【M&A成長戦略を聞く⑤】縮小市場を勝ち抜く株式会社兼子の「総合リサイクル」構想とIPO戦略

物価上昇やペーパーレス化など、古紙リサイクル産業を取り巻く環境は大きく変化している。市場が緩やかに縮小する中、株式会社兼子(静岡市清水区)はM&Aによる業界再編と、古紙回収から物流、再資源化までの一気通貫体制を武器に新たな成長を模索している。

2023年12月には、Trustar Capital(トラスター)グループのファンドと日本政策投資銀行(DBJ)が共同で同社への出資を実行した。ファンドとの提携を通じてIPO(新規株式公開)を目指し、静脈産業のイメージ刷新と日本のサーキュラーエコノミー推進を牽引する同社の戦略について、兼子卓三代表取締役に聞いた。

    【M&A成長戦略を聞く⑤】縮小市場を勝ち抜く株式会社兼子の「総合リサイクル」構想とIPO戦略
    兼子卓三代表取締役
    株式会社兼子の兼子卓三代表取締役

    縮小する古紙市場と生き残りをかけた業界再編

    ──現在の市場環境と再編の必要性をどう捉えていますか?

    結論から申し上げますと、古紙市場は緩やかに縮小しています。かつて紙は「文化のバロメーター」と呼ばれる時代もありましたが、情報媒体としての役割は確実に減少しています。インターネット草創期以前、紙が情報伝達の主役だった時代は、市場全体が伸びており、今日よりも明日の方が良くなるという実感がありました。毎年のように新しい工場を建て、身を任せているだけでも事業が成長していく面白さがあったのです。

    しかし、現在は状況が異なります。市場が縮小する中で生き残るためには、業界再編を進めざるを得ません。とはいえ、紙という素材が世の中から完全になくなるわけではなく、社会のインフラとしての役割は依然として大きいのも事実です。ただ、これまでのように「目の前の紙くずを片付ければいい」という時代は終わりました。現在は、情報漏洩への対策や高度な安全管理が求められており、小規模な事業者ではそれらに対応しきれなくなっています。だからこそ、私たちが受け皿となり、再編を加速させる必要があると考えています。

    M&A戦略の要となるコンプライアンスと一気通貫の強み

    ──M&Aの対象を評価する際、どのような点を重視していますか?

    立地や処理能力、将来性、そして価格の妥当性といった基本的な要素はもちろん確認します。しかし、私たちが最も重視しているのは「コンプライアンス」です。

    相手先の販売ルートや仕入先がどこかといったことよりも、法令順守の姿勢や管理体制が整っているかどうかが決定打になります。

    私たちの業界は、どうしても不透明な部分が残るケースが散見されます。だからこそ、すべてにおいてクリーンであることが最大の差別化につながるのです。M&Aを通じて規模を拡大するだけでなく、私たちが培ってきた安全管理のノウハウを導入し、業界全体の水準を引き上げていくことが重要だと考えています。

    ──兼子の競争力の源泉はどこにあるとお考えですか?
    最大の強みは、古紙の回収にとどまらず、産業廃棄物の処理、物流、そして再資源化までを「一気通貫」で対応できる点にあります。単に廃棄物を回収して終わるのではなく、自社の物流網を活用し、最終的な再資源化まで責任を持つ体制を構築しています。

    例えば、紙を扱うビジネスは運賃比率が非常に高いため、物流を内製化することで収益性を大きく改善できます。また、お客様のサプライチェーンの複数箇所で接点を持つことができるため、強固な信頼関係を築くことが可能です。同業他社でここまで広範囲の機能を内製化している企業は少なく、これが私たちの確固たる競争優位性となっています。

    【M&A成長戦略を聞く⑤】縮小市場を勝ち抜く株式会社兼子の「総合リサイクル」構想とIPO戦略
    兼子卓三代表取締役
    兼子卓三代表取締役(左から3番目、静岡市清水区)

    DBJ・トラスターとの提携とIPOがもたらす企業価値の向上

    ──IPOを目指す背景や、ファンドと組んだ理由を教えてください。

    当初は自力での単独上場も考えていました。しかし、IPOに向けた準備は想像以上に過酷で、社内のルールや規律を根本から改める必要がありました。もし自分たちだけで進めていたら、途中で挫折して「もうやめよう」となってしまったかもしれません。

    そこで、トラスター様のようなファンドとDBJ様に資本参加していただくことで、あえて「背水の陣」を敷きました。後戻りできない環境を作ることが、会社を次のステージへ引き上げるために必要だったのです。

    トラスター様とDBJ様の知見を生かした営業組織や内部管理体制の強化、M&Aの推進による事業拡大など、強力な支援体制が整いました。

    私にとってIPOの最大の目的は、資金調達ではありません。お客様、従業員、そして地域社会といったすべてのステークホルダーに「兼子なら安心だ」と思っていただける会社にすることです。リサイクル産業、いわゆる静脈産業は、社会的な意義が大きいにもかかわらず、過去のイメージから人材確保に苦労してきました。上場企業としての信頼を獲得することで、優秀な人材が集まり、誰もが笑顔で働ける環境を作りたいと強く願っています。

    ──ファンドと組んだことで、経営にどのような変化がありましたか?

    「常識が変わった」というのが一番の収穫です。これまではどうしても目先の利益追求に走りがちな部分がありましたが、ファンドの方々と議論を重ねる中で、少し回り道をしてでも安全性を担保し、ステークホルダー全体を意識した経営を行うべきだという価値観が社内に浸透しました。これは私たちにとって非常に大きな財産となっています。

    紙が情報媒体だった時代からサーキュラーエコノミーを牽引する総合リサイクル企業へ

    ──今後のビジョンや、新たな領域への展開についてお聞かせください。

    私たちは「紙を中心とした総合リサイクル企業」を志向していますが、今後はさらにその領域を広げていきます。

    現在、プラスチックの再資源化についても、外部に依存するだけでなく、自社で中間処理や原材料化を行える体制づくりを進めており、すでに県内でM&Aの案件も進行中です。

    さらに長期的な目標として、最終処分場の運営にも挑戦したいと考えています。かつてはリスクが大きいと慎重に捉えていましたが、IPOを経て強固な管理体制と信用力を備えた企業になれば、地域に迷惑をかけることなく、安全に維持管理できるはずです。

    私たちの事業は日本のサーキュラーエコノミーの推進に直結しています。リサイクル産業は、地球環境を守るために不可欠なビジネスです。これからもM&Aを活用しながら、どんな廃棄物でも安全に再資源化・適正処理できるインフラを構築し、社会から必要とされ続ける企業を目指してまいります。

    【M&A速報、コラムを日々配信!】
    X(旧Twitter)で情報を受け取るにはここをクリック

    【M&A Online 無料会員登録のご案内】
    6000本超のM&A関連コラム読み放題!! M&Aデータベースが使い放題!!
    登録無料、会員登録はここをクリック

    編集部おすすめ