しかし、そのような印象は現実に即したものといえるか。
本記事では、統計データや刑事司法の現実を紐解きながら、「外国人犯罪は多い」という印象に潜むバイアスを明らかにする。数字が示す事実、そして「特別扱い」と噂される外国人被疑者の処遇の実態とは。事件報道の裏側にある「社会の課題」を、専門家の視点から冷静に分析する。(本文・堀田周吾(東京都立大学法学部教授))
※本記事は野田隼人・堀田周吾 著「事件・裁判報道の『深層』を読む技術」(現代人文社)より一部抜粋・構成しています。(連載第5回/全5回)
報道される事件は「取捨選択」されている
【図表1】は、2024年に検挙(=捜査機関が事件の被疑者として特定すること)された19万1826人について、その罪名別の内訳を示したものです。今世紀に入ってから日本の治安はかなり落ち着いたとはいえ、1年間でこれだけの人が、犯罪に関わっている可能性を疑われているのです。【図表1】2024年に検挙された19万1826人の罪名別内訳
では、殺人の疑いで検挙された923名に関する事件が、すべて報道されているでしょうか。強盗の疑いで検挙された1780名についてはどうでしょうか。答えは、もちろん否です。
報道機関には、「報道の自由」が憲法上保障されていますが、それは「報じる自由」であると同時に「報じない自由」でもあります。報道各社は、報じるべき事項を自律的に選別する権限を「編集権」と呼び、これに基づいて報道内容を決定しています。
日本国内で発生する事件は膨大な数にのぼり、それらすべてを報じることは物理的にも現実的にも困難であるため、報道機関が報道対象とする事件を取捨選択すること自体は当然のことといえます。
報道各社のガイドラインに事件の選別基準は明示されていませんが、一般に、事件の重大性・公益性の有無、社会的影響の大小、社会の関心の程度などが総合的に勘案されます。ただし、実際には、上記にくわえて、他社の報道動向や取材の容易性なども重視されているのではないかと考えられます。
そのような指針で選別される結果、被疑者の属性は報道判断に大きく影響します。
たとえば、政治家の場合、その言動は有権者の判断材料になりますから、たとえ些細な事件であっても報道の対象とされることがあります。
行政機関の幹部職員や裁判官、検察官、弁護士、警察官、自衛官など、公的な職責を担う人が被疑者となった場合も、公益性の観点から同様に報じられることが少なくありません。
公人ではないものの、大企業の経営陣や教育組織の長(教育長、校長など)についても、職責の公共性や説明責任の観点から、同様の位置づけが与えられていると推測されます。
もっとも、こうした説明があてはまりにくい場合もあります。
たとえば、芸能人です。芸能人は公人ではないですから、私生活で軽微な事件を起こしたとしても、それを報じることの公益性は大きくありません。他方で、著名であるゆえに世間の耳目を集めやすく、また、人となりを報じる素材に事欠きません。そのため、芸能人の事件は、大小にかかわらずセンセーショナルに報じられる傾向があり、その名誉やプライバシーが軽んじられることもあります。
外国人による犯罪は本当に「多い」のか?
たとえば、大学教員が被疑者となった事件が立て続けに2件報じられたとしても、文部科学省の調査(令和6年(2024年)度学校基本調査)によれば約19万人いるといわれる大学教員に対して「犯罪者予備軍」というレッテルを貼るのが不適切であることは、多くの人が否定しないでしょう。また、人口過疎地の〇〇村でたまたま窃盗事件が2件立て続けに起きたとしても、その村が「犯罪多発地域」であると考える人もいないでしょう。
これに対して、外国人名の被疑者に関する事件が報じられると、罪を犯す外国人が多い・増えたと感じる人がいるようです。しかし、はたして実際にそうなのでしょうか?
【図表2】のグラフは、来日外国人(特別永住者・永住者等・在日米軍関係者・在留資格不明者を除いた者)による刑法犯の検挙件数と検挙人員の推移をまとめたものですが、平成期前半に比べて、大幅に減少していることがわかります。
【図表2】来日外国人による刑法犯検挙件数・検挙人員の推移(出典:『令和7年(2025年)版犯罪白書』より作成)
もっとも、この時期は、2002年をピークに、日本全体の治安が悪化していたので、日本人に比べて外国人による犯罪の数が多いのかはわかりません。近年の統計をより詳しく見て検討してみましょう。
警察庁の統計によれば、2024年の来日外国人の刑法犯検挙件数は1万3405件、検挙人員は6368人でした(『令和7年(2025年)版警察白書』など)。同年の刑法犯の検挙件数は28万7273件、検挙人員は19万1826人ですから、検挙件数ベースで約4.6%、検挙人員ベースで約3.3%を来日外国人が占めた計算になります。
一方、総務省の統計では、2025年1月1日現在の日本人住民の人口は1億2065万3227人であるのに対して、外国人住民は過去最多の367万7463人で、総人口の2.96%です(総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数〔令和7年(2025年)1月1日現在〕」)。
以上の数字だけを見れば外国人の犯罪率が高いという印象を受けるかもしれませんが、日本政府観光局(JNTO)によれば、2024年の訪日外客数は推計で3600万人を超えたとのことです。
「来日外国人」「外国人住民」「訪日外客数」は母集団も定義も異なり重複関係もあります。また、訪日外客数の大半は観光等で一時的に滞在するのみの人ですから、単純な比較から割合を算出ことはできません。ただ、少なくとも、「外国人の犯罪率が日本人に比べて飛び抜けて高い」と一般化することは相当でないと考えられます。
「レイシャル・プロファイリング」の誤り
「人口のなかの少数派の犯罪率が高い」というバイアスが誤っていた例として、アメリカ・ニューヨーク市の例を取り上げます。犯罪増加への対策として同市が採用した「ゼロ・トレランス政策」は、警察によるパトロールを強化して些細な違反行為でも取り締まる、というものでした。
日本の職務質問と所持品検査にあたる「停止・捜検」を徹底的に実施した結果、1990年代半ば以降、同市の治安は劇的に回復しましたが、これに伴うレイシャル・プロファイリングが問題視されました。
レイシャル・プロファイリングとは、人種や肌の色などの属性を基準に捜査対象を選定することで、黒人男性がしばしば停止・捜検の標的とされました。
しかし、こうした偏見に基づく停止・捜検は「空振り」に終わることも多く、その効率性が疑問視されたのです。その後、2013年の連邦地裁判決が、レイシャル・プロファイリングに基づく停止・捜検を憲法違反としたため、市の治安政策は方針転換を迫られることになりました。
外国人犯罪者は「特別扱い」される?
世間には、「外国人犯罪者は特別扱い(優遇)される」といった誤解もあるようです。インターネット上には、たとえば、「外国人を逮捕しても通訳の手配ができなければ不起訴になる」、「実刑判決になっても母国に強制送還されるから服役しなくてよい」といった見方がみられます。外国人は、本当に日本人と異なる扱いを受けるのでしょうか?
検挙された被疑者については、捜査結果を踏まえて、検察官が起訴・不起訴の判断を行います。検察官は、事件の重大性や嫌疑の大小、事案の悪質性(動機、計画性など)、被害弁償の有無、前科の有無、再犯可能性といった諸事情を考慮して、起訴の可否を決定します。
そのうち起訴された人員が占める割合を「起訴率」といいますが、2024年は、刑法犯が37.7%、特別法犯が46.5%でした。
一方、同年の来日外国人の起訴率は、刑法犯が40.5%、特別法犯が41.9%です。年ごと・罪名ごとの細かな違いはあるものの、過去数年に遡っても同じ傾向でした。起訴率を指標にする限りでは、国籍の違いが特に有利な処遇を導くとはいえません。
起訴されて有罪判決が確定した場合、実刑判決なら刑務所に収容されます。執行猶予の場合は、それまでの生活に戻ったうえで、所定の期間中、さらに罪を犯したりしなければ、刑の執行が免除されます。これらの取り扱いは国籍によって変わりません。
一方、外国籍の人については、入管法上の退去強制手続の対象になる場合があります。これは不法残留などの出入国管理に違反した場合や薬物犯罪などの一定の罪を犯した場合などを対象に、国籍・市民権の属する国などへ送還する制度で、出入国在留管理庁が行う行政手続ですから、刑事手続の進行とは別に進行します。
通常は刑事手続が先行しますが、起訴前・起訴後・判決確定前・判決確定後いずれの時点でも、発付された退去強制令書が執行される可能性があります。
もっとも、在留許可を有し、日本国内に住居や職を確保している外国人の場合、退去強制となればそれらの生活基盤を失うことになりますし、家族とも離ればなれになる可能性もあります。
また、退去強制後は原則として5年間、再入国はできません。退去強制処分に付された結果として仮に刑罰を免れたとしても、それが当該外国人にとって有利とは一概にはいえないのです。
以上のとおり、外国人であることを理由に、刑事手続上特に優遇されるということはありません。
外国人の被疑者・被告人に対し「配慮を必要とする場合」
一方、使用言語や文化・風習の違いから、特に配慮を必要とする場合はあります。まずは、通訳人による補助です。捜査段階では、取調べや実況見分の実施にあたり、被疑者に黙秘権などの権利を告知し、捜査機関との意思疎通を確保する必要があります。
そのためには英語や中国語などの主要言語だけではなく、少数言語にも対応しなければなりません。2024年の被告人通訳事件(被告人に通訳・翻訳人のついた外国人事件)では、通訳言語の種類は41に及びました。
また、刑務所に収容された外国人受刑者は、「F指標受刑者」(受刑者の処遇指標の指定等に関する訓令・別表)として、刑務所職員との意思疎通のために必要な翻訳・通訳を付与するだけでなく、その文化や生活習慣等に配慮することとされています。
たとえば、ムスリムの受刑者に対しては、ハラール食を提供したり、礼拝用のマットを貸し出したりします。また、日本語教育や、領事官等との面会を支援するなどもしているようです。
もっとも、日本語の会話や読解が十分でなかったり、使用言語や文化が異なったりする外国人のためにこれらの配慮をすることが、必ずしも「優遇」に当たるとはいえません。見ず知らずの外国で罪を犯すという行為はたしかに非難に値するでしょうが、国籍や人種によって被疑者・被告人あるいは受刑者として保障される権利に差がつけられるべきではないのです。
事件報道から「社会の課題」を知る
どのような事件が報じられるかは、報道各社の編集判断に委ねられているのであり、個々の報道に込められる意味も一義的には定まりません。事件報道は、犯罪現象のなかから、代表的な事例や象徴的な事例を切り取った結果にすぎず、社会の全体像を網羅的に示すものではないのです。
本記事では、報道された事件の要素を過大評価するべきではないことの一例として、「外国人」を取り上げました。たとえ外国籍の被疑者による事件が連続して報じられたとしても、これを外国人差別の材料にすることは許されません。
もっとも、同種の事件に関する報道が連続して行われること自体は、ただちに批判されるべきではありません。報道の頻度が社会的関心を高め、制度や運用の見直しにつながる場合もあるからです。
たとえば、2017年6月、被疑者が前方を走行するワゴン車にあおり運転を繰り返し、東名高速の追い越し車線上に停車させた結果、後続トラックが追突してワゴン車の乗員2名が死亡した事件がありました。
2017年前後にあおり運転の事例が統計的に急増したわけではありませんが、当時、あおり運転事案は集中的に報じられました。飲酒運転以外にも危険な運転行為があることへの社会的関心の高まりが、当該事件の被疑者を危険運転致死傷罪で起訴する判断や、令和元(2019)年の道路交通法改正における妨害運転罪創設の契機となったのです。
外国人人口の増加に伴い、外国人の不法残留や、外国人グループによる各種の犯罪への関与など、看過できない事象が生じていることもたしかです。また、来日した技能実習生が経済的に困窮し犯罪に及んでしまうといった事態は、近年の社会問題のひとつといってよいでしょう。
事件報道から、現在の日本が置かれているそうした状況を知ることの方が、偏見の材料を導くことよりも大事なのではないでしょうか。
なお、もしも事件報道で外国人の被疑者を実名で報じることが、外国人への偏見や差別意識を助長するのであれば、報道のあり方を見直す必要がありそうです。同時に、報道に接する私たちも注意しなければなりません。
■堀田 周吾(ほった しゅうご)
東京都立大学法学部教授
1978年に東京都に生まれる。2001年に東京都立大学法学部法律学科を卒業後、2003年に同大学院社会科学研究科基礎法学専攻修士課程を修了。その後、東京都立大学法学部助手、駿河台大学法学部准教授、東京都立大学法学部准教授などを経て、現職。専門は刑事訴訟法。主著に、『被疑者取調べと自白』(単著、弘文堂・2020年)、『法学学習Q&A』(共著、有斐閣・2019年)など。近時の共訳書として、ジュド・S・レイコフ『なぜ、無実の人が罪を認め、犯罪者が罰を免れるのか―壊れたアメリカの法制度』(中央公論新社・2024)

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