離れて暮らす高齢の親が要介護となった際、「直接介護ができないから、せめてお金だけでも」と考える人は少なくありません。ただ、親の介護を始める人の多い40~50代は、子の教育費や住宅ローン、自らの老後資金など、お金の心配が尽きないタイミングです。
50代で子がいる世帯が「親の介護費用」を負担すべきなのか?
「正直、金銭的な援助はおすすめしません」
遠方に暮らす母のため「月5万円の仕送り」を検討しているという会社員・佐藤慎吾さん(53歳・仮名)に、筆者はきっぱりとそう伝えました。
佐藤さんは、妻の直美さん(51歳・仮名)と、私立大学3年生の長女と高校2年生の長男の4人家族です。夫婦の世帯年収は約900万円、金融資産は約900万円ありますが、子の教育費と老後資金を考えると余裕があるとはいえません。また、住宅ローンも1,200万円ほど残っています。
一方、79歳の母親は、夫を亡くしてから郊外の持ち家で一人暮らしを続けていました。年金収入は約月12万6,000円、預貯金は約820万円です。
ことの発端は、母親が自宅で転倒して大腿骨を骨折したことでした。なんとか退院はできたものの、要介護2と認定され、訪問介護やデイサービスを利用することに。年金だけでは足りず、預貯金を切り崩す生活を強いられているそうです。
佐藤さんはそんな母親を不憫に思い、離れて暮らしているため介護はできないものの、せめてお金は援助したいと考えました。しかし、今後の人生設計を考えたとき、はたしていくらくらいの援助が現実的なのか知りたいと、筆者のもとを訪れたのでした。
収入があっても介護費を負担できるとは限らない
2025年に発表された厚生労働省の国民生活基礎調査ならびに総務省の家計調査によると、世帯主が50~59歳の二人以上世帯の年間収入は平均814万円(出典: II 各種世帯の所得等の状況 より)、貯蓄額は平均1,756万円、負債額は平均743万円でした(出典: 家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果-(二人以上の世帯) より)。
これらの統計データと佐藤さん夫婦の家計を比較すると、佐藤さん夫婦は年収こそ平均額より高いですが、貯蓄額は平均を下回り、負債額も平均を上回っています。
そのため、たとえ世帯年収が900万円あっても、手取り額から住宅費、学費、保険料などを差し引くと、自由に使えるお金はそれほど多くないのが実情です。
特に佐藤家の場合、「子の大学進学」と「自分たちの老後準備」が重なっています。このタイミングで「親への仕送り」という毎月数万円単位の固定費が加わると、老後資金の形成にはかなりの悪影響でしょう。
「親の年金だけでは足りない」は解決可能
総務省の令和7年家計調査によると、65歳以上の単身無職世帯の実収入は13万1,456円でした(出典: 家計調査報告 〔 家計収支編 〕 2025年(令和7年)平均結果の概要より )。
また介護費用について、生命保険文化センターの2024年度調査では、住宅改修や介護用品の購入などにかかった一時的な費用が平均47万2,000円、毎月の介護費用が平均9万円とされています。
なお、居住場所別では、在宅介護が月平均5万3,000円、施設介護が月平均13万8,000円。介護期間は平均55カ月(4年7カ月)です(※出典: 公益財団法人 生命保険文化センター より)。
これらの平均値を単純に掛け合わせると、
47万2,000円+9万円×55カ月=約542万円
となります。
もちろん、要介護度や施設の種類、介護期間によって金額は大きく変わりますが、「介護には500万円前後かかる可能性がある」という前提で親の資産を確認しておけば、自分たちの家計から慌てて支出する必要はなくなるでしょう。
親が要介護になったら…援助の前に確認したい四つのポイント
親の介護が始まったら、まず次の四つを一覧にします。
(1)親の収入:年金の手取り額、その他収入(個人年金、家賃収入など)
(2)親の資産:普通預金、定期預金、株式や投資信託の有価証券、生命保険、不動産など
(3)毎月の生活費:食費、光熱費、通信費、医療費、固定資産税、火災保険料など
(4)介護費:介護保険サービスの自己負担、紙おむつ代、配食サービス、通院の付き添い、介護保険の対象外となる費用など
続いて、これら(1)~(4)をもとに、年間の収支を可視化しましょう。
(1)親の年間収入-(3)親の生活費-(4)親の介護費=年間収支
この年間収支が赤字となる場合には、親の預貯金から何年間補填(ほてん)できるかを確認します。
佐藤さんの母親を在宅介護した場合
佐藤さんの母親について、統計上の在宅介護費用を使って簡易的に試算してみます。
項目 月額 年金収入 12万6,000円 普段の生活費 9万2,000円 在宅介護費 5万3,000円 毎月の不足額 1万9,000円
上記の表から、不足額は年間約22万8,000円となりました。
預貯金820万円から一時的な介護費47万2,000円と、突発的な医療費や住宅修繕に備える予備費100万円を確保すると、介護費の補填に使える資金は約673万円となります。
現在の不足額が続くと仮定すると、介護費の補填に使える資金673万円であれば約29年分、母親が108歳までまかなえる計算です。
また仮に、施設に入居したとしましょう。その場合、月13万8,000円の介護費に加え、医療費や日用品費が月2万円かかるケースでも、毎月の不足額は約3万2,000円です。年間では約38万4,000円となるため、約673万円であれば17年程度を補填できます。
これはあくまで平均額を使った概算であり、突発的な医療費や持ち家の維持費、要介護度の上昇などは別途考える必要があります。
それでも、佐藤さん夫婦が自分たちの家計から毎月5万円を負担しなくても、母親の年金と預貯金によって介護を継続できる可能性が高いことが分かるでしょう。
もし、資産にゆとりを持たせたいのであれば、母親の預貯金の一部をリスクの低い金融商品で資産運用することも選択肢の一つです。例えば国債や社債などの債券であれば、決まった金利で利息を受け取ることができます。
仮に3%の債券で400万円を運用すれば、年間で12万円です(税金を考慮せず)。預貯金に放置しておくのではなく、預貯金の一部を働かせることで、年間の不足額を軽減させることができます。
親の介護費用を子が管理する場合の鉄則
また、筆者のこれまでの経験上、親の介護費を管理する際、子の生活口座と混ぜるとかなりの確率でトラブルにつながるためおすすめしません。
まず、親名義の「介護専用口座」を決めます。介護事業者や医療機関、公共料金の支払いなど、できるだけその口座からの自動引き落としにまとめることが重要です。
そして兄弟姉妹がいる場合、例えば月に一度、収入・支出・残高を共有しましょう。これにより、「親のお金を勝手に使った」という将来の相続トラブルが予防できます。
親の資産をまとめて子の口座へ移すのではなく、親名義のまま、何にいくら使ったのかを記録することが大切です。
介護への協力は「お金を出す」ことだけではありません。ケアマネジャーとの連絡、施設見学、通院の付き添い、行政手続きなどを家族で分担することも立派な支援です。
「長男だから費用を負担する」「近くに住む娘が全て対応する」と決めつけるのではなく、親のお金、家族の時間、公的サービスなどを組み合わせることが重要です。
知らないと損「公的介護保険」を有効活用するには
最後に、意外と知られていないのが、「介護サービスを有効活用する方法」です。
まず、介護サービスを利用するには、市区町村へ要介護認定を申請します。親の生活に少しでも不安を感じたら、早めに地域包括支援センターなどへ相談しましょう。
介護保険サービスの自己負担は原則1割です。同じ月の介護サービスの自己負担が所得区分ごとの上限を超えた場合には「高額介護サービス費」によって超過分が払い戻される制度もあります(※出典: リスクに備えるための生活設計|公益財団法人 生命保険文化センター より)。
加えて、自治体によっては、独自に紙おむつ助成や配食、緊急通報、移送、住宅改修の補助制度などが用意されていることもあります。
親のお金は「相続まで残すお金」ではなく、親の生活を守るお金
自身の親が要介護になった際、フィジカルの援助ができないと「せめてお金だけでも」と考える人は、意外なほどに多いです。
しかし、介護への関わり方は、フィジカルとお金だけではありません。
今回紹介したように、介護保険制度や他の制度で支出を抑える方法を調べる、親の収支を把握した上で、毎月の不足額と「いつまで補填可能か」を冷静に確認する。そして、親の判断能力があるうちに、口座管理や資産の整理を済ませておく……。
こうした「準備段階からの積極的な介入」は、安易な金銭援助よりもよほど価値があるのではないでしょうか。
※記事中に登場する人物の情報は、個人の特定を避けるため一部を変更しています。
(武田 拓也)

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