今週の米国株市場は売りに押される場面が目立つ一方で、一部のAI・半導体関連株が買われ、SOX指数が反発する動きも見せています。相場の選別色が強まる中、米指数「ラッセル2000」にゆがみが生じ始めていることが気掛かりとなっています。
米国株市場は金利上昇が重しも、一部のAI・半導体関連株が買われる
今週の米国株市場ですが、これまでのところ、売りに押される場面が目立っています。
<図1>米主要株価指数のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年9月9日時点)
図1は、昨年(2025年)末を100とした米主要株価指数の推移を示したものですが、主要株価3指数(ダウ工業株30種平均、S&P500種指数、ナスダック総合指数)や、中小型株で構成されるラッセル2000が足元で下げていることが分かります。
先週末に公表された米8月雇用統計が堅調な結果となったことで、米利上げ観測が維持されることになったほか、米国とイランとの軍事的な応酬によって中東情勢への不安が高まり、原油先物(ウエスト・テキサス・インターミディエート[WTI])の価格が上昇するなど、地政学的なリスク要因によるインフレおよびサプライチェーン(供給網)への警戒感が強まるなど、引き続き、日米の金利(債券利回り)の高止まりが相場の重しになっている格好です。
その一方で、半導体関連銘柄で構成されるSOX指数が反発している様子もうかがえます。実際に、足元の米国株市場では半導体関連やAI関連銘柄の一部が買われる動きが見られます。
以前のレポートでも触れましたが、大抵の場合、金利の上昇は株式市場にとってネガティブに働きます。
にもかかわらず、SOX指数が上昇していることに違和感がありますが、AI分野が「金利の上昇ピッチを上回る成長と利益を生み出す力がある」という見方が背景にあると思われ、現時点では積極的に上値は追えないものの、下値では買いが入り、それだけ相場の買い意欲の強さとAI相場の先行き期待を感じさせる動きといえそうです。
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また、SOX指数とともに注目したいのがラッセル2000です。
図1では、主要株価3指数と同様にラッセル2000も下落している様子が読み取れますが、昨年末からのパフォーマンス自体は主要株価指数を上回っているなど、パッと見た感じだけではあまり大きな変化はなさそうです。しかしそのウラでは気になる動きも出始めています。
そもそもラッセル2000とは?
では、本題に入る前に、このラッセル2000についてもう少し詳しく見ていきます。
これまでのレポートでも、ラッセル2000が米国の中小型銘柄で構成されていることはお伝えしてきましたが、厳密には、米国株市場の時価総額上位3,000銘柄のうち、「1位から1,000位」までの銘柄で構成されるのがラッセル1000、「1,001位から3,000位」までの銘柄で構成されるのがラッセル2,000になります。
そして、時価総額上位3,000銘柄のうち、ラッセル1000の時価総額シェアが約92%、ラッセル2000が約8%という割合のため、構成銘柄の規模感はラッセル1000と比べてラッセル2000が圧倒的に小さく、まさに米国の中小型株の動きを示している株価指数といえます。
ちなみに、2026年8月末時点のラッセル2000の構成銘柄は1,953銘柄となっており、実は2,000銘柄ではありません。毎年6月に構成銘柄の定期見直しが行われますが、途中で買収や合併(M&A)や上昇廃止などで欠番が出ても、次の見直しまで補充を行わないというルールがあります。
そのため、ラッセル2000の「2000」は厳密な固定値ではなく、あくまで「米国中小型株市場の上位約2,000銘柄をカバーしている」指数というイメージです。
「炭鉱のカナリア」としてのラッセル2000
また、ラッセル2000を構成する中小型株は、大型株と比べて景気や金利の影響を受けやすく、下落相場入りの初期段階で真っ先に売られやすいことから、株式市場の危険を知らせる「炭鉱のカナリア」として注目されることが多い株価指数でもあります。
その他、ラッセル2000には、中小型株という構成銘柄の性質上以下のような特徴があります。
【景気への高い感応度】
S&P500やナスダック100などの大型株指数に属する企業の上位は売上高の3~4割程度を海外市場に依存しているのに対し、ラッセル2000構成銘柄は売上の大半を米国内市場に依存している企業が多く、米国内の個人消費や設備投資、税制などの影響を色濃く反映します。
【金利動向に敏感】
ラッセル2000構成企業の多くは、銀行からの借り入れや変動利付債(レバレッジド・ローンやプライベート・クレジットなど)を通じた資金調達の割合が高くなっています。そのため、利下げ局面では金利コスト低下の恩恵を受けやすい半面、高金利が長期化すると利払い負担が業績を圧迫します。
【無配当や赤字企業が多い】
ラッセル2000は一定の採用基準はあるものの、基本的には時価総額を基準に選定されます。S&P500のように「直近四半期および直近4四半期合算での黒字」といった厳しい収益の要件がないため、構成銘柄の約3~4割の企業が営業赤字または当期純損失の企業で占められており、業績の変動が大きい、もしくは信用不安時の株価の下落圧力が大きくなります。
カナリアは鳴いているのか?
では、足元のラッセル2000の下落は米国株市場全体の下落トレンド入りを示唆しているのでしょうか?
<図2>ラッセル2000(日足)の動き
図2はラッセル2000の日足チャートですが、8月半ばに最高値をつけて以降、下落基調をたどっており、足元では50日移動平均線を下抜けている状況であることが読み取れます。
早い段階で株価がこの50日移動平均線を上抜くことができれば上昇基調が継続していくことが見込まれますが、反対に、200日移動平均線に向かっていくことになれば、少なくとも日足ベースでの下落トレンドが強く意識されることになるため、現時点でのカナリアは「鳴いてはいないが、鳴きそうになっている」状況と思われます。
また、中長期的な視点では、約1カ月前に最高値を更新していたことや、現在の株価水準についても、7月下旬の下値を上回っていて、一応は高値圏を維持しています。
そのため、チャートから読み取れる印象は、「まだ相場は崩れていない」といえそうですが、7月の安値を下回った場合に警戒感が高まりそうなほか、注意しておきたいのが、「高値圏を無理して維持している」かもしれないという点です。
<図3>米10年債利回りと米株価指数の益回り推移(2026年9月4日時点)
図3は米10年債利回りと、米株価指数(S&P500、ナスダック100、ラッセル2000)の益回りの推移を示したものです。
株式の益回りとは、1株当たり利益(EPS)を株価で割ったもので、「投資元本に対して企業がどれだけの利益を生み出しているか」を示すため、国債などの長期金利と比較して株式市場全体の割安・割高を測るのに使われます。
本来であれば、安全資産の国債利回りよりも、リスク資産の株式の益回りの方が高くなるのが通常運転なのですが、足元では米10年債利回りの方が高くなっていて、現在の株式市場は債券市場と比較して割高な状況とみることができます。
さらに、図3で際立っているのは、ラッセル2000の益回りの急低下です。8月上旬までは3%台だったのが、直近では1.76%まで低下しています。
先ほども紹介したように、益回りは「1株当たり利益÷株価×100」で計算されるため、益回りの低下の理由としては、1株あたり利益が減った、もしくは株価が上昇し過ぎたことが考えられます。
では、実際のところ、何が起きているのかを整理すると、先ほども説明したように、ラッセル2000の構成銘柄は赤字企業が多く存在しています。8月中旬にかけての決算シーズンでも、景気敏感株をはじめ、ヘルスケアやバイオ関連、低所得者向け消費財、過剰債務の小売業などで赤字拡大もしくは転落する企業が多く見られました。
その一方で、堅実経営が評価された中堅銀行で指数構成比が高いUMBファイナンシャル(UMBF)をはじめ、苦戦が続く外食業で健闘しているブリンカー・インターナショナル(EAT)や、データセンターの運営・エネルギーインフラの運営を手掛けるハット8・コーポレーション(HUT)、防衛・宇宙関連のムーグ(MOG※楽天証券非取り扱い)などが指数をけん引する動きが見られるなど、中小型株でも買われる銘柄とそうでない銘柄とで明暗が分かれる状況となっています。
つまり、指数全体の1株当たり利益が赤字企業の損失で薄められる中、一部の銘柄には資金が集中して買われ、結果として指数の価格が押し上げられた一方、株式益回りの低下も同時に進行したと考えられ、足元では高い株価位置にあっても、「今後の先高観を示しているのか?」については微妙なところです。
そのため、ラッセル2000がカナリアとして注目される場面が増えることになるかもしれません。
なお、現時点でのMARKETSPEED IIではラッセル2000を直接確認することはできませんが、ラッセル2000に連動する上場投資信託(ETF)「iシェアーズ ラッセル2000ETF(IWM)」であれば、株価の値は異なりますが、大体の値動きの動向を把握することが可能です。
知っておきたい過去の記憶
このように、株式市場全体が金利の上昇によって積極的に買いづらくなっている中、SOX指数やラッセル2000の動きからは、AI・半導体関連株や勝ち組企業といった一部の銘柄が相場を支えている構図が透けて見えます。
ただ、歴史的には金利の上昇と株価の上昇(高値更新)が同時進行する状態は長続きしない傾向があります。
<図4>S&P500と米10年債利回り(週足)の推移(2026年9月9日時点)
例えば、2000年のITバブル期では、米10年債利回りが7%に迫るところまで上昇する中でS&P 500は当時の最高値を記録していましたが、その後に大幅下落に転じました。図4ではあまり下げ幅が大きくない印象ですが、実は約50%近く下落しています。
さらに、2007年から2008年のリーマンショック時も米10年債利回りが5%台超えまで上昇したのと同時にS&P500も最高値を更新しましたが、その後に約57%の下落となっていました。
もっとも、相場が繰り返されるわけではありませんし、2022年終盤から始まったAI相場は金利の上昇とともにかなりの期間継続しています。とはいえ、2023年10月に米10年債利回りが5%に迫った場面では株価の調整局面を迎えていますので、目先の米10年債利回りが5%を超えてくると要警戒になると思われ、少なからず相場の急落シナリオに備えておく必要性はありそうです。
(土信田 雅之)

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