連載7回目に登場したファッションコーディネーターの石坂紀子(いしざか・のりこ)さんは、子どもたちの巣立ちを機に、これまでの住まいを売却。パートナーの“ポジョ”ことピエール・オリビエ・ジャックさんとの共同生活を経て、新たな一歩を踏み出しました。


「愛着のある、自分の好きなものだけに囲まれて暮らしたい」――そんな強い想いから見つけた新しいアパルトマンは、ふたりのこだわりが詰まった空間。今回は、新ブランドを共に営むパートナーと紡ぐ、新しいパリの暮らしを訪問します。(文・Maiko Matsunaga)

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ハードルの高い「住居兼オフィス」。8カ月かけて巡り合った理想の物件

石坂紀子さんは、新ブランド「IKORRE(イコレ)」や高級カゴバッグブランド「MAISON N.H PARIS」の代表を務めるファッションコーディネーターでありプロデューサー。そしてパートナーの“ポジョ”ことピエール・オリビエ・ジャックさんも、ファッション業界を経て「IKORRE」の共同経営者に。パリと日本を舞台に、定期的にバーイベント「POJO.BAR」を主催するなど多方面で活躍しています。

そんなお二人の新居探しは、ネットで8カ月間探し続け、15軒以上を内見するというタフな道のりでした。

「旅に出ることも多いため、仕事と住居を切り離したくなかった」というお二人の条件は、パリではハードルが高い「住居兼オフィス」。見に行っても書類審査が厳しい物件ばかりでしたが、その中で比較的すんなり審査が通ったのが、現在のモダン建築のアパルトマンでした。

オフィスが多く入っている建物のため、夜は隣人の騒音に悩まされることもなく静かだと言います。「当初は購入も考えていましたが、賃貸でありながらこの広さと趣味の良い空間が気に入って、ここに決めました」と石坂さん。

家探しの条件だった「メトロの駅から近い立地」「広いキッチンとくつろげる間取り」を満たし、近所には料理好きなお二人の大好きな店が徒歩圏内にそろっていることも、決め手となりました。

パリの暮らしとインテリア[25] 子育て卒業で自宅を売却し賃貸へ。内見15軒で出会った140平米アパルトマンで“好きなものだけ”に囲まれたセカンドライフをスタート

自宅から徒歩数分の場所にあるサンマルタン運河。週末や夏の夜には多くのパリジャンが涼みを求めて集まる。お二人と愛犬の、定番のお散歩コース(撮影/Manabu Matsunaga)

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お二人お気に入りの「ジャン=ピエール・タンボー通り(Rue Jean-Pierre Timbaud)」。日ごろから「POJO.BAR」を主催し、美味しいものに目がないポジョさんならではの視点でセレクトされた、とっておきの行きつけが3軒ある。ナチュラルワイン専門店「Delicatessen Place」(7 Rue Jean-Pierre Timbaud 75011 Paris)(撮影/Manabu Matsunaga)

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お惣菜やこだわりの調味料などを売っていてとても重宝しているとのこと「Bidoche Oberkampf」(7 Rue Jean-Pierre Timbaud, 75011 Paris)(撮影/Manabu Matsunaga)

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フランス人は必ず近所にお気に入りのパン屋があります。「Polka」(38 Rue Jean-Pierre Timbaud 75011 Paris)(撮影/Manabu Matsunaga)

そうして巡り合ったアパルトマンは、140平米というぜいたくな広さ。間取りは、広いダイニングとリビング、独立したキッチン、寝室で構成され、2階部分はリビングと吹き抜けで繋がる「IKORRE」のストック置き場兼ゲストスペースになっています。
パリでは珍しくない「バルコニーのない造り」ですが、天井からの大きな窓があるため、室内は圧倒的な開放感に満ちています。

パリでは珍しい、光がたっぷり差し込む「広い玄関とキッチン」

まずは、お住まいの顔である玄関からお話をお聞きしました。

「玄関が広かったので、アクセントとして植木をあしらったり、香りものや『気をよくするもの』を置いています。外出時に靴を履いたり、帰宅してさっと荷物を置いたりできる椅子を置くスペースも十分にあるので、とても使い勝手がいいんです」と石坂さん。

日本の住宅では珍しい白いフローリングの玄関には、大きな下駄箱が備え付けられ、贅沢とも思える空間が広がります。パリの住居では珍しい「玄関にある窓」からたっぷりの光が差し込むのも大きな魅力。

取材当日も、椅子の上には「MAISON N.H PARIS」のカゴバッグが素敵にあしらわれていました。

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写真左上にある窓から、光がたっぷり差し込む玄関。ポジョさんが愛用する白黒のグラデーションチェア(写真左)は、パリのメトロ(地下鉄)の椅子をリサイクルしたもの。手前のベージュと黄色の椅子は、60年代のデンマーク家具をリメイクした逸品(撮影/Manabu Matsunaga)

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お花やキャンドルに加え、空間の気を良くするという塩やセージをディスプレーした玄関の棚。大好きなゲストを心地よく出迎えるための演出(撮影/Manabu Matsunaga)

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玄関の下駄箱の上にも物が置けるようになっているのでとても便利(撮影/Manabu Matsunaga)

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グレーと黒を基調にした床に、スタイリッシュなステンレスのキッチン。アクセントにあしらった木製のテーブルや天板が、空間に温かみを添える(撮影/Manabu Matsunaga)

そんな玄関に続くキッチンも、おふたりのこだわりが詰まった大切な場所です。

「もともと備え付けられていたテーブルやシステムキッチン、照明はそのまま残し、調理器具やお皿などに自分たちの愛用しているものを組み合わせています。二人とも料理好きでゲストを招待することも多いため、機能的で広々としたこのキッチンは、物件選びの大きな決め手になりました。

二人で過ごす時間はもちろん、友人たちとここでアペロ(食前酒)や食事を楽しんだり、ときには仕事をしたりすることもある大切な場所なんです」とお二人は微笑みます。
取材に伺ったのもちょうど夕方。ポジョさんが楽しそうに夕食の仕込みを始める姿が、とても印象的でした。

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柄物はほとんどなく、シンプルで洗練された食器類。

ひとつひとつデザインや質感にこだわって集めたもの(撮影/Manabu Matsunaga)

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お茶が大好きな石坂さんが、前回の住まいから変わらず大切に愛用し続けているティーポット(撮影/Manabu Matsunaga)

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マグカップやグラスが美しく収められた収納棚。この日の夕食メニューはカラスミのスパゲッティ。ポジョさんが鮮やかな包丁さばきで手際よく食材の下ごしらえを進めていく(撮影/Manabu Matsunaga)

家具たちが心地よく調和する、おもてなしのための広々としたダイニング

前回のお住まいと同様に、新居も広々としたダイニングとリビングがワンフロアで繋がっています。そのダイニングの中心に鎮座するのは、石坂さんが以前から愛用しているという、最大12人が座れる大きな木製のテーブルです。

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温かみのある木製のダイニング家具に、ポジョさんセレクトのイエローの椅子をコーディネート。空間をグッとスタイリッシュに引き締めるアクセント(撮影/Manabu Matsunaga)

「二人とも料理をつくって友人を招くことが多く、ときにはここでミーティングをすることもあるので、このテーブルは私たちの生活に欠かせないものなんです。合わせている椅子はあえてバラバラですが、その不ぞろいな雰囲気も気に入っています。少し天井が低く感じられるかもしれませんが、ちょうどこの上が仕事のストックルームとゲストスペースになっているんです」と石坂さん。

ポジョさんはワイン好きで、料理の腕前もプロ級。「POJO.BAR」を主催する彼にとっても、ゲストをもてなすこの大きなダイニングテーブルは心強い味方です。部屋を照らすのは、パリの住宅らしいスタンドライトの間接照明。温かみのある光が空間を包み込みます。

アーティストがリメイクした作品や、昔の駅で使われていたアンティークの椅子など、「物語のあるもの」を見つけるのが得意なポジョさん。

そして、「本当に良いもの、大好きなものだけに囲まれていたい」という審美眼を持つ石坂さん。

それぞれが持ち寄った愛着のある家具たちは、このアパルトマンで見事なまでに心地よく調和しています。

「ポジョと暮らすにあたり、肩肘を張らない心地いい空間づくりを一番重視しました。我が家にやってくるゲストの皆さんにも、とにかくリラックスしてもらいたくて。そんな想いを込めて家具の配置を考える時間はとても楽しかったです。これまで別々に暮らしていたのに、お互いのインテリアの趣味が不思議なほどぶつからなかったんですよね」

パリの暮らしとインテリア[25] 子育て卒業で自宅を売却し賃貸へ。内見15軒で出会った140平米アパルトマンで“好きなものだけ”に囲まれたセカンドライフをスタート

チェストの上を彩る、デザイン性の高いオブジェと季節の花々(撮影/Manabu Matsunaga)

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ダイニングの壁際にある、2階へと続く階段下のディスプレースペース。お気に入りのアートや植物を飾り、デッドスペースを心地よい空間に(撮影/Manabu Matsunaga)

展示会場にも変身。圧倒的な光と天井高を活かした多目的リビング

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ダイニングから見渡したリビング。天井高の変化によって空間の印象を緩やかに変えつつ、黒のベンチとソファを配置することできれいにゾーニングされている(撮影/Manabu Matsunaga)

「ダイニングの隣にあるリビングは、壁や扉で仕切られていない開放的なワンフロア。それでいて、柱の位置や天井の高さの違いによって、空間がゆるやかに切り替わるんです。『ここなら面白い使い方ができそう!』と、内見の時点で想像力がかきたてられました」とお二人は振り返ります。

2階のストックルームと吹き抜けで繋がるリビングは、天井が高く、大きな窓から降り注ぐたっぷりの自然光が印象的です。

普段はゲストとアペリティフ(夕食前に軽食とお酒を片手におしゃべりを楽しむ、フランス流の習慣)を飲みながらくつろぐ憩いの場ですが、ファッションウィーク期間中には新ブランドの展示会場としても活躍。
「自然光のもとでは、洋服の色味が正確に分かるのも大きなメリットなんです」

また、空間に瑞々しさを添えているのが、センスよく配置された多くの植物たち。
「内見のとき、前の住人が置いていた大きな植物がとても素敵だったんです。せっかく光がたくさん入る部屋なのだから、私たちも植物を育てよう!という気持ちになりました。天井の高さを活かして大きく育つ品種を選んだり、2階の柵からリビングに向けて吊るしたりして、インテリアの一部として楽しんでいます」

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2階から見下ろしたリビング。大小3つの窓からたっぷりの自然光が降り注ぐ。壁だけでなくフローリングまで白で統一された空間に、お二人が持ち寄った白と茶の家具が美しく馴染む(撮影/Manabu Matsunaga)

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2階のストックルームは、壁ではなく柵にすることで圧倒的な抜け感を演出。リビングにいる人ともコミュニケーションがとりやすく、便利だとか。手前は、石坂さんが以前から愛用しているチェスト (撮影/Manabu Matsunaga)

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窓際で太陽の光をいっぱいに浴びる植物たち。アパルトマン最上階ならではの傾斜天井の魅力を最大限に引き出す、モダンな窓の構造(撮影/Manabu Matsunaga)

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リビングの一角でデスクワークをするポジョさん。彼が座っている椅子は、玄関のディスプレーにも登場した60年代のデンマーク家具をスペイン人アーティストがリメイクしたもの(撮影/Manabu Matsunaga)

旅の記憶をまとう、ブルーで統一された静謐な寝室

「我が家で唯一、扉のあるプライベートな部屋がこの寝室です。ほかのスペースに比べるとこぢんまりとしていますね。

フランスの夏は夜更けまで太陽が沈まないため、しっかりと身体を休められるよう、この部屋にだけカーテンを取り付けました。といっても、メキシコシティーで見つけてどうしても捨てられずに持ってきた布を掛けただけなのですが、思いがけず役に立って良かったです(笑)」

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肌触りの良いコットンや、インドの「Nila House」で購入したリネン生地で構成されたファブリック。無地を好むお二人には珍しく、小粋なアクセントとして取り入れた柄物のクッションカバー(撮影/Manabu Matsunaga)

アパルトマン自体は大通りに面していますが、寝室は細い路地側に位置しているため、驚くほど静か。縦に並んだ2つの窓のうち、上の小窓には備え付けの遮光布が配され、光をコントロールできるよう工夫されています。
ベッドリネンを彩るクッションカバーやシーツ類は、石坂さんが仕事で何度も訪れているインド出張のたびに、少しずつ買い集めてきたもの。すべて美しいブルーのトーンで統一され、間接照明の柔らかな光とともにリラックスできる落ち着いた雰囲気を醸し出しています。

窓辺にはデスクも用意され、パソコンが置かれていました。
「その日の気分に合わせて、どのスペースも即座に『仕事場』に変身できるようにしていますが、ここだけは唯一、デスクに向かって落ち着いて作業ができる場所にしています。前回の家はバスルームの改装に一番こだわったのですが、今回は賃貸。水回りが清潔で、バスタブが付いていれば十分と割り切りました。寝室のすぐ横にバスルームがある動線は、前のアパルトマンと同じで使いやすいですね」

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リビングの奥に広がる、寝室とバスルームを備えた完全なプライベートゾーン。インドで購入した足元のラグに至るまで、テーマカラーである美しいブルーで統一されている(撮影/Manabu Matsunaga)

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パリの暮らしとインテリア[25] 子育て卒業で自宅を売却し賃貸へ。内見15軒で出会った140平米アパルトマンで“好きなものだけ”に囲まれたセカンドライフをスタート

(撮影/Manabu Matsunaga)

子どもたちの独立を機に、今年の2月から新たな一歩を踏み出した石坂さんとポジョさん。
お二人の暮らしにあるのは、心地よさへの一切の妥協のなさと、大好きなものを長く手元に置いて自分たちの空間を作り上げるという哲学です。

部屋のいたるところから、単に部屋を“整える”だけでなく、旅先で出会った絵画や写真、季節の花、瑞々しい植物、そして愛着のあるオブジェを“美しく飾る”という確かな美意識が伝わってきました。

パリでの拠点をこのモダンなアパルトマンに定めたお二人ですが、仕事柄、日本に滞在する機会も多いそう。実は、日本でのセカンドハウスとして箱根の物件をSUUMOで探して購入されたというニュースも。ライフステージに合わせて軽やかに暮らしをアップデートしていくおふたりの、次なる日本の住まいも、ぜひいつか訪問させていただきたいですね。

●取材協力
・MAISON N.H PARIS
・IKORRE paris
・POJO BAR

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