ドイツ向け次世代戦車計画が乱立

 2026年6月にフランス・パリ近郊で開催された防衛装備展示会「ユーロサトリ」において、ドイツのPSMは次世代主力戦車のコンセプト車両「MBT Vision 2032」を公開しました。

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 PSMは、ドイツのKNDS Deutschlandとラインメタルが50対50で出資する合弁会社です。

この会社は両社が共同で開発・生産しているプーマ歩兵戦闘車の契約・供給窓口として機能していますが、今回展示されたMBT Vision 2032は、その名の通り2032年の完成を目標とする新しい主力戦車の構想です。

 PSMの社員によると、この車両はドイツ陸軍向けの次世代戦車として構想されており、130mm主砲、自動装填装置、無人砲塔、乗員3名といった特徴を持つといいます。従来のレオパルト2が120mm砲を搭載し、砲塔内にも乗員を配置しているのに対し、MBT Vision 2032はより大口径の主砲と無人砲塔を組み合わせ、火力と生存性の向上を狙ったものといえます。

 ただ、興味深いのは、ユーロサトリの会場で展示されていたドイツ系の次世代戦車コンセプトが、これだけではなかったことです。ラインメタルは「KF51 パンター」をベースにしたイタリア陸軍向けの新型戦車案NMBTを展示し、KNDS Deutschlandも「レオパルト2 A-RC 3.0」を公開していました。

 つまり同じ会場に、PSMのMBT Vision 2032、ラインメタルのKF51 パンター系車両、KNDSのLeopard 2 A-RC 3.0という、ドイツ企業が関与する3つの次世代戦車コンセプト案が並んだことになります。しかもPSMは、KNDSとラインメタルの合弁会社です。普通に考えれば、「同じドイツ勢なのに、なぜ“本命候補”が3種類もあるのか」と疑問に思うでしょう。

ドイツの次世代戦車が増殖している理由

 ドイツ企業による次世代戦車コンセプトが相次いでいる最大の理由は、単なるメーカー同士の競争というより、将来戦車計画「MGCS」の遅れにあります。

ドイツの次世代戦車計画が3種類も!? 「本命」が乱立する理由とは そもそもフランスとの共同開発どうなる!?
ユーロサトリに展示されたイタリア陸軍の次世代戦車NMBTの実物大モックアップ。同戦車の原形はラインメタル製(布留川 司撮影(布留川 司撮影)

 MGCSは、ドイツとフランスが共同で進める次世代地上戦闘システムで、将来的にはドイツのレオパルト2やフランスのルクレールを置き換える存在とされています。しかし、各国の要求性能や産業分担などをめぐって調整は簡単ではなく、実用化は2040年代になるとの見方もあります。

 問題は、それまでの間をどうするかです。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州では陸上戦力の重要性が改めて強く意識されるようになりました。ドイツ陸軍にとっても、既存のレオパルト2を改良し続けるだけで、2040年代まで待つという選択は現実的とは言い切れません。そこで2030年代前半に投入できる、いわばMGCSまでの“橋渡し”となる新戦車が必要になっているのです。

 MBT Vision 2032は、まさにその空白を埋めるための構想といえます。PSMの社員も「2032年までに完成を目標としている」と説明しており、この計画が実用化までのスケジュールに特に注力していることが分かります。また、「次の20年間の戦車には特別な解決策が必要になる。しかし、同時に早急に実現(配備)しなければならない」とも話しています。

 この発言からも分かるように、MBT Vision 2032は遠い未来の夢物語というより、2030年代前半に必要となる現実的な戦車像を示すものなのです。一方、KF51パンターやレオパルト2 A-RC 3.0も、それぞれ異なる技術的アプローチで、同じ時代の要求に応えようとするコンセプトと見ることができます。

 そのため、一見するとドイツの次世代戦車計画は乱立しているように見えますが、実態は「MGCSを待っていては間に合わない」という共通認識から生まれた複数の回答といえるでしょう。

実は“折半案”なのか?

 なかでもMBT Vision 2032が興味深いのは、PSMという会社の立ち位置です。同社は単独メーカーではなく、KNDS Deutschlandとラインメタルという、ドイツを代表する2大軍用車両メーカーが共同で設立したプロジェクト管理会社であり、ドイツ連邦軍から見れば、複数メーカーの技術や担当範囲をまとめる窓口として機能する存在といえます。

ドイツの次世代戦車計画が3種類も!? 「本命」が乱立する理由とは そもそもフランスとの共同開発どうなる!?
PSMのブースに展示されたプーマ歩兵戦闘車(布留川 司撮影)

 この構図を考えると、MBT Vision 2032は単なる新型戦車コンセプト以上の意味を持っている可能性があります。ラインメタルにはKF51 パンターで示した130mm砲や新型砲塔技術があり、KNDSにはレオパルト2シリーズで培った車体技術やレオパルド 2 A-RC 3.0で示した無人砲塔コンセプトがあります。MBT Vision 2032は、両社がこれまで培ってきた技術をベースに、新規開発要素を組み合わせた構想とみられます。

 もちろん現時点では、MBT Vision 2032はあくまでコンセプトであり、ドイツ陸軍が正式に採用を決めたわけではありません。しかし、KNDSとラインメタルがそれぞれ独自案を示す一方で、両社が半分ずつ出資するPSMからも別の構想が出てきたことは注目すべきポイントだといえます。

 これは単なる競争ではなく、2大メーカーが協力し、それぞれの技術を生かせるモデルを探る動きとも見ることができます。そう考えるとPSMは、ドイツの次世代戦車開発において、メーカー間の利害をつなぐ“触媒”のような役割を果たそうとしているのかもしれません。

 既に7月下旬には、ドイツのボリス・ピストリウス国防相は、フランスとのMGCSの共同開発計画について、最終的にはフランスと共通の戦車プラットフォームとはならない可能性が高いとの見解を示し、共通の技術基盤や相互運用性(インターオペラビリティ)の確保に重点を置くべきだという方向性になりつつあることを示唆しました。

 既にフランス側もドイツのようにMGCSとルクレールをつなぐ中間的な役割の戦車の開発を実施しています。

 MGCSの国際開発の先行きが不透明なこうした状況を見ると、国内企業複数社が技術を高めるのは現実的な路線かもしれません。ユーロサトリで並んだ3つの戦車は、ドイツ戦車開発の混乱ではなく、2030年代の答えを急いで探す欧州防衛産業の現実を映し出していました。

【繋ぎと思えない性能!】これが、ドイツの次世代戦車です(画像)

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