漫画家・東村アキコが、自伝的漫画の実写映画『かくかくしかじか』で自ら出資し製作に深く関与した。さらに、7月27日20時に配信開始のABEMAドラマ『バカンスの法則』では原作・脚本・監督を務める。

漫画家の枠を超え、好奇心のままに新たな試みへ果敢に挑み続ける、東村アキコの「クリエイターとしての現在地」に迫る。


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▼東村アキコプロフィール

東村アキコさんインタビュー:実写化映画に自ら資金を出資し大成功、次は橋本環奈主演のドラマ初監督に挑むー
1975年、宮崎県生まれ。金沢美術工芸大学美術科油画専攻卒業。1999年漫画家デビュー。2007年から連載を開始した育児エッセイ漫画『ママはテンパリスト』が100万部を超えるヒットとなる。2010年、ファッションをテーマにした『海月姫』で第34回講談社漫画賞少女部門を受賞。2015年、自身の半生を描いた『かくかくしかじか』で第8回マンガ大賞、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞。2026年7月現在、『銀太郎さんお頼み申す』(集英社)『まるさんかくしかく』(小学館)を連載中。

 2025年5月に公開された映画『かくかくしかじか』は、『ママはテンパリスト』『東京タラレバ娘』『海月姫』などの大ヒット作を持つ漫画家・東村アキコの、自伝的漫画の実写化だ。


 東村アキコ本人である林明子を永野芽郁が、恩師である日高先生を大泉洋が演じ、観客動員数が66万人を超え、興行収入は9億円に迫るヒット作となり、2026年6月にNETFLIXで見放題独占配信が開始されると、日本国内で配信される全ての映画作品を抑えて視聴回数1位を獲得した。


東村アキコさんインタビュー:実写化映画に自ら資金を出資し大成功、次は橋本環奈主演のドラマ初監督に挑むー
漫画『 かくかくしかじか 』著:東村アキコ/2012年07月発売/集英社映画『 かくかくしかじか 』監督:関和亮/2025年12月24日発売/フジテレビジョン

 DVDやBlu-rayも発売された。2026年7月時点ではNETFLIXでも観ることができるが、スキップせず、ぜひエンドロールの最後まで見てほしい。


「原作・東村アキコ」のテロップはもちろん流れてくるが、その後も東村アキコおよび東村プロダクションの名がどんどん流れてくる。脚本、方言指導、絵画指導、漫画指導にも東村アキコの名前がある。


 最終的には、製作として、フジテレビジョン、ワーナー・ブラザース映画などと名を連ねて「東村プロダクション」が記されている。つまりは単なる「原作者」ではなく、映画の製作資金を自ら出資しているのだ。


 漫画原作がドラマや映画で実写化することは珍しいことではないが、原作者である漫画家へのリターンは薄いことが通例だ。映画化、実写化、アニメ化となった時点で、たいてい原作漫画家の手から離れてしまう。原作者に支払われる原作使用料は数百万程度で、興行成績が億を超えようとも、それ以外のリターンは一切ない、という話も聞く。


「今回の映画も宮崎の親戚から[てげすげーね! アキちゃんはいったいいくらもらうんやろか!?]とお祭り騒ぎになったんですけど(笑)、原作使用料は通例通りでした。ただ、ドラマ化、映画化されると、原作が増刷されて印税が増えるのが、原作者として手にできるリターンですね」


 漫画家へのリターンがさほど大きくないにもかかわらず、自ら資金を出し、連載を抱える多忙な身でありながら、撮影現場に張り付き、さまざまな形で深く映画化に踏み込んだ。オフのはずだった大泉洋を大きな熱量で口説き落とすのにも一役買った。


「映画化に際して、原作者が資金を出して製作に深くかかわるというのは前例がほぼなくて、結構しつこくフジテレビさん側に依頼したんですよ。資金も出すし、脚本もやる。映画の中に出てくる絵画や漫画に関する美術監修もやる。全面的に協力するからお金も出させてほしい、とダメ元で言い続けていたら、フジテレビのプロデューサーの方が多方面にかけあってくれて、結果的に参画できることになりました」


東村アキコさんインタビュー:実写化映画に自ら資金を出資し大成功、次は橋本環奈主演のドラマ初監督に挑むー
「ドラマ化、実写化すると、漫画よりも圧倒的に認知度が上がります。それによって原作漫画に興味を持ってくれる人が増え、連載を終えた既刊本が電子版などを中心に読まれるようになり、さらに読者層が広がるのがうれしいですね」

 自分の利益になるから資金を出し、製作に参画したわけではない。映画が不発だった場合、東村アキコへのメリットは薄い。しかもストーリーは自分の自叙伝だ。ドラマや映画など実写化に進んだとたん、原作者の手が及ばないところで製作が進んでしまうのが通例なのに、自分でお金を出してまで、製作に深くかかわったのはなぜか?


「とにかく好奇心が旺盛で、なんでもやってみたい、経験してみたい、という気持ちが抑えられなかった(笑)。ただ、今の時代は映画も漫画も配信ありきの時代です。漫画も、以前だったら連載が終わって本屋の本棚に並ばなくなったら消えてしまうのですが、今は電子化されて、リリースした後の賞味期限が劇的に長くなった。

映画もDVDやBlu-rayになった後も、ネット配信される時代です。この時代だからこそ、原作を手渡して終わり、ではなく、IP(知的財産)面でも関わりたいとは思いました。もしかしたら業界では[あの人、変な前例を作りすぎでヤバいよ]と思われている可能性も高いです(笑)」


『かくかくしかじか』は今の東村アキコがいかにして形作られたか、恩師である日高先生との師弟関係を中心とした自伝的漫画だ。漫画を読むのが大好きだった一人の少女が、漫画家・東村アキコになるまでの、さまざまな葛藤や成長を描いているだけに、安易な妥協はしたくなかったのだろうと推察する。


 恩師・日高健三先生に恥じない作品にするためにも、自ら現場に立ち、演者の表情、方言、セリフはもちろん、作中に出てくる絵画、漫画の全てに責任を負う覚悟があったのだろう。自分の半生を描く作品に、自分で投資する姿勢が、結果的に大成功につながった。


「永野芽郁ちゃん、大泉洋さん、プロデューサー陣、監督、そして共同で脚本を作ってくれた伊達さん…。いいものを作ろうと、ワンチームとして結束していただいたのも大きかった。私のやりたいことを実現するために全力で協力してくれた皆さんに感謝しかないです。エンドロールに自分の名前が載ったのを見て、それはもう本当にうれしかった」


 漫画や小説家、アーティストなどのクリエイターやアスリートは、「お金のことより、とにかくいいものを作ること、結果を出すことに集中してくれ」と、大事にされすぎ、ある意味、世間知らずになるケースも少なくない。


 だが、東村アキコは、単なる「原作者」の枠をバリバリと破り、「お金も口も手も材料も出す」一回り大きな「クリエイター」として存在感を放った。


東村アキコさんインタビュー:実写化映画に自ら資金を出資し大成功、次は橋本環奈主演のドラマ初監督に挑むー
「若くてお金が全くない時でもとにかくタクシーに乗ったり、ビジネスクラスに乗ったり、移動にお金をケチらない主義でした。タクシーの運転手さんと話したり、東京の街並みや店を見たり、お金持ちがどんなサービスを受けてどんな風景を見ているのかを体験したことが、漫画の中でも生かされていると思います」

 そして、2026年7月27日20時からABEMAで配信が始まり、7月31日からはNETFLIXにて世界配信も決定しているオリジナルドラマ『バカンスの法則』は、東村アキコが原作・脚本・監督を務める。

主演は橋本環奈、韓国の俳優チェ・ジョンヒョプが共演の連続ドラマは、原作漫画もないゼロからの挑戦だ。


「ABEMAとは長い付き合いで、ずっと[先生は話を作れるんだから、ドラマをやりましょうよ]って言われていたんです。そうだね、やりたいね、って言ってたんですが、2年くらい前かな。本当にやろう、という話が動き始めました。漫画にしようと思っていた話が一つあるんで、それを漫画すっ飛ばしてドラマでやればいいじゃん、という話になり、そうなると頭の中に話がある私が脚本をやるのが自然。ついでに監督もやれば?という話になり、大きなプロジェクトになりました」


 多忙な日々に疲弊した主人公・星野緑(橋本環奈)が、海辺の別荘で過ごす「非日常のバカンス」の中で、ミステリアスな管理人・西上と出会い、恋に落ち、人生の大切な時間を取り戻していくひと夏の「デトックス・ロマンス」。1話15分、週3回(月・水・金 全18話)で配信していく。


 東村アキコが何かやるなら自分も参加したい、というベテラン勢や若手スタッフが集結し、透明感あふれる素晴らしい映像が出来上がった。秀逸なギャグセンス、女性のリアルな心情を知り尽くした東村アキコによる初監督作品は、単なる胸キュンドラマでは収まらない何かを期待させる。


2026年7月27日20時からABEMAで配信が始まり、7月31日からはNETFLIXにて世界配信も決定しているオリジナルドラマ『バカンスの法則』。美容クリニックの受付で働くも、倒産して突如無職になったことをきっかけに、祖母が残した別荘で「人生のバカンス」をおくることになった星野緑(橋本環奈)が、どこか浮世離れした雰囲気をまとうミステリアスな管理人・西上(チェ・ジョンヒョプ)と出会い、恋に落ち、人生の大切な時間を取り戻していく、ひと夏の「デトックス・ロマンス」。


「今回は、お金は出してないんですが、体力をすっごい使いました(笑)。

ドラマって本当に大変。エアコンの効いた部屋で座って漫画を描いてる私にとっては、朝は早いし夜も遅いし天候など思いもよらないイレギュラーが発生して、体力が尽きそうでした」


 なら、漫画で描いたほうが楽だったのでは?と問うと、東村アキコは苦笑しながら首を振る。


「私の絵では出せない役者の魅力が全面に出せたと思います。現場で見た橋本環奈ちゃんはかわいすぎて涙が出そう、チェ・ジョンヒョプ君は透明感がスゴイ。カメラワークも素晴らしい。テンポよく話が進み、一話一話が濃い内容です。漫画を超えるものが出来上がったと自負しています」


東村アキコさんインタビュー:実写化映画に自ら資金を出資し大成功、次は橋本環奈主演のドラマ初監督に挑むー
「ドラマに登場する人物の衣装を選ぶのがとにかく楽しかったです。少女漫画は衣装がすごく大事。ドレープやフリルの描き方はもちろん、[このキャラだとこういう服を着るはず]というところからキャラづくりが始まる。ドラマも少女漫画で大事にしてきたノウハウを全部詰め込んで、スタイリストさんたちと連携して衣装を選びました」

 一定の年齢を超えると、挑戦をあきらめて行動を縮小し、人生のクロージングに入る人も多い。しかし、今までの人生で得たものは、必ず再利用できる価値があるはずだ。これまでに流した涙も、積み上げた経験も、過去という場所に置いていく思い出ではなく、未来という場所に送り込む資本にできる。


 漫画家のスケールを超えた活動を広げる東村アキコ。これまで自分に投じてきたお金や時間を回収し、漫画家という枠にとらわれない自由な世界で、自分への再投資を続けるステージに入った。


 漫画家としての圧倒的なキャリアを携え、好奇心のままに新たな試みにワクワクしながら挑む。

その姿を見ると、自分もまだ自分の可能性を使い切っていないのではというパワーがわいてくる。


(トウシル編集チーム)

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