ゴルフ界の英雄の転落ぶりがすさまじい。5月にDUI(driving under the influence of alcohol and/or drugs:飲酒または薬物の影響下の運転)で逮捕され、ラリった恥ずかしい姿を世界中にさらしてしまったタイガー・ウッズ(41)の薬物検査報告書の内容が発表された。報告書では、本人が申告していた処方薬のほかに、マリファナの主成分THCが検出されたことが明らかにされている。THCは体内から排出されるまで約1週間かかるとされているため、「常習者なのでは?」とタイガーを疑問視する声が噴出した。

 今年5月29日の早朝、警察はタイガーが自宅近くの路肩に止めた車の中で爆睡しているところを発見した。乗っていたメルセデス・ベンツSクラスはタイヤがパンクし、傷だらけ。ウインカーを出したまま爆睡している異常な状況で、タイガーはそのままDUI容疑で逮捕された。フロリダ州パームビーチ群保安官事務所が公開した逮捕時の映像には、道路の白線の上を歩くなどの簡単な飲酒検査テストを、目を閉じたままフラフラで受ける姿が写っている。

 留置場内での映像でも、半分眠りかけた状態で質問に答える様子が見られ、明らかに普通ではない。「目と髪の色は?」という質問には、短い沈黙の後「茶色で禿げかけています」と回答し、警官が失笑。座って待機するよう命じられても、意識がもうろうとしているのか全く動けず、恥ずかしいまでにラリラリな姿を世界中にさらしてしまった。

 結局、呼気検査でアルコールは検出されず、飲酒運転の容疑はすぐに晴れた。問題は薬物のほうで、本人も「4月に腰の手術を受けたので、痛み止めとしてバイコディンとほかの処方薬も飲んでいる」「ザナックスを服用している」と申告。釈放後、タイガーは「処方薬の組み合わせが悪く、予想外に強く作用してしまった」「事の重大性を理解している。自分の行動に全面的に責任を負う」という声明を出した。

 6月後半、タイガーは「専門家の力を借り、腰の痛みと不眠症の薬の管理をしている」とツイートしている。入院治療を受けていることも明かし、7月に入ってからは「治療プログラムを終えて退院しました」と、これまたツイッターで報告した。積極的に「薬の管理をしています」アピールをしていることから、重罪扱いされることが多いDUIではなく、軽犯罪の危険運転で有罪を認め司法取引をして「社会的地位」を維持するつもりなのだろうと推測されていた。

 そしてその推測は当たっており、今月9日、パームビーチ群裁判所で行われたタイガーの罪状認否で、「弁護士と検察官が司法取引を行った」とメディアは一斉に報道した。危険運転での罪を認め、250ドル(約2万7,000円)の罰金と裁判の費用、12カ月の保護観察処分と50時間の社会奉仕活動に加え、DUIの更生教育プログラムの全過程を受けることと引き換えに、DUIでの起訴を取り下げることで合意したと伝えられている。タイガーは10月25日に予定されている審理で、無謀運転を認めることになると見られている。DUIで有罪になった場合、罰金は500~1000ドル(約5万4,000円~10万9,000円)、車は10日間押収され6カ月~1年間の免許停止処分、最悪の場合は6カ月間服役する可能性もあったことを考えれば、はるかに軽微な結果だろう。
 
 タイガーは、09年の感謝祭の夜に、複数の女性との浮気を知って逆上した妻から逃げようとして車で木にぶつかる事故を起こしている。その後、次々と愛人が名乗りを上げる騒ぎとなり、結局妻と離婚した。この時には、セックス依存症の治療を行うためリハビリ施設に45日間入所している。ゴルフ界の英雄が起こしたこのスキャンダルは、もちろん衝撃は大きかったが、「男だし仕方ない」「黒人男は成功すると白人女のケツを追いかけ回すものだ」「7億5000万ドル(約820億円)も慰謝料を払ったんだし」と同情する声が多かった。もし今回DUIで有罪になっていたとしたら、この時とは比べ物にならない社会的制裁を受けていたことだろう。アメリカでは、DUIはとんでもない重罪で悪だとする人が多いからだ。

 実際、タイガーがDUI容疑で逮捕された影響はすでに出始めている。先日米スポーツ専門局「ESPN」の電子版が発表した「偉大な黒人選手ランキング TOP50」に、タイガーの名前はなかった。ランキング自体も、伝説的ボクシング選手モハメド・アリが3位に留まり、1位が元NBA選手のマイケル・ジョーダンだったことから「いろいろおかしい」と叩かれているが、その中で、今回タイガーがトップ5どころか50にも入れなかった理由は、DUI容疑者だからだろう。

 とはいえ、世間の誰もがタイガーに冷淡な目を向けていたわけではない。当時のタイガーは4回目の腰の手術を受けたばかりで、痛みと不眠症に苦しんでいた。処方薬の組み合わせが悪く、副作用が出ることはよくある話である。薬を大量に出す医者も多いことから、「タイガーだけの責任じゃない」と一部では同情されていた。「ラリラリの映像で恥ずかしい思いをしたんだから」「飲酒運転じゃなかったんだし」「ゆっくり療養してがんばればいい」と擁護する意見も多かったのだ。



 だがここに来て、世間のタイガーを見る目がまた変わってきている。逮捕時に行われた薬物検査の結果、マリファナの主成分が検出されたことが明らかになったからである。

 今回発表された薬物検査報告書は、尿検査の結果をまとめたもの。検出されたものとして、「バイコディンの成分であるヒドロコドン」「ザナックスの成分であるアルプラゾラム」「強力な鎮痛剤であるヒドロモルフォン」「睡眠導入剤のゾルピデム」「THC」が記されていたとのこと。逮捕時、タイガーが明確に申告した「バイコディン」「ザナックス」、そして恐らく名前が思い出せずあやふやに申告してしまったとされる「腰の痛みと不眠症」治療のために使われた「ヒドロモルフォン」「ゾルピデム」が検出されたのは理解できる。その上で米大手ゴシップ芸能サイト「TMZ」は、「マリファナの主成分THCは申告していなかった」と強調し、「本当に困った男だ」というニュアンスでこの検査結果を伝えた。

「THC」は体内に長期間残るため、タイガーが直前にマリファナを吸っていた証拠にはならない。また、処方された医療大麻である可能性も十分にあるし、大麻が合法化された州もたくさんあるため、本人は問題だとは思わなかったのかもしれない。だが、ネット上では「これだけ強い鎮痛剤を服用していたのに、医療大麻なんて必要だろうか」「マリファナ常習者なのではないか」と疑問視する声が噴出している。

 タイガーは昨年のクリスマス、上半身裸で白ひげと白いカツラをつけ、その上からトレードマークのキャップをかぶってサングラスをかけた写真をインスタグラムに投稿している。

 

Tiger Woodsさん(@tigerwoods)がシェアした投稿 – 2016 12月 22 1:06午後 PST

 そこには、「我が子が喜ぶクリスマスの伝統だ。マックダディー・サンタが戻ってきたぜ!」というメッセージが添えられていた。マックダディーとは「色男」「男の欲望をすべて満たした最上級の男」という意味を持つスラングだ。「タイガーでもこんなアホなことをするのか」「いや、タイガーだからこそ、こんなアホなことができるのだろう」とネット民は大喜びし、大量のコラ画像が作られお祭り騒ぎとなった。今回、薬物検査報告書でマリファナの主成分が出たことから、「あのサンタ姿も、マリファナでハイになって撮影したに違いない」と考える人も少なくないようだ。

 薬物検査結果を報じた「TMZ」の記事のコメント欄には、「タイガーにはがっかり」という意見が殺到。同時に、「2年前にネバダ州の売春宿でコカインほか薬物をいろいろ大量に摂取して意識不明の重体になった、ラマー・オドムのようになるんじゃないか」「ハイになった勢いでODして死ぬんじゃないか」と心配する声も上がっている。

 PGAツアー(米国男子ゴルフツアー)で通算79勝、メジャータイトルを14獲得という驚異的な記録を保持し、無敵と呼ばれたタイガーだが、最後に優勝したのは4年前の13年8月だ。腰の痛みが悪化した今年2月からは、試合に出場もしていない。年内には復帰する見通しだと伝えられていたものの、更生教育プログラムや社会奉仕活動があるため難しいだろう。

 年末には、公共の場で清掃作業するタイガーのパパラッチ写真が流出するのだろうか。今年のクリスマスは、とてもマックダディーどころではなさそうだ。