―[東大卒作家・布施川天馬の教育キャリア通信]―

 みなさんは、「頭がいい人」とはどんな人だと思いますか?
「テストの点数がいい」だけでは冷笑される世の中になってきましたが、記憶力や計算力なども、立派な「頭がいい」ための要素なはずです。

 ただ、テストが解けるだけではうまく生きられないのも確か。
私自身、東大合格を目指してそれなりの量を勉強してきましたが、受験知識がパンパンに詰まっていた18歳・19歳当時よりも、今の方がずっと頭が回りますし、知識も幅広くなったと感じています。

 今となっては○○戦争や○○条約の年号、図形問題の攻略に使う○○の定理などは全く覚えていませんから、今から東大を受験しろと言われても、100%落ちます。

 ですが、仕事や生活など、一人の大人として社会を生きる上では、今の方がよっぽどうまくなったと感じるのです。

 それは、親と先生、学生以外の様々な経歴を持った大人と話すようになったからでしょう。

 特にライターを始めてからのこの5年で、様々なモノづくりに関わる方々へのリスペクトが増しました。とりわけ、幼いころから親しんできた漫画やアニメ、ゲーム、映画などが、どれほど考え抜かれて生み出されたかを知ったからです。

 小説や映画作品一つをとっても、何気ない所作や画面端の置物、建築物の構造や文化風俗に至るまで、全てを調和させないと「世界」が成立しません。「幼い頃に見ていたディズニーやジブリのクリエイターたちは、こんなにも深い知識を持っていたのだ!」と感動させられたのです。

 そして、「いいものを作れば売れるわけではない」こともまた、子どもの私にとっては衝撃でした。

 社会に出る以上は「いいもの」なのは当たり前。どうやって「いい」かを伝える努力も必要だと知ってから、視野が大きく広がったように感じます。

 そこで、今回は、様々なコンテンツクリエイターの活動や裏側に的を絞った著作を3冊紹介します。


 作家の思考の深さや知識の幅広さ、プロデューサーの「売るための工夫」などから、学校では決して教えてくれない「社会で役立つ頭の良さ」を感じ取っていただければ幸いです。

東大卒が明かす「社会に出てから最も役に立った本」3選。「学校...の画像はこちら >>

ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~

 手塚治虫といえば、存命中の姿を全く知らない私ですら知っている「マンガの神様」。

『鉄腕アトム』、『ジャングル大帝』、『リボンの騎士』など名作を手掛け、一度は「冬の時代」に突入しながらも『ブラック・ジャック』で不死鳥のごとく復活を果たし、『三つ目がとおる』や未完の名作『火の鳥』、『ネオ・ファウスト』など、人生をかけて名作を生み出し続けた創作界の巨人ともいえる大人物です。

 ただ、私は全く恥ずかしながら、子どもの頃は「マンガのアイデアがたくさんわいてくる愉快なおじさん」程度にしか思えておらず、「どうしてこんなに作品を描けるのだろうか、不思議だなぁ」と考えていました。

 彼が大阪帝国大学附属医学専門部を卒業して医師免許を取得した超インテリであると知ってからは、「どうして医者の先生が漫画家に?」とハテナが止まらなくなったことを覚えています。

 ですが、逆に言えば、「医者になるより漫画家を」と教授から勧められるほどの熱意と実力があってこその、「マンガの神様」だったのかもしれません。今となっては会うことも叶いませんが、彼と実際に仕事をしていた方々から、その輪郭を感じ取ることはできます。

『ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~』は、手塚治虫の関係者への取材を基にして作られた「他者から見たリアルな手塚像」を集めた漫画作品です。

 吉本氏によるコミカルな作画によって、丸っこく人のよさそうな体系に描かれた手塚治虫が活躍するさまを見て取れます。

 しかし、最も恐ろしいのは、そのこだわりの強さ。すべての作品を納得がいくまで仕上げる職人気質といえば聞こえがいいものの、その陰では相当数の人々が泣いたようでした。

 24時間テレビに納品した2時間アニメ作品でも、とにかく「リテイク(やり直し)」を連発するので、全く作業が進まない……。前半放映中に後半フィルムが納品されていないこともあったそうです。


 それでも、不特定多数の大人を泣かせてでも、「良い作品を届けたい」と燃え上がって机に向かい続けた手塚先生の生きざまは、頑張ることが冷笑されるようになった現代人に深く突き刺さるものがあるように感じます。熱に感化される経験に飢えた方は、ぜひ手に取ってみてください。

アニメビジネス 漫画・小説・アニメが100倍おもしろくなるアニメの教養

東大卒が明かす「社会に出てから最も役に立った本」3選。「学校の勉強では絶対に学ぶことができなかった」知性とは
『アニメビジネス 漫画・小説・アニメが100倍おもしろくなるアニメの教養』(総合法令出版)
 次は少しリアルな話になりますが、「売る側」のシビアな目線について迫れる書籍を一冊紹介します。

 最近のアニメや漫画は、とにかく「異世界転生」が流行りに流行っています。「トラックに轢かれるか何かをして死んでしまった主人公が、何らかの理由によって能力を得て、異世界に放逐される」といったフォーマットに従って紡がれる作品群ですが、どうして「異世界転生」がここまで流行っているかを考えたことはあるでしょうか?

 もちろん、作品として面白いのは確か。それでも、同じテーマばかりではいつか飽きが来るのが人間の心理というもの。それでもなお、十年以上も流行り続けている理由は、ビジネス的な面にあるのだそうです。

 実は、今のアニメビジネスは、日本国内向けに作られていません。現在のアニメ市場を語るならば、ネット配信の再生回数依存の利益を、すなわち世界市場の動向を抑えなければ、お話にもならないというのです。

 筆者の体感としては「現在の深夜アニメの収益構造の約9割は、北米を中心とした海外の配信プラットフォームに依存して」いるのだそう。これは、確かに海外市場を見据えなければお話にもなりません。

 例えば、日本国内でバズったあの作品。もしくは、かつてカルト的な人気を誇り、いまだに根強いファンから復活を望まれるあの作品。
はたまた、連載や放映が十年以上前に終了しているにもかかわらず、ネットミームとして使われるほど未だに話題に上がり続けるあの作品。いろいろなタイトルが浮かんだでしょう。

 それらを差し置いて、なぜ「異世界転生」ばかりが作られるのか? それは、異世界への転生で「常識という文化的な文脈」を放棄し、ゼロからリスタートする形式をとれば、海外の視聴者にとっても理解しやすいから。

 そして、そうした作品によくある「理不尽をチートスキルで(理不尽な力で)ひっくり返し無双する」展開が、画面映えする上に文化圏を問わずウケやすいからなのだと、筆者は予想しています。また、日本要素の強いバトル物も「クール」に受け止められやすいのだとか。

 なるほど、だから未だに『DRAGON BALL』や『NARUTO -ナルト-』などの作品が海外で人気であると納得がいく。この本は、アニメを題材にしたマーケティングの教科書であり、ビジネスの基礎を学べる参考書です。

「いいものなら、必ず売れる」。そんな夢を否定し、現実を痛いほど突き付けてくる本書を読めば、書店や映画館に行った際の視点が一段変わってくるかもしれませんよ。

東大卒が明かす「社会に出てから最も役に立った本」3選。「学校の勉強では絶対に学ぶことができなかった」知性とは
『198Xのファミコン狂騒曲』(SBクリエイティブ)

198Xのファミコン狂騒曲

 かつては「オタク趣味」「子どもの遊び」とバカにされていたビデオゲームでしたが、今では20代や30代はもちろん、それ以上の年月を生きている人々ですら、ゲームに熱中する時代になりました。やはり、誰もが手にするスマートフォン上で本格的なゲームが遊べるようになったことが大きかったように見えます。

 最近ではめっきり聞かなくなりましたが、昔はどんなゲームでも「ファミコン」「ピコピコ」と呼ぶ方がいらっしゃったと聞きます。

 ファイナルファンタジーやドラゴンクエストなどが世に出たばかりの頃は、まだまだ一般的な遊びではなかったでしょうから、「なにか画面がちかちかして音楽がピコピコなるやつ」程度にしか見えなかったのでしょう。


 ただ、そんな時代でもゲームを本気で普及させるために取り組んだ大人たちがいたからこそ、「ゲームが趣味です」といえる時代が到来したわけです。

 それは、ゲームクリエイターの方々でありつつ、ゲームに関連する様々なメディアコンテンツに携わった人々の情熱の余波でもありました。

『198Xのファミコン狂騒曲』では、現在『ファミ通』として知られる雑誌『ファミコン通信』がどのような経緯を経て誕生したかが、かつての編集長である塩崎剛三氏(ペンネームは東府屋ファミ坊)によって赤裸々に語られています。

 もちろん、様々な事件が起こるわけですが、それに関わる面々がどれもこれもビッグネームすぎる!

「堀井さんの話をしなくてはならない」と唐突に出てきたかと思えば、『ポートピア連続殺人事件』や『ドラゴンクエスト』で有名な、かの堀井雄二氏のことだったり、さらっと『かまいたちの夜』『風来のシレン』などでプロデューサーを務める中村光一氏の名前が出たり……。きっとファミコン・スーパーファミコンあたりを触って育ってきた世代の方ならば大興奮間違いなしではないでしょうか。

 本書では、「どうやって売るか」と「どうやって作るか」の両面についてを、1980年代当時の熱っぽさをそのままにうかがい知ることができます。今では大人物として名を馳せる歴々も、当時はまだまだ駆け出しにすぎません。

 どうやって人は大成するのか? どのような修羅場をくぐって、強くなっていったのか? 自らの将来像を描く上で、どうしても生じる疑問ですが、ペーパーテストのように画一的な傾向と対策で突破できる関門ではありません。

 やはり、人の生きざまから学びを盗み取ることで、成長できるような気がしています。

「お勉強」では絶対に学べない知

『ブラック・ジャック創作秘話』では手塚治虫の狂気的な創作魂と、それに振り回される人々の様子が見て取れました。

 一方で『アニメビジネス』では、「いいものをよく届けるための努力」をする裏方の戦いぶりが垣間見えます。そして『198Xのファミコン狂騒曲』では、今では大人物として名を馳せる面々もかつては駆け出しにすぎなかったという、成功の裏にある熱気と試行錯誤の日々が浮かび上がってきました。


 クリエイターも編集も、マネージャーもプレイヤーも、それぞれにはそれぞれの立場があるでしょうし、意見が食い違うこともあるはずです。しかし、彼らに共通しているのは「一人でも多くの人に届けたい」というひたむきな思い。

 夢だけでは腹は膨れません。ですが、金を第一に見据えすぎると、交換可能な資材ばかりに囲まれて、目的を見失うリスクがあります。お互いの立場を理解して、尊重しつつも戦っていく戦友のような関係性を築くべきなのかもしれません。

 いわゆる「お勉強」では絶対に学べない知が手に入る3冊。ぜひ興味がわいたらお手に取ってみてくださいね。

<文/布施川天馬>

―[東大卒作家・布施川天馬の教育キャリア通信]―

【布施川天馬】
著述家、教育ライター。 教育メディア「未来図」副編集長。一般財団法人「ドラゴン桜財団」評議員。 1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を編み出し、一浪の末東大合格を果たす。
著書に最小コストで結果を出すノウハウを体系化した『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』など。株式会社カルペ・ディエムにて、お金と時間をかけない「省エネスタイルの勉強法」などを伝える。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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