電車は、不特定多数の人が同じ空間で過ごす公共交通機関だ。大声で騒いだり大音量で動画を見たりすれば、本人が気にしていなくても、ほかの乗客にとっては迷惑になることもある。

 今回は、そんな周囲への配慮を欠いた乗客によって、不快な思いをしたという2人のエピソードを紹介する。

床に座って大騒ぎする女子高生たち

「イヤホンからの音漏れがすごくて…」電車内で動画を見続ける若...の画像はこちら >>
 兵庫県に住む赤松孝介さん(仮名・40代)は、短大に入学したばかりだった頃、通学のために在来線を利用していた。姫路駅から目的地の駅へ向かう車内で、いつも目につく女子高生グループがいたという。

「座席が空いていても座らないで、5~6人で固まって床に直接座っているんです。しかも、とにかく声が大きかったですね」

 先生の悪口や前日に見たテレビ番組の話など、話題は尽きない。周囲の乗客が振り返っても気にする様子はなく、大声で話し続けていた。

「彼女たちが騒ぎ始めると、周りも『うるさいなぁ』という感じでした。友人に聞いたら、以前から車内で目立っていたようです」

 この日も、女子高生たちはいつものように床に座って騒いでいた。さらに、車内で化粧まで始めたという。

 ところが、その直後だった。走行していた電車が突然、急停車したのだ。

「キャーという声が聞こえて、化粧をしていた2人が床をゴロゴロと転がったんです」

 突然の出来事だったが、周囲から「大丈夫?」と声をかける人はいなかった。

 それどころか、乗客たちは女子高生たちのほうを見ながら、笑いをこらえているような表情を浮かべていたという。


急停車で口元が「口裂け女」のように

「何がおかしいんだろうと思って私も見たら、口元から耳のほうに向かって口紅が一本の線みたいに伸びていたんです。まるで、『口裂け女』みたいになっていました」
 
 本人はまだ、自分の顔がどうなっているのかわかっていないようだった。ところが、友人から指摘されて鏡を確認すると、表情が一変したという。

「急に静かになって、慌てて口紅を拭いていました。そんな様子を見て、周囲の乗客たちも思わずニヤニヤしていましたね」

 先ほどまで女子高生たちに向けられていた冷ややかな視線とは、また違う空気が流れていたそうだ。

 そして次の駅に到着すると、女子高生たちは足早に電車を降りていった。

「あのときの乗客たちが浮かべていた表情まで覚えています。今でも思い出すくらい、最後はちょっとスカッとする出来事でしたね」

イヤホンから響く大きな笑い声と効果音

「イヤホンからの音漏れがすごくて…」電車内で動画を見続ける若い男性に、年配男性が放った“毅然としたひと言”
※画像は生成AIによるイメージです
 数か月前、残業を終えて電車で帰宅していた瀬戸口亮平さん(仮名・30代)。朝から仕事に追われていたこともあり、帰りの電車では静かに過ごしたいと思っていた。

「車内は混んでいて、座席はすべて埋まっていました。私はドア付近でつり革につかまりながら、スマホでニュースを読んでいました」

 途中の駅で、イヤホンを着けた若い男性が乗ってきた。ちょうど座席が空いたため、男性はそこへ座るとスマホで動画を見始めたという。

「しばらくすると、大きな笑い声や効果音が聞こえてきました」

 音の正体は、男性が見ている動画だった。イヤホンをしているにもかかわらず、周囲には内容がわかりそうなほど音が漏れていたそうだ。


「本人は夢中で、周りに聞こえていることには気づいていないようで……。隣に座っていた女性は、何度も男性のほうを見ていましたし、向かい側で本を読んでいた年配の男性も、音がするたびに顔を上げていましたね。私もだんだん気になって、ニュースの内容が頭に入ってこなくなりました」

 とはいえ、自分から注意するのは躊躇ってしまったという。

「どんな反応をされるかわかりませんし、言い争いになるのもイヤでしたので、声はかけられませんでした」

「音がかなり漏れています」年配男性が注意した結果…

 しばらくすると、向かい側に座っていた年配の男性が立ちあがった。

「急に立ち上がった年配の男性は、その若い男性の近くに行って声をかけたんです。声をかけられた男性は、不思議そうな表情でイヤホンの片方を外しました」

 そして年配の男性は、毅然とした態度で「音がかなり漏れています。周りにも聞こえているので、少し下げてもらえますか」と伝えたという。若い男性は、最初こそ驚いた表情を見せたものの、周囲の乗客が自分を見ていることに気づいたようだった。

「注意された男性は、急に顔が赤くなって『すみません』と謝りました。すぐに音量を下げ、気まずさに耐えられなくなったのか、動画を見るのもやめて隣の車両へ移動していきましたね。音がそこまで漏れているとは思っていなかったのかもしれません。最終的にきちんと謝っていたので、疲れた気持ちまで軽くなりました」

 電車では個人のマナーが大いに問われる。
だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。

 自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。

<取材・文/chimi86>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
編集部おすすめ