中国経済が迷走する中、7月30日に習近平総書記が中央政治局会議を召集し、下半期の経済政策を審議しました。8月には党や国の指導者、長老らが非公式に集まる「北戴河会議」が開かれ、そこには60名の専門家も招待されました。
経済迷走の中、習近平総書記が中央政治局会議で経済情勢・政策の議論を主導
中国共産党の最高意思決定機関である中央政治局が7月30日、会議を召集し、習近平総書記の司会の下、経済情勢・政策を巡る議論を行いました。中国では往々にして、本格的な夏に入る8月直前の中央政治局会議で経済情勢・政策が議論され、上半期の状況を検証しつつ、下半期に向けた対策が打ち出されます。
4-6月期の中国実質国内総生産(GDP)は前年同期比4.3%増にとどまり、今年の年間目標である4.5~5.0%増を四半期ベースで下回りました。また、直近、7月の統計を見ると、貿易は相変わらず堅調で、輸出はドル建てで前年同月比23.9%増、輸入は同27.5%増となりました。
輸出に関しては市場予想を上回りましたが、人工知能(AI)インフラ構築の動きがハイテク製品需要を押し上げました。トランプ米政権による関税引き上げを前に輸出業者が出荷を急いだ表れとも見ることができます。
実際、米国政府は7月、中国製の新型ロボットやインバーターを対象とする新たな輸入規制を発表。今月に入ると、半導体や太陽光パネルの原材料で主に中国が生産するポリシリコンを使った製品に対し、最低価格制度と15%の関税を導入しています。これら米国発の規制措置が中国の対外輸出全体にどう影響していくのか要注目です。
7月31日に国家統計局は製造業購買担当者指数(PMI)を発表しましたが、7月は49.2。前月を1.1ポイント下回り、好不況を判断する節目の50を5カ月ぶりに割り込みました。同時に発表された非製造業PMIは49.0で前月を1.2ポイント下回り、3カ月ぶりに節目を割り込んでいます。
国家統計局が8月9日に発表した消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)を見ると、CPIは前年同月比0.5%上昇で6月(1.0%上昇)から鈍化、6カ月ぶりの低い伸びとなりました。PPIは3.5%上昇で6月(4.1%上昇)から鈍化。3カ月ぶりの低い伸びとなりました。背景には、エネルギー価格高騰の緩和が影響したと思われます。
このように、中国経済を巡る現状は国内外の構造的要因の影響を受ける形で迷走しています。そんな中、習近平氏が下半期に向けた経済政策をどう主導するかがより重要になっていると私は認識しています。
2026年下半期の経済政策で重視される分野とは?
ここからは、中央政治局会議で扱われた分野、取り上げられた政策の中で、下半期の中国経済を占う上で重要だと私が判断した項目を紹介します。
- より積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策を着実に実施する。既存の各種政策の効果を十分に発揮させ、実効性のある新たな政策を適時に策定・導入する。内需の拡大と供給の最適化に一層力を入れる
- マクロ経済政策の効果を最大限に発揮させ、財政支出と債券資金の執行ペースを加速させる。金融政策の手段を総合的に活用、適宜調整する。財政と金融の連携による内需促進政策の実施を最適化する
- 内需を効果的に拡大し、社会各層の消費ニーズに応じた質の高い供給を拡大する。「AI+」イニシアチブを推進し、AIガバナンス体制を整備する。最先端技術のブレークスルーと未来産業の発展を積極的に推進し、新興の基幹産業の育成に注力する
- 公平かつ秩序ある市場競争環境を醸成する。全国統一大市場建設条例を制定・施行し、「内巻式」競争に対する総合的な是正措置を継続する。企業への支払遅延問題を恒常的に解決する。国有資産・国有企業の改革を深化させ、民間経済の発展環境を最適化する
- 国際貿易における互恵協力の余地を拡大し、サービス貿易を積極的に発展させる。対外投資管理制度と海外総合サービス体制を整備し、外資の誘致と活用を積極的に推進する
- 重点対象グループへの雇用支援を拡充する。柔軟かつ新しい雇用形態に従事する人々の権益保護に万全を期す。「高齢者・子ども」へのサービス保障を徹底し、階層別・分類別の社会救助体制を整備する
- 不動産市場を安定させ、債務処理の包括的措置を確実に実施する。地方の中小金融機関におけるリスク解消、規模縮小、質的向上に向けた改革を着実に推進する。資本市場の投融資に関する改革を深化させ、資本市場の回復力と信頼感を高める
議論の項目や視点は多岐にわたるため、私がこれらの提起からくみ取った示唆を以下に整理します。
- 財政、金融を含めたマクロ政策を機動的かつ効果的に実施することが景気回復につながると共産党指導部は考えている
- 内需拡大が「一丁目一番地」の政策に位置付けられている
- 「内巻式競争」、つまり供給過剰と需要不足の中、商品価格、個人所得、企業収益などあらゆる要素が低下していく「中国式デフレスパイラル」は引き続き懸念事項で、何らかの対策を打たなければならないと考えられている
- 「全国統一大市場」を巡る動向には要注目
- トランプ関税を視野に入れつつ、対外貿易を多角化し、中国企業の海外進出を支援していく必要性が説かれている。「外資の積極誘致と活用」の具体的動向に要注目
- 雇用問題は物価と並んで看過できないと指導部は認識。特に若年層の失業率問題が経済や治安に与える悪影響を警戒している
- 不動産に関しては、いかにしてこの市場を再び盛り上げるかというよりは、「後処理」を適切に行い、金融システムや実体経済を含めた経済全体にとってのリスクを回避する方向にかじを切っている
- 資本市場の「回復力」と「信頼感」を高めるとあるが、政権指導部によるこのような呼びかけが、株式や債券市場の振興にどの程度寄与するかは慎重に見極める必要がある
夏の「北戴河会議」が示唆する中国の長期戦略
中国では毎年8月上旬から中旬にかけて、北京の北東部に位置する河北省の北戴河という避暑地でとある非公式の会合が開かれます。
「北戴河会議」とも呼ばれるこの会合は、「建国の父」である毛沢東氏の頃から、共産党の現役指導者や過去に党や国の統治に深く関与したことのあるいわゆる「長老」たちが集まり、比較的涼しい沿岸部で、国の進路や課題、あるいは人事といったクリティカルな問題について議論し合う場になっています。
今年、党中央と国務院が計60名の専門家を北戴河会議に「夏季休暇」という名義で招待したのは特筆に値します。党指導部は、この招待という行為を「党と国家の人材政策にとって重要な制度的采配」と説明した上で、今年の主題を「第15次五カ年計画に向けて奮闘、まい進する」と設定しました。
参加した専門家は主に、1.基礎研究、2.戦略的先端科学、3.核心技術、4.哲学・社会科学の分野に従事するとの説明がありました。
2026年は「第15次五カ年計画」の初年度であり、前述したように、中国共産党指導部は毎年、毎四半期に経済情勢を振り返り、経済政策を策定しますが、一方で、最低5年間、状況次第では10~15年といった時間軸で、中長期的な戦略と視点に立って経済政策を審議、策定、実行、そして検証していく習性があります。
その意味で、今回の北戴河会議で招待された専門家が招かれた四つの分野は注目に値します。そこから読み取れる指導部の思惑が三つあります。
(1)国家が長期的に生存、発展していくためには「基礎研究」が根幹になる
(2)先端技術、核心技術を戦略的に発展させることが国力増強につながる
(3)哲学や社会科学は政治の安定やイデオロギー普及という意味で依然重要
私が現時点で見る限り、(1)には物理、電子、医学(2)には半導体、AI、量子(3)には中国文化、出版などが含まれるようです。「北戴河会議」という「権威」ある場に、これらの分野の専門家が呼ばれ、「夏季休暇」という名義で一定期間集っているという事実が意味するところを、私なりに今後の中国分析に生かしていきたいと思う今日この頃です。
(加藤 嘉一)

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