1980年代から90年代にかけ、圧倒的な強さでプロ野球界を席捲した黄金期の西武ライオンズ。常勝軍団を類まれなリーダーシップで牽引したのが石毛宏典だ。

 今回は現役時代のルーティーンや物事の考え方、勝者だからこそ持ち続けた学ぶ姿勢、そして70歳を迎える今も挑戦を続ける理由について語ってもらった。

石毛宏典が振り返る、“心を許した”チームメイトたち「渡辺久信...の画像はこちら >>

ゲンはかつがず、こだわりもない

 一流と呼ばれる選手は綿密な準備を徹底する。他人が見ていない場所でどれだけ手を抜かずに取り組めるか。また、それを習慣化できているかが大事だ。

「自分の場合は、準備ではなく、毎日のルーティーンという感覚でしたね。決まった時間に球場に入り、ウォーミングアップをして、守備とバッティングの練習をして、終わったら体をマッサージしてもらい、軽食を食べてユニフォームを着る。その後、グラウンドに出てシートノックをして試合に備える。遠征の場合は段取りが少々違ってきますが、試合に備えて準備をしようという感覚ではありませんでした。

 それでは、準備という言葉の定義はなんなのか。満足できる結果を出すため、『これだけやったんだから』という裏付けを作り、後悔しないようにするために行うことが準備なのか。それには、ある程度の時間を必要になると思いますが、自分の場合は『少ししか準備をしていないけれど、果たしてこれでいいのだろうか』とは思わないわけです。実際、グラウンドに出て軽く走ってボールを投げ、ノックを受けるといった一連の流れは、20分くらいあればできますからね。

 自分はゲンをかつぐようなこともまったくないですし、こだわりがないんです。
だから、準備をしっかりしようという意識もないですし、無意識に行うルーティーンという感覚です。あと、ストレスがあまりたまらないタイプであることも間違いありません(笑)」

盟友・渡辺久信との共通点

 あまりくよくよ考えることがない、さっぱりした性格だと自身を評する石毛。同じような性格のチームメイトとは一緒にいて楽だったという。

「ナベちゃん(渡辺久信)は同じような性格ですね。工藤公康も根本的にはさっぱりした性格だと思いますが、筑波大学(大学院人間総合科学研究科)でスポーツ医学を学んだりしていますし、立場上あまり軽く振る舞ってはいけないような部分があるのかもしれません。石毛とナベちゃんなんかは、どこへ行っても同じようなキャラクターでいきますけど(笑)。

 つい先日、ベルーナドーム(西武の本拠地)でゴルフのイベントであって、ナベちゃんと辻発彦と3人で参加したんです。トークの場面で彼らが発言を控えるような内容も、私はハチャメチャにいろいろなことを話してきました。それが面白かったとファンの方々からは喜ばれたようですが、『テレビやYouTubeに出すのであれば、ちゃんとコメントはチェックしておいてくれよ』と言っておきました。

 要は、大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)みたいに自分が楽しまないと聞く人も楽しくないわけだから。人を傷つけるようなことを話しているわけではないですし、今年70歳になるわけですし、『そこは見逃してくれよ』と言いたくなりますね(笑)。

 あと、これは自分の欠点なのかもしれませんが、甘えるとブレーキがきかなくなってしまうところはあります。駒澤大学で先輩だった中畑清さんに対しても、上下関係を気にせずに対等に話してしまったり、ちょっかいを出してしまったりします。
逆に、ナベちゃんや工藤ら後輩からいじられると、砕けてきてしまうという部分もあるのですが」

 そう言う石毛だが、相手の立場や年齢に関係なく耳を傾ける姿勢も持っているように感じる。古代中国の哲学者・老子は『柔弱は剛強に勝つ』と説いているが、柔軟で謙虚な者こそが真に強いわけだ。

野球以外の世界に興味を持ち、得た気づきが

 1992年、西武が4勝3敗でヤクルトスワローズを下して日本一となった日本シリーズ。手に汗握る劇的な試合が続き、球史に残るシリーズとして今も語り継がれているが、そんな激闘の後、石毛が口にしたのは「ヤクルトの選手たちから、野球の素晴らしさを学びました」という一言だった。

 その前年にも、西武は日本シリーズで広島東洋カープを4勝3敗で下して日本一となっているが、石毛はユニフォームを泥だらけにしてプレーする広島の選手たちの姿を見て、「野球に対するひたむきさを学びました」という言葉を残している。真の実力者ほど過去の成功にすがりつかず、自分の未熟さを知り、常に学び続けているのだ。

「ペナントレースでも日本シリーズでも、勝ち続けることができたものの、勝ってきたからこそ逆に素直になれる部分があるのかなと。負けた場合は、次に勝つために課題を洗い出し、相手の弱点を根掘り葉掘り探し始めるじゃないですか。

 勝つと『余裕がある』とは言いませんが、何が良くて何が悪かったのかを冷静に分析することができますし、相手の良い部分を認めて学んでいこうという気持ちになるのかもしれません。決して傲慢な見方ではなく、同じ土俵で戦っている同じ野球人としてどうあるべきかを考えていたと思います。

 あと、シーズンオフに一軍の首脳陣や選手たちが揃って劇団四季の舞台『コーラスライン』を鑑賞していたのですが、世界は違えど、一流の方々の魅せ方や所作など学べることがたくさんありましたからね。当時の自分は野球界ではベテランと呼ばれる年齢だったと思いますが、野球外の業界に興味を持ち始めていたんです。

 当時、野球界のトップと言われる選手で1億から1億5千万円くらい稼いでいましたが、他の業界には10億から20億円くらい稼いでいる方がいたりして、社会にはすごい方々がたくさんいるんだなと。
そういう方々の生きざまも含めて、『どうやって財を築いてきたんだろう。どうやって組織を築いてきたんだろう。学びたい、覗きたい』というと興味津々でした。だから、これまで読んできた本も自己啓発本が多かったですし、大河ドラマもよく見てきましたし、知らないものはとにかく先人や本などから学ぶ。そういった素直さはあるような気がします」

「経営者として未熟」と自覚

 石毛の学ぶ意欲とエネルギーは衰えることなく、今も挑戦を続けている。

「沖縄でスポーツアカデミーを設立するために動いています。(日本初の独立リーグである)四国アイランドリーグを立ち上げた経験もありますが、まだまだ経営者としては未熟者なんです。では、どうすればいいのかと考えた時、今までであれば人に任せていたことを、自分で見て学ばなければいけないとこの歳になって思っているんです。AIや辞書を使い、事業や経営に関するいろいろなことを勉強して吸収している毎日です。人生100年時代とも言われていますし、生涯にわたって学び続けるんだろうなと思います。

 事業計画書にしろ何にしろ、誰かに任せてしまうと自分で説明できないんです。やっぱり経営者が説明できなければいけないと思いますしね。
でも周囲にいるほとんどの人間はこう言うんです。『石毛さんはそういうことをやってはいけないんです。部下や外部の専門家に任せて、石毛さんは事業の構想を広く伝えてください』と。だけど、それは人がたくさんいる組織の話で、弊社(アジアスポーツアカデミー株式会社)は少ないですから(笑)」

 現役時代は勝者として学び、引退後は経営者として学び、70歳を迎える今もなお新しい世界に挑み続ける。石毛宏典という人物の強さは、輝かしい実績ではなく、どんな立場になっても素直に学び続ける姿勢にあるのだろう。

<取材・文/浜田哲男>

【浜田哲男】
千葉県出身。専修大学を卒業後、広告業界を経て起業。「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」の取材をはじめ、複数のスポーツ・エンタメ・ニュース系メディアで連載企画・編集・取材・執筆に携わる。X(旧Twitter):@buhinton
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