「相続で株を売って現金で分けたら、翌年の保険料に影響があった」というケースがあるそうですがそれって本当でしょうか? 実は、換価分割(売却・現金化して分割)そのものが原因ではなく、「どの口座で売ったか」「確定申告をしたかどうか」で結果が変わります。今回はその分かれ目を、「終活専門」の司法書士、福村雄一さんが解説します。


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翌年の社会保険料、健康保険料が値上がりし、遺族に追加負担が…

金融遺産、売却して現金で分けるのと、現物で分けるのとどっちがトク?
今回のお悩み:金融商品の遺産。現金化して相続すると損?

 父が急死し、母と兄と私に、投資信託や個別株などの金融資産を遺してくれました。遺言書には「不公平が出ないよう、金融資産は売却して現金化して分けるように」とあり、そのとおりにするつもりなのですが、友人から「翌年の健康保険料に影響がある場合がある」と聞き、ビックリしています。


 よくよく聞いてみると、影響を受けるのは、主に国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入している人らしいのですが、条件によっては、会社員も税負担増などで注意が必要な部分もあるとか…。その分かれ道を知りたいのですが…。


金融遺産、売却して現金で分けるのと、現物で分けるのとどっちがトク?
「終活専門」司法書士のココが重要ポイント!

「換価分割(売却・現金化して分割)すると保険料が上がる」って本当?分かれ目は「口座」と「確定申告」

 NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で運用していた金融資産を受け継ぐ際、受け継いだ金融資産の売却方法は、個別のケースによってさまざまです。遺言書に一定の定めがある場合や、相続人側の口座選択によって、確定申告が必要な状況になるかどうかによって変わってきます。


 亡くなった方のNISA口座は、死亡と同時に非課税措置が終了し、相続人の課税口座(特定口座または一般口座)に移管されます。同じ証券会社であれば相続人の特定口座に移すことができます。


 特定口座の場合、「源泉徴収あり」を選択しておけば、相続で受け取った有価証券を売却しても、税金は源泉徴収されるため確定申告は必要なく、国民健康保険などへの影響もありません。


 ただ、遺言書に「遺言執行者が換金して分ける」といった内容の定めがある場合や、専門職に遺産整理を依頼してその専門職が換金する場合は、そもそも特定口座が作れないため、結果的に一般口座での売却=相続人の確定申告が必要、という流れになりやすいのです。


 つまり、一般口座で株式や投資信託を売却すると確定申告が必要になり、相続人の合計所得金額が増え「国民健康保険料などが上がる」ことにつながります。


 また、合計所得の金額によっては、配偶者控除、配偶者特別控除、基礎控除が縮小または適用対象外となる場合もあり、所得税や住民税の負担が増える可能性もあります。さらに、介護保険料や医療・介護サービスの自己負担区分などに影響することも知っておきたいところです。


 ここで重要な分かれ道になってくるのが「売却せず、有価証券・金融商品のまま引き継ぐ」という選択肢です。

相続税の納付が必要ですぐに現金が必要、というケースでもない限り、慌てて今すぐ売る理由は基本的にありません。相続人が自分名義の特定口座(源泉徴収ありのもの)に移管すれば、


[1]売却のタイミングを自分で選べる


[2]確定申告の要否を自分でコントロールできる(源泉徴収ありの特定口座内で完結すれば申告不要=保険料への影響もなし)


[3]取得費は、急いで売っても時間を置いて売っても被相続人の取得費(亡くなった方の取得費:購入当初の価格)のまま変わらない(なお、NISA口座は相続発生日の終値で計算した価格が取得費となる)


 という三つのメリットがあります。


 仮に有価証券や金融商品はよく分からないといった場合であっても、現物のまま相続し、一定の時期に売却するか、保有し続けるかを検討するのがよいのではないでしょうか。なお、遺言に「換価分割(売却・現金化して分割)」と明記されている場合に相続人が現物のまま引き継ぎたいと考えたときは、遺言と異なる遺産分割協議をすることも可能です。


 ただし、遺言と異なる内容で相続することになるため、相続人「全員」の合意や遺言執行者の同意が必要になります。また、内容によっては、いったん確定した権利関係が変わり、課税が発生する可能性がありますので、税理士や税務署に確認するようにしましょう。


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[親目線]:遺言書の書き方次第で、遺族の負担を大きく減らせる

 今回の根本的な原因は、遺言書で「売却して現金化して分けるように」と一律に指定してしまった点にあります。相続人の中には、普段確定申告をしたことがない会社員や専業主婦が含まれていることがあります。


 また、相続人(特に配偶者)が後期高齢者である場合も多くあります。その人たちが「気付いたら確定申告が必要になっていた」という状況を避けられるかどうかは、遺言書の書き方次第です。


 遺言執行者に換金させるとした場合、遺言執行者は一般口座でしか売却できないため、相続人の生活状況(扶養に入っているか、国民健康保険か後期高齢者かなど)によって税・保険料への影響が生じます。


 換価して分割する内容の遺言書を作成したい場合は、受け取る側の相続人の手続きや支出に影響が出る可能性があることを理解した上で作成するのがよいでしょう。現物で相続させるという内容の遺言書を作成する方がいいと思われた場合は、


[1]銘柄・数量・相続させる人を明記する


[2]相続する割合を明記した遺言書を作成する


 のいずれかを選択すると、受け継ぐ側の負担を減らせるのではないでしょうか。


[子ども目線]:売る口座や売るタイミングを遺族で相談して決めよう

 換価して分割する遺言書がある場合は、その通りに換価して分けることが原則となります。その場合、


[1]「誰の、どの口座で売るか」:遺言執行者がいなければ、代表相続人の特定口座(源泉徴収あり)で売却するようにする。


[2]売却タイミングを分けて相談する:期限の指定がなければ、一括で売らず年を分けて売却することを相続人間で相談する。


 といったことを検討してみるのがよいでしょう。遺言書がある場合でも、


[3]相続人全員(遺言執行者がいる場合はその同意)が合意して現物分割に変更する


 という選択肢も可能ですので、子ども同士で現物を引き継ぐ方法に変更する途を探るのも解決策の一つです。もし、親が健在であって、まだ相談する時間があるのであれば、金融商品の相続について話し合い、「現物で」と遺言書に残してもらう(必要な場合は遺言書を書き直してもらう)のが最もシンプルで有効な方法です。


まとめ

 今回の相談内容のように、「換価分割をすると保険料が上がる」というのは半分正解、半分誤解です。金融商品の相続には、預貯金の相続と異なる点が多くあり、状況によっては予期しない負担が生じるということに注意が必要です。


 相続人が複数いて、金融遺産を公平に分けたい場合は、相続する「割合」を遺言書で明記することが有効です。割合ではなく相続人ごとに遺言書で銘柄を指定する方法もありますが、遺言書作成の時期と相続開始時で、価格に大きな違いが出ることがあるため、相続時点での公平さを保てなくなる可能性があります。


 そして何より、親族間の情報共有がカギとなります。どんな形で遺産を保有しているのか、お盆などで親族が集まる機会に、共有しておくことをお勧めいたします。


「終活専門」司法書士・福村雄一さんプロフィール

金融遺産、売却して現金で分けるのと、現物で分けるのとどっちがトク?
2006年神戸大法学部卒、2011年司法書士登録、2023年司法書士法人福村事務所を設立。一般社団法人民事信託監督人協会理事、一般社団法人おひとりさまリーガルサポート理事。司法書士として、遺言作成支援、死後事務委任契約、任意後見契約、家族信託などに取り組むだけでなく、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)にも詳しく、医師会や自治体などとも連携。「東大阪プロジェクト」と銘打った地域活動の代表者も務める「終活のプロ」。著書に『 相続・遺言・介護の悩み解決 終活大全 』『 終活の落とし穴 』(共著)、『 終活クエストもしもの不安を解消「人生後半戦」攻略ガイド 』などがある。 「終活専門」司法書士法人 福村事務所

(福村 雄一)

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