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

【久住昌之】
1958年、東京都出身。
漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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