ポンプや半導体製造装置などを手がける産業機械大手の荏原製作所<6361>は、「精密・電子」「エネルギー」「建築・産業」の3事業への成長投資を拡大するとともに、グループ経営基盤の強化に乗り出した。
3事業で製品を組み合わせた受注が増え、事業間の連携効果が出ているものの、急拡大する事業を支えるグローバル経営基盤に課題を残しており、今後は3事業への成長投資とERP(統合基幹業務システム)の刷新やデータ活用などを一体で進める。
なかでも建築・産業向けポンプや冷熱機器などを手がける「建築・産業」では、M&Aを活用し、事業領域の拡大や製品、サービスの付加価値向上を目指す計画だ。
個別最適で経営基盤や運用が分断
荏原製作所は、10年後の2035年に向けた長期ビジョンを策定し、この中で「精密・電子」(ドライ真空ポンプや半導体製造装置など)、「エネルギー」(コンプレッサやタービンなど)、「建築・産業」の3事業を、経営の3本柱となるグローバルビジネスセグメントに位置付けた。
同社はこれら3事業について、過去3年間(2023年12月期~2025年12月期)に、市場別の組織体制が定着し、製品をまたいだ受注の増加を通じて、統合シナジーが生まれていると分析する。
一方で、各事業の個別最適により経営基盤や運用が分断し、経営資源の配分や需給判断が事業、地域ごとに分かれ、グループ全体でみると非効率な運用になっていたほか、経営インフラ面では、ERPの導入遅れに加え、全社的なデータ活用環境の構築が課題として残ったとみる。
このため今後は、事業拡大と同時に全体最適の視点で経営基盤を強化し、グループ全体の企業価値を中長期的に高める方針だ。
本社機能の強化や投資優先順位の明確化、グループガバナンス高度化に取り組むほか、ERPの刷新や市場、製品データの全社共有を進める。
さらに事業別の司令塔機能も強化し、資源配分や意思決定を最適化する。
建築・産業でM&A活用
一方、事業拡大では「建築・産業」分野でM&Aを活用する。
同分野ではソリューション、サービスの提供と成長市場の取り込みを進める計画で、IoT(モノのインターネット)を活用した省人化、省エネルギーソリューションを提供するほか、データセンターや電子デバイス市場で事業を拡大する。
さらにM&Aなどにより、グローバル市場での事業拡大につなげる。
同分野では、これまで製品、サービスの付加価値を高めるため、M&Aを継続的に実施してきた。
2023年には、浸漬式ポンプ事業を手がけるドイツのSpandau Pumpenを譲り受け、工作機械のグローバル市場への参入と新たな製品、サービスの提供につなげた。
2024年には、ウルグアイのポンプ販売会社Asanvilを買収し、南米地域での販売拠点を拡大した。
2025年には、ブラジルのポンプメーカーGeremekを譲り受け、ブラジル国内外でのシェア拡大とソリューション力の強化を進めた。
同年には、三菱電機の日本とタイの三相モーター事業を譲り受けることも決めた。
譲受完了は2026年中を予定しており、開発、コスト面のシナジーや、モーターと回転制御技術を一体化した省エネソリューションの提供につなげる。
同社は今後のM&Aの対象などについては詳細を明らかにしていないが、これまでの実績を踏まえたグローバル市場での事業拡大につながる案件が見込まれる。
規律ある投資判断のもと、成長分野へのM&Aを含む集中投資を推進する方針を示しており、M&Aをはじめ、増産対応設備、研究開発、新規事業などを含む成長投資に、今後3年間(2026年12月期~2028年12月期)で2600億円を投じる。
強みは「流れ」の技術
「建築・産業」のほかの柱である「精密・電子」では、ドライ真空ポンプやCMP装置(半導体ウエハー表面を平坦化する研磨装置)などの市場シェア拡大に加え、省エネ、脱炭素化を支える技術の進化に取り組む。
また「エネルギー」では、アンモニアやCCUS(二酸化炭素の回収・有効利用・貯留)、水素、SAF(持続可能な航空燃料)、地熱などサステナビリティ領域で事業拡大に取り組む。
荏原製作所は、自社の強みが創業以来培ってきた「流れ」の技術をはじめとするコア技術と、社会・産業インフラを支えてきた顧客基盤にあるとみる。
この強みを生かし、2025年12月期は売上高9582億8500万円(前年度比10.6%増)、営業利益1138億200万円(同16.2%増)の増収、営業増益となった。
同期は、M&Aを活用する方針の「建築・産業」が売上高全体の25.3%を占め、「精密・電子」は同35.7%、「エネルギー」は同22.7%だった。
このほか日本を起点とするビジネスセグメントである「インフラ」(インフラ向けポンプ)は同6.0%、「環境」(一般廃棄物焼却施設など)は同10.2%となった。
同社では今後の事業環境について、「精密・電子」では半導体関連市場の成長と製造技術の進化を、「エネルギー」では人口増に伴うエネルギー、石油化学品市場の拡大を、「建築・産業」では省エネ、省人化を、それぞれ成長機会とみる。
こうした動向を踏まえ、2028年12月期には売上高1兆2000億円、2035年12月期には売上高2兆円以上を目指す。
この目標達成に向けて事業拡大を進めるには、M&Aの実行に加え、全体最適の視点で進める経営基盤の強化がどこまで進展するかが鍵を握ることになりそうだ。
文:M&A Online記者 松本亮一
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