「銅価格高騰」で金属盗グループの“ビジネスチャンス”到来 総額1億円の被害も…「太陽光発電設備」が狙われるワケ
送電のための銅線ケーブルや公園の手洗い場の蛇口、トイレのフラッシュバルブ(水を流すレバー部)、さらには霊園の墓石前に置かれた花筒まで、金属・ケーブル類の盗難が後を絶たない。
とりわけ「太陽光発電設備」での被害が深刻化している。
太陽光発電に欠かせない銅線ケーブルが「銅価格の高騰」により狙われているとみられる。
こうした窃盗の防止を目指す「金属盗対策法(盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律)」が6月から全面施行された。買受業者の届出を義務化することなどを定めた同法により、盗難は減少に向かうのか。
金属盗により経済的な被害を受けている業界団体と所轄する警察庁に取材した。(ライター・榎園哲哉)

金属盗被害の6割が「銅線」

全国的に相次ぐ金属・ケーブル類の盗難被害。中でも深刻な損害を被っているのが太陽光発電設備だ。
関連する201企業・団体等が加入する太陽光発電協会(JPEA)のシニアアドバイザー(政策推進担当)杉本完蔵氏によると、全国の太陽光発電設備の導入件数は約70万件(小規模事業用・高圧事業用・メガソーラー、住宅用は除く、2025年6月末時点)。
導入を都道府県別に分類すると、北関東(茨城、千葉、栃木各県)に多く、呼応するように、金属盗(被害品に金属類=銅線等含む=)の認知件数のおよそ半数も関東圏に集中しているという。
金属盗の件数は2020年ごろから右肩上がりで増えていたが、取り締まり強化に伴い最近は減少に転じている。警察庁生活安全企画課によると、2025年は24年と比べ件数等が大きく減った(※下図参照)。
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警察庁生活安全企画課への取材をもとに作成

一方で、杉本氏によると、近年は太陽光発電設備に欠かせない銅線ケーブルの被害が増え、金属盗被害全体の約6割を占めているという。
杉本氏「銅の市場価格が高騰しており、効率よく高額で換金しやすいため狙われている」と、背景を説明する。

銅価格高騰は「カーボンニュートラル宣言」がきっかけ?

なぜ、銅の市場価格が高騰しているのか。それには政府のある指針が少なからず関わっている。

警察庁が有識者らとまとめた報告書を読むと、政府の「カーボンニュートラル宣言」が盗難増加の原因の一つとも考えられる。
2020年10月、当時の菅義偉首相が、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言。再生可能エネルギー(太陽光など)や電気自動車に不可欠な銅(銅線)の需要が一気に高まった。
かつては数百円ほどで推移していた1キロあたりの市場価格が、2023年度平均で1131円にまではね上がった。
この価格高騰が、窃盗グループにとって格好の“ビジネスチャンス”となったという。被害の急増を受け、警察庁は2024年9月から25年1月にかけて有識者による「金属盗対策に関する検討会」を3度にわたり開催し、新たな法整備の土台となる報告書を取りまとめるに至った。
報告書では、犯罪の一例も挙げている。
2024年5月、東京都西多摩郡日の出町の太陽光発電施設から、銅線ケーブルおよそ840メートルが盗まれた。同年10月、タイ人4人(いずれも不法残留)が逮捕されたが、この4人を含むグループは1都7県で50件を超える窃盗を繰り返し、被害総額はおよそ1億円にも上った。
金属窃盗犯の国籍別では、同年上半期の検挙者(60人)の場合、カンボジア人28人、日本人21人、ベトナム人4人、タイ人5人、ラオス人2人だった。

被害総額は「銅線の損害」の倍にも膨れ…

太陽光発電設備での被害は、ただ銅線ケーブル等を盗まれた分の損害を被るだけではない。
JPEAの杉本氏は、「設備の補修のために3か月以上かかる場合もある。その間は発電できず、収入が得られない。
被害総額は銅線の損害額の倍ぐらいになる」と“電源インフラ”としての損失も挙げる。
さらに、事業者を追い詰めているのが、盗難被害を補償する損害保険の問題だ。相次ぐ被害と保険金の支払い急増を受け、これまで頼みの綱だった保険会社が、ケーブル盗難を補償の対象から次々と外しているというのだ。
JPEAでは、関連団体と共にタスクフォース(特別チーム)を編成し、大手保険会社へ改善を求めている。
併せて、設備を設置する事業者に対しても自己防衛を求め、防犯カメラや感知センサー等の設置、銅線の地下への埋設といった対策を勧める。
「(行政、関連団体も含む)それぞれのステークホルダー(利害関係者)が協力し、一丸となって対応していくことが求められている状況です」(杉本氏)

関東の買取業者、いずれも取材に応じず

窃盗犯が盗品を現金化する「買受け」に関しては従来、「古物営業法」と17道府県の「金属くず条例」で規制されていたが、対象や内容が自治体によって異なるなど、盗品流通の温床となる抜け穴があった。
しかし、今年6月から全面施行された「金属盗対策法」では、特定金属(銅)くずの買受けに関する全国一律のルールが明確に定められた。ポイントは主に下記の点だ。
①買受業を営もうとする際は、営業所ごとに氏名・住所等を所在地を管轄する都道府県公安委員会に届け出なければならない。(届出をせず営んだ場合、6か月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはこれが併科される)
②買受けを行う際は、相手方の本人確認(運転免許証や在留カード等により)を行う。確認時の記録を作成し、3年間保存する。
③買受けを行った場合、相手方の氏名、買受けの内容等を記録し、3年間保存する。
④買受けの際に、本人確認を拒否するなど怪しいと感じた場合は、警察へ申告する。

⑤一定のケーブルカッター等を業務、その他正当な理由なく隠して携帯することを禁止する。
なお、金属盗らしき人物からの買取依頼はあるのか、新法が抑止に繋がるかなど、買取業者に実態を聞くべく関東(東京都、埼玉県)の3業者に取材を申し込んだが、いずれも応じなかった。

警察庁「ウェブサイト掲載や説明会で周知図る」

前述したように、金属盗の認知件数は、警察庁の取り組みなどにより減少に転じつつある。さらに「金属盗対策法」の全面施行によって、これを押し進めることはできるのか。
全面施行を広く認知してもらおうと、警察庁生活安全企画課は、「警察庁と都道府県警察において、法律の概要や事業者の義務等に関するチラシ等をウェブサイトに掲載して周知しているほか、関係事業団体等に対する説明会を実施するなどにより周知を図っている」とする。
全面施行の効果、見通しについては、「金属くず買受業に係る本人確認や取引記録作成等の措置により、窃盗犯による盗品の換金が困難になることで、金属盗被害が減少することが期待される」としている。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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