南極の秘密は徐々に明らかになりつつある。そしてそのコンディションは良好とは言えない。
わずか数十年のうちに、数兆トンという氷が急激に失われている。しかもそれは、かつては安全だと考えられていた場所ですらそうなのだ。
新たな調査で、西南極スウェイツ氷河の下に巨大な空洞が発見された。
それは山手線の内側の3分の2の広さで、高さは300メートルもあるという。
【世界で最も危険な氷河の下に広まる空洞、現在も拡大中】
調査はNASAオペレーション・アイスブリッジの一環として行われたものだ。
氷貫通レーダーのデータと、ドイツとフランスの研究チームが提供したデータを組み合わせると、スウェイツ氷河の下に巨大な空洞が成長していることが確認された。
スウェイツ氷河は「世界で最も危険な氷河」とも言われている。その下にある空洞の大きさを鑑みるに、推定毎年2520億トンの氷が失われているようである。
研究者によれば、空洞のかつての大きさは140億トン程度の氷が収まるくらいだったろうという。だが、恐ろしいことに、その氷の体積のほとんどが過去3年のうちに失われてしまった。
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【空洞は大惨事の一角に過ぎない】
スウェイツ氷河の一部では、毎年800メートルも氷が後退している。観測データによると、空洞の成長は、そうした「氷の後退と融解の複雑なパターン」による大惨事の1つにすぎないようだ。
その複雑なパターンは、既存の氷床モデルや海洋モデルと一致しない。
つまり、相変わらず寒いとはいえ、気温が上昇しつつある南極において水と氷が相互に作用するメカニズムには、まだまだ分かっていないことが多いということだ。
だが、大空洞自体は、基本的な部分で、単純な科学的現実を表している。つまり、氷河の下に空洞ができ、熱と水が入り込むほどに、氷河が溶ける速度は加速するということだ。
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成長を続ける空洞(赤い部分)image credit:NASA / JPL-Caltech
スウェイツ氷河は世界の海面レベルの4パーセントを左右すると考えられている。
仮にこの氷河が完全に消えてしまえば、氷河の氷が海に落ちて、およそ65センチ海面が上昇する可能性がある。
【スウェイツ氷河の崩壊と連鎖反応】
だが、事態はそれだけでは済まないかもしれない。スウェイツ氷河は周辺の氷河や内陸の氷をも支えており、南極の風景を維持するきわめて重要な役割を担っているからだ。
したがって、これらを支える力がなくなってしまったときの結果は、想像を絶している。
スウェイツ氷河があとどのくらい持つのか、はっきりと言える人間は誰もいない。それゆえに、現在この氷河の大規模な調査が実施されているわけである。
そこからどのような結論が導き出されるのかは分からない。
だが、現在行われている科学調査としては最も重要なものであることは間違いないだろう。
この発見は『Science Advances』に掲載された。
References:Huge Cavity in Antarctic Glacier Signals Rapid Decay | NASA/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:南極の下にぽっかりと広がる巨大な空洞発見される。空洞は現在も急速に拡大中(NASA) http://karapaia.com/archives/52270646.html