足元で急激な円高が進んでいます。通貨当局による円買い介入は観測されていませんし、日本の貿易赤字など円安材料も消えてはいません。
為替介入は観測されず、進む円高の要因の整理
外国為替市場で8日、円相場は一時1ドル=152円後半まで円高・ドル安が進み、2026年2月以来、約半年ぶりの水準を付けました。2日には160円台を付けていたので6日間で8円近い円高です。日本の通貨当局は7月30日~8月26日の間に過去最大となる15兆3,993億円の円買い介入を実施し、一時7円程度の円高が進みましたが、それを超える円高が進んでいることになります。
円高材料として挙げられているのは、
(1)日銀利上げ加速観測
(2)9月米利上げ見送りの可能性
(3)ベッセント米財務長官の円安懸念発言
(4)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用配分変更観測
(5)円キャリートレード巻き戻し
などです。
ただし、いずれも決定的な要因とは言えません。それぞれの要因を整理していくと
(1)円高が進めば日銀が利上げを急ぐ必要性は低下
(2)9月の米利上げは今後出てくるデータ次第
(4)GPIFの運用配分変更には時間がかかる
(5)円キャリートレードの実態はよく分からず(3日の米市場では円高・株高)
と、複合的な要因で円高が進んでいるとみるべきでしょう。
円高は9月2日以降に進みましたが、2日、3日ともに円買い介入は今のところ観測されていません。小規模な介入の可能性は残りますが、日本銀行が発表する当座預金残高見通しと短資会社の予想との乖離(かいり)からの推計では、少なくともこれまでのような大規模介入の可能性は低いとみられています。
日本の貿易赤字やNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)などによる対外証券投資や増加する対外直接投資など円安材料が消えたわけではありません。日本のマイナスの実質金利や日米金利差も残っています。その中で大規模介入もなしに進む円高に、これまでとは違う「雰囲気」を市場関係者は感じ始めています。
投機筋のポジション巻き戻しか、円債需給にも変化の兆し
介入並みに急激に進む円高。これほど速く動けるのは投機筋が円買いの主体である可能性が大きいとみられています。
米商品先物取引委員会(CFTC)が公表している投機筋(非商業部門)の円の売り越し幅は9月1日時点で9万2,227枚です。3週連続で円売りが増え、大規模介入直前の7月28日時点以来の水準に膨らんでいました。
ヘッジファンドが中心とみられるレバレッジド・ファンドの円の売り越し幅も10万2,188枚です。今夏の介入直前の水準を超え、2024年7月9日時点(7月11・12日の介入直前)以来の大きさまで円売りが膨らんでいました。ドル円は当該週の翌日、9月2日から急落しましたが、投機筋のポジションが巻き戻された可能性があります。
日本国債を巡る需給にも変化の兆しが出てきました。直近の日本取引所の投資部門別取引状況と財務省の対内中長期債投資によると、直近2週連続で海外勢が日本国債を買い越す一方、国内勢は外債を売り越しています。国内勢が外債を売って日本国債に乗り換えようとしているのかは不明ですが、為替市場では外貨売り・円買いの動きにつながります。
2026年6月以降は海外勢が日本国債を売り越し、国内勢が外債買い越しでしたので、足元の動きが単なる巻き戻しではなく本格的な動きかどうかはもう少し見てみないとわかりません。しかし、少なくともこれらは足元で日本への資金流入であり、足元の金利上昇一服や円高の要因になっている可能性があります。
マーケットは「美人投票」とよく言われます。
円高のめど、年初来安値152円09銭・節目150円
為替市場は特定の要因で動くわけではなく、短期または中期で見ると、そのときどきの「流行」に乗って動くものだと筆者はみています。経常収支や日米の金利差など、ある期間には相関性が高くても、別の期間を見ると、相関性が低かったりします。貿易赤字など円安材料は依然として残っているものの、「流行」の変化には気を付けなければなりません。
投機筋の円売り越しポジションの規模からドル円の下値めどを試算する方法はありますが、いったん円買い越しに転じればもっと円高が進むことになります。2025年は、ほぼ1年通して投機筋のポジションは円買い越しでした。2025年4月29日時点は17万9,212枚と過去最大の円買い越しを記録しています。当時の円相場は142円前後でした。
いきなり、そこまでの円高が進むことはないでしょうから、ひとまずのめどとしては、2026年1月27日に付けた152円09銭、そして心理的節目の150円(2025年10月20日以来の円高水準)になりそうです。
4日に発表となった8月の米雇用統計は非農業部門雇用者数の伸びが16.2万人増と市場予想の約3倍となり、7月分も上方改定されました。一方、9月米利上げの市場織り込みは約6割と依然微妙です。
8月末のジャクソンホール会議でのウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演では、「現在は雇用よりも物価を重視する」と述べており、市場の注目は物価指標に集まっています。
10日に8月の米生産者物価指数(PPI)、11日に8月の消費者物価指数(CPI)が発表になります。15~16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)に向けて最後とも言える重要指標です。
「決戦」は日米中銀会合になりそうですが、円安トレンドが終了し円高トレンドに入ったとはまだ言えない状況ですので、ひとまずは米物価指標の結果次第で、ドル円が上下どちらにも大きく動く可能性がありそうです。
◇伊賀大記(いが・だいき)
金融経済ジャーナリスト。株式専門誌やロイター通信での記者を経て現在フリー。金融市場やマクロ経済に関するトピックをブログ(東京クロマ通信)で配信中。
(トウシル編集チーム)

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