9月相場入りした米国株市場は、中東情勢や金利上昇への警戒から売り優勢のスタートとなりました。相場自体は崩れておらず、中長期的な強気見通しは維持されている印象です。

注目は、再評価されているSaaS銘柄の「復活組」です。AI相場の主役がインフラ構築からAI活用へと移行しつつある今、リスクに警戒しつつポイントを探っていきます。


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「SaaSの死」は乗り越えられたのか?(土信田雅之)
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売り優勢も中長期の強気は維持されている米国株市場

 9月相場入りを迎えた今週の米国株市場ですが、これまでのところ、売りに押されている印象です。


 こうした値動きの背景には、先行きの不透明感が強まってきた中東情勢や、日米の金利(債券利回り)の上昇基調などが挙げられますが、これらの材料は最近になって降って湧いたものではなく、以前から警戒されていたものです。ただ、8月中旬あたりから再び意識され始め、株価の上値を抑える要因となっています。


<図1>米主要株価指数のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年9月2日時点)
「SaaSの死」は乗り越えられたのか?(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDIIおよびBloombergデータを基に作成

 図1は、昨年(2025年)末を100とした米主要株価指数のパフォーマンスを比較したグラフです。


 確かに、図1を見ても、足元の米国株市場が売り優勢になっている様子がうかがえますが、まだ「相場が崩れた」と言えるほどの下落になっていません。


 また、主力のバリュー株や中小型株などに資金が向かっていることや、選別が進みながらもAI・半導体関連銘柄で買われているものが少なくなく、株式市場内で物色の対象が存在していることで、株式市場に対する中長期の強気見通しはまだ維持されていると思われます。


SaaS銘柄の買い戻しと選別

 そんな中、足元の米国株市場で注目されているのが「SaaS(サース)」銘柄です。一般的に、SaaS(Software as a Service=サービスとしてのソフトウエア)とは、インターネットを通じてソフトウエア機能やサービスを提供することを指します。


 こうしたSaaS銘柄の株価は、今年(2026年)の1月末から2月あたまにかけて、米AI開発企業のアンソロピック社とオープンAI社が相次いで自律型のAIエージェントモデルを公開したのをきっかけに大きく下落する場面があり、「SaaSの死」というキーワードが生み出される状況となっていました。


 自律行動型のAIエージェントは、AI自らがデータベースにアクセスし、情報の取得や集計、レポートの作成、顧客対応といった複雑な業務プロセスを全て完結できるため、「AIエージェントが人間の業務を代替し、企業が従業員を削減すれば、SaaSの利用数も比例して激減するのでは?」という懸念を生じさせ、それがSaaS銘柄の株価下落をもたらしていました。


 それが、最近になって買い戻されるSaaS銘柄が出てきています。


 例えば、時価総額の大きい銘柄で言えば、セールスフォース(CRM)やサービスナウ(NOW)、クラウドストライク(CRWD)、パランティア・テクノロジーズ(PLTR)などが挙げられます。


<図2>主な米SaaS銘柄のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年9月2日時点)
「SaaSの死」は乗り越えられたのか?(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

 図2を見ても分かるように、さすがに今週は売りに押されていますが、これらの銘柄は7月下旬あたりから復調傾向をたどり、昨年末比でプラス浮上をうかがうところに位置していることが読み取れます。


 ただし、全てのSaaS銘柄が買い戻されているわけではなく、株価が低迷を続けている銘柄も多くあり、他のAI・半導体関連銘柄と同様に、選別が進んでいると思われます。


SaaS銘柄の「復活組」と「低迷組」を分けたもの

 では、SaaS銘柄の「復活組」と「低迷組」を分けたポイントはどこにあるのでしょうか?


 簡単に言ってしまうと、「AIを味方につけたか(ビジネスの相性の良さ)」と、「ビジネスモデルをアップデートできたか」になりますが、具体的なポイントは以下になると思われます。


【1.保有するデータの強みと専門性】

 AIエージェントがタスク(業務)をこなすためには、企業が保有するデータ(顧客データ、過去の商談履歴、契約データ、ビジネスのノウハウ)の信頼性と価値が不可欠です。セールスフォースやサービスナウ、クラウドストライクのように、業務の基幹データを握っている企業は「AIが連携せざるを得ないデータ基盤プラットフォーム」として価値を高めました。


 また、法律や医療など特定の高度な業務に特化したデータを保有している企業も強みを発揮できると考えられます。日本の銘柄でも弁護士ドットコム(6027)の株価が足元で急上昇しましたが、米国株市場のこうした動きが影響している面があると思われます。


【2.課金モデル】

 従来のSaaS企業の課金モデルは、「1アカウントあたりの月額課金」の構造となっていましたが、セールスフォースなどはAIの処理量やタスクの実行成果に応じた課金体系に切り替え、「顧客の従業員数が減っても、AI利用量に応じて収益を伸ばす」構造に転換できたことが先日の決算で示され、評価されました。


【3.セキュリティとガバナンス】

 AIエージェントが社内ネットワークや機密情報にアクセスできる環境下では、いわゆる「AIの暴走リスク」も高まるため、厳格な権限管理やセキュリティ監視の重要性が高まることになります。クラウドストライクやパロアルトネットワークス(PANW)、オクタ(OKTA)などのセキュリティ関連企業は「AIエージェント時代のリスク管理インフラ」として強い需要を取り込んでいます。


 そのため、約半年前の「SaaSの死」を乗り越えた企業は、以上のポイントを踏まえて企業価値が再評価されたと考えられ、今後も成長が期待できると思われます。


 また、AI相場はハイパースケーラーから、半導体・ストレージ関連、部品関連へと、時間の経過とともにけん引役が変化していきましたが、これらはAIインフラの構築に関わる「川上」の企業であり、次はAIインフラを活用した「川下」のビジネスが注目され始めてくると思われます。


 SaaS復活組の企業はその有力候補になる可能性があり、継続して動向をウオッチしていく価値はありそうです。


 もっとも、「川上」企業がけん引していく相場は、AI投資の計画や規模(金額)に反応して期待先行で株価がグイグイ上昇していく展開になりがちでしたが、「川下」企業がけん引していく相場はビジネスの拡大スピードに沿って株価が上昇していくと思われ、同じAI相場でも上昇ピッチが緩やかになるなど、これまでとは異なる値動きになるかもしれません。


まずは9月相場の「ヤマ場」に備える

 冒頭でも述べましたが、足元の株式市場は、中東情勢と日米の金利(債券利回り)の上昇基調によって売りに押されている状況です。


 前者の中東情勢については、「11月の米中間選挙まではイランが強気の姿勢を崩さないだろう」という見方が優位になり、しばらく不安材料としてくすぶりそうなことや、後者の金利上昇についても、再来週に日米の金融政策イベント(米連邦公開市場委員会[FOMC]と日本銀行金融政策決定会合)が控えているほか、財政懸念の信用面や、AIハイパースケーラーの巨額の社債発行による需給面での不安など、目先のインフレが落ち着いたとしても、中期的な金利上昇圧力がかかっているため、こちらも金利が高止まりしていくことが予想されます。


 また、相場のアノマリー(経験則)的にも、例年の9月は相場のパフォーマンスが良くない月でもあるため、今後の状況次第では株価が上昇しても続かない、もしくは売りが強まる可能性も残されています。


 しばらくは警戒モードが維持されることになりそうですが、例えば、注目すべき相場変調の兆候サインとして、出来高の増加を伴って株価が大きく下落する「ディストリビューションデー」の出現をはじめ、金利や景気の影響を受けやすい中小型株で構成される株価指数の米ラッセル2000の下落トレンド転換、米国債と投資不適格債(ハイ・イールド債)の利回り格差が拡大し、債券市場の需給・信用不安の高まりが意識されることなどが挙げられますが、これらの動向にも注視しておく必要がありそうです。


(土信田 雅之)

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