「再考・就職しないで生きるには?」。
雑誌『Spectator Vol.22』の特集タイトルだ。


特集タイトルの由来は、書籍タイトル『就職しないで生きるには』。1981年に晶文社から出たレイモンド・マンゴーのルポルタージュだ。
と、同時に全十一冊の叢書のタイトルでもある。
早川義夫『ぼくは本屋のおやじさん』、長本光男『みんな八百屋になーれ』、津野いづみ『ふだん着のブティックができた』、岩永正敏『輸入レコード商売往来』など、約30年前に、就職しないで生きることを選んだ人たちが、自分の仕事について綴ったシリーズだ。

そのころ「銀行倒産」なんて、これっぽっちもリアリティがなかった。
それどころか、会社や組織が、何か堅牢なモノであるように思っていた。

だが、世界は変わった。
「就職したら負けかなと思ってる」なんて言葉が流通し、ワーキングプアだ、就職難だ、年功序列崩壊だ、格差社会だ、なんてことが騒がれる。
生涯この会社で働くぞという気持ちで就職する人は、どれぐらいいるのだろう?
会社に奉仕するなんて考えを持っている人は、もう絶滅寸前だ。
就職するってどういうことなのか、何だかわからなくなってきている。

だからこそ『Spectator』(約30年前に社会にノンを言ったあの懐かしい感じをひきずっている雑誌だ)の仕事特集が、おもしろい。

『就職しないで生きるには』シリーズの著者三人を再訪したインタビューや、いま“自分で仕事を作り、人生を切りひらいてきた人たち”との対話を収めた特集から、いくつか言葉を引用してみよう。



人生は思った通りにはならない。だから、ならないことを楽しむこと。(岩永正敏)

続けてこられたのは素人だったから、最初からすべてを勉強しなきゃいけなかったから。どうすれば理想的な八百屋になれるのか、いつも勉強しなくちゃならなくて、そんなことをやっていたら十年くらいあっという間にたっちゃった。(長本光男)

よくやれたと思うよ、こんなまじめな仕事を。(笑)でも、それは野菜の力だな。
毎朝段ボールを開けるとフレッシュな生きている力を感じられてうれしいんだ。(長本光男)

「これをやりたいんだ」というものを持っている人は、どんなに小さなくだらないことでもあきらめずに携わっていれば絶対にうまくいくと思いますよ。だから、あきらめないで!(佐藤いづみ)

他の店がやらないことをやる、というのは「隙間」なんですね、すべての産業の本質は「隙間」だと思っています。(遠山健)

僕ら“欲”に対する体質が変わってきていて、いまのスタイルをキープしてプロジェクトを進めていくほうが楽しいんです。無駄な出費をするよりはプロジェクトを進めていきたい。(Gravity Free)

まずやりたいことが先にありきで後からお金がついてくるというスタンスがいいよね。
「そんなの理想だ〜!」って言われちゃいそうだけど実際<グリーンラボ>は、その考えで六年間やってきているからさ。(グリーンラボ)
(米光一成)