AIの進化によって、経営者が手に入れられる情報は爆発的に増えた。市場分析、競合調査、事業計画、マーケティング施策……。
かつては専門家に聞かなければわからなかったことも、AIに質問すれば一瞬で複数の答えが返ってくる。では、AIがあれば「参謀」は不要になるのか。答えは、むしろ逆だという。
『8人の参謀 一人では、たどりつけない景色がある』の著者であり、「経営者の参謀」としても活動する松本隆宏氏と、同書で8人の参謀の一人として登場し、「ITの参謀」として活動する榎本登志雄氏に、「AI時代の参謀」について語ってもらった。

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◆AIによって「正解」ではなく「選択肢」が増えた

松本:私はこれまで多くの経営者と関わるなかで、ずっと違和感を抱いてきたことがあります。それは、あまりにも孤独な状態で多くの意思決定を抱えている経営者が非常に多い、ということです。

 経営者は日々、膨大な意思決定をしています。事業の方向性をどうするのか。誰を採用し、誰に任せ、どこに投資するのか。守るべきか、攻めるべきか。続けるのか、やめるのか。時には会社の未来だけでなく、社員の人生や家族の生活にまで影響する判断をしなければならない場面もあります。

榎本:私も、AI時代になったからこそ、その傾向はより強くなるのではないかと思っています。
AIによって、経営判断に必要な情報がものすごく簡単に手に入るようになりました。自分が想定していなかった情報や、自分の思考の範囲を超えた選択肢まで提示してくれる。これは非常に大きなメリットです。

 ただ、そこで問題になるのが「選択肢が増えすぎること」なんです。AIは非常に優秀ですが、経営判断の重みや責任まで背負ってくれるわけではありません。最終的に「この会社はどこへ向かうのか」「何を選ぶのか」を決めるのは、経営者自身です。

松本:AIにいろいろ聞いても、「これが絶対に正解です」とはなかなか言ってくれないですよね。結局、AIを壁打ち相手にしながら、自分で結論を出す必要がある。

 だからこそ、その結論の質を高めるために、全体を理解してくれている人からアドバイスを受けることが重要になる。AI時代は、ヒントが増えたからこそ、参謀の価値が高まる時代なんじゃないかと思います。

榎本:これまでなら、自分の経験や理念、ビジョンを軸に「これをやろう」と決めていたところに、AIから次々と新しい情報が入ってくる。すると、自分が本来大切にしていたものを見失ってしまう可能性もある。


 情報が増えることは、必ずしも経営者にとってプラスだけではありません。AIから出てくる情報が間違っているという話ではなく、「自分にとって今必要な情報なのか」を判断する必要があるということです。

松本:経営というのは、税務や法務、資金繰り、人材、組織づくりなど、本当にさまざまな領域が絡み合っています。本来であれば、それぞれの領域に専門家が関わっていて当然だと思います。

 だから複数の専門家が必要であり、それも、ただ専門家がバラバラに並んでいればいいわけではありません。経営者の横に立ち、全体を見ながら必要な支援を統合し、導く存在が必要ではないか――私はそう考えています。

 AIの進化によって、経営者を取り巻く環境は大きく変わっています。そんな時代だからこそ、「参謀」の必要性は高まっていると思います。

◆参謀は「正解を教える人」ではない

「AIが答えを出してくれる」は危険? 情報過多のAI時代、経営者にとって必要なたった1つの力
「地主の参謀®」として活動する松本隆宏さん
松本:世の中には、「ティーチング」「コーチング」「コンサルティング」という言葉がありますよね。簡単にいえば、ティーチングは、何もわからない人に知識や方法を教えること。コーチングは、問いを通じて思考を深め、目的地に向かって導いていくこと。コンサルティングは、問題解決や仕組みづくりに落とし込むもの、といえます。

 私は、コンサルティング、ティーチング、コーチングの3つを兼ね備えているのが「参謀」だと思っています。
経営者が本当に求めているのは、「状況に応じてこの3つを行き来しながら、経営者の横に立ち、経営者と同じ景色を見ながら、思考・戦略・行動をつなぎつつ、意思決定に関わる存在」であるということです。

榎本:一般的なコンサルタントは、知識や手法、問題解決の方法を教えることが多い。一方で参謀は、必要な情報や選択肢を整理したうえで、問いや対話を通じて、経営者自身が意思決定できる状態に導く。「正解を教えるのがコンサルタント、経営者が決められる状態をつくるのが参謀」ということですね。

松本:また、その人自身が事業をしていることも重要です。自分が事業をやったことがない人間が、事業家の経営について本質的な助言をするのは難しいと思うんです。

榎本:経営者の悩みって、表面的な問題だけではありませんから。資金繰り、人材採用、社員の退職、組織づくり……。経営していれば、いろいろな問題が起こる。実際に経営したことがなければ、そのとき経営者が何に悩み、何を恐れているのかまではわからない。

 だからこそ、経営者にとっては「自分が進みたい世界を、すでに経験している人」に相談することが重要なんだと思います。

◆経営者に必要なのは「全部自分でやらない」勇気

「AIが答えを出してくれる」は危険? 情報過多のAI時代、経営者にとって必要なたった1つの力
インフラ、ネットワーク、セキュリティ領域での実務経験を強みを持つ榎本登志雄さん
松本:もうひとつ、私が強く感じていることが、多くの経営者は「参謀の力の借り方」を知らないということです。

 中小企業の経営者の方であれば、顧問税理士はいて、士業の先生のパートナーもいる。
相談できる相手がゼロではないのに、経営全体を見渡しながら経営者自身の思考を整理し、視野を広げ、必要な打ち手まで一緒に組み立ててくれる人がいるかというと、そうではないケースがほとんどです。

 つまり、部分最適の相談相手はいても、全体最適の意思決定を一緒に担ってくれる存在がいない状態で、経営者は一人で抱え込み、一人で迷い、一人で決めていくことになります。私は、これが経営の難しさを生んでいる一つの要因ではないかと感じています。

榎本:私自身も、まさにそこは松本さんから学んだことです。会社を経営していると、目の前のトラブルへの対応に追われてしまう。でも、それでは会社のビジョンを実現するための時間がなくなってしまうんですよね。

 経営者が本来やるべきなのは、戦略を考えたり、人材を採用したり、育成したり、未来に向けた意思決定をすること。その時間をつくるためには、「自分じゃなくてもいい仕事」を手放していかなければいけない。

松本:経営者って、最初は自分がプレイヤーとして優秀だからこそ、会社をつくっていくことが多いですよね。でも、会社が大きくなっても「自分でやったほうが早い」と思ってしまう。これが危ないんです。

「やらないことを決める」というのは、経営者にとってものすごく重要ですね。
人に任せると、最初は自分でやるより時間がかかるし、失敗することもある。でも、そこで任せることができれば、自分にしかできない仕事に時間を使えるようになるわけです。
参謀の役割の一つは、経営者に「それはあなたがやる仕事じゃないですよ」と言ってあげることでもあると思います。

榎本:「人の力を借りる」という考え方は、AIにも通じると思っています。AIを「自分の持っていない力を借りるための手段」として使う。

松本:そうですね。私も、AIを「AIさん」という一人の専門家みたいに考えてもいいと思うんです。Aさんの力を借りる。Bさんの力を借りる。そしてAIさんの力を借りる。それだけの違いです。
人間にはそれぞれ得意分野があるように、AIにも得意分野があります。
だから、全部を自分でやろうとする必要はない。むしろ、いろいろな人やAIの力を借りて、自分一人では到達できないところまで行く。そのほうが合理的なんです。結局、チームプレイなんですよね。

榎本:自分で全部できる必要はない。自分にないものを持っている人に、「力を貸してください」と言えることのほうが大切です。

松本:参謀を持つことは、誰かに依存したり、甘えたりすることではなく、より良い意思決定のために「チームをつくる」という選択であり、私は「経営を個人戦で捉える時代は終わっている」と考えています。誰と組むかによって、見える景色も、到達できる未来も変わっていくのです。経営を個人戦としてではなく、チーム戦として捉え直すことが大切だと考えています。

◆AI時代に問われるのは「何のために使うのか」

榎本:AI時代に経営者が意識すべき一番大切なのは、「AIで何ができるか」から考えるのではなく、「自分は何のために経営しているのか」「会社として何を実現したいのか」。その目的を実現するために、AIや参謀を使う。本来の「目的」に立ち返ることが重要だと思います。AIそのものを目的にしてしまったら、本末転倒です。

松本:AIは、経営者の未来を大きく描くためにも使えると思います。未来を言葉にしたり、絵にしたり、具体的な形にしたりすることで、人はその未来に近づきやすくなる。だから、AIを使うことで、これまでより大きな未来を描ける可能性もあると思うんです。
ただし、その未来を最終的に選ぶのは人間です。そして、その選択を支えるのが参謀なんだと思います。

榎本 参謀は、経営者の代わりに意思決定する人ではなく、経営者が自分自身でより良い意思決定をできる状態をつくる人です。だから、AI時代になったから参謀がいらなくなるのではなく、AI時代だからこそ「誰に相談するか」がより重要になると思いますね。

 経営者は、何でも一人で解決しようとしなくていい。正しい情報を持っている人、正しい経験をしている人、そして自分とは違う視点を持っている人の力を借りればいいんです。その意味では、AIも参謀も、人の可能性を広げるための手段です。

松本:参謀は、主役ではないんですよね。主役である経営者がうまくいくための裏方です。AIによって情報が増えれば増えるほど、その情報をどう使うか、何を選ぶか、誰に相談するかが問われる。

 だからこそ、これからの経営者には「自分一人で答えを出す力」だけではなく、「正しい人の力を借りる力」が必要になる。AI時代の参謀とは、まさに経営者のその力を最大化させる存在なのだと思います。

【プロフィール】
松本隆宏
ライフマネジメント株式会社 代表取締役。「地主の参謀®」として、代々続くご家族や経営者の資産を守り、次世代へつなぐ支援に従事。これまで10 冊の書籍を出版し、ラジオ大阪OBC『松本隆宏の参謀チャンネル®』ではメインパーソナリティを務め、経営・資産・相続・人生設計に関する情報を発信。自身も多くの参謀に支えられてきた経験から、本書では各分野の参謀たちの実践知を通じて、一人ではたどりつけない景色へ向かうためのヒントを届けている。最新刊『8人の参謀 一人では、たどりつけない景色がある』が発売中

榎本登志雄
ティースリー株式会社代表取締役。インフラ、ネットワーク、セキュリティ領域での実務経験を基盤に、プロジェクト管理や上流コンサルティングまで幅広く従事。現在は中小企業を中心に、情報システム部門のアウトソーシング支援、IT戦略立案、DX・AI活用支援を展開している。特定ベンダーに依存しない立場から、技術導入そのものを目的化せず、経営者の選択肢を整え、意思決定の質を高める「ITの参謀」として、企業の課題解決と持続的な成長支援に取り組んでいる。年内に『魔法のAIレッスン シュークリームが運んできた、仕事を軽くする甘い知恵』を発売予定

<取材・文/日刊SPA!>

【松本隆宏】
ライフマネジメント株式会社代表取締役。1976年、神奈川県相模原市生まれ。高校時代は日大三高の主力選手として甲子園に出場。東京六大学野球に憧れ法政大学へ進学。大学卒業後、住宅業界を経て起業。「地主の参謀」として資産防衛コンサルティングに従事し、この10年で数々の実績を生み出している。また、最年少ながらコンサルタント名鑑『日本の専門コンサルタント50』で紹介されるなど、プロが認める今業界注目の逸材。
ラジオ大阪OBC(FM91.9 AM1314)にて、毎週水曜日19:45~20:00「松本隆宏の参謀チャンネル®︎」を放送中。
最新刊『アスリート人材の突破力 ~才能を引き出す気づきの法則~』のほか、『The参謀 ~歴史に学ぶ起業家のための経営術~』(游藝舎)、『地主の経営』(マネジメント社)などがある。
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