正体は「ラッタル」 階段というより梯子に近い造り

 フェリーや客船で甲板を移動するとき、ふと気づくのが「やけに急で、幅も狭い階段」の存在。慣れない人は、両手で手すりを握りしめながら、半ばよじ登るような姿勢で上り下りしている、なんて場面もよく見かけます。

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 なぜ船の階段は、こんなに急で狭く作られているのでしょうか。

 実は船の世界では、こうした急な階段や梯子状の設備を「ラッタル」と呼ぶことがあります。語源については英語の「ladder」が訛ったとする説などがあり、その名のとおり、形も使い方も「階段」と「梯子」の中間に近い造りです。

 角度の感覚をイメージしてみましょう。住宅の階段は、日常的に上り下りしやすいよう、踏面や蹴上げの寸法、手すりなどが重視されます。

 一方、船の脱出設備などについてまとめた日本船舶海洋工学会の「救命設備計画指針」では、脱出設備として使われる階段の傾斜角度は通常45度とし、50度を超えてはならないとされています。ただし、機関室や小区画では60度を超えない範囲まで認められています。

 要するに、建物の階段に慣れた人から見るとかなり急に感じる角度でも、船では限られた空間や設備条件に合わせて採用されることがある、というわけです。

 なぜ、わざわざそんな急角度にするのか。理由は大きく2つあります。

 1つは、船の中の限られた空間を、できるだけ効率よく使うためです。船は外から見ると大きく見えても、中身は機関室、燃料タンク、貨物室、客室、通路、ギャレー(厨房)など、さまざまな機能でぎゅうぎゅう詰めです。

 階段を緩やかにすればするほど、踏み込む奥行き(踏面)と長さが増え、上下の甲板を結ぶのに必要な水平方向のスペースが大きくなってしまいます。急な角度にすれば、それだけ「階段に取られる床面積」を減らし、その分を機械や荷物、客室の確保に回せるというわけです。

急角度の階段に与えられた"揺れ"対策

 もう1つは、船という乗り物特有の「揺れ」への備えです。船は航行中、波や風の影響で前後左右に揺れることがあります。緩い階段で、両手をだらりと下げたまま歩いていたら、急な横揺れでバランスを崩しやすくなります。

なぜ船の階段は急角度で幅まで狭いのか? 通称「ラッタル」に隠された “わざと急にする”2つの理由
海上保安庁の測量船「拓洋」の船内階段(乗りものニュース編集部撮影)

 一方、急なラッタルでは、自然と手すりを握り、体を支えながら上り下りする姿勢になります。救命設備計画指針でも、脱出設備として使う階段や通路には幅や手すりなどに関する要件が定められており、限られた空間のなかでも安全に移動できるよう配慮することが求められています。

 この性格から、急なラッタルでは、手すりをしっかり持ち、足元を確認しながら慎重に上り下りすることが大切です。特に揺れが大きいときは、無理に急いで下りようとすると踏み外しにつながるおそれがあります。

 もちろん、客船やフェリーでは、乗客が多く使う場所に比較的緩やかな階段やエレベーターが用意されていることもあります。乗船時に通る大階段がそれほど急に感じないのは、旅客が使う場所では移動しやすさにも配慮されているためです。

 なお、海上自衛隊の護衛艦をはじめとする各国の軍艦では、階段の幅がさらに狭く、角度も急勾配になっています。

軍艦は客船以上にスペース効率を極限まで追求しているため、ラッタルの持つ「省スペース性」という特徴がより顕著に表れているのです。

 次にフェリーや客船に乗る機会があったら、階段やラッタルの角度、幅、手すりにも少し目を向けてみてください。一見「不便」に見える急な造りにも、限られた船内空間を有効に使い、揺れる海の上で体を支えながら移動しやすくする、船ならではの知恵が詰まっているのです。

【かなり急だ…】イギリス屈指の巨大揚陸艦の艦内階段を写真で見る

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