
5話は、こんな話
あさ(鈴木梨央)は、母・梨江(寺島しのぶ)には「おなごはなんも心配せんと、ただお嫁にいったらええんどす」と諭され、寺子屋で勉強していたら、父・忠興(升毅)に激しく叱られてしまう。反抗の意思をこめて押し入れに閉じこもるあさに、大阪から訪ねてきた新次郎(玉木宏)が語りかける。
新次郎の躱しのテクニック
「立てこもる」「あっさり解決」という、朝ドラにおけるふたつの規定演技のようなものを、大森美香がまずは軽やかに決めた。
「立てこもる」は、あさが状況に歯向かって押し入れにこもったこと。
「あっさり解決する」は、親の決めたひとと結婚したくないと泣いていたふたりの娘の心境が、ひと晩で変化したこと。
朝ドラの黄金パターンを、忠興の親心と新次郎の女の子扱いの上級テクの描写によって、大森美香は的確に生かしている。三題話をつくるのきっと得意なんだろうなあ。
はつ(守殿愛生)に嫁ぐ決意をさせた忠興の、はつの許嫁(柄本佑)に対して「貧乏揺すりがひど過ぎる。金持ちが貧乏揺すりとは笑えへんし」という台詞。やられた、4話の貧乏揺すりは、ギャグだったとは。このセンスにはつは、父には敵わんと腹をくくったに違いない。とは冗談で、よく観察し、心配してくれる父の愛情に心が動いたのだろう。いずれにしても忠興の人間力はなかなかのものとして描かれた。
そして、新次郎。大阪にあさが来たとき、すぐ出かけてしまったことの埋め合わせに、わざわざ京都にやって来て、あさが好きなパチパチはん(そろばん)をプレゼント。さらに、結婚についてはゆっくり考えたらいいと余裕の発言。
「よう考えてな。ようよう考えて進んだ道には、必ず新しい朝が来る。その道を信じて進んだらええのや。」と、もう最終回か、と思うほどの名台詞まで。
これにはあさも、天岩戸(押し入れ)から出てきてしまう。ところが、押し入れから出て来たら、もう新次郎の姿はない。この、ちょっと押して、でもすぐにすいっと躱すテクニックは、4話で既に新次郎は使っている。「よう来てくれた」とあさの手を握って満面の笑顔を向けると、すぐに去っていってしまったのだ。こんなふうにされたら、新次郎のことが気になって気になって仕方なくなるというもの。相当のたらしではないか、新次郎。
あさは、物のようにやりとりされるのがいやで、そうではない何かが欲しくて、新次郎はそれをこんなに早くくれたのだ。
この欲しいものについて、立てこもる前にあさは、父へ「ものみたいじゃなくて・・・」と言ったあと口ごもっていた。そのあと、「おなごかてもっと自分らでちゃんと考えて道をきめたいんです。お姉ちゃんといっしょに幸せになりたいだけや!」と毅然と言うが、おそらく、「・・・」には、ちゃんと自分を見てほしいし、ドキドキさせてほしいというような気持ちが、言語化できないながらあったのだろう。それが、後半の新次郎のプレゼントと言葉攻撃で、がぜん輪郭を帯び始めることになる。
なんて素敵な許嫁。
玉木宏の優男っぷりを見て光源氏演じてほしいと思ってしまった。確か、紫の上と源氏は年の差10歳くらいじゃなかったか。
(木俣冬)