羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな芸能人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。



<今回の芸能人>
「人に隠れて最後までやりたい」安住紳一郎
『安住紳一郎の日曜天国』(TBSラジオ、4月5日放送)

 テレビって怖いなぁ。時々、そう思うことがある。テレビに出る人は、それぞれが“キャラ”を与えられており、それを演じるために外見や発言もそれに沿ったものにする。だが、外見や言動が立派でも、なぜか「うさん臭い」と感じられる人がいるものだ。

 日本テレビのアナウンサー・上重聡も私にとって“うさん臭い”1人だった。高校球児で、甲子園では福岡ソフトバンクホークスの松坂大輔と対戦、大学時代は東大相手に完全試合を達成。
ケガでプロ入りが望めなくなるが、甲子園時代にインタビューを受けた経験から、アナウンサーを志望した。日本テレビ以外にも、フジテレビテレビ朝日から内定を得ていたという。

 履歴書的には“さわやかな好青年”の上重アナだが、昨年の『おしゃれイズム』(日本テレビ)の「人気男性アナウンサー大集合SP」に後輩の桝太一アナ、田中毅アナと出演した際に見せた顔は、そのイメージとはまったく異なっていた。かつて共演したお笑い芸人・いとうあさこは、上重アナを「野心がすごすぎる」「(オリコンの好きな男性アナウンサーランキング1位に輝いた)桝アナに対する嫉妬をネタにしているが、あれは本心だ」とコメントしていたが、番組から受ける印象はまさにその通りだった。

 嫉妬や野心という感情は決して悪いものではないが、それを他人が見て面白い域に昇華させるためには、余裕や開き直りが必要だ。しかし、この時の上重アナはまだその域に達していないと思った。
東大卒の桝アナに対し、「桝アナは頭脳派でうらやましい」と笑顔で褒めているものの、本心でないことは表情を見れば明らかだ。

 またプライベートについて、中学・高校と生物部出身の桝アナが、「生き物を飼いたいが、妻に反対されている」と語る一方、上重アナは「有名人(とんねるず木梨憲武や佐藤浩一、中井貴一)とゴルフに行く」「女ウケを考えて、ワイシャツにエプロンで料理をする」などのエピソードを披露。ここから彼が、有名になって、たくさん稼いで、芸能人とも仲良くなって、いい女を抱く(現在の彼女はモデルである)というわかりやすい方向の野心を持っていることがわかる。

 こういう人であるから、スポンサー企業の元会長から、1億7,000万円を“無利子”で借りて、タワーマンションの最上階を購入することや、局で禁止されている車通勤をすることも(2,000万円のベントレーも、スポンサー企業の元会長から借りたものらしい)、常識で考えればおかしなことだが、上重アナの「特別になりたい」という自意識から考えれば、受け入れてしまったこともそう不思議ではない。

 上重アナの取った行動は明らかな規則違反であり、もちろん褒められたことではないが、私はある種の“好感”も持っている。なぜなら、もっと入り組んで面倒な自意識の男性アナに遭遇してしまったから。
それはTBSの安住紳一郎アナである。

 ラジオ番組『安住紳一郎の日曜天国』(TBSラジオ)によると、安住アナは500円玉貯金をしており、8年かけて230万円貯めたそうだ。その500円玉を銀行に入金する際、窓口に頼まずにATMを使ったのだが、一度に入金していい硬貨は200枚までだったため、時間がものすごくかかって注目を浴びた上に、ATMを止めてしまったという。

 そこで安住アナはATMを待つ人の最後尾に並び、違うATMを使って入金を試みるが、そのATMもキャパシティーオーバーで止まってしまう。安住アナは、自分で「窓口に行けばいいのに」と言いながらも、「人に隠れて最後までやりたい」と述べた。

 「人に隠れて最後までやりたい」という言葉は、「目立ちたくない」という言葉と同義であり、その根っこにあるのは、「自分は見られている」「目立っている」という自意識である。
普通のサラリーマンが500円玉貯金をしても、ちっとも面白くない。1億7,000万円のマンションを事実上もらった同業者もいる、“特別な職業”の“俺”が、500円玉貯金をすることに意味があるわけだ。

 こう考えると、安住アナが窓口に行かずに、ATMをはしごするのも筋が通る。有名人なのに、一般人と同じように何度も並ぶという「庶民プレイ」をしてみたかったということだろう。230万円を「車が買えるくらいの金額です」と言っていたが、これが上重アナの乗っていた車のほぼ1/10の金額であったというのも意味深である。自分は上重アナと違って、常識も良識もあると言いたいのだろうが、ATMを長時間占拠して、2台も止めている時点で、十分非常識である。


 ラジオには銀行関係者から、「大量のコインの投入は、ATMが止まるので、窓口に頼んでほしい」という声が寄せられ、安住アナは素直に謝罪していた。自分のドジぶりを積極的に披露する“てへぺろ”もまた、自分に価値があると信じる人間にしか、できない芸当である。

 芸能人と仲が良いと自慢することは、自分を“一般人”と認識しているということだが、自分が庶民であるとアピールするのは、自分が庶民ではないという自意識があるから。上重アナは、安住アナから本当の“ズルさ”を学んだ方がいいと思う。
(仁科友里)